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05話

燿と紬が模擬戦をしていると、桃が月代の隣にやってきて座り込んだ。

「ごめんなさい」

「桃は少し加減ってものを覚えなさい。」

「でも、お姉相手に加減していたら勝てない」

「せめて他人を巻き込まないようにしなさい」

「わかった」

月代は戦っている二人に目を向けたままだが、別の事を考えていた。桃に対して心配している事があるからだ。

「・・・ところで、左目は相変わらず開かないの?」

「開かないけど支障はないから」

桃は答えたが、この左目こそが月代が心配している事だ。




実は少し前にある事件があった。紬が森に行ったまま夜中になっても帰ってこなかったのだ。普段から修行で森の中を飛び回っている紬が迷うとは思えない。『何かおかしい』と燈子と月代が探しに行こうとした時だった。

眠っていた桃がいつの間にか後ろに立っていたのだ。起きていたのが不思議だったのではない。普段とは反対に、()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。紅の瞳を妖しく輝かせていた桃を見た時、二人は圧倒された。まるで身体が金縛りにあったかのように動かすことが出来なかった。

そんな二人を見る事も無く、桃は闇の中に溶けるように消えていった。―瞳の残像だけを残して。


桃は闇の中、疾風の如く駆けていく。山に入っても速度は緩めず、山の頂近くの小屋まで迷い無く走り抜けた。今は誰も使っていない筈の小屋には見張りが二人立っていた。素早く見張りから一本の刀を奪い、そのまま見張りの額に突き刺した。もう一人が驚いている間に刀をもう一本奪い取った桃は躊躇なくそれを相手の肩に向け振り下ろした。少しの静寂の後、斬った先から血が噴き出し桃の髪を濡らした。

外の音を聞きつけ小屋の中からぞろぞろと屈強な男が出てきた。どうやら山賊が小屋を占拠していたようだ。

「なんだ、この小娘は」

「見張りがやられているぞ!」

山賊はすぐに武器を手に取り、桃を囲んだ。周囲を緊張が襲い、誰も動けないでいると囲んでいた山賊の一人がばたりと倒れた。いつの間にか桃が包囲網を抜け、ゆらゆらとそこにいた。桃の紅の瞳を見た山賊たちはまたも一瞬で姿を見失った。今度は木の上から音もなく降りると、その勢いのまま一人を真っ二つにした。着地と同時に右にまわり、その場でくるりと一回転すると近くにいた山賊の首が三つ転がった。恐怖を押し殺した山賊が武器を振ってきたが、刀で軽く受け止めるともう一本の刀で確実に首を落とす。桃は低い体勢で少し溜を作り、一直線に駆け抜けた。紅の瞳が軌跡を残した後、血の雨が一帯で降り注いだ。小屋から更に三人出てきたが、大胆にもその中に飛び込んだ桃は両腕を素早く振り上げる、左右にいた山賊は斬られた事に気付かないまま絶命し、その場に崩れ落ちた。残った一人は桃が手を交差すると首が森の中に、上半身と下半身はその場で別れて落ちた。

「てめぇ何者だ!」

最後に山賊の頭目らしき男が右手に刀、左腕には紬を抱えて出てきた。

「これ以上近づいたらこの娘を、うわぁぁぁ」

山賊の頭目は最後まで喋る前に桃に右の腕を刀で小屋に張り付けにされ、もう一本の刀で肩から先を切り落とした。痛みで叫び声をあげている間に気を失っている紬はその場に崩れ落ちた。桃は紬をちらりと見た後、ゆっくりと山賊の頭目の所に歩いていく。

「く、くるな!」

片腕から血を噴き出したまま叫んでいる中、今度は右足を切り落とす。片足になって体制を崩してその場に転がった身体を踏みつけ、そのまま何度も刀を突きさす。何度も。何度も。何度も。やがて何も言わなくなった男の髪を掴み上げ、刀を横に振り、首から下がどさっと地面に落ちた。桃はまるで大将首を取ったかのように山賊の頭を頭上に掲げた。首の付け根からぼたぼたと血が流れ落ち、すでに乾き始めていた返り血まみれだった身体を更に紅く染めた。桃は狂ったかのように高らかに、そして楽し気に笑った。

「は、ははは!ははははははっ!!!ははははははははははは!!!!!」

気が済むまで笑った桃は紬に首だけ向け、狂気じみた顔で笑って見せた。敵味方の判断がついていなかった桃は、紬に敵対心が無い事を確認し後回しにしていただけだった。桃は血の海をばしゃりばしゃりと音を立てながら紬に刀が届く距離まで近づくと、迷いなく刀を振り上げた。その時、桃に向かって白い獣が飛び掛かった。気付いた桃が後ろに飛びのいたが、着地した地面が光輝き、緑色をした龍が現れ桃の身体に巻き付いた。何とか動こうと暴れている桃の前に一つの影が近寄り、素早く桃の首に何かを掛けた。すると、全身の力が抜けたように桃は気を失ってしまった。

「桃・・・貴方が拾われた時の話は燈子さんから聞いていたわ。使う必要が無い事を祈っていたけど、準備だけはしていてよかった・・・」

燿はそういうとその場にへたり込んだ。四神を同時に二体も召喚した燿の体力は限界だった。別れて二人を探していた燈子と月代が少ししてから合流し、一行は満身創痍で家に戻った。ようやく一息ついた後、桃と紬についた返り血を拭きながら燿は自分が見た光景を二人に話した。


「そう・・・まずは燿が間に合って紬が無事でよかったわ。あの勾玉は何なの?」

「燈子さんから桃の昔の話を聞いてから何か怖い事が起きそうな気がして作っていたの。あの勾玉は首に掛けた相手の意識を奪うように出来ているわ。効果は勾玉を外すまで」

「流石、燿と言った方がいいのかしらね。でも勾玉を外さないと桃は一生目が覚めない事になるわ」

「あれは桃じゃなかった。笑いながら人を殺すなんて出来る筈がない。しかも、紬まで手に掛けようとするなんて考えられないわ」

黙って聞いていた月代は今後について燈子と燿に伝えた。

「とにかく、朝になったら私と燈子でもう一度小屋に行ってくるわ。燿は二人を見ていて頂戴。紬には桃の話はしないでおきましょう。桃については・・・目覚めるかどうか、そして目覚めたときの桃を見て決めましょう」

二人は頷き、ため息をついた。桃が目覚める事を祈って。


朝になって燈子と月代がもう一度小屋に戻り、目にしたのは燿が言っていた通り桃がやったとはとても思えない光景だった。

二人は術で死体と小屋を埋めた。万が一、村の住民がここに来た時に、ここで何も起きなかったと思わせるために。

家に戻ると、桃と紬は既に起きていた、紬は森でうっかり寝てしまったと思い込んでいた。桃は朝まで寝ていたと思っているらしい。燿は二人の記憶に合わせていたようだったので、燈子と月代も紬を怒りこの話は終わりとした。

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