02話
---十年後---
「始め!」
合図と同時に桃は正面から一直線に駆け出していたが、燿が印を結ぶのを見ると右に転がった!
その刹那、先ほどまで桃が駆けていた場所に無数の雷が降ってきた!
桃は転がりながらも何とか雷を避けきり、立ち上がると燿に向かって再度駆け出す。それを追うかのように次々雷が地面を削って桃の後ろから追ってくる。誤差を修正するように少しずつ距離が詰まっていき、ついには桃の頭上に雷が落ちた!煙がまだ舞う中、燿が歩いてくると
「桃は考えなしに突っ込みすぎよ。いつも考えて行動しなさいって言っているじゃない」
とため息をつき、更に近づこうとすると、煙で視界がまだ晴れていない燿の後ろから桃が飛び出してきて、
「まだ終わってない」
と、燿の横腹目掛けて力任せに拳を振りぬいた。燿はその衝撃に吹き飛ばされ、近くの大木に激突した!しかし、すでに印を結んでいた燿は衝撃を防いでおり、くすりと笑みを浮かべ叫んでみせた。
「甘い!桃があんな雷避ける事くらい承知の上。わざと近づけば仕掛けてくると思ったのよ。案の定だわ。さて、そろそろ終わりに・・・?」
燿が読み通りと言わんばかりに話していると、先ほど桃に殴られたお腹のあたりがー緑色に光っているー。式神のお札が張られていると気づいた時にはすでに大蛇が燿に巻き付いていた。
「小細工ね。常々言っているでしょう。お札を使った式神は発現まで時間はかからないけど、触れてしまえば破るのは簡単だって。
こういう時は前もって陣から式神を呼び出しておくの。基本中の基本でしょ!」
「だから本命は、こっち」
桃が既に印を結び終え陣から出したものは・・・・・炎だった。
「ち、ちょっと待って!周りの家が燃えちゃう―――――」
爆発に備えて燿が印を結ぶ為に腕を前に出した瞬間、炎が出ている陣を足で踏みつぶした月代がそこまでと言った。
月代がため息をついているのを見た桃は、頭をぽりぽりとかきながらやり過ぎた事を後悔した。
「おお!桃姉の勝ちだ!今度はボクが相手する!」
「いえ、今度は燿と紬でやって頂戴。近接抜きで」
「えーー!」
紬は口を尖らせていたが、燿が息を整え戦闘態勢に入ると、仕方ないという顔をしながら袖からお札を三枚取り出した。陰陽師の修行はいつも三人で切磋琢磨している。仲がいいのは変わらずだが、負けず嫌いに育ったせいか特に燿と紬は競い合うかのように術を覚えていった。桃はそんな二人と一緒にいる事で自然と術を覚えていった。前にこんな事もあった。
三姉妹として修行を始めて五年程経った頃だろうか。ある日、三人がいつものように修行をしていると、燈子がやってきた。いつも各地に飛び回っている燈子が村にいるのも珍しかったが、燈子が三人伝えた内容は輪をかけて珍しい話だった。
「今、村の付近に霊獣が居るのを感じるわ。それも三体よ」
「霊獣ですって?式神として契約できそうかしら」
「式神!式神!これでボクが最強にまた一歩近づいちゃうね!」
「・・・」
三者三様の反応に少し呆れた燈子は続けた。
霊獣というのは妖怪が食べればその力を自身に取り込み、陰陽師が契約すればその力を貸してもらう事ができる。ただし、契約する場合は条件や霊獣からの要求がある場合が多い。また二重契約もできない為、誰とも契約していない事も条件の一つだ。故に契約するのが難しい事が多い。
「それぞれ気になる気配に行ってみなさい。運が良ければ契約出来るかもしれないわ」
燈子が話し終える前に、燿は指で印を結びだした。すると、目の前の地面が一瞬光り輝き、その光の中から何か大きな生き物が燿に飛びついてきた。それは大きくて白い虎だった。燿は虎を撫でながら、優しく話しかけた。
「久しぶりね、白虎。遊んであげたいけれど、今は一番近い霊獣の所まで連れて行ってくれる?」
燿が飛び乗ると白虎は嬉しそうに一鳴きし、気配を感じる方角に走り出しあっという間に視界から消えていった。
続いて紬も印を結びつつ
「燿姉ずるい!抜け駆けは駄目だよ!」
と言いながら地面を指差すと、やはり目の前の地面が光り輝き、その光の中から今度は大きな烏が現れた。
すぐさま紬は烏に飛び乗り行ってしまった。
「貴方はいかないの?」
「使わないから」
「契約出来れば燿は褒めてくれるし、紬はもっと貴方を好きになってくれるわよ?」
「!」
桃は少し照れながら、燈子に刀を借り、行ってきますと呟いて走って行った。