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15話

―雉の社


三人は『雉の社』の前で一度立ち止まり、中に入ってからの事を確認した。

「中に入ったら私は祀られている物を確認するわ。『犬の社』と同じであれば、羽衣が動くと思うから。紬は桃の後ろに居てあげて。また倒れてしまうような事があったら支えて私に教えて頂戴」

「ボクがしっかり受け止めるよ!だから桃姉、早く目を覚ましてね」

「うん。二人ともお願い」

燿が二人の顔を見て頷いた後、『雉の社』の扉を開いた。中に祀られていたのは『雉の羽根』だった。『犬の社』同様、燿が近づくと羽衣が燿の懐から出てきて『雉の羽根』を覆う。羽衣が更に輝きを増し燿の懐に戻ってきたときには、『雉の羽根』は羽衣に取り込まれていた。

「燿姉!桃姉が!」

紬の叫び声で燿が振り返ると、紬が気を失っている桃を抱えていた。




桃は五人で暮らしていた家の囲炉裏に座っていた。向かいには少し大人びて見える桃が座っている。

「貴方は?」

「桃よ。あまり驚いているようには見えないわね」

「『犬の社』で女の子から聞いていたから。死者の入り口で黎と戦ったのは貴方?」

「そうよ。あの時、姉様が危険だったから少し強引に代わってもらったの」

「ありがとう・・・なのかな」

「自分にお礼を言う必要はないわ」

そう言うと、いつの間に淹れたのかお茶を渡され、二人はしばらく無言でお茶を飲んだ。桃は自分と向かい合ってお茶を飲んでいる事を奇妙だと思いながらも、自分は普通では無いのだなと納得せざるを得なかった。

「貴方は何でも知っているって聞いた」

「桃という名を持つ者の事に関していえば、確かに誰よりも詳しいわ」

「教えて」

「どうして?今の自分では何か不満?」

「皆を守れるようになりたい・・・から」

「それなら今のままでも充分ではなくて?」

「・・・」

「自分に隠し事をしても意味がないでしょう」

「もしも、人間じゃなければ・・・化け物だったら皆と一緒にはいられない・・・から」

「あら、姉様も鬼の血を持つのでしょう?」

「お姉とは違う、から。もしお姉や紬を傷付けてしまうのなら・・・」

「自分が何者かを知りたいのね。それがどんなに過酷な運命であっても」

「うん」

自分に見つめられた桃は俯きながら答えた。燿と紬は守りたい。だが、それは自分でなくても構わない。自分が傷付ける存在なのであれば一緒にいるつもりはない。その覚悟で桃は『雉の社』に来たのだ。

「いいわ。少し長くなるけれど目が覚めた時にはそんなに時は経っていない筈だから構わないわよね」

桃は黙って頷き、自分が語り始めた内容に耳を傾けた。

「貴方は幼いころに口減らしで親に捨てられた普通の人間よ。捨てられた時まではね。貴方は一人で彷徨っているところに賊と出くわして殺される筈だった。その時たまたま『私達』が貴方の中に入ってしまわなければ」

「貴方・・・達、は誰?」

「私はそうね。『アマテラスオオカミ』と『スサノオノミコト』という神の忘れられた子のようなものよ。「『アマテラスオオカミ』が『スサノオノミコト』の持っていた十束剣とつかのつるぎを嚙み砕いて、霧を吹き出した事があったわ。その時に宗像三女神むなかたさんじょしんという女神が生まれたの。その霧に残っていた『アマテラスオオカミ』の残りかすのようなものが私よ。それが下界に降りて貴方の身体に入り込んでしまったの」

自らを残り滓と呼んだ時、少しだけ悲しそうな表情をしたがすぐに険しい顔に変わり話を続けた。

「でもその霧には『スサノオノミコト』の残り滓も混じり合っていたわ。『スサノオノミコト』の残り滓は貴方の身体を使って賊を殺したわ。それは惨い程に。私は貴方に残酷な記憶を抱えて生きて欲しくなかった。だから人格を三つに分けて、私以外はそれぞれの記憶以外は忘れるようにしたの。ただ、その時に貴方の人格が半分抜けてしまったのは私の落ち度だわ」

そういうと、深いため息をついて俯いてしまった。

「じゃあ、『犬の社』の女の子は」

「貴方の半身よ」

今の話で、疑問だった頭の中の霧や記憶が抜け落ちる理由が桃には分かった。

「ごめんなさいね」

「?」

「勝手に貴方の身体に入ってしまって、人格まで分けてしまった事で不安にさせてしまったわ」

「一人だったら死んでいたなら、感謝しないとね」

「そう言ってもらえると少しは気が楽になるわ・・・それで、これからはどうしたい?」

「どうしたい?」

「人格を一つにすれば記憶が桃から消える事は無くなるわ。ただし、残り滓とはいえ、神の力も同時に貴方の中に宿るようになってしまう。そうすれば人間とは呼べなくなる」

「・・・」

「もう一つ、『スサノオノミコト』の残り滓を制御しないと暴走して本当に姉様や紬を傷付けてしまう事になるわ」

「!!!」

「今のままの人間でいたいのならば、人格は三つに分けておいた方がいいわ。私は余程の事がない限り代わる事はないし、その間の記憶は黎に聴けばいい。『スサノオノミコト』の残り滓は姉様の作ってくれた勾玉で今のところ封じる事が出来ているから代わる事は無いわ」

そうか、と桃は納得した。いつの間にか首からかけていた勾玉は燿が作ってくれたお守りだと聞いていたが、自分の暴走を防いでくれていたのだ。

「迷っているのならこのままの方がいいと思うわ。ただし、今から『猿の社』に行くのなら一時的に私の力を貸せるようにしておく必要があるわね。私の印を記しておくから、『猿の社』で呼び出して頂戴」

そう言うと、『アマテラスの桃』は桃の左腕に手を当てた。すると少女の時同様に足元から徐々に消えていき、桃に触れている手が最後に消えた。まるで桃の身体の中に入ったかのように。再び桃の目の前が歪んだ。




桃が次に目を覚ました時には紬に膝枕をされていて、二人は心配そうに桃の顔を覗いていた。

「桃姉!大丈夫だった!?」

「桃、おかえりなさい」

「うん。紬、お姉もありがとう」

二人に礼を言った桃は起き上がり、『雉の社』から出た。左腕を見ると、見慣れない文字が淡く光り浮かび上がっていた。少し目立ってしまいそうなので包帯で隠すことにした。

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