01話
皆さん初めましてA-3(あーさん)です。
処女作になりますので、意見や感想などありましたらお気軽にお願いします。
私はただの式神だ。名はあるが必要がないので省くとしよう。今回は少し昔の話をしてやろう。偉そうだって?人間と違って何百年と存在しているのだ。少しくらいの上から目線も当たり前だろう。先程少し昔の話と言ったが、今の人間が神話やおとぎ話と呼んでいるような話が現実だった頃の話だ。
今からする話も信じられないかもしれないが、私にとっては本当にあった現実なのだよ。信じてほしいと思って話すわけではないが、嘘と決めつけて聞くのだけは遠慮願いたい。君だって自分だけが体験したUFO目撃や心霊体験を他人に話した時に最初から嘘と決めつけられて聞かれたら嫌だろう?そういう事だ。
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昔々、ある所に燈子と月代という娘が暮らしていた。
ある日、月代は山へ兔狩りをしに、燈子は川へ洗濯に行った時のことー。
月代が兔を何羽か仕留めていると、子供の大きな泣き声がしてきた。慌てて声のする方に行ってみると、まだ幼い少女が狼の群れに囲まれていて、今にも襲われそうになっていた。
少女は手にした木の枝を振り回して追い払おうと必死だったが、狼は疲れるのを待っているかのように距離を取っていた。
手に力が入らなくなった少女は、最後の力を振り絞り一匹の狼に向かって木の枝を投げつけたが、当たることなく手前に落ちてしまう。
それを見た狼の群れは一斉にとびかかった。間一髪のところで間に合った月代は指で印を結び狼たちに雷を落としてすべて倒してしまった。
月代は凄腕の陰陽師として名を馳せていた。
少女は何が起こったのか分からず立ちつくしていると、月代は優しく声をかけた。
「お嬢さん、この辺は狼の住処があるからとても危険よ。早くお家にお帰り」
「・・・」
「私が一緒に家を探してあげるわ。どっちから来たかわかるかしら?」
「・・・ない」
少女はとても小さく掠れた声で話しだした。
「私には帰る家なんてない」
「お父さん、お母さんは一緒じゃないの?」
「お父ちゃんとここまで一緒に来たけど、いつの間にかどっかにいっちゃった・・・」
「・・・お嬢さんはいつから一人でここにいたのかしら?」
「わからない・・・いっぱい夜が来ていっぱい朝がきたよ」
どうやら親に捨てられた子供のようだ。どうしようかと悩んでいると月代の背中から幼い子供の声がした。
「あら紬、起こしてしまったかしら?」
紬と呼ばれたその子は、両親が亡くなった時に居合わせた縁で二人が育てていた。
先程の少女が目を輝かせて紬を覗き込んでいる・・・それを見た月代は家に連れて帰ることに決めた。
月代が少女と出会う少し前の事―。
燈子が川で洗濯をしていると、川上の方からむせ返る血の匂いが流れてきた。
嫌な予感を感じた燈子は指で印を結ぶと、目の前の地面が一瞬光り輝いた。その光の中から大きな雄叫びと共に一頭の虎が飛び出してきた。
「お願い」
燈子は一言伝えその虎に飛び乗ると、虎はもう一度雄叫びを上げ川上の方に走り出した。そう、燈子も凄腕の陰陽師だった。
燈子と虎は、ものすごい速さで血の匂いがする方へ向かっていくと、大きな桃の木が見えてきた。その下で、惨い程執拗に切り刻まれた死体に囲まれた女の子が俯いたまま立っていた。虎は木から少し離れた場所女の子が見えない位置で止まった。
「戻って」
燈子はまた一言だけ伝え印を結ぶと、地面が光り、その中に虎は消えていった。
燈子は女の子に刺激を与えないように、ゆっくりと歩きながらこう話しかけた。
「お嬢ちゃん、こんなところで何をしているのかな?もうすぐ暗くなるからお母さんの所におかえり」
女の子を見ると、握りしめた刀をカタカタと震わせながら、右目で燈子を睨みつけてきた。どうやら左目が開かないようだったが、まずは落ち着かせる事を優先しもう一度女の子に話しかけた。
「何をそんなに怯えているの?お家まで道がわかるなら私が付いて行ってあげるからさ。さぁまずは刀を離しな」
すると、刀を持ったままの女の子が
「誰?」
と口を開いた。燈子は女の子の頭を撫でながら
「私?少し手先が器用な綺麗なお姉さんよ。川下で洗濯しようとしたら急に桃の木が見たくなってさ、きちゃった。お嬢ちゃんの名前を教えてくれるかな?」
「名前・・・わからない・・・何をしていたかも・・・どうして私は血まみれなの・・・?」
というと、女の子はようやく刀を手放し、泣き出してしまった。どうやら記憶を無くしているようで、不憫に思った燈子は家に連れて帰ることにした。
燈子が女の子を連れて家に帰ると、すでに月代がもう一人の女の子を連れて帰ってきていた。
二人は子供たちについて話し合い、女の子たちをここで育てる事に決めた。
「名前はどうしようか」
「一人は記憶が無くて、もう一人は・・・今までいい事は無かったようだし、新しくつけてあげた方がいいよね」
二人は悩み、森で助けた子を燿、もう一人は桃と名前を付けた。疲れていたのか、その間に二人は眠ってしまっていた。一息つこうとする燈子の横で、寝ていた紬が泣き出した。
「あら、起きちゃったの?」
「紬ももう少し大きくなったら修行が始まるわね。三人はどんな陰陽師になるのかしら」
「歳の順に燿、桃、紬かしら。きっと美人三姉妹なんて周りに呼ばれるようになるわ」
月代は目を細めて子供達を見ていた。
燿と桃は二人がつけてくれた新しい名前を気に入り、紬の面倒をよく見てくれた。紬も二人を本当の姉だと思っているようで、何をするにも後ろにくっついていた。みるみる成長していく三人を燈子と月代は優しく、時に厳しく見守り、五人での生活はとても幸せだった。