~認識阻害~認知されなきゃいないのと同じ、メイドっていっぱいいるから、一人ぐらい増えても実際わかんないんですよ!
私の名前はメイ、元孤児、15歳(多分)黒髪ショートヘア、黒目、身長は145cm。
普通に年齢の割に小さいですね。
今は子爵家に務めるメイドさん。メイドだからメイ。安易。
私は、3歳のころ、孤児として教会に預けられていたところを王城の暗部に拾われ、そこから暗殺、諜報、工作とメイドの手ほどきをうけ、今に至ります。
お仕えするのは、私を拾ってくれた子爵家当主、クロウ・トランス子爵。
当時は、暗部の上位に入るやり手の暗殺者だったようで、現在は引退しております。
が、まだ王家からのお仕事はしている様子。
そのお仕事の実働は私がやっているのです。
トランス子爵は昔から王家に仕える暗部のお家だそうで、お屋敷はそれほど大きくなく、メイドは私ともう一人。こっちも暗殺者。
あとは奥様も元諜報員で10か国語話せる化け物。でもお美しいですよ?
私より年上の息子と娘さんがいますが、二人ともそれ系の仕事をしており、普段は家にいません。
さて、この世界には魔法があるのですが、普通は貴族しか使えず、たまに平民でも使えるモノが出ますが、そんなの稀。
普通魔法は呪文を唱えたりして使うのですが、孤児だった私は少し…いや、かなり特殊体質でして、何もしてないのに、常時”認識阻害”の魔法が発動しっぱなしという厄介な存在です。
常時発動の影響か、魔力を使用したときの揺らぎのようなものがなく、物音を立てないと、本当に認識してもらえません。
どういう経緯で捨てられたのか分かりませんが、たぶん絶対この能力の影響。
おかげで、お屋敷では常に鈴をつけています。
ご主人様は、泣いていた間は認識できたのに、泣き止んだ瞬間気配が消える私に興味を持って引取り、英才教育をしたようです。
なので、たまに工作とか諜報活動で駆り出されます。
最近は国も安定しているので、暗殺は流行らないんですって。
「というわけで、王都のコン・デンサ伯爵家を探ってもらいたい」
ご主人様に呼ばれると、私の目の前には伯爵家のメイド服が置かれ、任務の詳細の紙を受け取り、読んだら暖炉に捨てる。
伯爵家が違法な売買をしているらしいとのこと。
金の流れに不審点があるのだが、しっぽがつかめないんだそうだ。
なので、直接乗り込んでくれということになり、私に白羽の矢が立った。
というか、息子さんのクロウJrから泣きが入ったらしい。
王宮の暗部で探れないものを探れとは中々だと思うが、屋敷に入れないんじゃそうだろうさ。
どうも、最近は屋敷の求人が無くて、スパイを潜り込ませることもできていないとか。
そこで、私の出番。
常時認識阻害を発動しているので、屋敷のメイドさんに紛れ込むという作戦。
割と単純明快。
幾ら求人を断っていても、商人などは出入りするので、そのタイミングで紛れ込んでしまえばいい。
音を立てなければ、認知されないという特性がこういう時に生きる。
目線にはいってもだれも気に留めないからね。
作戦を決行するための情報ももらい、翌朝お屋敷を出発。
途中で、ひいきにしているカフェに寄り、トイレで伯爵家のお仕着せに着替えて、目的地へ。
この時点で私が出てこなかったという紐が途切れても、見失ったと付けられていれば相手は焦るだろう。
あの雑踏では私の鈴の音など聞こえやしない。
鈴はカフェに置き去りだ。
歩いて貴族街に戻り、伯爵家へ。ちょうど仕入の馬車が止まっている。
私は服のこすれる音もたてずに、開いている裏口からするりと侵入。
中に入ってしまえば、特に問題はない。
直接声をかけるようなことをしなければ、働く一人のメイドでしかない。
私は事前情報の間取りを思い出しながら、掃除道具を受け取り、各部屋の掃除分担票を見ながら、人が多くいるところへ出向く。雑談も情報源だよ。
「最近、給金がいいけれど、ちょっと前まで傾きかけていたこの家がどうしたんだろうね」
メイドたちの羽振りが最近よいらしい。
確かにちょっと前まで、この伯爵家は傾きかけていた。
金が出ているので誰も文句を言っていないが、気になりはするのだろう。
メイドたちからこれ以上情報は取れそうにないので、別のアプローチをする。
掃除で入った伯爵の部屋から出ないのだ。
音を立てずに部屋影に立っていれば、存在を悟られることはない。
メイドたちが出て行ったあとで、部屋を物色。
音をたてないように気を付けながら、裏帳簿などがないか物色する。
こういうものは書斎には置かないのがふつうである。
金庫にも入れない。何かあって差し押さえられると証拠になるからだ。
ベッドの下、なし。クローゼットの引き出しの裏、なし。
あそこの天井だけ、色がおかしいな…この部屋に台座があれば…あれだスツール。ソファーと高さがあっていない。
私は、スツールを移動し、登るが身長が足らない。
仕方がない。この部屋にある椅子を2段重ねる。
天井裏に顔を出すと、書類の束を発見。これだ。
王都で認められていない薬物を取引しているようだ…私は懐に入れ部屋を復元し、部屋の扉が開く瞬間を待つ。
自分からは開けない。それをやるとバレる。
廊下が騒がしくなる。
伯爵が帰ってきたようだ。部屋の扉が開いて伯爵が入ったのと入れ違いで、音もなく抜けだす。
後は無音で屋敷を後にすればいい。
天井裏の書類が1個無いことに気が付けば、すぐに大騒ぎになるだろう。
さて、どうなるかな?
ご主人様に証拠を渡した3日後、伯爵が逮捕されたそうだ。
あの証拠で十分だったらしい。
連座で、薬物の原料を仕入れていた子爵家もお取りつぶしの予定だという。
今頃家宅捜索されているだろう。
「お礼は何がいい?」
「おいしい夕飯をお願いします」
「わかった」
私はお金はねだらない。使わないし。
その代わりおいしいご飯を食べさせてもらう。
私はこの時が一番幸せなのだ。
次の仕事はいつ来るだろう?その時が楽しみだ。
遊びでぽろっと書いたものです。




