第23話 どうも、お邪魔虫です
「お姉ちゃん、あーんして」
「あーん」
「この新作ケーキおいしいよね。お土産に買っていこうよ」
「うん。そだね」
「お姉ちゃん、あーんして?」
「あーん」
「違くてっ。お姉ちゃんに食べさせて欲しいの」
「えぇっ!? そ、それは……」
「だめ?」
「~~~~っ! あ、あとでね。家に帰ったら」
「やった! 約束だよ」
……え。えっ、なにこれ。
休日のバイト中。みゃーのが店に来たんだけど、従妹のアリスちゃんまで一緒に来た。
それは別にいいんだけど……
「お姉ちゃーーんっ!」
「ちょ、ちょっとアリスちゃん……井上もいるんだから……」
……これはちょっと、よくなくない?
「二人ともさ、なんかめっちゃ仲いいね」
終わるまで見ていようかと思ったけど、一向に終わりそうにない。
ついに我慢できなくなって言ってしまう。
「はいっ! 私お姉ちゃんが大好きなので!」
みゃーのに抱き着くアリスちゃん。
空いているとはいっても、対面じゃなく隣に座ってる。
注文の品を届けに来た私の前でも、躊躇なく。え、すごくねこの子。
「お姉ちゃんは? 私のこと好き?」
アリスちゃんは一見して無邪気な顔。質問もまた無邪気な感じだけど……
「そっ、それは……」
みゃーのの反応が、なんか……なんだ。
ちょっとアレだ。つまり気になる!
「すみませーん!」
「っ。はーい!」
でも今は仕事中。
ゆっくり見ている暇はなさそうだなー。
――最近、アリスちゃんがすごい。
正確にいえば最初からいろいろ凄かった気もするけど、最近、輪をかけて凄い。
人がいるときは控えめだったスキンシップが、人がいてもお構いなしで……!?
「あ、アリスちゃん! 今はホントにダメだって……っ!」
すると、アリスちゃんは素直に「はあい」といって、イチゴのシュークリームを一口食べた。
……ビックリした。
アリスちゃん、今本気だったのかな?
それとも、私をからかっただけ……っ!?
「んん……っ!?」
ちょ、ちょっと、嘘でしょ!? ダメって言ったのに……
たしかに、ここは他の席からはちょっと影になってるけど、ほんとにバレちゃう……!
「大丈夫だよ」
私の心を見透かしたみたいに、アリスちゃんが言う。
「バレないよ。この間も大丈夫だったでしょ?」
「で、でもっ」
……でも、なんだろう?
ダメ、なのに……私、全然抵抗してない……
「私ね、この間すごくうれしかったの」
この間……
やっぱり、あのことだろうか。
アリスちゃんと一緒にいるのが楽しいって、夏織さんに言ったこと……
「お姉ちゃん、『一緒に暮らすのが普通になった』って言ってくれたでしょ? 私ね、それがすごくうれしいの」
違った。
でも、なんだかアリスちゃんはとっても幸せそうだ。
そしてそれは、私にとって嬉しいことだ。アリスちゃんも、私とおなじ気持ちでいてくれてるってことだから……
「だからね、キスするのも普通になってほしいの」
「うん。……うん?」
あれあれ、アリスちゃんの気持ちが全然分からないや。
「だから、しよ?」
「ちょ、ちょっとま……っ!?」
――あの二人、今キスしてなかったっ!?
陰になってよく見えなかったけど、アリスちゃんがみゃーのに顔を近づけて、それでキスをしていたような……
いやいや、まさかね。そんなはずないか、あの二人は従妹で、女子同士なんだし。
接客しながらだから、どうしてもゆっくり見れないけど……
バイトが終わればゆっくり見れる! 二人がどんな関係か、私が見極めてやる!
だってちょー気になるしっ! 妙に男っ気がない奴と思ってたらそーいうことだったの!? ひょっとして私も狙われたりしてる!?
と思っていたんだけど……
「どうも、お邪魔虫です」
シフトが終わってみゃーのと合流すると同時、私は皮肉を込めて言ってやった。
二人のいちゃつきがあまりにもアレだから。が、
「何言ってんの?」
当の本人はキョトンとしてる。
お茶をして、映画でも見に行こうって話になった。
映画館までの道すがら……
「楽しみだなー。この映画、見たかったんだ。お姉ちゃんと一緒に」
「最近よく宣伝してるよね。ニュースでも特集組まれてたし」
ごり押しされてる映画って大体つまんないよね、と思ったけど言わない。私は空気が読める女なのだ。
映画好きのみゃーのはそういうの気にしないのかもだけど。いや、そんなこともないか。よくリメイク映画にはケチつけてるし。でも……
相変わらず二人は仲良さげ。
ま、手を繋ぐどころか腕なんか組んじゃってるけど。三人っていうより二人と一人って感じだけど。
やっぱりキスしてたのは、私の見間違いだったのかも……
「……んっ……ちゅ……はぁ……っ……」
突然だった。
映画を見ていた途中、唇を塞がれる。
「あ、アリスちゃん……! だから今は……」
「だめ?」
耳元で囁かれる。暗いから顔はよく見えないけど、簡単に想像できる。
「ダメなのに、抵抗はしないんだね」
ちがう……
だって抵抗したら、それこそ他の人に、井上にもバレちゃう。
だから大人しく、アリスちゃんに身を任せているだけ。
そう、バレないように、仕方なく。でも……
体がピリピリする。
すぐ傍に人がいるのに、アリスちゃんとキスしてるんだって思うと、すごくドキドキする。
声、我慢しなきゃ。皆にバレちゃう。
うぅん、もしかしたら……
「結構面白かったねー」
本当はほとんど寝てて見てなかったけど。
適当に話を合わせるためにそう言ってみた。
前一緒に映画見たとき、「寝てて見てない」って言ったらみゃーのはちょっと不機嫌になったからね。
「う、うん。そうだね。うん……」
「はい。面白かったと思います」
……あれれ。何か、二人の反応がちょっとアレだ。
まさか、映画見ずにキスしてたから内容が分からないとかっ!?
なーんて、いやいやまさかね。
なんか、二人の仲が良すぎて、ちょっと邪推をしちゃったみたいだ。
いくら何でも、そんなはずないよね。
とはいえ……
「お姉ちゃーんっ!」
「アリスちゃん、そんなにくっつかれると歩きにくいよ」
「えぇ……だめ?」
「うっ。まあ、いいけど……」
この二人の前じゃ、私の立ち位置は変わらないみたいだけども。
「どうも、お邪魔虫です」




