表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/134

第23話 どうも、お邪魔虫です

「お姉ちゃん、あーんして」


「あーん」


「この新作ケーキおいしいよね。お土産に買っていこうよ」


「うん。そだね」


「お姉ちゃん、あーんして?」


「あーん」


「違くてっ。お姉ちゃんに食べさせて欲しいの」


「えぇっ!? そ、それは……」


「だめ?」


「~~~~っ! あ、あとでね。家に帰ったら」


「やった! 約束だよ」


 ……え。えっ、なにこれ。



 休日のバイト中。みゃーのが店に来たんだけど、従妹のアリスちゃんまで一緒に来た。


 それは別にいいんだけど……



「お姉ちゃーーんっ!」


「ちょ、ちょっとアリスちゃん……井上もいるんだから……」


 ……これはちょっと、よくなくない?



「二人ともさ、なんかめっちゃ仲いいね」


 終わるまで見ていようかと思ったけど、一向に終わりそうにない。


 ついに我慢できなくなって言ってしまう。



「はいっ! 私お姉ちゃんが大好きなので!」


 みゃーのに抱き着くアリスちゃん。


 空いているとはいっても、対面じゃなく隣に座ってる。


 注文の品を届けに来た私の前でも、躊躇なく。え、すごくねこの子。



「お姉ちゃんは? 私のこと好き?」


 アリスちゃんは一見して無邪気な顔。質問もまた無邪気な感じだけど……


「そっ、それは……」


 みゃーのの反応が、なんか……なんだ。


 ちょっとアレだ。つまり気になる!



「すみませーん!」


「っ。はーい!」


 でも今は仕事中。


 ゆっくり見ている暇はなさそうだなー。




 ――最近、アリスちゃんがすごい。


 正確にいえば最初からいろいろ凄かった気もするけど、最近、輪をかけて凄い。



 人がいるときは控えめだったスキンシップが、人がいてもお構いなしで……!?


「あ、アリスちゃん! 今はホントにダメだって……っ!」


 すると、アリスちゃんは素直に「はあい」といって、イチゴのシュークリームを一口食べた。



 ……ビックリした。


 アリスちゃん、今本気だったのかな?


 それとも、私をからかっただけ……っ!?



「んん……っ!?」



 ちょ、ちょっと、嘘でしょ!? ダメって言ったのに……


 たしかに、ここは他の席からはちょっと影になってるけど、ほんとにバレちゃう……!



「大丈夫だよ」


 私の心を見透かしたみたいに、アリスちゃんが言う。


「バレないよ。この間も大丈夫だったでしょ?」


「で、でもっ」



 ……でも、なんだろう?


 ダメ、なのに……私、全然抵抗してない……



「私ね、この間すごくうれしかったの」


 この間……


 やっぱり、あのことだろうか。


 アリスちゃんと一緒にいるのが楽しいって、夏織かおりさんに言ったこと……



「お姉ちゃん、『一緒に暮らすのが普通になった』って言ってくれたでしょ? 私ね、それがすごくうれしいの」


 違った。


 でも、なんだかアリスちゃんはとっても幸せそうだ。


 そしてそれは、私にとって嬉しいことだ。アリスちゃんも、私とおなじ気持ちでいてくれてるってことだから……



「だからね、キスするのも普通になってほしいの」


「うん。……うん?」


 あれあれ、アリスちゃんの気持ちが全然分からないや。


「だから、しよ?」


「ちょ、ちょっとま……っ!?」




 ――あの二人、今キスしてなかったっ!?


 陰になってよく見えなかったけど、アリスちゃんがみゃーのに顔を近づけて、それでキスをしていたような……


 いやいや、まさかね。そんなはずないか、あの二人は従妹で、女子同士なんだし。



 接客しながらだから、どうしてもゆっくり見れないけど……


 バイトが終わればゆっくり見れる! 二人がどんな関係か、私が見極めてやる!


 だってちょー気になるしっ! 妙に男っ気がない奴と思ってたらそーいうことだったの!? ひょっとして私も狙われたりしてる!?


 と思っていたんだけど……




「どうも、お邪魔虫です」


 シフトが終わってみゃーのと合流すると同時、私は皮肉を込めて言ってやった。


 二人のいちゃつきがあまりにもアレだから。が、


「何言ってんの?」


 当の本人はキョトンとしてる。



 お茶をして、映画でも見に行こうって話になった。


 映画館までの道すがら……



「楽しみだなー。この映画、見たかったんだ。お姉ちゃんと一緒に」


「最近よく宣伝してるよね。ニュースでも特集組まれてたし」


 ごり押しされてる映画って大体つまんないよね、と思ったけど言わない。私は空気が読める女なのだ。


 映画好きのみゃーのはそういうの気にしないのかもだけど。いや、そんなこともないか。よくリメイク映画にはケチつけてるし。でも……



 相変わらず二人は仲良さげ。


 ま、手を繋ぐどころか腕なんか組んじゃってるけど。三人っていうより二人と一人って感じだけど。


 やっぱりキスしてたのは、私の見間違いだったのかも……




「……んっ……ちゅ……はぁ……っ……」



 突然だった。


 映画を見ていた途中、唇を塞がれる。



「あ、アリスちゃん……! だから今は……」


「だめ?」


 耳元で囁かれる。暗いから顔はよく見えないけど、簡単に想像できる。


「ダメなのに、抵抗はしないんだね」



 ちがう……


 だって抵抗したら、それこそ他の人に、井上いのうえにもバレちゃう。


 だから大人しく、アリスちゃんに身を任せているだけ。


 そう、バレないように、仕方なく。でも……



 体がピリピリする。


 すぐ傍に人がいるのに、アリスちゃんとキスしてるんだって思うと、すごくドキドキする。


 声、我慢しなきゃ。皆にバレちゃう。


 うぅん、もしかしたら……




「結構面白かったねー」


 本当はほとんど寝てて見てなかったけど。


 適当に話を合わせるためにそう言ってみた。


 前一緒に映画見たとき、「寝てて見てない」って言ったらみゃーのはちょっと不機嫌になったからね。



「う、うん。そうだね。うん……」


「はい。面白かったと思います」


 ……あれれ。何か、二人の反応がちょっとアレだ。


 まさか、映画見ずにキスしてたから内容が分からないとかっ!?


 なーんて、いやいやまさかね。



 なんか、二人の仲が良すぎて、ちょっと邪推をしちゃったみたいだ。


 いくら何でも、そんなはずないよね。


 とはいえ……



「お姉ちゃーんっ!」


「アリスちゃん、そんなにくっつかれると歩きにくいよ」


「えぇ……だめ?」


「うっ。まあ、いいけど……」


 この二人の前じゃ、私の立ち位置は変わらないみたいだけども。



「どうも、お邪魔虫です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ