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第14話 アリスちゃんと鑑賞会

 朝起きると、ザアザアと音が鳴っていて、それは雨の音だと分かったけど、すぐにどうでもよくなった。



「おはよう、お姉ちゃん」


 目のまえに、アリスちゃんの顔があるから。


「お、おはよ……どうしたの? 何かあった?」


 すると、何故かアリスちゃんはキョトンとした顔。そして、



「んっ……」



 寝起きの体に、甘くて酸っぱい味が広がって……って、えぇっ!?


 え……え、どういうこと!?



 寝起きの頭が混乱している。一方のアリスちゃんはちょっと笑って、


「昨日言ってたじゃん。いつでも部屋に来てねって」


 ……私そんなこと言ったっけ。全然記憶にないんですけど。



「これ、貸してもらおうと思って。結構面白かったよ。タイトルは初めて見たけど、トリックは知ってた。有名な密室トリックだよね」


 そう言って見せてきたのは、私が昨日、本屋で買った本だった。



 それで思い出す。


 そうだ、確かに言った。


 もし読みたくなったらアリスちゃんも読んでいいからねって。



 うん、いつでも部屋に来てねとは言ってないね。……まあ、いっか。




 日曜日の今日は、昨日とは打って変わってあいにくの空模様だ。朝食を食べ終えても相変わらず雨が降っていて、それは夜中まで続くらしい。


 私は自分が外出しているときの雨は嫌いだけど、家にいるときの雨は結構好きだ。雨の音を聞きながら読む本が好きだからかも。


 雨の日は大体読書をしてる。でなければ映画を見るとか。それは今日も例外じゃないんだけど……



 今はアリスちゃんも私の部屋にいて、一緒に本を読んでいる。読んでる、と思うんだけど……


 気のせいかもだけど、なんか、視線を感じる。アリスちゃんのほうから。


 けれど、視線を上げるとアリスちゃんは本を読んでいて、私が読書を再開するとまた視線を感じる。その繰り返しだ。


 なんか落ち着かない。全然本に集中できないし、どうしよう……



「ねえ、アリスちゃん。映画見ない?」


「映画?」


 アリスちゃんはキョトンとした顔で本から目を上げた。


「うん。テレビでやってるのを録画したやつとか、ネットでも見れるし。一緒に見ようよ」



 アリスちゃんと話してタイトルを決めて、映画鑑賞を開始。


 したんだけど……


 まただ、また視線を感じる……!



 アリスちゃんを見ると……うん、映画見てる。


 気のせい、なのかな? うーん……



 バッ



 視線を感じた瞬間、隣に座るアリスちゃんを見る。うん、映画見てる。


 …………。



 バッ



 映画見てる。やっぱり気のせい……



 バッ



 私を見てる。


 アリスちゃんは、私を見ていた。スマホを私に向けながら。



「……何してるの?」


 何故かキョトンとした顔をしたアリスちゃんは、


「えへっ」


 と無邪気な笑顔。いやいやいやいや!



「あのさ、もしかしてだけど……何かしてた?」


「お姉ちゃんの写真撮ってた」


「そ、そうなんだ……」


 あんまり正直に言われて、こっちが言葉に詰まってしまう。



「なんか、さっきから見られてるような気がしてたんだけど……」


「うん。さっきからずっと撮ってたから……」


 アリスちゃんは照れていらっしゃる。いや、反応がおかしい。



「私ね、お姉ちゃんの写真撮るのが大好きなの」


「うん……うん?」


「今までもね、たくさん撮ってたんだ。バレないようにこっそり」


 その割に堂々としていたような……



「こういうのイヤだった?」


 アリスちゃんは眉をハの字に、不安そうな表情。でも私は、


「写真によるかな……」


 としか言えない。


 あんまり変な写真だったら、ちょっとアレだし。



「じゃあ見てみてよ。あのね、いい写真いっぱいあるんだ」


 と言って、アリスちゃんはスマホを私に貸してくれる。



 見ると……そこには私がいっぱいいた。


 本を読んでる私や映画を見てる私……だけじゃなくて、スマホをいじってる私や寝ている私まで……



「あはは、私だらけだね……」


「うん。だって、お姉ちゃんがあんまりかわいいから……」


 いや、だからさ、反応がおかしい。どうして照れてるんだろう?


 と思っていたら、写真を撮られた。



「なっ、なに?」


「動揺してるお姉ちゃんもかわいい」


 なんか、ちょっと複雑。嬉しくないわけじゃないけど、なんかなあ。


 でも、いっか。アリスちゃん楽しそうだし、変な写真はなかったし。下着姿の写真とかあったらどうしようと思ったけど、流石にそれはないよね……



「んむっ……」



 こ、今度はなに!?


 いや、これ、あれだ。いつもの、甘くて酸っぱい……


 でも……なんか変なの。いつもの味と違う。ちょっと、ちょっとだけ、苦い感じ……



「イヤなのあった? お姉ちゃん」


「やだ……」


 その言葉は、ほとんど無意識のうちに出てきた。


「こんな、誤魔化すみたいにしないでよ……」



 アリスちゃんの顔に、いたずらっぽい笑みが浮かんだ。


「じゃあもう一回。今度はちゃんとしよ?」



 手が触れ合ったときに声を上げてしまいそうになったけど、その瞬間に唇を完全に塞がれる。


 さっきの変な感じは少しもしない。いつもと同じ味だ。甘くて、酸っぱくて、とっても幸せな味。


 たまには、こういう休日も悪くないかも。




 ……あれ? 結局何の話してたんだっけ?

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