第134話 ずっと二人で
「まあまあ、アリスちゃん! すっかり大きくなっちゃって!」
空港まで私を迎えに来てくれたおばさんは、目をキラキラさせながら言った。
「写真で見るよりもずっとキレイね~。おばさんビックリしちゃった」
「ど、どうもです……」
ぎこちなく挨拶する。
お母さんとおばさんとは、私がイギリスへ引っ越したあとも、写真や手紙でずっとやり取りをしていたらしい。
昔はよく会っていた人だけど、ずいぶん久しぶりだ。ちょっと緊張する。
でも……
もうすぐあの人に会えるんだ。
あの人に、大好きなあの人に。
すっごくドキドキしてきて、でも楽しみにしてたのに――
あの人……お姉ちゃんは私のことを覚えていなかった。
いちおう、すぐに思い出してはくれたけど……
あのときの私はすっごく傷ついた! ホントに!
それに、お姉ちゃんはなんだか他人行儀な感じで、私のために開いてくれた歓迎会での料理も、あまり食べることができなかった。
だから、夜についお菓子をつまんでしまって、お姉ちゃんに見つかって……
お姉ちゃんは、私のためにうどんを作ってくれた。
あの味を、私は一生忘れないだろう。不安だった私の心を、お姉ちゃんはやさしくほぐしてくれた。
恥ずかしがり屋のお姉ちゃんは、なかなか私の告白を受けてくれなかったけど……
ようやく結婚の約束をして、ずっといっしょにいられると思ったのに……
「ひどいよ! お姉ちゃん!」
「うぇえっ!? 急になにっ!?」
ある日の夜。私はお姉ちゃんを抱きしめた。
自分の部屋でくつろいでいたお姉ちゃんは、ビックリした顔で私を見た。
「ど、どうしたの!? 私なにかしちゃった?」
不安そうに訊いてくるお姉ちゃん。
私はお姉ちゃんを抱きしめたまま言う。いまの顔を見られたくなかったから。
「だって、一人暮らし始めるんでしょ? 私たち、離れ離れになっちゃうじゃん」
星野さんはああ言ってくれたけど、やっぱり寂しいものは寂しい。
ていうか、お姉ちゃんがいない生活なんて考えられない! お姉ちゃんがいないと、私もう生きていけないっ!
なんだか涙が溢れそうになってきたけど……それは止まった。
お姉ちゃんが、私を抱きしめてくれたから。
「大丈夫だよ、アリスちゃん」
お姉ちゃんの声は、とってもやさしかった。
「アリスちゃんを一人にしたりしないから。ずっと一緒にいるからね」
「じゃあ、お引越し止めるの?」
「いや、それはするけど……」
「するんじゃん! お姉ちゃんのウソつきー!」
ぎゅ~~~~っと抱きしめる。
「痛い痛いっ! 待って待って! 落ち着いて話を聞いてーー!」
しばらくして、なんとかアリスちゃんは落ち着いてくれた。
一人暮らしをするって決めてから、私はずっと考えていたことがある。
それは、もちろんアリスちゃんとのことだ。
アリスちゃんは離れ離れはイヤだって言ってくれた。私だっておなじ気持ちだ。
だから――
「え? 私もいっしょに?」
「うん。そんなに遠くじゃないし、私のアパートからでも学校にも十分通える距離なの。だから……」
私はアリスちゃんのキレイな髪を撫でながら言う。
「四月からは、二人でいっしょに暮らそうよ」
「…………」
あ、あれ? アリスちゃんからの反応がない。
ビックリさせちゃったかな? そうだよね。いきなり二人暮らししようだなんて……
「お姉ちゃ~~~~~~~んっ!!」
「きゃっ!?」
突然アリスちゃんに抱き着かれ、私は押し倒されるように床に転がった。
「お姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんお姉ちゃんっ!!」
「なになに、今度はどうしたのっ!?」
「お姉ちゃんが……お姉ちゃんが……」
アリスちゃんは涙ぐみながら言う。
「すぐに私と結婚するって言ってくれた……」
「えぇっ!? そうは言ってないよ!?」
「だって大好きな二人が二人暮らしするんだよ!? これはもう結婚だよ!」
「そ、そうかなぁ……?」
……まあ、細かい話は置いておくとして。
「じゃあ。OKってこと? 私との二人暮らし」
アリスちゃんはなにも言わずにコクリと頷いた。
「私ね、すっごく不安だったの。お姉ちゃんと離れ離れになっちゃうって。考えただけで悲しくて……イギリスにいるときも、ずっとずっと会いたくて、ようやく会えていっしょに暮らせてたのに。うぅ~~~~」
「お、落ち着いてアリスちゃん」
また泣き始めたアリスちゃん。よしよしと頭を撫でる。
「私たち、婚約者なんだからずっと一緒だよ。絶対に離れたりしない」
「ずっと? どこに行くときも?」
「うん。どこまでも。二人なら、どこまでだって行けるよ」
すると、アリスちゃんはようやく「えへへ」と笑ってくれた。
「約束だよ。ずっと……ずっと二人でいようね」
「うん。もちろん」
顔を合わせて笑い合う。
「大好きだよ、アリスちゃん」
「私も。だぁい好きっ」
そうして、私たちはお互いに唇を重ねる。
いつものように、お互いの気持ちを全身で伝え合う。
この時間が、
これからもずっと続きますようにと願いながら――




