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ガバメントマスター

新時代の新伝説

作者: 川里隼生

「今日は平成最後の夜、だったな」

 東京。見上げる空には、明るい星々がいくつかだけ見える。まだ見ぬ新時代を目前にして、青年は仮の住処から夜空を眺めている。ふと、壁掛けのカレンダーに目線を移した。

「……あ、まだか」

 今日は三月三十一日である。


 声の主、本田ほんだ基旗もときは二〇一八年八月末、ある国際テロ組織を首領の殺害というかたちで壊滅させた。日本を、地球を守るために戦ったガバメントマスター。その正体こそ、この男なのだ。


 同じ頃、東京湾から黒い人影が静かに上陸した。目撃者はいない。謎の侵入者はそのまま、東京の闇に消えていった。




 翌日午前五時、基旗は総理公邸内で叩き起こされた。テロリスト相手とはいえ、多くの人命を奪った基旗は死の裁きを受けるべきという意見を持つ者もいる。基旗の安全を確保するため、日本政府は当分の間、基旗を総理公邸の一室に住まわせている。


 都内で正体不明の生命体が暴れている。その知らせを受け、基旗は警視庁の車両に便乗して現場へ向かった。場所はお台場のフジテレビ本社ビル付近。実に約七ヶ月振りの出動である。もしも国際テロ組織の残党による生命兵器を使ったテロだとしたら。基旗の脳裏に、街ごとテロリストたちを消し去っていった自身の姿が浮かんだ。


 警察の情報によれば、その人物に日本語、英語、韓国語、中国語、ロシア語は通じず、謎の言語を発しながら近辺の建物に押し入り、目に入ったものを手当たり次第に破壊しているという。人には直接危害を加えていないが、避難する中で転倒して怪我を負った人がいる。また、いつ矛先が物から人に変わるかわかったものではない。


 車両から降りると同時に左腕が水色のガバメントマスターへ変身する。『Ministry of Land, Infrastructure, Transport and Tourism』と少し長い機械音声が流れた。この国土交通省フォームは周辺探査能力に優れている。


 仮面をつけた標的を発見し、すぐにフォームを変える。『Ministry of Foreign Affairs』とアナウンスされた。外務省フォームだ。今回、どこからも犯行声明が出ていないため、まずは標的がテロリストなのかどうか判定する必要がある。

「俺はこの国の代表だ。お前は誰だ?」

 外務省フォームはいかなる相手でも言語によるコミュニケーションを試みることができる。


「俺の言葉がわかるのか。俺は海底帝国のゴザギ・ジュググベ。我が民族の悲願である陸上進出のため、ここの調査に来た」

 想定していたテロ組織とは違うようだが、今の発言は本格的な侵略前の下調べという意味か。基旗はそう判断した。


 基旗とゴザギのちょうど中間あたりの道路にめがけ、超小型ミサイルを放った。爆煙が風に流れると、そこには相撲の土俵が丸々入るほどの大きな穴が開いていた。

「お前たちのその行為をこちらが侵略と見なした場合、俺はお前たちにこの攻撃をすることになる」

 冷徹な声で警告すると、仮面の男は海の中へと消えていった。




「新しい元号は、令和であります」

 総理公邸のテレビで、基旗はその中継を見た。五月一日に新しくなる元号『令和』の典拠は万葉集。『く、なごやかである。皆が美しく心を寄せ合う中で、文化が生まれ育つという意味が込められている』と総理大臣は語った。皆というのは、誰のことだろうか。


 元号を使用する日本国民。共に生きる地球人類。同じ星に住む生き物。この宇宙のどこかにいる、まだ見ぬ生命。あるいは、基旗が知らないだけで、別の宇宙などからの往来も、既に始まっているのかもしれない。基旗は今日も総理公邸の窓から空を見上げる。


 ゴザギと基旗の間にできた溝は深く、基旗側から接触を拒否した。基旗は職務を遂行したに過ぎない。ゴザギが人間であれば、今頃は不法入国と器物損壊の現行犯で留置所に閉じ込められているところだ。この新時代、どこまで美しく心を寄せ合うことができるだろうか。ガバメントマスターは、日本を争いのない未来まで導くことができるのだろうか。

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