第8話の後日談 〜永遠の四季〜
キャラ紹介
ミナト・ナツメ
本作の主人公兼大部分の語り手。ひょんなことから下っ端→元帥になってしまう戦士。身長160センチ。体重45キロ。黒髪ショートボブ。本人曰くザ・平均的な見た目。あらゆる適正値がずば抜けて低い。かなりのオタクで、可愛いキャラクターが大好きな変態。アニメや漫画の見過ぎで心の声がめちゃくちゃ多い。
シノン・ソラキ
第36代 インターナショナル・アーミーズ元帥。くじ引き元帥決めの元凶。前例がないような突拍子もない思い付きによる改革で組織を指揮した天才。身長171センチ。体重49キロ。パープルヘアーのポニーテール。細身の絞られた身体。美人。低音ボイス。戦闘能力も組織においてずば抜けているとの噂。
※本作品は現実世界の未来寄りの世界観かつ別世界です。ゆえに登場する事象(用語・単位等)は、現実世界のものと同じ場合が多いです。
※本作品はキャラクターの独白やキャラクターの持つ主観が多い場合がありますので、予めご了承ください。
本部元帥執務室にて。
「どうだい、最近のユイちゃんは」
シノンさんは暇さえあれば、私がなにをしているときでもやってくる。
私は絶賛事務作業中であって、集中したいところなのだけれど、元元帥を放っとくわけにもいかないのがつらいところである。
「今は元帥専用の屋敷に一緒に住んでいるそうじゃないか、しかも、将軍も軍師も一緒に」
その通り。ユイちゃんが戦士となって以降、私とユイちゃんのみならず、マコトくんやナナミちゃんも同じ建物の中に住んでいる。
理由は単純に、私だけではなくもっとユイちゃんが親しめる人を増やしておこうというものである。
「実際あそこは広すぎて、私だけじゃもったいないですから」
これもまた理由としてある。
「その分将軍用と軍師用の部屋が空いたから、物置スペースが増えて助かると事務は言っていたがな……」
将軍用と軍師用でも相当豪華な部屋だろうに、物置に使ってしまうのか……。
「ただ、君のとこの常駐戦士達は、仕事が増えたといって大変そうにしていたぞ。ジョーは別になにも言ってはいなかったがな」
確かにそればっかりはやや申し訳なく、感じてはいるのだけれど……。
「まぁ、しかし、君達がより結束するいい機会だ。統率者達の結束力の高さは組織をまとめるうえでは大切なことだからな」
事務作業をしながら考える。なんだかんだ、ここまではうまくいっているとは思う。シノンさん曰く、ここ最近の事件や討伐案件は前に比べて数が減っているそうだ。
平和でなによりと言いたいところだが、危機感を持たなくてはならない。四六時中どんなことが起きても対応しなければならない仕事だ。
そしてそれをまとめあげなきゃいけないのは私。
シノンさんはソファーに座ってコーヒーを飲んでいた。
「どうした、何を不安に思っている」
やばい、この人の前では何も隠し事はできない。本当にとんでもないほどの高観察スキルだ。
「この先なにがあるかわかりません。今は比較的平和なのかもしれないけど、それが永遠に続くとは限らない。私には信頼している仲間がいて、みんな強い。だから、きっと大丈夫なんだと思います。けれど、そのリーダーが私ってどうなんでしょうね」
「なんだ、ステータスがクソ雑魚だからそんな心配をしてるのか?」
急にそんな辛辣なこと言わないで! 事実だから!否定できないの‼︎
シノンさんは笑った。
「冗談だよ。まぁ、だが君はステータスは低い」
二度も言わないでくださいよ。
「しかし、君にもちゃんと固有スキルがあるぞ」
まさか、私に特別な力が?
「そ、それは何なんですか⁉︎」
「自分で考えてみなさい。いずれ分かるよ。まあしかし、通常のスキル判定機や鑑定スキルでは到底分からないだろうけどな」
ーー戦士達は自分が持つスキルをスキル判定機というインターナショナルアーミーズが開発した独自の機械でいつでも把握することができ、戦闘に生かす。
しかし私の場合、何度試してもスキルなしという判定結果を毎度毎度見る。
それに引っかかることのない、しかも固有のスキルを持っているなら、私最強なのでは。
けれど、もし役に立つスキルを持ってるんだったら、こんなに苦労してないはずなんだけどなぁ。
「本当にあるんですか? 私なんかに」
「あるさ、固有スキルを持ってるかどうかという自覚は今はなくても、大体ある日突然自覚するよ。私の観察スキルも固有のものだしな。だから、本来の観察じゃあわからないはずの君の固有スキルを見抜けるのさ。私が言うんだから、信じてみなさい」
これだけ言っといて、実は励ましてるだけでしたとかなら、絶対許さんわ。
「とにかく、君が今不安を覚える必要はない。仲間たちを信じろ。自分を信じろ。彼らと一緒にいる日々の一瞬一瞬は君にとって幸せなんじゃないのか?」
「幸せです‼︎ どこを向いても可愛い子たちがいますから‼︎」
「そ、そこには即答なんだな……」
あれ、もしかして引かれてる?
どうにか、作業がひと段落。って、まだシノンさんいるじゃない。この人は仕事ないのかしら。
「お、終わったようだな。おつかれ」
「ありがとうございます。シノンさんはお仕事とかないんですか?」
彼女はにっと笑ってキメ顔で言った。
「今日は、実はーー休みなんだよ。やることもなかったんで、まぁ邪魔しに来たんだ」
邪魔だという自覚はあったのかよ。
「いやぁ、これで君とゆっくりお話が出来るな。」
なんだか楽しそうである。しかし、ちょっとむかつくのは我慢我慢。
「実はな、面白い話というか、私の思いつきを聞いて欲しい。まあ、これを聞けば、なんとなく君も自信がつくんじゃないかなと思ってな」
シノンさんは机の上に左からマコトくん、私、ナナミちゃん、ユイちゃんの順でそれぞれの戦士記録を並べた。
「どうだい、何か気づかないかい?」
うーん。分からない。共通点でもどこかにあるのだろうか?
「あっ、わかりました。私以外みんな可愛い‼︎」
「おい、全く本当にそんなことしか考えてないんだな」
バシッと入ったツッコミチョップ。なかなかシノンさんもキレがいいな。そして痛い。
「そして、私以外と言っていたがな、マコトくんは君のこと、可愛いって言っていたぞ」
「えーマコトくんたら、お世辞が上手ですね」
「(ハックション‼︎)」
あれ? 今、隣の部屋からすごいくしゃみのような大きな音が聞こえてきたぞ。隣の執務室は確か、マコトくんがいたような……まぁいいや。
「とにかくだな、名前だよ、名前。順番に読み上げてみろ」
「マコト・ハルネ、ミナト・ナツメ、ナナミ・アキカゼ、ユイ・フユサキ。はい、読みました」
「そう、つまり!」
シノンさんは右手を上げてパチンと指を鳴らす。
「四人合わせて春夏秋冬!」
え?と思いぼけっとしているとまたバシッとチョップをくらった。
「見ろ名前を、マコトくんには春、君には夏、ナナミちゃんには秋、そしてユイちゃんには冬が入ってるじゃないか、ほら、だから春夏秋冬‼︎」
まさかそれを言うためだけに今日ここにきたのか……。
「大変申し上げにくいんですけども、その話ですね、とっくに先日みんなで話したばっかりなんですよ。ですからあの、誰でも思いつくと思います」
「ガーン」
え、今この人分かりやすく、ガーンって言った え? ねぇ、なんで涙目なの。今の私が悪い?
顔を袖で軽く拭った後、シノンさんはまたしゃきっとした表情を作ろうと努力する。
「ま、まさかこの程度の思いつきで、じ、自慢しようなんてお、思ったわけじゃないぞ。」
めちゃくちゃ動揺しているじゃないか……。
ドンっと机を叩く。
「続きはある。」
今度はすごい真面目な表情だ。
「私は君たち四人が揃ったことがとてもスゴイことだと思うんだよ。言うなれば、今この状態は春夏秋冬が一つの場所に揃っているんだ。もちろん名前的にというだけだが、それでもスゴイことだと私は思っているーー四方四季とでも言うべきだろうか。一つの世界のその四方にそれぞれの季節がある。本来四季は移り変わっていくものだ。それが同時に存在するということは移り変わりのない不変性を表す。変わることのない、ずっとそのままの世界。まるで永遠だな」
「永遠……ですか」
「そうだ。だから、君はこれからどうなるか分からないとか平和を維持しなきゃならないとかいろいろなことを不安に思っているかもしれないが、君たち四人なら永遠の平和の世界ーーこれを作ることができるんじゃないか。なんて思ったわけだ。どうだい、そう考えると楽なんじゃないか?」
確かにシノンさんの言いたいことはなんとなくわからないでもない。けれど、名前だけでどうこうなるならこれもまた、楽な話である。
「続きがあるぞ。君らの名前から春夏秋冬をそれぞれ抜き取ったら、残るのは、ネ、メ、カゼ、サキだ。これはニホノ語では根、芽、風、咲とも書ける。もちろん当て字だがな。根をしっかりと張り、ついに芽を出した。しかし、風のような大きな災害、言わば君たちにとっての壁が来ても、最後には花を咲かせられるのだ。そんな君たちは強いと思わないか」
「芽を出して、咲いたのはいいけど、風のせいで全部吹っ飛んで根っこしか残らなかったなんて並び替えもできるんじゃないですか?」
「コラっ!」
いてて、また渾身のチョップが飛んできた。
「全く、今日は素直じゃないな」
そう言うと、シノンさんはふふっと笑って言った。
「それでも、根っこだけでも残るんならいいじゃないか。君たちの信念は崩れない。また成長して、花を咲かせることだってできる。そういう意味で君達は永遠を生きられる。ま、この話はこれで終わりだ。また、明日邪魔しにくる」
邪魔はしに来ないでほしい。
シノンさんの話は決して根拠のあるものではないけれど、妙な説得力があった。
シノンさんは部屋を出る際、私に「じゃあ」と言って、手を振った。私もそれを返すように手を振った。
その一瞬のシーンはまたいつでも会えるとわかっていてもちょっと寂しかったし、今日という日の充実をも感じた。
私は思う。可愛いみんなと永遠にこの日々を過ごせたらと。
続
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