煌びやかな黒髪ロングJKとの出会い
六時限目終わりのチャイムが鳴った。一息つき自分の席に座ろうとした途端に後ろから俺の名前を呼ぶ男がいた。
「創、今日暇か?」
聞き馴染みのある声に俺は溜息をつきながら振り向いた。
「今日は何の用だ?」
こいつが暇と聞いてきたときは決まって遊びの誘いだ。俺自身も暇だったから嬉しく感じるがこの気持ちを知られるのが恥ずかしいと思い、わざとだるそうに答えた。俺を呼ぶ男は中学校からの腐れ縁だ。名前は庄司慎太郎。運動神経がよく中学の頃はサッカー部にエースで人気者だったが三年の春にけがをして最後の試合に出られなかった。このけがが原因でサッカーに対する熱意もなくなり高校は毎日を惰性的に過ごしている。ちなみに俺は阿比留創という名前だ。特にとりえもなく毎日が暇なキングオブ暇人だ。慎太郎とは当時はやっていたスマホゲームを通じて仲良くなり今に至る。
「学校終わったらゲーセン行こうぜ!今日こそ百人組手制覇するからよく見とけ」
慎太郎は今格闘ゲームにはまっている。最高難易度である百人組手制覇を目指して日々トレーニングに励んでいる。
「しょうがねえ、お前の勇士を見届けてやるよ」
これから行くゲーセンのことを話しているとホームルームのチャイムが鳴り、慌てて俺たちは席に着いた。チャイムが終わると同時にガラッと教室のドアの開く音が聞こえた。教壇に立ち先生の威勢の良い声が聞こえた。
「二年三組の皆さん今日から夏の季節がやってきました。進路について考え始める時期です。よく聞け!二年の夏に頑張らない人は志望校に合格することも就きたい職業に就くこともできない。みんな一生懸命勉強に励め。ホームルームは以上だ。」
「勉強しなくたってどうにかなるだろう死にはしないし、馬鹿らしい。」
こんなことを思っていた俺がこの後勉強に熱中するなんて誰も思わなかった。
教室を出た俺と慎太郎は行きつけのゲーセンに向かった。
「島居先生の進路についての話なんか考えてるか?」
慎太郎から思いもしないことを聞かれて少し驚いた。
「なんも考えてねぇよ今が楽しければいいんじゃね?慎太郎は?」
「俺も考えてない。勉強とかきついし」
こんな無気力な会話をしながらだらだら歩いているとゲーセンの目の前に来ていた。
「よっしゃー、燃えてきたぜ」
気合のこもった声で慎太郎が叫んだ。そのまま勢いよく中に入っていった。俺も続けて中に入り特等席である店の奥の角台に座った。俺はこのゲームが得意ではないので慎太郎のプレイを眺めていた。残りの敵が三十体というとこまで来ていた。
「ここからが踏ん張りどこだ。見てろよ創」
プレイヤーの体力ゲージが一割になり赤くなっていた。ボタンを叩く音が大きくなり力んでいることが目に見えて分かった。次第にキャラの動きが悪くなり、残り二十三人に到達したとこで体力ゲージがなくなりゲームオーバーになった。
「くそっ焦って攻撃かわせなかったし、あー飯おごってくんね?」
「メンタルケアの仕方クソだな」
気づけば窓の外は暗くなっており時間も十時を超えていた。
「帰るか」
俺が言うと慎太郎も小さくうなずいた。帰っている途中慎太郎は制覇まであと少しのところで負けたやるせない気持ちをずっと愚痴っていた。俺は面倒になり深くため息をつき視線をそらした。
「こんな時間まで勉強して何が楽しいんだ」
俺は目線をそらした先にあった学習塾を見て無意識に言葉を発していた。すると突然学習塾の扉が開いて、中から煌びやかな黒髪ロングでモデルのようなスタイルをした俺と慎太郎の通う私立朝松高校の制服を着た女性が出てきた。どうして同じ高校の生徒だとわかったかというと俺たちの高校の女子の夏の制服は全身水色のとても目立つ制服だからだ。黒髪をなびかせながら歩く彼女を俺はひと時も目を外さなかった。胸が熱くなり心臓の鼓動が高まった俺は彼女の魅力にひかれてしまったと気がついた。
「何してんだ創、早くいくぞ」
慎太郎の声がして我に返った俺は駆け足で慎太郎のとこまで戻った。