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ワンダーオブワンダー  作者: 一ノ瀬 水々
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呪われしフィブラ

 暗い夜のエーゲ海、一隻の船が向こうに流れていく。ゆっくりゆっくりと離れていくその光景を俺は忘れることはできない。この運命から逃れることができるのならば、いつかその時は笑い合えるだろう。



 クラソは宿のベッドの上で目を覚ました。そう、不穏な空気を感じたのだ。

「またか・・・」

 左肩を押さえながら起き上がり、周囲の音に集中する。突然扉を誰かがノックした。思わず身構えるクラソ。

「お客さーん、朝食の時間終わっちゃうけどどうするんだい」

 扉の向こうから、宿の主人の声がした。安心したクラソはふとため息をつき、扉に向かって歩きだした。

「どうもありがとう、いますぐ」


 ガシャンと派手な音を立てて背後の窓が吹き飛んだ。振り向く先にクラソが見たのは、異形の姿をした黒い化け物だった。化け物が鋭い爪の生えた手を振り下ろした。

 目の前に黒い化け物が鋭い爪を振りかざして迫る。クラソはとっさに右のベッドに向かって横っ飛びで躱した。化け物の爪は空を切り、床に深々と突き刺さった。

「どうしたんだい、お客さ・・・うわぁぁ!!」

 爆音に驚いた宿の主人がタイミング悪く扉を開けて中に入ってきてしまう。腰を抜かした店主はその場にへたり込み、歯をガチガチ震わせながら化け物を凝視している。クラソより近い場所にいる店主に反応した化け物が、床に刺さった逆の爪を振りかざし、切り刻むべく一歩踏み込んだ。

「しつこいんだよお前はァー!」

 叫んだクラソが右手を前に突き出す。ヒマティオン(古代ローマの服)の袖がめくれる。

「やめてくれぇぇー!!あぁぁ!!」

 化け物の爪が店主の右腕に触れてしまう、その刹那、部屋の中が赤く光った。

 轟々と響く音を立て、火柱が化け物を貫いた。その勢いで化け物を吹き飛ばし、部屋には焦げて穴の開いた壁と、「アツッ」と叫ぶクラソと店主が残っていた。店主が横目でクラソの方を見ると、クラソは突き出した右腕をの痛みに耐えるようにグッと俯いて腕に力を込めているようだった。

「!あんたその腕は」

 店主が見つめるクラソの右手のひらには、危ういほどに光り輝きながら、まだ僅かな炎をチラチラと出す宝石が〝埋め込まれて〟いた。

「ああ、なんでもない。すまなかったな、私は出ていくよ」

 そう告げるとクラソは自分で空けた壁の穴から飛び出して去っていった。店主はただその後ろ姿を見つめるしかできないでいた。


 クラソが地面に降り立って周囲を確認すると、向かいにあった別の宿屋の入口が半壊している。その土煙がまだ立ち込める木のがれきの中から、上半身裸の少年がゆっくり歩いてくる。

「危ないじゃないかクラソ、燃えるとこだった」

 少年は怪しい光を込めた瞳を向けつつ、笑顔で近づいてくる。その姿を見たクラソは怒りをあらわにしながら、今度はヒマティオンの左肩の部分をめくって見せた。そこにはまだ治りかけの生々しい切り傷と、その傷の間にまた不思議な輝きを見せる白色の宝石が埋め込まれている。

「殺すしか、ない」

 クラソがその宝石を握りしめる。

「宣言する、お前を、八つに裂いてやる!」

 握りしめた宝石から黒いオーラが噴き出した。そのオーラが具現化するようにクラソの首の周りに集中する。そして全身を覆う黒いマントとなってはためいた。そしてクラソはそのままマントの内側から手を伸ばし、背中側の黒いオーラを、被った。

「いいね、そうこなくっちゃ」

 少年は面白そうに一連の動作を眺めているが、額には一筋の汗が流れる。

「グワァー!!」

 クラソが先ほどの黒い化け物の姿に変貌している。そしてまさに同じようにして鋭い爪を突き刺すべく少年に突っ切ってくる。


 街には再びの激しい音と土煙、そして住人の悲鳴が響き渡った。


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