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キャロル・エンド・ナウ ~械獣惑星騎行~  作者: 鯖田邦吉
第2話「大械獣空中戦」~蝙蝠型飛刃械獣ゴストリイ 登場~
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2-2 ERF94班


 突然押し入ってきた武装集団は全部で5人。

 だいたいはスゥと同じ格好をしている。

 違うのは、迷彩服とパワーアシスターの上にプロテクターを装着し、頭にはARゴーグルのついた軍用ヘルメットを被っていることだ。

 その手にはアサルトライフル。腰には軍刀。

 スゥがつけている大きな首輪は、彼等にはない。


 彼等によってスゥは縛り上げられ、暴行を受けていた。


「よせ……!」


 そう言おうとした辺村だったが、兵士の足に弾かれた。

 瓦礫に跳ね返りながら床を滑った辺村は、また別の1人の足にぶつかってピンボールのように転がっていく。

 1個の拳銃のパーツにされた彼には、文字通り手も足も出せなかった。悲しい。


 暴行に「性的な」がつかないことと、姉のほうの姿が見えないのがわずかな救いだ。

 隠れたのか逃げたのか。そんな余裕があったとは思えないのだが。


 頬を真っ赤に腫らし、床にのびたスゥの腹に、1人が靴先を蹴り込む。


「この野郎、逃げやがって」


 そう吐き捨てた屈強な兵士の声は、女のものだった。

 腕には桃色の腕章がついている。


「よ……」

「よさねえか、172」


 おそらくはリーダーであろう、赤い腕章の中年男が彼女を制した。

 辺村はまたヒーローになり損なう。


「しかし、こいつのせいで、自分達は任務続行不可能になるところだったんですよ!」


 腕章達と姉妹は同じ部隊の仲間だった。

 地球(Earth)奪還(Reconquest)部隊(Force)、通称ERF(エルフ)の第4次地球降下隊第94班――それが彼等の部隊名であり、械獣の巣の1つ『ポイントFX』を潰すことが彼等に与えられた任務である。


 だがメンカとスゥは地球に降りて早々に逃げ出してしまう。

 おかげで腕章達は彼女等の捜索にスケジュールを大きく狂わせることになった。

 桃腕章の女はすっかりおかんむり(・・・・・)である。


「だからって、ここで殺しても仕方ねえだろう」


 赤腕章の男は同意を求めて他の部下達を見たが、彼等は周囲への警戒に徹し我関せずを決め込んでいた。赤腕章はこれ見よがしに溜息をつく。


「――こいつの死ぬべき場所はここじゃない。械獣の巣の中だ」


「…………!?」


 辺村は集音装置()を疑う。

 赤腕章の台詞は「死ぬ危険が高い」のではなく、「確定された死」を語っているように聞こえた。


 同じ迷彩服を着た集団の中で、スゥだけがつけている大きな首輪は、まさか――。


「ところでなんだ、これは?」


 怒り心頭の女性兵士の気を反らそうと、赤腕章は足元に転がってきていたレヴォルドライバーを拾い上げる。

 ついにきた、と辺村は苦手な授業で自分の解答順が回ってきた学生の気持ちになった。


 さしあたっての問題は、彼等に対しコミュニケーションを取るべきか否かだ。


 冷静に考えれば話をするべきである。

 年齢的には彼等の方がスゥ達よりもこの世界の情報を持っているとみていい。


 しかし、姉妹が元凶とはいえ、知り合った人間――それも子供だ――に暴力を振るわれたことで、辺村の中には兵士達に対する反感が芽生えていた。

 そしてこういうとき、辺村はだいたい感情的判断を優先する。


 つまり、辺村は彼等を無視することに決めた。


「なあ、なんなんだ、これは? 答えろ、271」


 赤腕章はレヴォルドライバーをスゥの顔の前で振ってみせる。


「……遺跡の中で、見つけました。ただのアクセサリーだと思います」


 スゥもまた、レヴォルバーを彼等の手に渡さないという判断を下したらしい。


「アクセサリー、か」


 ドライバーをしげしげと見つめる赤腕章の指が、偶然レヴォルバーのグリップにかかる。

 辺村はロックをかけてささやかな抵抗を行った。


「古代人の美的センスはわからんな。なんで拾ってきた?」

「……可愛いと、思ったので……」


 後ろで見張りがぶっと吹き出した。

 確かに年頃の少女が可愛がるようなデザインではない。


 赤腕章はレヴォルドライバーを検分するように触り続ける。

 だが最終的にただの置物と判じて、床に放り投げた。


「――もういい、出発だ」


 女性兵士がスゥの襟首を掴んで立ち上がらせる。

 黄色の腕章をつけた髭面が、スゥの手首に手錠をかけた。


「あの、あれ、持っていきたいなぁ、なんて……」


 赤腕章の男の顔色を伺いながら、スゥは床に転がったレヴォルドライバーを見る。

 だが赤腕章が何か言う前に、桃腕章がスゥの背を押した。


「玩具で遊ぶ歳かよ、さっさと行け」

「…………」


「まあ、いいじゃないですか。オレも興味をそそられます」


 黒い腕章をつけた学者風の若い男が、そう言ってレヴォルドライバーを拾い上げる。

 ドライバーを月光に透かし見る彼の目は、玩具を見つけた子供のようだ。


「……おまえ、ホントそういうの好きな」


 桃腕章の女性兵士が呆れたように言う。


「知的好奇心は豊かな人生に必要不可欠ですよ」


 ドライバーの埃をはたき落としながら、黒腕章が笑った。


「何年か前、旧人類の複雑な機械を見つけて、きっとすごいものに違いないって金と時間をかけて散々調べた挙句、結局ただの子供の玩具でした――って笑い話があったよな」

「そうやってみなさん研究班の仕事を馬鹿にしますけどね。ただの玩具と判明したならいいじゃないですか。知らないものを知らないままにする方が駄目です」

「……おまえには負けるよ」


 黒腕章がドライバーを運び込むのを見て、スゥは少しだけ安心した。

 問題は、どうやって取り戻すかだ。


(あたしはあきらめない――。姉ちゃんを助けるために、なんとしてもベムラハジメを取り返す)




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