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キャロル・エンド・ナウ ~械獣惑星騎行~  作者: 鯖田邦吉
第10話「史上最後の侵略<前編>」~蜜蜂型鬼巣械獣ミクシュセルキ 登場~
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10-1 拝啓ベムラハジメ様


 スーパーグスタフの中には、シアタールームが存在した。

 巨大な移動要塞砲の中に詰め込まれた者達にとって憩いの場であったであろうそこは、使われなくなって久しい。


 非斗には再生機(プレイヤー)の使い方などわからなかったし、仮に動かせたとしても人類基準の芸術を理解することもできなかったからだ。


 そんなシアタールームが久しぶりに息を吹き返す。

 ただし流れるのは涙を誘うメロドラマでも、血湧き肉躍るアクション超大作でも、アニメでもホラーでもミュージカルでもない。


 1人の男が1人の男にあてた、ビデオレターだ。


 スゥとメンカは腰からレヴォルドライバーを外し、スクリーンがよく見えるところに置いてやった。


 絶遠了は、レッドに避役械獣の打倒方法を教えると同時に、一通のビデオレターを託したのだった。

 当の本人はもうここにいない。

 あの時、グスタフに撃ち出された弾丸(シャトル)に乗っていたのが絶遠だからだ。


「あの野郎、動力炉を止めろなんて言ってきやがったのは、自分の追跡を防ぐためだったんだな」


 利用されていたことを知り、レッドは苦々しげにそう吐き捨てた。

 が、絶遠からのメッセージを辺村に伝えることはちゃんとしてくれた。


「とりあえず、最初はベムラハジメだけに見せてあげましょうよ」


 メンカの提案は、最終的に承認される。

 大人達は捕らえたイクッネン一派への処遇や、動力炉の復旧などの現実的な問題に手がいっぱいだったからである。

 面白くもないであろう映像をのんびり観賞するより、辺村に要約してもらうことを彼等は望んだ。


「……動画再生時間は30分だ」

「うん。じゃあ、それくらいに迎えに来るから」


 シアタールームの照明を落とし、スゥは出ていった。


 辺村の前方にあるスクリーンに、絶遠の顔が映し出される。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



 ――よう、辺村。顔を合わせるのは久しぶりかな。

 なんて、これ録画した後で鉢合わせしてたらかっこ悪いな。

 さっきの導入は忘れてくれ。


 オレは宇宙へ行く。その理由は、目的は、ここで話そう。

 ついでにおまえが知りたかったであろう情報もだ。

 直接じゃなくこんな手段をとったのは――おまえとおまえの相棒が大人しく話を聞いてくれるかわからなかったのと、オレもちょっと弱気になってるってことかな。


 ……まず、オレ達の部隊を全滅させたあの宇宙昆虫みたいな奴のことからだ。

 昆虫に見えるだけで正確には菌類だそうだが、まあどっちでもいいか。


 人類は、あれのことを『認定地球外知性体・第3(み)号』と呼んでいる。

 1号と2号はどうしたって話になるが、それを知ってる奴はもう全員いなくなっちまった。


 3号エイリアンは奴等にとって本来的ではない惑星上で活動する際、オレ達が宇宙服をまとうようにスーツをまとう。

 基本は雪男みたいなのを着て活動するんだが、戦闘において使用するのが、おまえがラーディオスと呼んでるあの巨大なスーツだ。

 なおあいつらが使う場合に限っては、時間制限はない。

 たぶんあの時間制限は、自分達以外のものに奪われた際のセーフティの一種だと思う。


 さて、ラーディオスの戦闘力は当時の人類にとって圧倒的だった。

 人類は南半球に追放された。

 誰もいなくなった北半球を、3号エイリアンは勝手に掘り返しはじめた。

 資源採掘が、奴等がこの星に来た目的だったらしい。


 いや、まだだ。別に3号エイリアンのせいで、今の人類があるわけじゃない。

 人類は何とかショゴスの再支配に成功、奴等を武装化して3号エイリアンに立ち向かったんだ。

 そう、それが械獣の原型だよ。


 ……なんでオレがそんなこと知ってるかって?

 そうだな、そろそろ情報ソースを提示するべきだな。


 オレ自身だ。オレがエビデンスだ、なんつってな。

 実はオレ、おまえらが死んだあの戦いで、死ななかったんだよ。

 なんかごめんな、オレだけ生き残っちまって。


 その後でさぁ、ラーディオスのOSにおまえらの脳が使用されてると知ったんだ。

 奴等はこの星で活動するため、この星の生物の知識を必要としたんだよ。


 許せないと思ったね。当たり前だろう?

 だからオレはわざとあいつらに降伏したように見せかけて、脳缶――レヴォルバーに脳髄を移植してもらい、奴等に反旗を翻した。


 緋雲(ひぐも)の脳を使ったラーディオスはオレが殺した。

 張田(ばるた)も、米比良(めひら)も、騨田(だだ)も、オレがこの手で始末をつけた……エケケケケ……。


 けど、おまえは違う。

 おまえだけは、戦っている間、わずかだが、人間の意識を取り戻したんだ。覚えてるよな? 覚えているはずだ。


 だからオレは必死の思いで、おまえの脳を傷つけないように戦った。

 そしておまえを救出した。他のみんなは駄目だったが、おまえだけは救うことができたんだ。


 なのにさぁ、ひどいんだぜ辺村?

 みんなオレが狂ってるとか、そうでなくても回収したレヴォルバーを破壊すべきとか再利用するべきとか、おまえのことはなんにも考えないんだ。頭にくるよな頭にくるだろう?


 だからオレは邪魔するものを全部ぶっ潰して、おまえを誰の手にも届かない場所に隠したんだ。

 幸い、人類はミ号エイリアンとの最終戦争に忙しくて、オレなんかに追跡の手を割く余裕はなかった。


 3号との戦いはどうなったかって?

 奴等は地球上から撃退されたよ。

 人類はショゴスを使って、北半球の回復に努めた。


 おまえは気づかなかったかも知れんが、人類がいなかった割に建物が原形を留めているのは、ほんの数十年前までショゴスどもが都市の保全を行ってたからだ。

 いや、今でも律儀に設備維持を続けてるショゴスもいるんじゃないかな。


 だけどそこに住むはずだった人類は、結局帰ることはできなかった。


 南緯49度51分西経128度34分。

 そこに沈んでいた古代遺跡が、3号との戦闘の余波によって浮上した。

 そしてその主人たる究極等級竜――いや、ヤツの名前なんか呼ぶのはやめよう。

 とにかく、オレ達が生まれる前から地球に飛来していた別のエイリアンが――そいつが1号なのか2号なのかは知らないが――冷凍睡眠から目を覚ましたんだ。


 ヤツはまさしく神だった。

 ショゴスも3号も、もちろんラーディオスも、あいつの前では取るに足らない存在だ。

 人類はどうかなんて、言うまでもないだろう。


 ショゴスを下し、やっと3号を追い返したところで週も空けずに現れた更なる強敵。

 安っぽいバトル漫画みたいじゃないか。

 でも人類のメンタルはバトル漫画の主人公ほど強くなかった。

 みんなの心は、そこでポッキリ折れちまったんだ。


 人類は大きく3つに分かれた。

 1つ、地球を脱出するもの。

 1つ、南極にこしらえたコールド・スリープ・マシンを使い、ヤツが眠りにつくのを待つもの。

 最後に、何もせず黙って死を待つもの。


 後者はもちろん死に絶えた。

 コールド・スリープ組も、急ごしらえの施設かあるいは技術そのものが不完全だったかで、全滅した。


 だから人類存続は宇宙に脱出した連中、つまりスペース・ハビタットの連中に託されたわけだが――。

 どうやらそれも潰えたらしい。


 なあ、気づいてたか辺村?


 おまえが人間だと思って一緒に行動してた連中、ありゃ、人間じゃないんだぜ。



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