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OUT A T[i]ME!  作者: れるる
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プロローグ:就職活動でのデキゴト

 今宵は春、とある家の玄関で死んだ魚のような目をしながら倒れていた男がいた。

「なぜだ・・・今回こそは・・・おかしい・・・ええ・・・」

 赤潮で死んだ魚みたいな顔をして呟いていたのは、22歳の就活生、長瀬俊だった。

身長は高い割に痩せていた上、目付きが少しこわばっていたので、学生時代のあだ名は「死にかけのトーテムポール」だったり、「ヤクザとイギリス人のハーフ」だったらしい。二個目に関してはマジで意味がわからん。

 そんな俊、実は就職活動にもう半年以上をかけているが、採用通知が一切来ず、鬱病手前と言った所まで陥っていた。

 大学はそこそこの国立大学に通っていたのだが、いわゆる「コミュ障」だったので、面接でも言いたいことがはっきりと言えず、ゲームオーバーになる事が多かった。就活に落ちすぎてもぅマヂ無理...リスカしょとか考えていたその時、82社目くらいに受けた広告仲介の会社から、

「最終面接にご招待します。」

という、俊にとって今までの人生で1番と言っていいほど嬉しい知らせが届いた。これで不採用通知が来てたら陸上自衛隊にでも入ろうかと思った。握力23だけど。

 それをみた俊は喜びのあまり気が狂い始め、突然家を飛び出しチャリに乗り、近くの川沿いを「アイムフリーーーーーーーー!ヒャッホーーーーーーーーイ!」と叫びながら爆走していたらしい。

 それを見ていた人がいない訳がなく、俊の噂は3日程で有名になり、彼は「川沿いのヤベー奴」として地元で一躍人気者(?)になってしまった。

 そのことを風の噂で聞いてしまった俊の母は「もうご近所さんと合わせる顔がないわ・・・」と悲しそうに語っていた。某国民的人気アニメなら、「母親を泣かせるなゴミ息子」ってナレーションがここで入るだろう。

 そんな事を気にする余地も無く、俊は、「もう採用が確定して私はやっと就活をもうしなくていいんだ・・・!私は神だ・・・!あいきゃんふらーい!」と思い込み、一人で安堵していた。というより、”順当に進んでいれば確実に採用”だったのだ。

しかし、世界は悲しいことに必ず”順当”に進むとは限らないのだ。



 面接当日、俊は、るんるんで家を飛び出し、喜びを胸に会社の門を潜り、清々しい気持ちでエレベーターに乗り、13階に上がった。社長と1対1での面接を受ける為だ。

 エレベーターに乗っているときは笑顔が見えるほど余裕...だったのだが、エレベーターから降りた瞬間、やばいくらいの緊張感が俊に舞い降りてきた。手汗がやばい。

「えっ・・・なにこれ・・・もはやこれまで・・・」

 俊はそう小声で呟きながらもなんとか社長室の前に着いた。社長室の前には警備員が2人程ついていた。

「おっ、面接の方ですか?」

 警備員のおにいさんがそう話しかけてくれた。話しかけられると余計に緊張するからやめてほしい。

「あっ・・・はい・・・そ、そうです・・・」

「なら、社長がお待ちです。どうぞ中へ入りください。」

「ふぇっ!?」

 思わず驚いてしまった。もう中に入らないとマズイのか。もぅまぢ無理・・・マリカしょ・・

 こんなしょうもない事を考えていないと立っていられないほど緊張しながらも俊は戦場(しゃちょうしつ)へ...

「ようこそ我が社長室へ!いごごちはどうかね?」

 と、如何にもおぼっちゃま感がハンパないキノコ頭をした社長が早口選手権日本代表レベルの早口で話してきた。

「す・・素晴らしいお部屋でsn・・・.」

 その時だった。

 緊張のあまり、俊の胃からゲロが上がってくる。それを抑止することはできずにそのまま口から吹き出し、見事社長の顔面に敵中。社長の顔だけではなく、スーツ、パソコンなどにも飛び散り被害はかなりでかい。その後の話によれば、パソコンはなんとか無事だったらしい。

「・・・・・・・・・は?」

「えっ・・・あっ・・・その・・・ごめんなさい・・・緊張のあまり・・・」

「そ、そか・・・面接中にゲロを吐かれたのは初めてや・・・増してや人生で初めて顔面にゲロをかけられた・・・」

 社長は胡散臭い関西弁交じりでそういった。社長の顔面ゲロ童貞を奪ったことはさておき、俊は人生終了を悟った。

「君は営業の部署の応募やな?せやから緊張のあまりゲロをはくような奴に営業は任せられん・・・せやから・・・後はゲロを吐かれた顔で言いたくないからわかるな...?」

「はい・・・この度は誠に申し訳ありませんでした・・・」

「今ワイは君を見るだけでトラウマになってしもうとるから今後この辺に来るときは出来るだけこのビル避けて歩いてな・・・頼むで・・・」

「はい・・・ごめんなさい・・・」

 そう詫びて、俊はトイレで口回りを洗って会社を去った。



帰りの電車が憂鬱である。帰りの道が憂鬱である。そんななか、俊は何を思ったか、小さい頃から通っている駅前の博多ラーメンの店に立ち寄った。

「へいらっしゃい!...って俊ちゃんじゃん!どうしたんだいそんな浮かない顔して」

店に入った瞬間俊に心配そうに話しかけたのは、ラーメン屋の店主のおばちゃん、飯塚雪菜さん。

「また会社の面接落ちた・・・もうそろそろ就活あきらめていいですかね・・・」

今にも泣きそうな顔をしながら俊はそう言った。

「またかい・・・おばちゃんが若い頃は就職なんか楽チンやったけど、今は就職氷河期やもんな・・・しゃーないな、今日はラーメンはタダにしてあげる!その代わりニンニク沢山入れさせてもらうよ〜!」

「ホンマに!?なんか物凄く申し訳ないけど、んじゃあ今日はお言葉に甘えて・・・」

「気にするこったないよ〜、俊ちゃんはウチの大事な大事な常連様の一人なんだから〜!常連様が悲しそうにしてたらウチも悲しいよ〜。因みに今回の落選理由は」

「聞かないで!」

 俊は店中に聞こえる声で叫んでしまった。恥ずかしい。

「そ、そうかい・・・なんかごめんよ・・・」

「ふぇっ!?あっ・・・ごめん・・・」

 ラーメン屋のおばちゃんにまで心配されてる自分が心底情けなくなってくる。就職出来たらおばちゃんに何かお返しがしたいなぁ、と俊は心の中で呟いた。

「あっ、おばちゃんトイレ借りてもいい?」

「いいよ〜。場所はわかるね?」

 雪菜さんに許可を得てトイレに向かう。軽く用を足し、トイレを出た時、俊はトイレの横にあったある物に目が止まった。

 トイレの横には、複雑そうな機械が置いていたが、ロゴや商品名などは一切書かれていない。書かれているとしたら、数字だけ。

 この年になっても好奇心旺盛な俊は、トイレから帰ってくると雪菜さんに謎の機械について尋ねた。

「どうでもええけど雪奈さん、トイレの横に変な機械あるじゃん、あれってなんなん?」

「ぎんなん」

「いや、そういうのいいから・・・」

「俊ちゃんこういうの好きじゃなかったっけ?」

「いいから教えてーさ」

「あれねぇ・・・10年前に亡くなった父が20年くらい前に開発した物なんだけど、開発してすぐくらいに、ちょっとした好奇心で私が触ろうとしたら夫が焦って走ってきて、「そいつだけは触るな!」っていって触るのを止めてきたんだよねぇ・・・基本あの人は開発した物を私に見せびらかしてくるんだけど、あれだけは見せびらかすどころか存在を知られたくなかったみたい」

 いやなんで知られたくないものをあんな堂々と置いてるんだおっさん...もし就職出来なくて天国に行ってしまった時に聞きたいことリストに刻んでおこう。

「そんなん聞いたら益々どんな機械なんか気になってまう・・・」

「これもなにかの縁だし、今日の夜にでも勇気を出して機械を動かしてみるよ。ってかこの機械、触ったら行けないものなのになんでオトンはこんな所に置いてたんだろ?」

 そんな話をした直後、おばちゃんがラーメンを出してくれ、俊は美味しく食べて生きる幸せを感じながら家に帰った。おばちゃん、タダにしてくれて本当にありがとう。



 俊はラーメン屋に行ったあと、家に帰った。長瀬家の家は、府営住宅の5階に位置している。玄関に入ってすぐに俊はスーツを脱ぎ捨て、なぜか服を着ずにそのまま全裸で寝てしまった。 その後、姉、長瀬真美が仕事から帰ってきた。家の扉を開けると、全裸の弟が玄関で寝ていたのを発見し、恥ずかしがりながらも、弟を弟の部屋までおんぶして運んで弟をベットに下ろして布団をかけてあげた。その後、真美は、

「ほんとこの子は変わらないんだから・・・」

 と言いいながら全裸の俊に布団をかぶせてあげた。

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