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09話 《月下の蒼光》のお宅にお邪魔します!

 超大作乙女ゲーム「救済の旅路」の主人公、つまりヒロインであらせられるミリナちゃん。

 同ゲームの攻略対象の四天様の一人にして《紅星の背中》の異名を持つルジィ・フェルナンテ。

 ゲームのパッケージにはいなかったけど、私を助けてくれた、自称薬剤師で診察所を一人でやっていた青年ヴァイツ。

 そして、ヒロインのミリナちゃんを誘拐した容疑を掛けられている魔女、私。


 ミリナちゃんとルジィはともかく、私とヴァイツはなんだか場違いな気もしたけれど、この四人が馬車の中で向かい合っていた。

 特に何を話すわけでもなく、街灯のある通りを馬車がかっぽかっぽと音を立てて歩く音を私は聞きながら半分寝ていた。


 え? 一番お喋りな私がどうして率先して喋らないのかって?

 そりゃルジィが怖いからだよ!


『そこで色々聞かせてもらうからな』


 ついさっきのルジィの言葉だ。

 私の立場はすこぶる悪い。

 それもそのはずで、私は目の前に座っているミリナちゃんを誘拐した容疑が掛けられていて、その現場をきっちりと自警団の団長様であるロンダルに見られている。

 話によると、自警団はこの国の軍部からは独立した存在みたいだから、そこはあんまり重要じゃないのかもしれないけど。

 でも、ミリナちゃんはきっと私を覚えているだろうし……ってそういえばさっき初めましてって挨拶されたんだよね。

 ミリナちゃんは私のことを覚えてないのかな……?

 うーん分からないなぁ……




 なんて疲れと眠気で夢心地になりながら考えている内に馬車が止まる。

 それから外で話す声が聞こえたかと思うとルジィが扉を開けて一人で降りてしまう。

 しばらくしてルジィが戻ってくると、馬車はまた動き始めた。


 どうしたんだろう、と私が不思議そうにしていたのが通じたのか分からないけど、ルジィが口を開く。


「お待ちかねのブラウ・フルリカンド邸の門を通ったところだ。突然すぎる来訪に門番もさぞかし肝を冷やしてることだろうが、この俺の顔を見れば通さないわけにはいかねえんだな」


 さらっととんでもないこと言ってるよこの人。


「ところで気分はどんなだ、ヴァルシュ」


 不意にルジィがそんなことを言うので私は震えあがる。


「ひぇっ。す、すこぶる快調ですっ」


「ほぉー。お元気みたいじゃねえか」


「そ、それはもう……」


 元気な訳ないけど、なんだかもう言われるままに答えるしかないよね。

 だってこわいもの。


「それだけ元気があればなんでもできそうだなぁ?」


「はいっ、何でもできますっ」


 できるわけないでしょ!


「ほほぉ。それならお前には――」


「ルジィさん、ヴァルをからかうのもそのくらいにしてあげてください」


 ヴァイツがそう言うと、ルジィは大声で笑いだして、私はようやくからかわれていたことに気が付いた。


「いやすまんな。随分と反応が面白いもんだからな」


「く、くぅ~……」


 さっきまでの緊張はどこにやったんだよ四天様!!!

 なんて文句を言えるはずもなく、私は泣き寝入りするしかない。


「ルジィ、いくらなんでも今のはひどすぎます」


 そう言ってミリナちゃんは怒ってくれるけど、なんだか全然怖くない。

 でも本気で怒ってくれてるんだろうなーという気はするので、ちょっと気分がいい。

 もっと言ってやってミリナちゃん!


「はは、すまんすまん」


 なんて言いながらまだ笑ってるし。

 絶対に謝る気ないよこの四天様。


 なんて会話をしている内に再び馬車が動きを止める。


「お、着いたな。降りるぞ」


 ルジィは言うが早いか、扉を開けて一番に降りた。


 それに続いてミリナちゃんが降りて、ヴァイツが降りる。

 そして私が降りようとする時に。


「ちょっと段差になってるから気をつけて」


 と言ってヴァイツが手を伸ばしてくれる。

 流石だよヴァイツきゅん素敵……


 そういえばいつのまに翼なくなってるけどあれって取り外し可能なのかな。


 という疑問は口にせずに、差し出された手を取った。


「あ、ありがとう」


「どういたしまして」


 ヴァイツの手を借りて馬車から降りると、目の前にドーンと屋敷がある。

 周囲を見渡してみれば、広い庭に長い道があって、これは本当に人の住む敷地の中なのかと首を傾げたくなるほどだった。

 屋敷の方はきらびやか、というほどのものではないけれど、街灯もなかったところに住んでいた身としては、住む世界が違うな、というのが正直なところだった。

 少なくとも窓からこれだけの光が漏れ出ているだけでもすごいと思ってしまう。

 十日間ヴァイツと生活してすっかり私は庶民派だった。


「ルジィ。貴様という奴はこの俺をなんだと思っているんだ」


 屋敷の方から歩いてくる人影はたいそうお怒りの様子でこちらにずんずんと近づいてくる。


「おお、すまんすまん。いやー、近くにあるしちょうどいいかなと思ってな」


「そんな理由でこんな時間に何の約束もなしに訪問される側の身にもなってみろ! ……ミリナ! ミリナじゃないか! 無事だったのか!」


 突然人格が切り替わったんじゃないかというぐらいに、お怒り状態からいかにもな王子様に変化したその人は、ミリナちゃんのところまでスタスタと歩いてその手を取った。


「よくぞ無事で」


「心配掛けてすみません、皆さんのおかげで私はこの通り無事です」


「おお……! よかった、よかった……!」


 感無量、という感じで喜びに震えるその人は、青髪だし、格好いいし、多分四天様だ。

 ブラウ・フルリカンド。

 その二つ名は、《月下の蒼光》。

 確かにめちゃくっちゃ格好いいんだけど、なんだかヘタレっぽい空気がする。

 目元が優しいというか、目つきが鋭いのにヘタレっぽい。

 とっても不思議。

 なんでも見抜くとかなんとか言われてるし、クールなキャラっぽいのに随分と感情豊かで、やっぱりいじられる立場の人なんだなーという気がしちゃう。


「……で、そこの失礼な女とそっちの男は誰だ」


「ひゃいっ!?」


「は。申し遅れました、ヴァイツと申します。ブラウ・フルリカンド様」


「……うむ。こちらの青年は礼儀を弁えているようだが、そっちの女はなんだ」


「わ、私はヴァルシュといいます。えっと、その、魔女? なのかもしれません」


「……なんだと?」


 私があたふたしながら魔女、と口にするとブラウの目つきはキッと鋭くなる。

 あっ、流石に怖い。

 すいません、ヘタレだとか思ってすみませんすみません。


 そう心中で祈っていると、ブラウの表情はますます険しく、というか不機嫌になる。


「なんだこの不敬の固まりを捏ねて人型にしたような奴は」


「魔女さんだ。多分、偽物のな」


 ルジィの返答に、ブラウはその目を細める。


「……偽物、か。この魔力の量はカモフラージュ、ということか」


 よく分からないけど納得したようだ。

 

「とにかく中に入れ。詳しい話を聞かせろ。貴様はふざけた奴だが……冗談に赤の他人を巻き込んで迷惑を掛ける男ではない」


「おうよ。知り合いだけに迷惑を掛けるぜ」


「本当にやめろ」


 大きくため息をつくブラウ様と豪快に笑っているルジィのやりとりは、慣れたものという感じだった。

 普段から気苦労重ねてるんだろうなブラウ様。

 

「おい、魔女。俺に不敬な同情をするのはやめろ」


「ひえっ!? すみません」


 心でも読めるのかこの人。


「心は読めん。魔力の動きを読んでいるだけだ。お前は魔力がデカいだけに分かりやすいがな。俺でなくとも分かるだろう」


 ブラウはそう言ってフンと鼻で笑った。


「コイツが魔女だと勘違いしてロンダルは奔走したのか」


「魔力はデカいからな。そう思っても不思議はねえだろ」


 ……当然のように魔力がどうの、なんて話をしているの気になる。

 ブラウとルジィの話を聞く限り、私は魔力がデカくてその動きを見れば考えてることが分かりやすいってことになるの? 

 私には魔力なんてさっぱり見えないんだけど???

 なんだかそれってとっても一方的に見透かされてる感じで恥ずかしいんですけど????


 という私の疑問がまるで筒抜けであるかのようにブラウは困ったような顔をした。


「……その辺りも含めて話をするべきなのか?」


「ああ、頼むぜ。俺はこういう話は苦手だ」


「そうだろうな。 ……そうと決まればさっさと中に入るぞ。ついて来い」


 ブラウはくるりと踵を返して、けれどもきっちりとミリナちゃんのことをエスコートしながら屋敷の方へと歩いて行った。


 そして私達全員が屋敷の入口に当たる大扉の前に立つと、ゆっくりと音を立てて扉が開く。

 流石に大量の召使いが出迎える、なんてことはなかったけれど、流石は四天様のお屋敷という感じで赤絨毯と大量の照明と調度品と――とにかく貴族様の屋敷らしい屋敷だった。



 その後、私たちはそれぞれに今日泊まる部屋について軽く説明を受けて、それぞれの個室に案内された。

 深夜だというのにメイドさんはつきっきりで私の世話をしてくれた。

身体を洗ってもらったり、着替えさせてもらったりといかにもお金持ちな接待を受けている内に眠気もいくらか飛んで、私は話し合いの場であるブラウの私室の中の一つにすっきりした気分で移動した。

 

「遅いぞ」


 部屋に入るとしかめっ面のブラウが私の顔を見るなりそう言った。


「す、すみません」


 よくよく見ると私が一番最後のようだったので、素直に謝った。


 話し合いの場、というと堅苦しそうだけれど、単にソファが向かい合うように置いてあるだけの場所だった。


「全員揃った。それではまず、お前の話を聞かせてもらおうか。偽の魔女、ヴァルシュ」


 ブラウがそう言って私を睨み付けると、自然と部屋の中の人々の視線も私に集まる。


「は、はい。もちろん、です」


 ――そうして、ブラウ邸の長い長い夜が始まった。

 


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