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04話 世界と四天と魔法の話

 あの激動、と呼ぶにはちょっと短い気がする日の翌日。

 

 私は泣き疲れてそのまま眠ったそうで、ヴァイツは私をベッドに寝かせて自分はソファに寝たそうで、そんなことも知らずに私はベッドで爆睡していたようだ。

 うーん、恥ずかしい!

 

 目が覚めてからヴァイツにあれこれ教えてもらいながら身支度を整えている時に色んなことに気が付いた。


 まず、この世界は私の想像よりずっと文明が進んでいること。


 上水下水の概念があって、トイレが水洗だったのにはかなりびっくりした。

 時代設定はどうなってるんだろうこの世界。

 流石に電化製品は存在しないけど、それ以外のところはかなり文明が進んでいるみたいで、部屋の中をうろついてみた感じだと本もあるし製紙技術も印刷技術もあるみたいで、いわゆる中世ヨーロッパの世界よりもずっと未来的だ。

 

 確か神話だとか寓話だとかを元にしたっていうゲームだったはずなんだけど、そういう不思議な世界観の話が伝わっていたのかな。

 

 とにもかくにも、そんな色んな不思議なものを見つけながら身体を洗ったり、着替えを貸してもらったりして、当たり前と言えば当たり前だけど自分の身体をまじまじと見ることになった。


「す、スケベな身体だなぁ……」


 なんだか自分の身体なのにそんな気がまるでしなかった。

 ほっそりとした身体なのに出るところは出ていて、お肌は艶やかで苦労をしらないというより、まるで人形としてずっと飾られていたかのような傷のなさだった。

 ……正確には私が傷物にしてしまったので多少の傷はあるんだけれども。


 歳は若く見積もっても十八くらいだろう

 鏡の前で髪をとかしんがら自分の顔を見る。


 ちょっぴりウェーブがかった肩まである黒髪もクシがさらさら通る。

 瞳はどこか物憂げにしていればそれらしい美人なんだけど、私らしく振舞ってしまうと途端に野蛮な娘に成り下がることだろうね!

 ごめんね魔女さん!

 恨むんなら私をゲーム入りさせた人を恨んで!

  


 身支度を整え終わってからヴァイツにできる限り詳しいことを話した。

 死に戻りから、ゲームのことから、何から何まで話した。

 それが誠実であることが唯一私にできることで、ヴァルシュという与えられた名前に返せる恩義だと思ったから。


 流石のヴァイツも半信半疑、というよりも単純に理解できないようで、逆に申し訳なさそうにされてしまった。

 私のことを狂人扱いしないヴァイツきゅんは最高にいい人だよ!

 誰かに騙されたりしないように気をつけてね!


「疑うわけじゃないけど……別の世界から来たっていうのに、言葉は通じるんだね。どうしてなんだろう」


 ヴァイツは大真面目に考察してくれていて、なんだかそういうことをそういうものだと片付けてしまっていて申し訳なくなる。


「うーん、私にもさっぱり分からないけど……」


 ゲームの世界に入ってる時点で不思議だらけなんだから、それより細かいことを疑問に思う余裕なんて私にはなかった。


「……まあそれはおいおい考えるとしようかな。 ねえヴァル。君はこの世界のことを知らないみたいだから色々と教えてあげたいと思うんだけど」


「うんうん。ぜひ教えて!」


 そうせがむとヴァイツは嫌な顔一つせずにニコリと笑った。


「うん、任せて。まず、ヴァルの予想通り、この世界には魔法がある。限られた人達しか使えなくて、魔法が使えるっていうだけでもうそれはすごいことなんだ」


「魔法は才能とか努力で使えるようになったりするの?」


「それが関係ない、とは言えないけど血筋に寄るところが大きいみたいだね」


「ふぅん」


 そうすると、貴族様が魔法を使えたりすることが多いんだろうな。

 

「魔法といっても色んなものがあって、中にはたった一人で数千人単位で殺傷できるような魔法もあるんだよ」


「えっ。そんなことができる人がいっぱいいるの?」


 もしそうだったらみんな魔法使いに怯えて暮らすことになっちゃいそう。


「まさか! そんなことはないよ。 中には、って曖昧な言い方したけど……」


 少し考えてからヴァイツは言った。


「えっと、話がずれちゃうけどすごい魔法使いという話を具体的にするなら現在の『四天』と呼ばれる三つの公爵家の長たちと王様かな。彼らは歴代の中でもずば抜けた方たちみたいだよ」


「四天……!」


 聞き覚えのある単語だった。

 というか「救済の旅路」の攻略対象のことを知らないはずもなかった。


「あれ、知ってた?」


「えっと、その、乙女ゲームっていうのに登場してるの。国を支える三人の貴公子と一人の王子がいるって」


「……ってことは、そのおとめげぇむでは、公爵様や王子様と恋愛をするの? すごい話だなぁ」


 ヴァイツはかなり驚いていた。

 実在する世界にしてみれば、そりゃあ呆れるよねごめんね!

 そういう創作の文化とかもあんまりないんだろうし、そりゃあビビるよね。


「私が知ってるのは、その四天の人たちは歴代の公爵や王様と比べても抜きんでた実力を持っていて、国を支える四つの柱と言ってもいいような人たちだっていうことぐらいなんだけど」


「うん、その知識の通りだよ。二つ名がつくぐらいにすごい方たちなんだ」


「二つ名……」


「それも知ってるのかな?」


「うーん、あったのは覚えてるんだけど名前も二つ名もちゃんとは覚えてないなー」


「そっか。それなら僕から話そう」


 ヴァイツはそう言って語り出した。

 その情報をまとめるとこうだ。



『ブラウ・フルリカンド』

《月下の蒼光》の二つ名を持つ男。

四天の一人にして国を支える三大公爵家であるフルリカンド家の一人息子。

広い海の底を思い起こさせるその暗く冷たい瞳と、青色の切りそろえられた髪は、彼の冷静さと厳格さを表している。

 整った顔立ちやその鋭い目つきは、怜悧なナイフのようだという。

 規律や道徳を重んじる人である一方で、それらを破る人間には容赦しない冷徹さを持つ人だ。

 国を法律で支える公爵様で、裁判所などの統括もしていてその厳格さで知られている。

 法律を司る者でありながら、同時に剣術の達人としても有名。

 その魔法は悪しき企みを容易に破ることができるというが、詳しいことは下々の民には秘匿されている。


 なお創作的にはもっぱら受けに回されたり、他の三人にからかわれることの多い立場の可愛い人で、その愛され方は未プレイの私にも断片的に伝わってくるほど。

 ぜひお会いしたいけど目があっただけで殺されそうな立場なのでとても辛いです。





『ルジィ・フェルナンテ』

《紅星の背中》の二つ名を持つ男。

 同じく四天の一人にして国を支える三大公爵家のうちの一つの末っ子長男で、お姉さんが五人ほどいる、らしい。

 燃えるような赤い瞳とその情熱を滾らせる癖のある赤髪が太陽を思わせる男。

 とにかく豪快な男で、何をするのにも迫力があるが、その豪快でありながら朗らかな笑顔は民を安心させる。

 国を軍事で支える公爵様で、外敵や内乱に備えている。

 自警団なども彼の部下たちが取り仕切っているが、どうも制御しきれていないようで近頃は私を殺しに来た兵士も含めて、自警団の暴走が目立つそうだ。

そのせいか、最近はとにかく忙しいらしく、自らが陣頭指揮をとって様々な人々を直接指導しているそうだ。

 その魔法はとてつもなく分かりやすく、自分の身体能力を爆発的に向上させることができ、片手で鎧をまとった兵士をまるで野菜でも引っこ抜くかのように投げ飛ばしたり、建物の取り壊しを自らの拳で行ったりするデタラメっぷりらしい。


 なお創作的には、無知キャラだったりウブキャラだったり、かと思えば豪快な攻めを見せたりと縦横無尽の活躍を見せるすごい人。

確実に即死させてくれそうなので会っても安心だね!!!!





『ロイエ・ベルトワーズ』

《山吹の旋風》の二つ名を持つ男。

 同じく四天の一人にして国を支える三大公爵家のうちの一つであるベルトワーズ家の長男であり、妹が二人いるそうだ。

 その二つ名の山吹が意味するのは、彼のその透き通るような金の長髪と、彼が通るとそこに吹き荒れるというお金のことを指して山吹としている、らしい。

 とにかくお金をじゃぶじゃぶ使う人で、お酒や女の人だけではなく、色んなものを買ったり遊んだりするので、街の人からはめちゃめちゃにありがたがられている。

 そして同時に国を財政で支える人でもあり、税金の回収や緩和、逆に脱税なんかを取り締まっている人だ。お金を使って豪遊するわりに、その辺りはきちんとしているそうで、「山吹の旋風の通り道を見れば善悪瞭然」と言われてたりするようだ。

 彼の魔法は周囲の人の人心を操るものだそうで、彼の前では人々は泣いたり笑ったりと忙しくなるとかなんとか言われているが、細かい部分は知られていない。

 

 創作的には、金の長髪からうっとりするような流し目にやられる人が多いようで、遊びという遊びに精通していそうなことから攻めに回されることが多いみたいだ。とにかく一筋縄ではいかないキャラ扱いされている。

 私はお金なんて持ってないしあんまり関係ない人かも!!!





『フィアス・ステアート』

《硝子の翠玉》の二つ名を持つ男。

 四天の一人にしてこの国を総べるステア―ト家の一人息子。

 つまり王子様。

 若い木々の葉にも似た緑の髪と、薄い瞳は翡翠のようで、自然の中でひっそりとしているのが似合いそうな人だそうだ。

 その姿は国の儀式や祭典の時にちらりと見られる程度で、普段は身に患った病の影響で人里離れた奥地でひっそりとしているそうだ。

 いわゆる病弱な青年なのだが、その手腕は並外れているようで、遠地にいながらにして国の様々な業務に携わっているらしい。

 その魔法は、その並外れた手腕から、未来を見通すようなものではないかと噂されているそうだけど、真偽は分からないし、秘匿されている。


 創作的には、大人しそうな見た目と性格なのにやり手なことから、一転攻勢に出ることが多いみたいだ。

 まあどのみち奥地に住んでいらっしゃる王子様に会うことはないでしょう!!







「……そんなところかな」


 ヴァイツは長話を終えてふうと一息ついた。


「ありがとう、ヴァイツ。聞いてた限り、知ってたことと一致することが多かったよ」


「そっか。それで、他に何か聞きたいこととかあるかな?」


「うーん…… あ、そういえば魔法の話が出てきたけど、こう、火を操るとか水を操るみたいな魔法はあったりしないの?」


 聞いてた限り、魔法というより超能力みたいだった。


「もちろんあるよ。火や水なんていう自然のものを操る魔法は、魔力を操ることができる人なら操れることが多いから《一般魔法》って呼ばれてて、四天の方々が持っているような独自の魔法は《固有魔法》とか《血統魔法》なんて呼ばれたりするね。その人個人しか使えないなら前者、その血筋の人なら使えることが多いなら後者って感じかな」


「なるほど…… あ、そうえいば」


「うん? どうしたの」


「ヴァイツは魔法使えるの?」


 ――そんなに深い意味はなかった。

 ただなんとなく使えたりするのかなーと思って質問しただけだった。


「………………」


 だから、途端にヴァイツが暗い顔で俯いたのを見て、私はびっくりしてしまった。

 何かひどく辛いことを思い出させてしまったのか、あるいは私の質問自体が嫌で悲しくなっているのかは分からない。

 どちらにしても、私はヴァイツを嫌な気持ちにさせた。


 ヴァイツが何かを言おうとする前に私は言った。


「ご、ごめん! なんでもない! 今の質問なしで! え、えーっと、外の空気吸ってくるね!」


 そう言ってドタバタとベランダの方に逃げた。


 ベランダでしゃがみこみながら、私はぼーっとしていた。

 陽がさんさんと照らされてる時間だというのに、人の気配のない寂しい街並みを眺めた。


「今度からは気をつけよ」


 もしかしたら魔法に関する何かトラウマでもあるのかもしれない。

 その詳しい事情は分からないけど、あんなに暗い顔をするほどの事情を私が聞き出す必要なんてないし、そんな権利もない。


 それを心に誓うと、私は気持ちを切り替えて部屋の中へと戻っていくのだった。


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