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17話 私の可愛いお人形

「まずは……自己紹介でもしましょうか」


「私は、あなたたちが真の魔女と呼ぶ存在その人です。

 正確には、このミリナという少女を操っているのが、真の魔女です」


「え? ミリナという少女が死んでいるかどうか、ですか?

 生きていますよ? 呼吸の音も鼓動の音も体温も感じるでしょう?」


「……冗談です。言いたいことは分かります。

 死体しか操れない、とそう思っていたんですよね?

 これだけたくさんの死体を操れば、誰だってそう思うでしょう。

 死体は操れても、生きている人間は操れない。

 きっと皆さんそう思ってくださったでしょうね。

 それに、私がもしも生きてる人を操れるのであれば……あなたを操りますものね?」


「苦労しました。

 あなたという装置の動作を自然に任せることで、誰もがあなたに注目する。

 感情豊かで、それが魔力のおかげで丸見えで。

 そんな分かりやすいあなたを疑う人なんていませんし、守ろうとするのも自然な流れです。

 私はその流れに、多少強引にでも加わればよかった

 それに加わっても不自然にならない人材を獲得できた。

 そしてそれを誰よりも、あなたに疑われない立場になれた」


「このミリナの身体をどうするのか、ですか?

 もちろん殺したりなんてしませんよ。

 この後、全ての罪は彼女に背負ってもらいますから」


「いつから操っていたのか、ですか?

 それはもちろん、誘拐した時からですよ。その時に仕込んだのです」


「どうして誰も気づかなかったのか?

 そうですね。四天にも気づかれなかったのだから不思議に思いますよね。

 私の魔法は、自分の魔力を流し込んで対象を操ります。

 魔力の量が多ければ多いほど、強力に操ることができます。

 死体でも生きた人間でも構わないんです」


「だから、大量の死体たちにはそれほど魔力を流していませんし、このミリナという少女にはそれなりに魔力を流し込んでいます」


「そして、これがとても大事なことなのですが、操る、といっても私がその全ての動作を支配するわけではない、ということです。

 漠然とした命令を与えて、それを実行させる。

 流し込む魔力の量が少なければできるのはそのぐらいです」


「だから、死体たちには行く先と、攻撃対象しか指示していません。

 あとは壊れるまで暴れ続けるだけです」


「逆に複雑な動作をさせたければ、それなりの量の魔力を送りこむ必要があります。

 それこそ動作を完全に支配して、誰かと喋ったり、行動をしたり、その記憶を消したり、なんていうことには多くの魔力を必要とします」


「この少女にはそれなりに魔力を流し込みましたが、それを悟られない必要がありました。

 悟られないためには、私の魔力の色を落とす必要がありますが、普通の人間にそんなものを流せば、透明な魔力とその人の魔力が分離して見えるだけです。

 そう意味で、この少女の透明な魔力という性質は人に悟られずに操るのにこの上ないほどに適していました。

 ろ過した魔力では、それほど複雑なことはできないんですけどね。私の魔力の性質をほとんど失ってしまうわけですから。

 例えば、魔法を使ったりだとか、肉体の限界を超えた行動をさせたりだとかはできません。

 それに、あくまでも別の魔力ではありますが、ほとんど彼女の魔力と一体化していましたから、消費しようと思えばできたでしょう。

 それを避けるために、魔力を極端に回復しづらい体質にいじりました。

 なので、このミリナという少女は放置すればそのうち死にます。

 あなたを前にしてそんなことを表情に全く出しませんでしたが、彼女は死を悟っていたのです。

 おかげさまで、彼女を操る時にわがままが通りやすくて助かりました」


「そんな欠陥だらけの身体でもほんのわずなか時間でもいいのであれば、あなたを捕えるのには十分でした」


「とはいっても、私が操り続ければ、彼女と元々の繋がりがある四天にはすぐに気づかれてしまいます。

 だから、ここぞという場面でのみ、私が操ることができるようにしました。

 それもできればあの四天がいない場面であれば言うことはありません」


「なので、とにかく四天をあなたから遠ざけつつ、私があなたに接近できるようにすることこそが、私の目的でしたが、そのためにはあのヴァイツという男が邪魔でした」


「折角時間を掛けて洗脳したというのに、ロンダルをあのような形で使い捨てるのは非常に惜しかったです。

 ああ、もちろん内通者は私ですよ。

 検査でとぼけるのは簡単でした。

 ミリナは何も知らないのですから、全て彼女に委ねればいいのです。

 透明な魔力という性質や私に囚われていたという経歴があって、彼女がどんなに疑われたところで問題なかったのです、この少女は無実ですから」


「あなた方は、私が死体を動かすのにさぞ苦労しているだろうと思っているようですが、私が苦労していたのは、このミリナという少女の中からあなた方を観察し、最も確実に成功できる場面を生み出すことです」


「ようやくそのタイミングを作りだせたわけです。

 兵士や使用人ですか? 

 この部屋にいる人々は殺しました。

 当然じゃないですか」


「ああ、すぐそこの扉の前には兵士がいますよ。

 定期的に見回りに来ますし、この中も覗きにきますから。

 なのでその時になればあなたを殺しますから、続きは私に聞いてください」


「……おや、そろそろのようですね。

 続きは、また私に聞いてくださいね」














「起きてください」


「……その顔色を見る限り、一度目ではないようですね。

 どこまで説明しましたか? 

 何を説明してほしいですか?」


「どうしてこんなことをするのか、ですか?

 あなたにそんなことを答える意味はありません、他の質問をしてください」


「ロンダルがどうしてあなたを殺そうとしたか、ですか?

 簡単ですよ。

 あなたを捕えて殺すことで四天にも並ぶ栄誉を得られると吹き込み続けたのです。

 彼の身近な人物を操って、ですよ。

 直接なんてことはしません。

 それでは四天に彼の様子が明らかに違うことが知られてしまいますから。

 私の魔力によってではなく記憶や性格をいじるのではなく、彼自身が狂わなければなりませんでした」


「自警団を独立した組織として作るように言ったのも私です。

 彼の家は四天ほどではないですが、名家ではあったので利用しやすかったです」


「最後にはあなたさえ殺せば国が救われる、と吹き込んでおきました。

 ああ見えて名誉だけではなく、国に対する忠誠のようなものがある男でした。

 おかげさまでとても利用しやすかったです」


「あの男が暴走してくれたことも、私が生きた人間を操らない、という無意識の裏付けになっていたことでしょう。

 素晴らしい役割を果たしてくれました」


「……あなたが何者なのか、ですか?」


「ああ、まだ聞いてなかったんですね。

 のんきな顔をしていると思いました」


「少し話が長くなりそうなので、一度死んでおきましょうか。

 話が中断してしまうと面倒ですから

 目が覚めたらまた聞いてください」













「起きてください」


「……ああ、見ただけで分かります。

 何度目ですか?

 一度目じゃないのでしょう?」


「あなたが何者か、ですか」


「その質問に答えられる私は幸運ですね」


「『救済の旅路』というゲームをしているうちに、気が付くとこの世界にいた」


「魔法がある時点で、あなたにとってはもう何でもあり、なんでしょう。

 そうでしょう、そうであってもらわないと困ります」


「ですが、よく考えてみてください。

 あまりにもご都合だと思いませんか?

 ゲームの世界に入り込んでしまったとしましょうか。

 果たしてゲームが先なのか、異世界が先なのか、気になりませんか?

 誰かが作ったゲームや漫画の世界が存在しているだなんて、妙だなと思いませんか?」


「……ええ、分かります。

 そんなことを妙だなと思う方が妙なんですよね。

 あなたにはそういう常識を仕込みましたから、そう考えてもらわないと困ります。

 死に戻りという現象に遭遇しても正気を保ちつつ前向きにものごとを考えられるようにするなんてこと、この世界の人間には容易くありません」


「だから、別の世界の常識を植え付ける必要がありました」


「別の世界の常識はどこから獲得したのか、ですか?」


「また少し長くなりそうなので、続きはまた私に聞いてください」












「起きてください」


「ああ、とてもいい表情ですね。

 現実を受け入れることを躊躇っているのがよく分かります」


「……唐突な質問ですね。

 ですがいいでしょう、お答えします」


「聖遺物、というものの存在をあなたは知っていますね?

 それと……爆発物、上水下水の概念、トイレなんかもそうですね。

 文明がチグハグだとは思いませんか?」


「……そうでしょうね。

 ゲームの世界のそんな細かいもののことなんて、誰も気にしないでしょうね」


「ですが、この世界において、それらの存在には理由があるんですよ」


「聖遺物、とひとことで言っても様々なものがある、とお伝えしましたね。

 ヴァイツという男のおかげで、あなたは聖遺物を天使や神様からの贈り物だと勘違いしているようでしたが、正確には違います」


「いえ、ある意味では間違っていないのですけれど。

 言ったでしょう? 聖遺物には色々あると」


「例えば、ロンダルが持っていた爆発物。

 実のところ、あれも聖遺物なのです。

 正確には、あれの製法が、というべきなのでしょうが。

 あれを作るのには随分と苦労しました。

 過去にあったものがそのまま残っているわけもありませんから、魔法で精製したものなどを利用しました。

 あれを大量に複製することはできませんね。

 少なくとも、私の人生の多くを消費することになってしまうでしょう」


「……ああ、察しがよくて助かります」


「そうなんです。この世界は、あなたの知る世界と同じ場所なんです。

 もっとも、時間が経過しすぎていますし、多くの文明が廃れてしまっていますが。

 どのくらいの時間が経過しているのか、検討もつきませんが」


「聖遺物というのは、それらの失われた技術や物のこと全てを指しているのです。

 研究所ではそれらを調べてはいますが、大半は解明できるはずもありません。

 ヴァイツという男のあの力は、どちらかといえばかなり最近のものでしょう。

 そうでなければ解明など不可能でした」


「……それをどうして私が解明できているのか不思議ですか?」


「私には、死者を操る術があります。

 加えて、膨大な魔力を注ぎ込めばその意志を取り戻させることも可能です。

 あなたにも覚えがあるでしょう?

 操られているだけではなく、意志があるように行動する死体をきっとどこかで見ているはずです」


「私は古今東西のミイラというミイラを探して、それを操って情報を聞き出したんです。

 劣化が激しいと死者が意志を持たないので、できる限り状態の良いものを選びました。

 残念ながら知ることができたのは、過去の常識や一般的な知識ばかりで、それほど驚異的と呼べるような発見はありませんでした。

 古代の言語をあれだけ学んだというのに、なんとも悲しいものです。

 けれども、それらの知識はある意味ではとても有意義なものでした」


「その中で、私は乙女ゲームという概念を知ったのです」


「私はその概念を利用することにしました。

 それをあなたに植え付けることで、あなたを私にとって都合のいい兵器に仕立てたのです」


「……そろそろ気づいてくれるかと思ったのですが、少し勘違いをしていますね。

 私は死体を操る術を持っていても、それは一時的なものですし、蘇らせることなんてできません。

 あなたは遠い過去の人間ではありませんよ」


「……まだ分からないのですか?」


「あなたの人格は、私が作ったんです」


「……まだ分からないんですか?

 あなたの人格は、私が作りました」


「考えてみてください。

 自分の名前すら思い出せないのっておかしいと思いませんか?

 そもそもどうして言語が通じるんですか?

 私には過去の人間と語る上で必要となる言語を学びましたが、完璧な翻訳なんてできるわけもありません。

 私は神様ではありませんから。

 もしももっと正確に彼らの言語が理解できればもっと大きな発見もあったのでしょうが」


「……そろそろ分かりましたか?

 答えは簡単なんです。

 あなたはこの世界の住人なんです」


「ああ、また勘違いをさせてしまいましたね。

 人造人間なんかではありませんよ。

 私にはそんなことできません」


「あなたの本当のお名前、知りたいですか?」


「あなたのその体の持ち主の名前、聞きますか?」


「どこの孤児院だったかは忘れてしまいましたけれど、そこから預かった子供のうちの一人ですよ。

 あなた以外の皆さんの大半は死んでしまったか、あなたのように架空の記憶に基づいて今ものほほんと暮らしていますよ」


「ちなみに、この事実はあなた以外の人は皆知っています」


「……どうしてか、ですか?」


「王宮に入るための検査、覚えてますか?

 アレはかなり優秀なんですよ?

 少なくとも、私がまともに受けたら正体を看破されるというぐらいには」


「そんな試験を、空っぽの人格の持ち主が受ければ、それも看破されて当然なんです。

 あなたにはあまりにも記憶がない。

 そのくせある程度の一般常識はありますし、一応人格と呼べるものがある。

 だというのに、両親の名前どころか顔すら思い出せない。

 そんなことがありえるはずがない。

 ……人為的に忘れさせられたか、あるいはねつ造された記憶であれば話は別ですが」


「加えて、あなたの人相書きから、既にあなたの正体は判明してるんです。

 孤児院の子供だということと、その時のあなたの人となりなどについても彼らは知っていますよ。

 つまり、あなたが空っぽの人格の持ち主の人形であると、彼らは知っていたんです」


「周りの人間の態度に変化があったでしょう?

 気づきませんでしたか?」


「……ああ、よかった。

 喜んで死んでくれそうな顔になってきましたね」


「ではとりあえず一度死んでおきましょうか」












「起きてください」


「……もう随分と精神が仕上がってきているようですね」


「もう何も聞きたくない、という顔をしています。

 死にたいですか?」


「そうでしょうね。

 あなたの人格は、誰にも疑われない素直で良い子にしました。

 そう簡単には死を選ばないことは知っています。

 他の人間を巻き込んで死ぬことをあなたは絶対に良しとはしない」


「なので、これから様々な手段であなたが死にたい、生きていたくないと思うようにします」


「もういくら叫んでも暴れても構いませんよ」


「そのたびに、殺してさしあげます」


「なんとか私を騙せるといいですね」


「何も知らない状態だと私を騙せれば、説明で時間を稼げるかもしれませんよ」


「あなたのような素直な性格の持ち主には無理でしょうが」


「どこからいじめてあげたらいいでしょうか」

 

「……ああ、なんて可愛い私のお人形さん」


「あなたにとっては無限に等しい時間を、どこまで耐えられますか?」


 






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