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14話 王宮の作戦会議



「ヴァル、ずっと待っててくれたの?」


「うん。お疲れ様、ヴァイツ!」


 検査を終えたヴァイツは随分とぐったりとしていたけれど、私の顔を見るとにこりと笑った。

 相当きつかったんだろうにそんな無理しなくていいんだよヴァイツきゅん……!


「大丈夫?」


「うん、大丈夫。ヴァルの元気そうな顔見たら僕も元気になってきたよ」


「そ、そっか! よかった! ……えへへ」


 なんだかそう言われると嬉しくなってしまう単純な私です。


「それで、この後はどこにいけばいいのかな?」


 ヴァイツは周辺をキョロキョロとする。

 

 陽が傾き始めていて、辺りは少し暗くなりつつある。

 通り過ぎるような人もいなくて、誰かに聞くこともできない。


「それが私も聞かされてなくって……」


「あ、そうなんだ。うーん、困ったね。ここで待ってればいいのかな」


 なんて話をしていると、私たちに手を振りながら近づいてくる人影が見える。

 その大きな身体は、間違いなくルジィだった。


「悪いな二人とも、待たせたか?」


「いえ、今検査を終えたところです」


「そうか、そりゃよかった。こっちの会議の進捗次第ではお前らには今日はこのまま休んで貰おうかとも重たんだが、とりあえずひと段落したところだ。お前らにも色々と話しておかなきゃならねえことがある。ついて来てくれ」


「はい、分かりました」


「はーい」


「……悪いな」


「??」


 なんでか分からないけど、ルジィの目が妙に優しい。

 なんだろう、同情してくれてるのかな。


 ルジィが何を考えているのか分からないまま、私とヴァイツはルジィの後を歩いて王宮の中に入って行った。

 

 会議室に到着すると、そこには見知った顔もあったけれど、知らない人たちがたくさんいて、そのほとんどは壮年の男性だった。

 長い机を囲むようにして二十人近い人たちが座っていて、私とヴァイツとルジィが入ると、皆の鋭い視線が私たちに向く。


「連れて来たぞ」


「ありがとルジィ」


「いいってことよ」


 ルジィの言葉に返答したのは、まだ幼さを残した少年だった。

 ――そして、彼こそが《硝子の翠玉》である、フィアス・ステアートだった。


 まるで人形のような表情のない顔つき。

 細くて小さくて白い、今にも壊れてしまいそうにも見える華奢な身体。

 そして、透き通るような緑の髪とその瞳は、この世のものとは思えないような美しさだった。


「君がヴァルシュ。そして君がヴァイツ・アンデイル」


 私とヴァイツをそれぞれ指差してフィアスは言った。


「は、はい。そうです」


「はい、おっしゃる通りです。殿下」


「二人に話があるから、ちょっとこっちまで来てくれるかな」


 そう言ってフィアスはちょいちょいとこちらに手招きした。


 それに応じて私とヴァイツはフィアスの座っているすぐ後ろに、ちょうど長机の先端ともいえるところに立つことになった。


「ブラウ。二人に説明を頼めるかな」


「承ろう」


 ブラウはフィアスの言葉を受けてすっと立ち上がる。


「現在の状況から説明しよう。今この国に危機をもたらす存在を仮に真の魔女と呼称する。そしてヴァルシュ、君を偽りの魔女とする」


 偽りの魔女が代名詞になっちゃうのはちょっと悲しいけど、分かりやすいから仕方ないね。


「真の魔女の目的は依然として判然としないが、これまでの行動から推測するにその目的は、この国を滅ぼすことだ。その足掛かりとして、偽りの魔女に宿らせた魔力を利用し、魔力崩壊現象を引き起こすことで、大規模な破壊工作を起こすつもりだと思われる」


「……??」


 何だか言っている意味がちゃんと理解できていない気がする。


「偽りの魔女に与えた死に戻りの能力によって収縮した魔力を崩壊させることで、少なくとも街一つが吹き飛ぶ。この場で最大の威力で崩壊現象が起きれば、おそらく山ごと消しとぶだろう。真の魔女はこの現象を効果的にするために、自警団団長であるロンダルを利用し、魔力を収縮させた上で我々の元に偽りの魔女を魔女として届けさせ、そして魔力崩壊現象を引き起こすつもりだった」


 その言い方だと、まるで私は人間爆弾だ。

 ……いや、間違いなくそうなんだろう。


 知らない人たちの目が同情と警戒という相反するような感情を向けてくる。


「しかし、状況は変わった。偽りの魔女はヴァイツ・アンデイルの手を借りて逃げ延び、そして我々四天が保護するところとなった。おそらくこれに焦った魔女は死体を操る術法を用いて彼女を直接奪いに来た。これからも奪いに来るだろう。

 それを防ぎ、真の魔女を直接打ち倒すことが我々の目的だ」


 ブラウはそこまで言って、私とヴァイツを見て、真っ直ぐに言った。


「そのために、二人の助力を願いたい」


「……具体的には、何をすればいいのですか?」


 ヴァイツがその願いに答える。


「ヴァイツ・アンデイルには、彼女の護衛を頼みたい。それと、両親から託された書物の知識を生かして、崩壊現象を防ぐ術などについても研究を頼むことになるだろう」


「分かりました。この身を尽くして承ります」


「よろしく頼む」


「ヴァイツ・アンデイル。この国と彼女を救うために砕身致します」


 ヴァイツはその場に膝をつき、誓った。


「わ、私はどうしたらいいんですか?」


「……君には、とても酷なことを頼む」


 ブラウは、表情を険しくして言った。





「――どんなに絶望的な状況でも諦めないこと、だ」





「……それって、そんなに酷なことですか?」


 私は拍子抜けしてしまった。

 死に戻りなんていう力があるんだから、そうめったなことじゃ諦めないよ?


「魔力崩壊現象は、これまでの研究から収縮した魔力の持ち主が、自ら破滅を望む時に起きる現象だとされている。

 例えば、魔力暴走現象もこれに近いもので、多すぎる魔力を収めようと魔力を圧縮させ、最後にはそれを抑えきれず、自分自身の魔力の重みに耐えかねて自壊する。その時に圧縮していればいるほど、それの崩壊を望めば望むだけその破壊力は大きくなる。多くの場合は子供の魔力であって、収縮といっても規模はそれほどのものではないから、その本人が死亡する程度のもので済む。

 しかし、君の場合は事情が違う。

 君の持つ膨大な魔力と、死に戻りという規格外の現象によって引き起こされる魔力収縮。これらが組み合わさることによって起こる魔力崩壊現象の威力は暴走現象の比ではない。

 そして、この爆発が起きるのは、君が生きることを諦めた時だと予想されている」


「……生きることを、諦めた時?」


「そうだ。何度死に戻りをしても生き残る道が見えず、自ら崩壊を望むとき、現象は起きる。つまり、逆に言えば死に戻りをして生き残る道さえ見えれば爆発は起きない。

 だから、君には決して諦めないこと――それをお願いしたい」


「は、はい」


 なんだか不思議なお願いをされている気分だ。

 言われなくたって、そうそう諦めないのに。


「おそらく敵は――真の魔女は、君をあらゆる手を用いて諦めさせようとしてくるはずだ。何度死に戻りをしても、助からない。そんな状況を作るはずだ。その時に、決して諦めずに打開策を見つけてほしい。もちろん、我々も可能な限り対策はする」


「対策って、例えばどんな?」


「常に四天の誰かが君の近くで待機することになる。もちろん、他にも護衛をつけて危機が訪れた時にいち早く対処できるようにすることになる。特に、意識が目覚める瞬間を狙われるのが危険だから、寝室には厳重な警備体制をとることになるだろう」


「な、なるほど」


 私のことなのに、私以上に考えてもらってるみたいで頭が上がらない。

 もっとも、もう既に『私のこと』なんて小さなくくりで物事を考えていられる事態じゃないんだけど。

 

「いずれにしても、君には不自由な生活を強いることになるだろう。……それを、了承して欲しい。頼む」


 ブラウはそう言って頭を下げた。


「えっ!? そ、そんな頭下げたりなんてしないでください! 分かってますよ! 喜んで頑張りますよ!!」


「……本当にすまない」


 ブラウは本当に申し訳なさそうに、いつもの高貴さが陰るのもいとわずに言った。


 ブラウのその変化は、ルジィの態度の変化とは違うけれど、なんだかそれを思いださせた。


「ブラウ。そこまでで。続きは僕が説明しよう」


「……すまない、フィアス」


 フィアスの声色は無機質にも思えるけれど、ブラウを気遣っているようだった。


「偽りの魔女、ヴァルシュ。ブラウが説明した通りだから、君にできることはほとんどないと言ってもいい。出来る限り便宜は図る。衣食住に関しては問題なく提供できる。けれども、不自由で窮屈な生活をしてもらうことになる。少なくとも、真の魔女をどうにかするまでは。そして、残念ながら君に拒否権はない」


「……はい」


 フィアス・ステアートのその淡々とした語り口調は、声質こそ年下の男の子のものではあったけれど、なんだか冷たくて機械的に聞こえてしまう。


「よろしく頼むよ。疲れてるだろうから、今日はもう休むといい」


「はい」


「ヴァイツ・アンデイル。君はここに残って欲しい。今後の彼女の護衛について話し合っておきたいことがいくつかある」


「はい、分かりました」


 ヴァイツの表情にもう疲れは微塵も感じられない。

 私なんかに関わらなければもっと平和に暮らせて、聖遺物のことだってきっと隠しきれてただろうに。

 

 何がヴァイツを突き動かしているのか分からない。

 単に、彼の善意なのかもしれない。

 国を救うというもっと大きな志があるのかもしれない。

 あるいは、彼の過去の――聖遺物という手段を用いて生き残ったことへの恩返しのようなものなのかもしれない。 


 でももしかしたら……


 なんて自惚れたくなっちゃうくらいに、彼は格好いい。


 ……ほんと、格好いい。


「ヴァル? 大丈夫? ちょっと顔赤いよ?」


「え!? あ、うん、大丈夫だよ! ごめんね、えっと、それでは失礼します!」


 私はその会議室にいる人々に一礼して、そそくさと会議室を出るのだった。



 







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