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13話 今度は《硝子の翠玉》の王宮にお邪魔……する前に検査!


「ヴァル、起きて。もうそろそろ着くよ」


「う……うぅん……?」


 ゆっくりと目を開くと徐々に意識がはっきりとしてくる。

 優しく肩をぽんぽんと叩きながら私を起こしてくれているのはヴァイツだった。


「そろそろ到着するみたいだよ」


「到着ってどこに……?」


「ふふ、まだ寝ぼけてる? 森の離れ王宮……フィアス・ステアート様のお住まいにだよ」


「……そう、だったね」


 フィアス・ステアート。

 その二つ名は《硝子の翠玉》。

 四天の長であり、そしてこの国の王家の血を継ぐ者でもある。


 つまり、王子様のお宅にお邪魔するということなのだ。


 ……ほんと、思えば遠いところまで来たというかなんというか。


 客車には小さな窓が一つついているだけなので外の様子はいまいち分からないけれど、そこから覗く風景は随分と緑で満たされているようで、随分と自然豊かなところに来ているんだなあと思う。


「おう、ヴァルシュ。起きたか。そろそろ着くから心の準備をしておけよ。……あの王宮の検査はなかなか面倒だし厳しい」


 ルジィはげっそりとした表情でそんなことを言った。


「検査……ってどんなことをするんですか?」


「ありとあらゆるものを検査する」


「えっ。例えば……?」


「持ち物、身体、魔力、性格、出身――他にも色々だ」


「うえぇ……」


 持ち物、身体までは分かるとしても性格とかってどうしろって話だよね……


「特にヴァルシュ。お前は色んなものが怪しいわけだから、たっぷりと検査されるだろうぜ。もしかしたら入れてもらえないかもな」


「えっ! そうなったら私はどうしたらいいんですか!?」


「さあな」


「そ、そんな!」


 私がおろおろしていると、ブラウが呆れたようにため息をつく。


「ルジィ。そのぐらいにしておけ。入れないということはない。むしろお前のような危険人物をその辺に放っておくわけにもいかん」


「そ、そうなんですか…… ほっとしました」


「……ただ、手錠と足枷をつけて常に檻の中にいてもらうことになるかもしれんがな」


「えっ」


「……冗談だ」


「……えっ」


 私は思わずブラウの方をまじまじと見ると、「つまらぬものを斬ってしまった」とでも言いたげにブラウは鼻で笑ってきた。


「ごめんねお嬢さん。ブラウはようやく安心してからかえる相手を見つけて喜んでるんだよ困った男だねぇ?」


 ロイエはそんなことを言いながらにこにことしている。


「ロイエ、貴様……!」

 

「ま、まあまあブラウさん。ほら私がお相手しますから」


 私も便乗してからかうとブラウがぴたりと動きを止めて、私を睨む。


「ほう、いい態度だなヴァルシュ。誉めてやろう」


「あっ、いや、その、あの、すみませんでした本当に、ちょっと気が大きくなってまして……」


「フン。 ……おっと、到着したか」


 馬車が止まると、扉が開かれた。

 そして、私たちは順番に客車から降りる。


 た、助かった。








 外に出ると、心地いい風が吹き抜けて豊かな自然の香りが鼻腔をくすぐる。


「……わぁ、すっごい」


 右を見れば森。

 左を見ても森。

 正面を見れば石造りの王宮。


 王宮というよりも頑丈な城や砦という風体で、その大きな門と城壁は分厚く高い。

 その門の向こうには煌びやかな王宮があるのかもしれないけど、門と壁を目の前にする限りではとても王族が住まうような場所には見えない。


 まるで大自然の中に突然出現したのではないか、とも思えるその無骨な壁は、不思議と自然に溶け込んでいるようにも見える。


 なだからな山道をまっすぐに上ってきたようで、後ろを見てみると長い長い一本道が見える。


「この中に、王宮が?」


「ま、そうだな。もっともこの門をくぐったらまずは検査だけどな」


「ひえぇ」


「辛いぜ、覚悟しとけ」


 ルジィはそんな風に言いながら自分自身も随分と面倒くさそうだった。






 ――結論から言って、ルジィが言ったことはほとんど間違っていなかった。


 男性組と女性組に分かれて、門をくぐったすぐ先にある牢獄みたいなところで私たちはこってりと検査を受けることになった。

 途中に何度も休憩を挟んで、色んな検査員に同じことを聞かれたり全然分からないこと聞かれたりでとにかく長かった。


 私は根掘り葉掘り出自や記憶のことについて何度も聞かれて、その都度私の表情や反応を記録されることの辛さと言ったらなかなかない。

 そりゃ私だって私自身のことが気になるし、それが解析してもらえるのはいいことなんだけど、結局私の記憶が戻ったりすることはなかった。

 途中でミリナちゃんがかばってくれなかったら、検査はもっと続いていたのかもしれないと思うとぞっとする。


 ちなみに、そのミリナちゃんもそれなりにしぼられてたみたい。

 出身が孤児院なことと、魔力が透明っていう特殊な体質のせいで色々を聞かれたみたいだった。

 

 ちなみに、この魔力が透明っていうのはかなり稀なことらしくて、ありとあらゆる生物に対して自分の魔力を流し込んで回復させることができちゃうらしい。

 ……それが原因で本人が死に至ることもあるらしいから、一概に素晴らしいともいえないんだけども。


 ちなみに、どんな人の魔力も濾過する道具を使えば透明にできるそうで、ポーションとかにはその透明な魔力を沁みこませるんだそうだ。

 つまり、ミリナちゃんは生きるポーションみたいなものなので、戦場においては仏様みたいな存在にもなるよねって話だった。

 仏様なんて例えはこの世界だと全く通じないんだけどね!!

 なんにしても流石ヒロイン様は核が違った。


 ちなみに、この辺りの話は休憩の時間ごとにミリナちゃんとお喋りする機会があって、その時にいっぱいできて、唯一の心の休まる時だった。



 とにもかくにも、半日近くを検査の時間で過ごすことになって、終わった頃にはぐったりとしてしまっていて、王宮を見る楽しみとかそんな気持ちはさっぱり残っていなかった。


「うぅ……ようやく……終わったぁ……」


 検査を終えて出てくると、そこはどうやら中庭ようだった。

その中庭に生えている木に寄りかかってロイエが待ち構えていた。

 相変わらず絵になるポーズをしている人だな。


 ロイエは私に気が付くと、恭しく一礼をしてきてくれて、私もどうにかそれに合わせてお辞儀をする。

 全然貴族って感じがしない人だなぁほんと……


「や、お嬢さん。随分とお疲れのようで?」


「はい、それはもう……」


「あはは。僕らも最初は随分としぼられたんですよ」

 

 屈託なく笑うロイエを見てなんだか驚いてしまう。

 この人、口調といい動き方といい、どれも芝居がかっていてどれが本音なのかよく分からなくて不安になりそうだけど、なんかいい人な気はするからそれでよしとしよう。

 なんて私が上から目線で言えることではないんだけどね!


 なんて妄想していてふと気づく。


「……ん? 最初は? ということは、まさかここに来るたびに検査を受けるんですか」


「そのまさかさ。誰かが変装して入れ替わってるとも限らないからね。特にミリナ嬢は検査をしっかり受けることになったんじゃないかな」


「どうしてですか?」


「ほら、長期間誘拐されてたからねー。それも本物の魔女さんに。入れ替わるように変装されてもおかしくはないよねってことでね。身体検査をすれば偽物かどうかはすぐ分かると思うけど」


「なるほど……」


「それよりも、ヴァイツ君のことでちょっといいですか?」


「はい? ヴァイツがどうかしたんですか? ……まさか、入れてもらえないんですか?」


「ううん、そこは僕らにとって貴重な戦力ってことで押し通すつもりだよ。ただ、どうしたって神聖力なんて僕らにとって未知の力を持っているものだから、検査は長引くと思うんだ」


「……そう、ですね」


 この国からしてみれば、十年近く前に失踪した聖遺物とそれを取り込んだ実験体が突然戻ってきて王宮に入れろって言ってるんだからものすごい話だ。

 

「ま、少なくともこの事態が収拾するまでは特例措置ってことにするつもりだよ。幸い、出自ははっきりしているからね。……とはいっても他の人よりもいくらか監視は厳しくなると思う」


「そう、ですか」


「だからさ。彼を待っていてあげて欲しいんだ。お嬢さんも相当に遅かったからそんなには待たないだろうから。それに、出てきた時に一番に会いたいのは君だと思うからね」


 そう言ってウィンクをかますロイエ。

 私がやったら舌打ちされそうなことを平然とやってのけるこの人はすごい。


「分かりました! どこで待ってればいいんですか?」


「ここで待ってればいいと思うよ。すぐそこに芝生の庭があるからそこで寝転んでるといいよ。きっと寝ちゃってもヴァイツ君なら気づいてくれるだろうからね」


「ね、寝ませんよ!」


「あはは。いずれにしても任せたよ。僕らはこれから作戦会議だから」


「作戦会議、ですか」


「そう、作戦会議。今後のことを色々と、ね」


 ロイエの表情がふと真剣なものになって、ドキッとしてしまう。

 

「ま、とにかくお嬢さんはここでヴァイツ君を待つこと! 任せたよー!」


 そう言ってにこにことした表情に戻って、ロイエはすたすたと歩いて行ってしまった。



「…………ヴァイツと合流できたらどこ行けばいいんだろ」



 取り残された私は、広い空間を見回してそんなことを思った。



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