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12話 フルリカンド邸の朝

 

 気がつけば陽が昇り始めていて、薄らと明るくなってきている。

 眠気や疲れもあるけれど、今こうして無事でいられることが嬉しかった。


 ヴァイツは私とミリナちゃんを守り続けてくれた時の疲労がひどいみたいで、一足先に客車の中で休んでいる。

 ヴァイツは大丈夫だと言ったけれど、私とミリナちゃんとロイエの三人がかりで説得したら流石に折れてくれた。

 


 私とミリナちゃんとロイエは、ルジィとブラウの到着を待った。


 空の青さが目に染みてくるぐらいになって、ブラウとルジィがやってきた。


 そして、ブラウ・フルリカンドの屋敷の正面口に、この国を支えると言われる四天のうち三人が勢ぞろいすることになった。


「ちょっと二人とも遅かったんじゃないの?」


 金髪の優男でキザ男でやけに物腰丁寧なロイエ・ベルトワーズ。

 

「そうは言ってもすげえ数だぜ。というかまだ屋敷内に潜んでるんじゃねえかな」


 豪快に笑いながらそんなことを言う赤髪の大男、ルジィ・フェルナンテ。


「……使用人たちには暇を出す必要があったし、手当も必要だった。当分は人が近寄れる場所にはならんだろうし、思わぬ苦労を掛けたが死人が出なかったことは不幸中の幸いだった」


 やれやれとため息をつきながらどこかほっとした様子の青髪のスマートな色白イケメン、ブラウ・フルリカンド。


 誰も死ななかった、という報告で私もこっそり喜んでしまう。

 傷ついた屋敷はいつか直るかもしれないけど、誰かが死んでしまっていたらそんな風には思えなかった。


 ……それにしても見事なまでのイケメン揃いだなぁ。

 パッケージのうちの三人と会えるだなんて、何が起きるか分からないものだね。


「とりあえず、さっさと行こうよ。ここでのんびりしてるとまた操られた死体が集まってくるかもよ?」


 ロイエはそう言って馬車の方を首を捻ってくいくいと示す。


「そうだな。当分は見たくねえが……そういうわけにもいかんだろうしな。んじゃ、お先に乗らせてもらうぜ」


 ルジィはそう言って大あくびをして客車に乗り込む。


「あ、あの」


「? どうした」


 私が声を挙げるとブラウが答える。


「まだ操られた死体が襲ってくる可能性があるんですか? あんなに倒したのに……?」


「残念ながらな。おそらく……いや確実にあの大量の死体はこの国最大の墓所から盗んだものだ。二年近く前にそんな事件があったんだ。盗まれた死体の数を考えると、ここに襲来したものが全てはない」


 そんな事件があったのか。

 言われてみると確かに、これだけの数ともなると死体であっても集めるのはとてつもなく大変そうだ。


「ちなみにどのくらいの数の死体が盗まれたんですか……?」


「二万だ」


「……は?」


「二万、と言ったんだ。正確には二万十六体だったはずだ。ここにやってきた死体の数は千に満たないだろうから、まだ二十倍近い戦力を魔女が持っている可能性がある。もっとも、その中には人としての原型を留めていないようなものも多いだろうからなんともいえないが」


「……そう、なん、ですか」


 なんだかとんでもない数過ぎて、私は現実的に考えられなかった。

 

「はっきり言えるのは、これはこの国にとって最大といってもいいほどの危機だということだ」


 ブラウは誰を責めるわけでもなく、そうはっきりと言った。

 

「だから、国全体が立ち上がり、戦わなければならない。軍部だけではない。貴族も平民も志を同じくする必要がある」


 ブラウは青い空を強い眼差しで見つめる。

 彼からしてみれば、突然の訪問から突然に襲撃で、挙句の果てに国の危機だ。

 不満や文句の一つでもあってよさそうなのに、そんなことを全く口にしない。

 その姿は、やっぱり格好いいなって思ってしまう。


「お前にとっては心との戦いになる。お前が何者なのか、いまだに分からない。魔女がお前を襲う理由も分からない。――だが、これだけは覚えておけ」


 そう言ってブラウは私と向かいあう。


「俺たちはお前の味方だ」


「―――――っ」


 ブラウは私を真っ直ぐに見て、気休めでもなく、同情でもなく、まるで当然の事実だとでも言うように力強く宣言した。


「だから気負うな。今は休むことだ」


 ブラウは私の頭をぽんぽんと撫でて、そっと手を取り馬車の方へと連れて行ってくれる。


 そして馬車に乗りこむと、ぐーすかいびきを立てて眠っているルジィと、穏やかに寝息を立てるヴァイツが目に入る。


「……ルジィほどとは言わんが、あの図々しさは見習ってしっかり休め」


 ブラウは呆れ顔で言った。


「えへへ。そうですね。それじゃお言葉に甘えます」


 私はヴァイツの隣にそそくさと座る。

 すると、ヴァイツがくたりと私の肩に頭を乗せてくる。


「ヴァイツ……? ……寝てるや」


 よくよく考えるとヴァイツの寝顔なんて見たことがなかった。

 一緒に住んでいる時は、いつもヴァイツが先に起きていたし、寝るのもヴァイツの方が遅かった。

 その寝顔は穏やかで、思ってたよりもあどけなくて、可愛かった。


「……ありがとね、ヴァイツ」


 小さく呟いてから、私も目を閉じる。


 この後どうなるか、何が起きるかなんて分からないけど、きっと大丈夫。

 何の根拠もないけど、私はそんな気がした。

 

 そして気が付くと、意識を失って、眠りについた。 


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