10話 私の不思議とヴァイツの秘密
※とても長い上に説明が多いので、軽くあとがきに今回の内容をまとめました。読むのが辛くなったらざっと読んでそちらをどうぞ。登場人物についても少しまとめました。よければご覧ください。
四天の一人、ブラウ・フルリカンドの屋敷にひとまず身を置いて、現状の情報をお互いに出し合って状況を整理することになった。
現状私の認識しているよく分からないことは四つ。
偽の魔女であるらしい私自身について。
白い翼を持つヴァイツについて。
魔女に囚われていたミリナちゃんについて。
そして、魔女の目的について。
最初に喋ることになったのは私だった。
私はどうせ嘘ついても誤魔化そうとしても、どうやら魔力の流れとかいうのを見れば私の考えを見抜けるようなので、諦めてぺらぺらと語ることにした。
ゲーム入りのことから、この世界に来てからのこと。
死に戻りのことについてもきちんと丁寧に話した。
「――というわけで、私には魔女としての記憶は全くないですし、魔女が何を考えているかも分かりません」
一通り話し終えて、みんなの顔色を窺うと、とりわけブラウとルジィが疑心十割という感じでとっても居たたまれない。
そりゃそうだよね!!!!
私も突然目の前に現れた人間が「俺は剣と魔法の世界からやってきたんだが」なんて言い出したら正気を疑うよ!!!!!!
「……なるほど、よく分かった。少なくともお前が嘘を吐くつもりも騙すつもりもない、ということだけはな」
四天の一人、《月下の蒼光》の二つ名を持つブラウ・フルリカンドは随分と頭を悩ませていた。
「こいつがただの狂人っていう可能性はねえのか?」
そうばっさり言ってのけるのが同じく四天の一人、《紅星の背中》の二つ名を持つルジィ・フェルナンテだ。
「ただの狂人だったらよかったんだがな。こいつはどうもまともなようだし、誰かに操られているということもない」
ブラウはとても残念そうに言った。
まともで悪うございましたね……
「それなら記憶を改変されている可能性はねえのか? 少なくとも記憶は失っているわけだろ?」
「そうだな。外部的な要因によって記憶喪失が起きたことは確実、ということは断言できる」
「えっ、そうなの?」
私がそう尋ねるとブラウはこくりと頷いた。
「冷静に考えろ。理由もなく人は記憶を失ったりはしない。必ず何か原因がある」
「私が乗り移ったから、っていうのは原因にならないんですか?」
「可能性がないとは言えない。だが、もしそうだとすると、どこからどこまでがあの魔女が関わっていることなのか、という話になる」
「……真の魔女の狙いがいったい何なのかっていうことですか?」
真の魔女。
私を殺そうとしたあの魔女。
その魔女の狙いが分かれば、確かに色々と解決しそうではある。
「そうだ。少なくとも、お前はおそらくその真の魔女のものだろうが、大量の魔力を帯びている。意味もなくお前にそれだけの魔力を与えるとは思えない。何かしらの狙いがあるはずだ。俺は記憶喪失も真の魔女が狙って起こした現象だろうと思っている」
「えっと、私にはその魔力とかいうのがさっぱり感じられないんですけど」
「お前自身には魔法の素養は皆無のようだな」
「あ、そうなんですか」
四天様はどの人も言い方に躊躇いってものがないですね!!
「だが、確実にお前自身が魔力を帯びていることは間違いない。おそらくそれがお前の死に戻りと呼んでいる現象に関係があるんだろうとは思うが……」
ブラウは首を捻る。
そして私の顔をじっと睨みつけながら言う。
「本当に死に戻りとかいうのをしているのか?」
「してますって」
「本当にか?」
「本当ですって。じゃなきゃここまで生き残れてないですし」
「それについては俺が保証しよう」
そう言ったのはルジィだった。
「多分だが、その死に戻りとかいうやつの起点になるのは意識を取り戻した瞬間なんだろうぜ。魔女の操る死体が放った魔法で意識を失った直後のこいつは明らかにおかしかったし、その後の俺に対する指示も的確だった。まるで一回見たことがあると言わんばかりにな」
ルジィが珍しく真面目にそう語ったのが効いたのか、ブラウはいくらか納得したようだった。
「それならひとまず死に戻りはある、としよう。すると当然次の疑問は『どうして死に戻りなどという現象が起きているのか』ということになる。俺は、お前が大量に帯びている大量の魔力はそこに関わっているのではないかと考えている」
「……つまり、この死に戻りの力は魔女が与えたものっていうこと?」
「そうだ」
なんだかもう頭が痛くなってきたよ!!!
「これは俺の予想に過ぎないが、お前は魔女の実験台か何かだったんだろう。死に戻りという力がもしも実現できるなら、それほど頼れる狂った力もない。そしてそれが完璧に行使できるのなら、自分自身に使うだろうとは思わないか?」
「……たしかに」
死に戻りという力が自由に使えたら。
そしてそれを使える本人が強かったら。
そりゃめちゃくちゃに便利だし、チートって感じだよね。
「逆に言えば、お前が持つ死に戻りの力は何かしら不完全なのではないか?」
「不完全……」
「例えば、死に戻りの度に帯びている魔力が減っていく、ということはないのか?」
ブラウはその質問を私ではなく、ルジィやヴァイツに向けた。
まあ私には分からないからね、魔力がどうなってようと。
「……僕にはヴァルの持つ魔力が収縮しているように見えます」
ヴァイツの声色は半ば確信しているようだった。
「収縮? 減っているのとどう違う?」
「ヴァルの持つ魔力は初めて会った時もそうでしたが、今はそれ以上に固い、閉じたものになっています」
「そうだな。元々そういう魔力の性質なのかと思ったが、徐々にそうなっているのか」
「はい。もしも、ですがヴァルが今後も死に戻りを続けた時に魔力も収縮を続けるのだとしたら、いずれ魔力が完全に尽きるか、もっと違う現象が起きるのではないでしょうか」
「なるほど。それが死に戻りの代償というわけだ」
ブラウは納得したようだった。
「もしそうだとすると、真の魔女は自分には死に戻りの魔法を使えないだろうな。魔力を失っては元も子もあるまい」
「ええ、そうでしょう。そして次に考えなければならないのが、魔力が完全に収縮した後に何が起きるのか、ということです」
ヴァイツきゅんがなんだか小難しいことを言ってる。
もう何がなんだか分からないので私は黙って聞いていよう。
「これだけの魔力が完全に収縮して、それが一気に解放されたとしたら……とんでもない規模の魔力崩壊現象が起きるでしょう」
ヴァイツが魔力崩壊現象、と言うとルジィとブラウが目を剥いた。
なんだか難しそうな言葉だなーとは思ったけど、なんか大事な言葉なのかな。
「お前、魔力崩壊現象なんて言葉、どこで知った」
ブラウはヴァイツを睨み付ける。
「……どこで知ったのかも含めて、僕のことについてお話しましょうか」
ヴァイツきゅんは少し緊張した面持ちでそう言った。
「僕の両親は、魔力研究所の研究員でした。 ……アンデイル夫妻といえば通じるのでしょうか」
アンデイル夫妻、という言葉なんて私はさっぱり聞き覚えがなかったけど、ブラウとルジィははっとした顔になる。
「お前さん、そうかもしれんとは思ってたが、あの夫妻の息子さんか。 ……そうか、生きてたんだな」
ルジィはどこか懐かしむように、そして同情するように言った。
「えっと、ヴァルにはなんのことだか分からないと思うから説明するね」
「……辛かったら説明しなくてもいいんだよ?」
まるで分からないけど、これまでずっと隠してきたってことは、話したくないような出来事なんだと思う。
だからそんな無理に私に説明する必要はないんだけど、ヴァイツは安心させるように笑った。
「大丈夫。それに、ヴァルにはちゃんと話しておきたいって思ったから」
「……分かった。それならちゃんと聞くね」
私はヴァイツにちゃんと向き合った。
ヴァイツはそんな私を見て小さく微笑んでから語り始めた。
「僕はね。生まれつき魔力が暴走しやすい体質でね。両親が二人とも魔法の素養を持つ場合に発症することが多い体質みたい。とは言っても発症例はわずかで、珍しくはあったけれど、そういう症状の人はこれまでもいたんだ」
「暴走するとどうなっちゃうの?」
「はっきり言うと、死んじゃうんだ。魔力は歳を重ねるごとに成長するものなんだけど、だいたい七歳を待たずに亡くなることが多かったみたい。魔力っていうのはいってみればその人の活力や精神力そのもので、全ての生き物が持っているものなんだ」
「魔法を使えない人も魔力自体は持ってるってこと?」
「うん、そういうこと。それどころか、強い魔力の持ち主だったりすると死体だったり切断された身体の一部にも残ることがあるんだ。それこそ髪の毛とかにもね」
「へー」
それはなんというか、魔力強い人はとっても苦労しそうだな。
「っと、話が脱線しちゃったね。魔力暴走体質の話に戻すけど、この体質の一番恐ろしいことはね、暴走する体質になった子供は例外なく死亡していることなんだ。自分自身の魔力の暴走に耐えられなくてね」
「えっ、それってつまり」
「いわゆる不治の病、確定致死の病だったんだ。 ……僕はそのたった一人の例外」
「その病気を治す為に使ったのが、聖遺物、なの?」
「そういうこと。聖遺物っていうのは、ずっと昔に僕らが住んでいるこの土地にいた神様……と呼ばれてる存在が残したもので、魔力研究所ではそれらの研究をしてきてたんだ。聖遺物ってひとことで言っても色んな種類のものがあるし、いまだに発見されていないものがゴロゴロとあるんだよ。たくさん見つかりはするんだけど、いまだにその仕組みが解明されてないものがほとんどで、ただの金属の塊だったり、妙な箱だったり、何かが掛かれた図面の束だったり、本当に色々あるんだ」
「ほ、ほんとにいろいろなんだね」
聖遺物、なんていうとヴァイツの翼みたいなものが他にもあるんだと思っちゃうけど、どうも色んな種類のものがあるようだった。
「その中から両親が選んで僕に取り込ませたのは翼だった、っていうわけなんだ」
「取り込むって、どうやって……?」
「それは僕の両親にしか分からないことでね。今も牢屋の中にいるんじゃないのかな」
ヴァイツはそう言ってブラウの方を見ると、ブラウは神妙な顔で頷いた。
「ああ。アンデイル夫妻は今も牢獄の中だ。当時六歳だった息子に無許可で聖遺物を取り込ませて、その行方を失踪させた犯人としてな。 ……とは言っても二人とも存命で元気に研究をしているがな。お前が発見されていないことに安心しているようだったが」
ヴァイツはそれを聞いてくすくすと笑った。
「あの二人らしいです。二人とも僕には実験体としてではなくて、普通に暮らして欲しかったみたいなんです。だから、聖遺物を埋め込んだ後はお金と住むところと大量の書物を僕に与えて二人は進んで自首しました。……僕一人を残して」
「ヴァイツ……」
六歳の頃からたった一人だなんて、私にはとてもじゃないけど耐えられない。
どんなに寂しい孤独だったんだろう。
「当時の僕はすごく泣いたし、二人を責めたりもしたけど、今ではちょっと気持ちも分かります」
「……魔力崩壊現象についてはその残された書物から知ったのか?」
ブラウが尋ねるとヴァイツは頷いた。
「はい。研究用の飼料や、僕に埋め込まれた聖遺物のことも含めてありとあらゆる書物を与えられました。それらの中には薬学書や医学書もあったので、それらを学んで、残されたお金で診療所を作ってそれで生計を立てていました」
「なるほどな。あの二人のご子息なのだから、さぞかし優秀なのだろう。 ……ところで分からないんだが、どうして聖遺物を取り込むと魔力の暴走が収まるんだ?」
「それはですね。……えっと、ちょっとはしたないですけど失礼します」
ヴァイツは言いながら上半身の衣服をその場で脱ぎ始めた。
痩せてて色白で不安になる上半身だなあ……
なんて思ってるとヴァイツの背中が不思議な光を帯び始めた。
そして、ばさり、と大きな音を立てて突然に六枚の翼が出現した。
「…………なるほど。聖遺物には魔力を別の力に変換する能力があるのか」
ブラウは驚いた様子で言った。
「見ただけで分かるだなんて、流石です」
「あ? どういうことだよ? もうちょい説明してくれ」
ルジィは首を捻って言った。
「もちろんです。聖遺物を取り込むと、魔力を別の力に変換できるようになるんです。父と母は神聖力と呼んでいましたが、それに変換することができるようです。暴走する魔力を全て神聖力に変換することで僕は生きながらえることができました」
「ははあ。よくわからんがすげえんだな聖遺物ってのは。しかし、その神聖力ってのは暴走したりはしないのか?」
「少なくとも僕はしませんでした」
「ほー、よくわからんが便利なもんだな」
よくわかんないのかよ!
私も全然分からないけどさ!!
しっかりしてよ四天様!!
「その神聖力というのは、魔力と違って感知されない性質があるんだな?」
ブラウの言葉にヴァイツが頷く。
「はい。なので、もしも僕の持っている魔力を全て神聖力に変換すると、少なくとも魔力では感知されないでしょう。ただ、もしもそうなったら僕は一生この翼と共に生きていくことになるのだと思いますが。……もちろん試したことはないのであくまでも予想です」
「ふむ、なるほど。魔力に人間性があるとするなら、魔力を完全に失った時にはもはや人には戻れなくなるわけだ」
「はい、そういうことではないかと思います。逆に言えば、魔力を完全に失っても神聖力があるので生きていけてしまうということでもあります」
何がなるほどなのかさっぱり分からないけれども、そういうことらしい。
――そんな話をしていると、唐突に屋敷全体が揺れた。
地震とかではなくって、まるで何かが爆発したような音と共に揺れは起きていた。
続いて屋敷の外から喧騒が聞こえてきて、ただごとじゃない何かが起きていることを察する。
まさか、魔女が攻めて来たの?
ここにいたら安心なんじゃなかったの?
「……おいおい。こんな真夜中にどんなお客さんが来たんだよ」
ルジィは冗談めかしてそう言ったが、目は戦場にいる時のような真剣でギラついたものになっていた。
「お前らが連れてきたようなものだ。迎撃を手伝え」
ブラウはそう言って立ち上がる。
「任せとけ。さっきは暴れたりないぐらいだったからな」
ルジィも立ち上がる。
「……僕はミリナさんとヴァルを守ります」
ヴァイツは立ち上がって、ルジィとブラウにそう宣言した。
「……任せて、いいんだな?」
ルジィは威圧するようにヴァイツを睨み付けて言った。
「はい。命に代えても二人は守ります」
ヴァイツはルジィから一切目をそらすことなく、そう言ってのけた。
カッコイイ!
「よし、それなら任せた! とは言っても本当にヤバそうになったら俺達をなんとかして呼べ! いいな!」
ルジィはそう言って部屋から飛び出していく。
「ここは俺の屋敷であり、君たちは客だ。……招いたわけでもなんでもないが、フルリカンド家の名誉にかけて、君たちの命は守る。生き残ることだけを考えて行動してくれ。ひとまず任せたぞ、ヴァイツ」
「はい、お任せください」
ヴァイツの返事を聞いて満足したように頷いてブラウも部屋を飛び出して行った。
そして部屋に取り残された私と、ミリナちゃんと、ヴァイツは外の喧騒に身構えるのだった。
※魔法について
・生物は全て魔力を持っている
・魔力を持っているからといって魔法を使えるわけではない
・魔力の感知能力を持つものは、つまり生物の感知ができるともいえる
・身体の一部であったり、切り離されたものであっても魔力は残る
※ヴァルシュ(主人公・偽の魔女)について
・真の魔女の魔力(予想)を大量に帯びている
・その魔力によって死に戻りをしていると予想されている
・その魔力が収縮を起こしていてとても危険
※ヴァイツ(白髪の青年)について
・かつて致死率100%と言われる魔力暴走体質だった
・両親がヴァイツを救うため、聖遺物を体に取り込ませた
・その結果、翼(魔力が残っていれば着脱自由)や神聖力を獲得した
・神聖力は聖遺物を体に取り込んでいないと感知できない
・魔力を神聖力に変換することができる
・全ての魔力を神聖力に変換すると、翼が生えた状態のままになる(予想)
※ブラウ・フルリカンド《月下の蒼光》について
・青髪のスマートな色白イケメン
・目つきは鋭いけどヘタレ臭がする
・人の魔力を見てその考えや悪意善意を判断できる
・法律に携わる職務に当たることが多く、マジメな性格
※ルジィ・フェルナンテ《紅星の背中》
・赤髪のガタイのいい褐色肌の大男
・身体能力の強化が得意
・人の魔力を見極めるのは苦手
・軍部に所属している
・何かと豪快で細かいことを気にしない性格
※ミリナ(ゲーム「救済の旅路」のヒロイン)
・おっとりとした栗色の髪をした美人
・詳しい説明は次回以降の本編にて
※ロンダル
・現自警団団長
・自警団は軍部からは独立した存在
・紫髪の、いかにも強気な感じの青年
・強気受けの気配が濃厚
・かつて軍部に所属していて、ルジィの部下だった
・ヴァルシュを追いかけている




