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【旧作】 Welcome into the world [俺の妹が勇者なんだが…]  作者: 真理雪
第四章【商業都市アルフレド】
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067 ― 災難 ―

 さて、お久しぶりでございます。こんばんはです。


 だいぶ涼しくなってきましたね。これぐらいが過ごしやすくてちょうどいいのですが…これからすぐ寒くなるのでしょうね…。え? 来週また暑さがぶり返す? そんなバナナ……いや、古いわ。恥ずかし…


 では、今回もよろしくお願いします。 






 (ぎゃぁぁぁぁぁぁーーーーーっっ!!!!!????)






 盛大に飛び散った料理たち。潰されたテーブルの上で大の字で倒れ伏す人物。俺は愕然とその光景を見ながら心中で悲鳴を上げた。


 (俺の料理がぁぁぁぁぁぁあぁぁっっ!!!! 稲荷寿司がぁぁぁぁあぁっっ!!!)



『───なっ、なんてことするのよっっ!!!!』



 と、俺が悲鳴を上げているころ。俺の頭上の二階が騒がしくなる。


 どういうことかと言うと。俺が陣取っていたテーブル席はちょうど二階のロフトがある下の場所だった。恐らくだが、そこから何かしらの原因(・・)でこいつが落下してきたらしい。


 問い詰めようとしたが、おあいにく相手は気絶中だった。大きな怪我も見当たらないし、息はあることから命に別状はないだろう。まあ、左の頬は腫れているが…。恐らく殴り飛ばされたか。


 なんだなんだと周りからもこちらへ視線が集まる。俺は当然被害者側なんだが、状況が分からない第三者にはどっちかと言うと俺が何かしたようにしか見えないだろう。これは即刻その原因を捕まえるしかない。と、そこへちょうどよく俺の耳がそれを捉える。


 


『───はっ! よわっちいくせにでしゃばるからだ! もとはと言えばお前らが報酬を正当に分けないからだぜ?』


『ちゃんとアンタたちにも取り分は与えたでしょ!! 少ないのはアンタたちが見てるだけで仕事しないからよ!!』


『仕事だぁ? オレたちは上位ランカーだぞ? テメぇらのようなよわっちい奴らの付き添いなんてホントはお断りなんだ。報酬金はオレたちが全て受け取るのが常識ってもんだろ?』


『…な、なにを偉そうにっ───』



 と騒ぐ彼ら。恐らく二階の奥で言い合っているのだろうが俺にはまるわかりだった。下で聞いていることすら分かってないだろう。


 (なるほど。…原因はそいつか)


 何はともあれ元凶はつきとめた。なら、行動あるのみ。


 俺は即座に足に力を籠める。そして、一息にその場から跳躍した。俺はリフトにあった柵を軽々と飛び越え、なおかつ柵に腰を降ろす。

 そうして俺は少し威圧的(・・・)に彼らに声を掛けた。



「────少しお話よろしいでしょうか?」


 

「「「「!!!!???」」」」



 (おっと、数人いるな。目の前で言い合ってる二人と、奥のテーブルに座ってるのが二人か…)


 突然の闖入者に驚く顔を浮かべる彼ら。恐らくパーティ仲間なのだろう。

 今のところ推測でしかないが、目の前で言い合っている片方の大柄な男性と、後ろでニヤニヤと傍観している茶髪の優男は仲間同士ぽい印象を受ける。───対して、もう片方の若い女性…いや少女ぐらいの活発そうな娘と奥のテーブルで縮こまっている気の弱そうな男の子が組んでいるという構成なのだろうと思う。恐らく、年齢的に下で寝ている青年もこの娘たちのパーティだ。


「なんだてめぇ…」


 と、いきなり出てきた俺に警戒を隠せない大男。筋肉質な腕に刺青をし、如何にも性格がひねくれていそうな顔付きをしている。まあ、見た目で判断するのは良くないけども。


「少し尋ねたいことがありまて。───下で寝ている彼は誰の仕業でしょうか?」


 俺はそう言って視線を外し、下で今だ意識を失っている青年を見下ろす。

 そこでは少し騒ぎが起きているが今は後回し。俺は視線を彼らに戻して話を続ける。


「あそこは私のテーブルでしてね。せっかくの料理を全て台無しにしてくれました。彼に弁償を…と考えたのですが、見れば殴られた跡があるではないですか。ならば、落下する要因を作った者がそれを負うのが妥当だと思いましてね」

 

 ぐるっと俺は彼らを見回す。

 奴の反応は顕著だった。目の前の男は少女に睨みをきかし、まるで何も言うなとでも言いたげな視線を投げる。


「そんなことしるかよ。アイツが勝手に落ちただけだろ。オレらには関係ねぇな」


「ああ、そうだね。ボクも見てたけど勝手に落ちてったよ。お酒を飲みすぎたんじゃないかな?」


 (なるほど。シラを切るつもりか…)


 あくまでもこいつらは無関係を貫き通すつもりのようだ。見たところテーブルの上にはお酒らしい飲み物はない。丸分かりな嘘で俺を丸め込もうとしているようだ。

 俺の推測通りこの横柄な男と後ろの優男は仲間らしい。こいつらを責めても話が進まなそうだ。


 そう考えた俺は別の切り口へ視線を変える。それは隣で無言を貫く少女。

 彼女は唇を結び目を伏せている。その表情は相当悔しそうだ。


「それは本当ですか?」


「あ? 嘘じゃ───」


「貴方ではありません。そちらの方に言っているんです。少し黙ってて貰えますか?」


「なっ!? このガキ…調子に乗るのも大概にしろよ!!! オレたちは上位ランカーなんだぞ!!」


 (あーうるせ…それは一応俺もなんだけど…)


 俺はその怒鳴り声を耳を塞いでスルーし、彼女の言葉を待つ。が、それよりも先に割って入ってきたのは優男の方だった。


「まあまあ。そんなにカッカするなよバッカス。この子にはまだ小さいから理解できないだよ。───“そうだよね??”」


 (…こいつ)


 席を立って近づいてきた奴は仲間の男を宥めてからこちらに目を向ける。その声と口調は優しさを纏ったものだったがその実、視線には俺を気圧そうとする“圧力”が十全に籠っていた。


 (…手を出す気はないか。俺を威圧するつもり…ね)


 小さいからと馬鹿にされたのか。俺はそんな奴らを見て口を閉ざす。その行動はこの手の奴らには何を言っても意味がないと思ったからだが、その沈黙を奴らは自分たちに都合よく受け取ったらしい。


「分かってくれたようだね。それじゃ、ボクたちはお暇するから。お金を払って貰うなら彼女らに言ってね。行こうバッカス」


 奴は大男に声をかけてから背を向ける。大柄の方はまだ釈然としない態度だったが、舌打ちを残してそいつに着いていこうとする。


 俺は横目で彼女の様子を伺うが、その少女はやはり何も言えず唇を噛み黙ったままだった。

 

 (彼女らと奴らの関係性は分からないけど…上位ランクと下位ランクにはこんな軋轢があるんだな。まあ、こいつらだけかもしれんけど)


 何はともあれ。彼女らからのアクションはあまり期待できそうもない。なら、ここは俺からやるしかなさそうだ。俺もこのまま許す気はさらさらないし。

 と、俺が動き出そうとしたところで。



「───ち、違う…っ」



 (…ん?)



「違うよっ。そいつが兄ちゃんを殴り飛ばしたんだっ! 兄ちゃんはお酒なんて飲まないっ」



 思わぬ方向から声が掛けられた。それは奥で小さく震えていた男の子。ローブを着ており、杖を両手で握りしめていることから恐らくは魔術職だと思われる。

 線の細そうな少年だ。殴られたら折れてしまいそうな子。こんな子が“冒険者”にいることも驚きだが、声を上げるとは思わなかった。


「なっ!? このクソガキがっ!!!」


 自分等にとって都合の悪いことを言われたからか。大柄の男は彼に近づいて腕を振り上げる。


「や、止めてぇっっ!!!!」


 少女はそれに割っては入り、奴を止めようとする。が、そんなことで止まるような奴ではない。


「よわっちい奴らが群がりやがって!! お前らはオレたちに従ってたらいいだよ!!!」


 奴は振り上げた拳を下げようとはしない。寧ろ一層力を込めて大振りに殴り飛ばそうとする。が、そうは問屋が卸さない。



「…さすがに見てられませんね」



「───っ!!!???」



 受け止められた拳を見て、奴は絶句する。



 俺は左肘で奴の拳を受け止めていた。止められると思っていなかった奴は目を見張り驚いた間抜けな顔を晒す。しかし、まあそれだけで終わることはなかった。



「ぐきゃぁぁぁ!!??? オレの腕がアッ!!」


「どっ、どうしたバッカスっ!?」



 勢い任せで振るった腕にその全ての力が跳ね返ってきたようだった。あれは骨が折れたかな。


「よくもまあそこまでの暴力を簡単に振るえますね。当たれば最悪死んでましたよ」


「てっ…テメぇ。なにしやがった糞がっ!」


「別に特別なことはなにも。魔力を纏わせて防御しただけです。それぐらいのことは冒険者なら誰でもやってることでしょう?」


 俺は冷ややかにそう返す。その返答をお気に召さなかったのか、奴は鬼のような形相をし、怒号を発する。

 

「ふっざけんじゃねぇ!!! ぶっ殺してやらぁ!!!」


「…剣を抜きますか。沸点が低い方ですね」


 奴は怒り狂って背負っていた剣を抜く。こんな場所で武器を抜くのは御法度である。当然奴もそれは知っているはずだが…まあ、あの様子から見てそこまで頭が回ってないのだろう。相当短気な奴だ。

 

 (これは一旦場を静めないと面倒なことになるな…。いや、もう既に面倒なことになってるけど)


 そう考えた俺は仕方なくフードを取る。


「なっ。ガキ…小娘だったのか。へへっ。上玉じゃねぇか。獣人なのは残念だが」


「…武器を取ったということは、自身もそれなりの覚悟があると見てよろしいですね?」


「ちっ。偉そうなことを言えるのは今のうちだぜ。さっきは下手したが今度はお前も含めてぶちのめしてやる」


 俺の素顔を見たことで心に余裕が出来たのか下卑た笑みを見せる男。

 やっぱりこの姿は軽んじてみられがちだなと、再確認した。



「オレに楯突いたこと後悔させてる! 死ねや小娘がぁ!!!!」



 奴はその剣を振り上げる。それを俺は一瞥し、そして言った。





「────“分を弁えろ下郎”─────」



 

 


 ピシッと、空気が一瞬にして凍った───かのように思えた。


 次いでバタンッと、振り上げた剣を振り下ろすこともなく奴は突如床に倒れ伏す。


『えっ…』


 と、後ろから漏れた声が聞こえてくる。


 俺と相対していたそいつは今や白目をむき、口から泡を吹いて、無様に転がっていた。


 (…耐えられなかったか。まあ、無理もないのかな。自分で言うのもなんだけど、腐っても“神獣”だし…)


 俺はただ奴にかなり本気の()を放っただけだ。“殺気”を放ってやろうかとも思ったが、それをやると恐らく奴の心臓が止まる。

 ここはギルド内。手を出すのはやはり憚られたので、このやり方にしたが…いかんせん本気でやりすぎたようだ。まあ“封印”した“一尾”の状態で失神してたら“(ドラゴン)”の前にすら到底立てないだろうね。


「さてと…では────逃げないで貰えます?」


「ふぎゃっ!?」


 と、可笑しな奇声を出して尻餅を付く優男。まあ、もうその(ツラ)には笑みはないが。

 俺は密かに逃げようとしていた奴に瞬時に生成した“一刃”を放った。小刀ぐらいの短いものだったが奴の鼻先を通り、壁に突き刺さったことでかなりの恐怖を与えたようだ。


 近づく俺に蒼白になりながら首を振っている。その光景はかなり滑稽に見えた。こうはなりたくないなぁ。


「そんなに震えて…どうしましたか?」


「ひっ!? すっすまなかった! 欲しいのは金かっ? 欲しいだけくれてやる! だ、だから命だけはっ!!」


 (いや、そんなに怯えなくても…。あ、さっきの余波が当たったのか。こいつ後ろにいたし…あの大男だけに当てるつもりだったんだけど。それなら怖がるのも仕方ないか。さて、どうしたもんかね)


 こんなに怯えられてたら埒が明かない。料理が台無しにされた時は原形が分からないぐらいボコボコにしてやりたかったが…今はその熱も冷めてしまっている。人の怒りは6秒しか持たないと聞いたことがあるが、まあこれだけ色々あっては冷めるのも当然か。


「なら、その持っている報酬金。それをここに置いていって貰えますか」


「わ、分かった! そ、それじゃあボクはこれでっ!!」


 と、奴は持っていた小袋を床に放り出してそそくさと逃げていく。かなりの変わり身の早さだ。あ、アイツ仲間ほっていきやがった。


 俺はその小袋を手に取るとそれを少女の方へと投げる。驚いた彼女はわたわたとしながらもしっかりとそれをキャッチした。


「え…。あの…これは?」


「貴女方の報酬でしょう? 私はいりません」


「え…でも…」


 戸惑う彼女に俺は一つ溜め息をついてから口を開く。


「私は別にお金を奪いに来た訳ではありません。もしそれを貰えば彼らと同じになってしまうじゃないですか。私は元凶となったこいつに罰を与えられればそれでいいんです」


 床に転がっている奴に視線を移し、俺はそう言う。


「心配しなくてもお金に困ってるわけではないので気にしないでください。それよりも早く下で寝ている彼に介抱を」


「あ…う…」


 俺の言葉になんと返せばいいか分からない様子の彼女。その傍らでは俺と彼女を交互に見て、おろおろとする男の子がいた。


「分かり…ました。その…ありがとうございました。この御恩はいつか必ず、返させていただきます」


「あっ、ありがとうございましたっ。狐のお姉ちゃん!」


 ぎゅっと大事そうに小袋を持つ彼女とペコリと行儀よく頭を下げる男の子。

 二人は一階へと降りる階段へと駆け足で向かっていった。


 (ふう。どうにかなったか…)


 それを見送った俺はほっと胸を撫で下ろす。アイツが暴れだした時にはどうなるかと思ったが、あまり騒ぎにならずにすんでよかった。二階の奥まった場所だったからよかったのもあるが、下で寝ている彼に注目が集まったのもの一つの要因だろう。少し気の毒な気もするが。


「で、これはどうしたものかしらね…」


 俺は今だに転がっている男を見やる。


 こんな奴に何かしてやる義理はないのだが、このままにしておくのも些か気になる。彼女らが出ていったことでここにもまた次の客が来るだろう。その時にこんなのが寝ていたら騒ぎになる。


「…よし。入り口に捨てておきましょ」


 少し考えた結果、入り口から投げておくことにした。


 だいぶ雑な結論だが、まあ…ここで転がってるより幾分かマシだろう。たぶん。


 俺はしっかりとフードを被って顔を隠し、奴の首根っこを掴んでズルズルと移動を開始した。


 移動中、周りから奇異の目が集まるが、俺はどこ吹く風のような様子を努めて保ち、入り口の戸を開け放って奴を投げ捨てた。

 めさめさ通行人が驚いていたが。うん、気にしないでください。



 一仕事を終えたような気分の俺は台無しにされたテーブルへと戻っていく。そこではやはり騒ぎになっていたが、彼女らが出ていったことで終息の兆しが見えていた。


 俺は別のテーブルへと案内され、同じものをまた頼むことで事なきを得た。


 これにて一件落着…かと、思っていたのだが。めんどくさいのはまだこれからだった。






 ちょっと長めになりましたかね?

 今月はこれでお開き。お読みくださりありがとうございました。


 誤字脱字、気になるところとか矛盾点とか、言ってもらえると助かります。


 はてさて、もう9月も後半戦。今年の終わりも見えてまいりました。いや、まだ早いか。ですが、まあ…変わらないご時世ですし…少しでも楽しく過ごしていきたいですね。皆様もお気をつけ下さい。


 では、また来月。ではでは~。


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