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【旧作】 Welcome into the world [俺の妹が勇者なんだが…]  作者: 真理雪
第三章【シスターズサイド・消滅都市編】
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062 ― 過去の亡霊を討て ―

 どんどんいきましょう。ゴールはもうすぐそこだ。



 またもや振動が地面を伝わる。



 地下にある水晶の空間は、その度に揺れ、パラパラと星屑を天から降り注がせる。



「え…。今なんて…?」



 彼女の言葉が理解できなかった。


「…貴殿が過去の亡霊(レムナント)を討ち取って。これは聖剣を持つ貴殿しか出来ないこと」


「…か、過去の…レムナント…?」


 再度聞いてもいまいち釈然としない遥を置いて、マキナは背を向ける。


「…そろそろ。他の勇者たちもここへ来る」


「??」


 彼女はそう言って天を仰ぐ。それを追って遥も上を見上げるが、なにもない。いや…そう思った次の瞬間だった。


「───っ!?」


 なんの予備動作もなく空中に魔方陣が描かれる。遥はそれに驚いて目を見張った。そしてその中から──



 ドサドサドサッッ


「いたた…」


「…なにが」


『あービックリした~』



「美衣! 明ちゃん!」


「え…? 遥ちゃんっ!!」



 遥は感極まって彼女らに駆け寄る。そして、遥は美衣に飛び付いた。


「良かった! 美衣ーっ! 無事だったんだねっ!!」


「遥ちゃんこそっ! よかったよぅ…うう…」


「ていうか…───美衣の髪どうなってるのっ!? 青いし綺麗で、すごい可愛いっ。えっ? なにどうしたの? イメチェンッ!?」


 感動の再会もそこそこに…遥は見た目がガラリと変わった美衣へ質問責めをする。


「うへ…っ!? ちっ、違うからっ。それ以上言わないでぇ。恥ずかしいよ…。これはその…仕方なくっ…というか…。知らなかった結果というか…。えっと…ううう…」


『なーに。無意味な言い訳してるのサ~』


 やれやれ…と言った風に飛び出てくる小さな影。ディーネは彼女の肩に飛び乗って、遥へ顔を向ける。


『なるほどなるほど。貴女が今回の“聖剣”の担い手ネ。ボクは“聖霊”のディーネ。この娘と血縁契約を結んだ既決聖霊だよん。よろしくネぇ~』


「…せ、せいれい? 血縁…契約? え? 美衣が知らぬ間に大人の階段をっ!!?」


「うへっ!? は、遥ちゃんなにか勘違いしてるよぅっ!!」


 和気あいあいと喋る彼女ら。それを隣で冷静に見守る明ははぁ…と密かに溜め息をついた。話に入っていけなかった彼女だったが、その溜め息には少しだけ安堵の吐息が混じっている。ほっとしたのは彼女も同じだったようだ。


「あ、あれ? そういえば二人だけ? 他の皆は…」


「…ここに落ちたのは彼女たちだけ。後は救出されている」


「ホントっ!? 良かったぁ…」


「ところで、貴女は何?」


 明が言及したところで皆の視線がマキナに集まる。


「わっ! か、可愛い…。遥ちゃんの知り合い?」


「うん! ていうか…わたしもさっき知り合ったばかりなんだけど…。紹介するよ二人ともっ。この娘はマキナちゃんっ。ここで出会った…えっと…案内役?」


「…マキナ=デュクス・フィーリア。“理”から生まれた貴殿たちの“案内役(サポーター)”。よろしく」


 彼女は明たちを見据え、淡々と自己紹介を述べる。

 その抑揚のない声はとても事務的で心のない人形のように聞こえてしまうが、“黒兎”をその両手に抱え、その上“白兎”を頭の上に乗せた彼女は、とても愛らしく、ゴシックロリータという突飛な服装も相まって、おめかししたぬいぐるみ好きの女の子にしか見えなかった。


「わ、わぁぁ…。凄く可愛いぃ…」


「でしょでしょ? 可愛いよねっマキナちゃん」


「…?」


 その可愛らしさに目を奪われる美衣と激しく同意する遥。対するマキナはそれを見て首を傾げる。あまり意図が理解できていない様子だった。


「それよりも。明たちをどうやってここに?」


 そんな彼女らを華麗にスルーした明はマキナに疑問をぶつける。


「…ウサミを軸にして転移(テレポート)させた」


「? ウサミ…?」


「…これのこと」


 頭に乗っていた“白兎”が飛び降りて、一礼する。


「…黒いのがツキミ、白いのがウサミ」


「二匹いたの…。テレポーテーションなんて便利な魔法。この世界にもあるんだ」


「…存在はする。ただしこれは膨大な魔力と正確な位置情報が必要。人間個人では到底再現できない。マキナもこの聖域の中でないと使用不可」


「…そう。それは残念。使えると便利だと思ったのに」


 明はとても残念そうに溜め息をつく。あまり表情に感情がでない彼女だったが、こればかりは本当に悔しがっているようだった。


 その時、彼女らの会話を遮るように───轟音が鳴る。



「…っ! さっきからこの振動はなにっ!?」


「また…崩落しない…よね?」


「…大丈夫。ここでは崩落の心配はない。ただ──急ぐ必要はある」


 淡々としたマキナの言葉に心なしか力が籠る。



「…準備は整った。後は…貴女たち次第」



 白き女の子はその真っ赤な瞳で彼女たちを見据えた。それと同時に、彼女の後ろにあった柱が光を纏う。


 一瞬、つむじ風が吹き彼女の髪を靡かせた。


 その柱は地下から天上へと続く架け橋となる。




「…着いてきて。この中心搭(タワー)の頂上、そこへ案内する」






  ◆◆◆






 そこはかつてこの町の象徴(シンボル)だった。


 それと並ぶ建造物がないため、そこから一望できる眺めは壮観だ。

 しかし、年期が入った煉瓦の足場は、半壊状態と言っていいほど。


 決して弱くない風が吹く。ポロポロと崩れる風化した煉瓦。


 かつて町の象徴として賑わっていた場所も今や見る影もなく、誰にも知られることもなく、その歴史と共に風化していくだけだった。




 そこへ足を踏み入れた者たちがいる。



 足元で光る魔方陣から一歩。そこへと踏み出した彼女たち。



「すっご…」



 その景色に感嘆の声をあげる。



「…ここが中心搭の最上階。そして、前方に見えるのが───“亡霊”」



 その言葉の通り、緑色に侵食された町に蠢く影があった。小雨が降り続く中でも、それはかなり巨大で、山でも動いているかのよう。しかしそれはやけに黒く、禍々としたものだった。


「…え、ちょ…。お、大きくない…?」


「…特撮の怪獣並み。いや、それ以上かも」


『わぁーお。あんなヤバイのがここにいたんだねぇ~』


 上から遥、明、ディーネの順で三者三様な思いを漏らす。美衣がいないが、彼女は口元に手を当て、驚いて言葉が出てこないようだった。



「───…あれの足元を見て」



 マキナは彼女らにそう指示を出す。彼女らはそこへ視線を向けると、そこに何か光るドームのようなものがあることに気がつく。

 そこから幾度となく光が発され、閃光が何度も化け物に向かって発射されていることが分かった。


「あっ! あれ…もしかしてっ!」


 遥はよく見ようと近づこうとして足を踏み出す。が、腕を引っ張ってそれを引き止める者がいた。


「バカ美凪。そちらは足場が脆い、危険」


「でもっ。勇二くんたちがっ───」


「分かってる。───で、何をさせたいの。貴女は。さっさと言いなさい」


 明は遥の言葉を一蹴し、静観しているマキナに目を向ける。ここに連れてきたということは、何か打つ手があるからだろう。と、皆が彼女を見やる。


「…うん。彼らは今。“模倣神機(レプリカ)”を使って時間を稼いでる。だけど、それでは勝てない。決定打がない。だから、ここから狙い討つ」


「狙い討つ…どうやって…?」


「…貴女の“聖剣”で」


「───っ!」


 遥は息を呑む。無意識の内に右手に持っていたそれに力が入る。


「この…聖剣で? でも、どうやってあんな巨体を…? わたしあれを倒すほどの魔法…撃ったことないよ? せいぜい1メートルほどの剣圧を飛ばすぐらい…」


「…その“エクスカリバー”に“アヴァロン・グラス”の力を流し込む。そうすれば、真の力を引き出せる」


「真の…力…」


 遥はそう呟いて目を落とす。確かに今まで使ってきた彼女にとって、“聖剣”とまで言われる武器が剣圧を飛ばすだけの代物ではないだろうとは思っていた。しかし、目の前にいる敵は山のごとき大きさの巨体である。それをこの剣が本当に屠れるのか。


「…機会は一度。それに奴は貴女の存在に必ず気が付く。だから、助けも必要」


 そう言ってマキナはその赤い瞳を美衣に向ける。


「え…っ。わ、わたし?」


『わぁーお。なかなかハードなことを言うネ~。ボクたちで奴の攻撃を受け止めろと?』


「…そう」


 彼女は頷く。


 彼女の案は、このタワーの頂上から“聖剣”で奴を叩き切ること。

 “聖剣”を発現させると、必ず奴はこちらを狙ってくる。その攻撃を“聖霊”の力で受け止めてもらい、その隙にこちらから叩き込め。というものだった。


 言葉で表すとなんてことはない。簡単なものだ。しかしそれは、前提としてそれだけの“力”があるが故の作戦だった。


「───分かった。受け止めればいいんだよね…。やってみるっ」


 全員が押し黙る中、始めに口火を切ったのは美衣だった。


「…っ。い、いいの美衣? 恐らく…一番危険なところだよ…? 無理したら…」


「ううん。分かってるよ遥ちゃん。わたしはね…皆の役に立ちたかったんだ。ずっとずっと…身体が弱いから、わたしは皆に助けられてきた。だから、これはわたしの恩返しでもあるの。心配しなくてもディーネもいるし大丈夫っ」


『あらら。契約者さまがヤル気満々。これはボクも頑張らないとネ。“聖霊”の凄さ。見せてあげるよっ』


 しっかりと見据えた彼女の瞳には確固たる意志が宿り、もうくよくよしていた彼女はそこにはいなかった。そして、その傍らで自信満々におどけて見せるディーネ。


 それを見た遥は、少し驚いたように目を見張る。


 (…少し見ない内に、すごく逞しくなってる。もしかして、この“精霊”ちゃんのお陰…なのかな。それに比べてわたしは、なにをぐずぐずしてるの)


 自身の左手を胸に寄せ、ぎゅと力一杯握りしめる。 


「ねぇ、マキナちゃん。もし…わたしが聖剣を使ってあれを倒せるほどの魔法を使ったら…下にいる勇二くんたちはどうなるの? 巻き込まれない?」


「…それは問題ない。マキナが貴殿の攻撃を撃ったのと同時に模倣神機をオーバーフローさせる。それで模倣神機は破壊されるけど、一時的に防ぐことは可能」


「…それは、マキナちゃんに任せていいってことだよね」


「…はい。遠慮はいらない」


 マキナが小さく首肯すると、遥は大きく息を吸い、握っていた左手を開ける。そして…


「・・・───っ! (パァン!!)」


「は、遥ちゃんっ?」


「いったぁ…。強く叩きすぎた…。けど、うん…。───やろう! 美衣っ! わたしたちで助けようっ! 皆をっ!」


 突然頬を自分で叩いた遥は、引き締まった表情で美衣を見やる。

 気合いが入った表情で美衣と頷きあった彼女らは怪物の方へと足を向けた。


「ねぇ、明には?」


「…怪我人は待機」


「…あ、そう」


 自分に声がかからなかった明は痺れを切らしてマキナに尋ねる。すると、秒で返され、心なしか残念そうな雰囲気を出す明。

 怪我人は大人しくしていろ、ということらしい。



 しとしと、と降り続いている小雨が彼女たちの髪を濡らす。



 目の前では轟音が響き渡り、眼下で命を削りあっている光が瞬いている。



「マキナちゃん。やり方は?」


「…“エクスカリバー”を“グラス”に挿せばいい。その状態で自身の魔力を注げば、“聖剣”が発現するはず。発現すると、必ず奴はこちらに気が付く、それを“聖霊”の力で食い止めて」


「うん。分かった!」


「…頑張ってみるよっ」


『腕の見せ所だネ~』



 遥は意気揚々と返事を返す。そして、持っていた刀と鞘を見つめ、刃をズレないように入り口に添わすと、その中に滑り込ませた。


 キンッ


 と、鯉口が音を鳴らす。


 すぅ…と、息を吸い込み目を閉じて遥は集中する。


 この世界に来てから、身体の奥底に暖かいなにかがある感覚があった。恐らくそれが“魔力”と呼ばれるものなのだろう。

 遥はそれを手繰り寄せ、手から流れるようなイメージをする。すると、そのなにかは動き出して流れ出す感覚が沸き起こる。


 それは、遥の周りにも影響を与えていた。


 濃い青色の光が彼女の周りを照らし出し、持っていた聖剣が輝き出す。





 ───グォォォォォ!!!!!!!!!




 雄叫びが辺りを振動させる。ぐるんっとこちらを向いた奴はギラリと凶悪な双眸をこちらに向ける。



「…来ます。準備を」


「うんっ! お願いディーネっ!!!」


『お任せあれ!』



 ディーネが一番前に躍り出て、美衣から魔力を貰い、発光する。

 すると、次の瞬間彼女はフッと、目の前に息を吹き掛けた。


 目の前に出来た()。それが弾けるのと共に水色のベールが辺りを包み込む。



 その刹那。


 奴の口が開いたかと思うと、目を眩ますほどの光が…発された。



 ───太陽光全てをその直線に集めたかのような灼熱の熱線。


 それがディーネが張ったベールにぶち当たった。


 耳障りな音が鼓膜を叩く。


 彼女らの眼前に広がる景色は鮮烈な一言だった。ベールに弾かれた光が飛び火してタワーの周りにクレーターを残し、燃え盛る。

 そんな死の閃光の中で必死にそれを食い止める二人。



「うっっっ!!!…うぐぐぐ…っっっ!!!」


『うぎぎぎっっっ!!!』



 美衣とディーネ。彼女らは歯を食い縛ってそれに必死に耐え続けた。

 少しでも手を抜けば、破られる。それは死を意味する、そんな緊迫感の中…。



 (…いくよ。エクスカリバーっ!)



 遥はその鯉口を切った。


 目を眩ますほどの光を纏う、聖剣の刃。遥は鞘を地面に落とし、しっかりと両手で構える。そして───



「はぁぁぁぁ───────ぁぁっ!!!!!!」




 頭上に振り上げる。それと共にその刃は天を貫いた。それはまさに言葉通りに。


 頭上の曇天が光によって貫かれる。


 それはもし地表から見たならば、タワーから天に伸びた光の柱が、雲を割ったかのように見えたかもしれない。



「…“デウス・エクス・マキナ”起動。対象、模倣神機“アイギス”」


 そんな中、静かに呟いたマキナはツキミを胸に抱き上げ、詠唱を開始する。それを受けて、“黒兎”は口をパカッと開け、不思議な立方体を目の前に浮かばせる。


「…対象ロック。…制御件、掌握。魔力炉を聖域と接続…成功。限界リミッター解除。────オーバーフロー開始」


 立方体は光を発し、くるくるとその場で回転しだす。


「────オーバーフロー成功。シールド臨界点突破。自壊まであと、二十秒…」


 マキナは遥を見る。あとは彼女がその聖剣を放てるか否かにかかっていた。




 遥はその光の剣を振り上げたまま、固まっていた。


 (…っっ!!! 腕がっ…重いっ…っ!)



 彼女はその震える腕を制御できずに苦闘していた。

 予想以上の身体への負担。“加護(グラス)”を与えられた身体であっても、その強大すぎる力は人の…少女の身体には重すぎた。


 (こ、ここで外したら…っ。皆の決意が、無駄になる…っ。そんなこと…絶対に…イヤッ!!!)


 目の前が突如開ける。


 熱線の中だった彼女たち。突如、視界が開けたところで、奴の姿が目に入る。


 それが意味するところは、美衣とディーネが見事その攻撃から彼女たちを防ぎきったのだ。

 巡ってきた千載一遇のチャンス。これを逃せば後はない。


「ぐぅっ、っ!!!」


 それでも腕は動かない。遥は力一杯歯を食い縛る。が、重すぎる。せめて、これが元の姿ほどに戻ってくれれば…。


 (───っそれだ! この光を…刃に収束させる!!)

 

 遥はイメージする。力の根元がこの剣に集まるように…。これが魔法という“奇跡の力”だというのなら…これぐらいのことはできるはず。


 結果。その予想はアタリだった。


 振り上げた光の剣が、途端に小さくなっていき、その刃に収束する。

 その輝きは凄まじいものだった。それもその筈、それは天を貫く程の光の束だったもので、それが今や手の内にあるのだ。こうなる筈である。


「これなら…外さない」


 遥は引き寄せた腕をクロスし、刃先を正面に向ける。それは…霞の構え。


 遥の見つめる視線上に奴がいる。そして、奴が見つめる先に遥がいた。

 奴と目が合う。


 そいつは禍々しい血のような瞳を遥に向けている。それが語る感情は“憎悪”。過去から募ってきた恨みが奴を動かしている。


 奴がまた口を大きく開けた。懲りずにもまた熱線を吐こうとしている。


「…わたしは、負けられない。だから、そこを退いてっ!!!」

 

 遥は刀を突き出す。その次の瞬間。




 ───それはまるで光の濁流だった。




 それは、圧倒的な力だった。


 それは、直線上のものを押し潰して吹き飛ばす。


 それは、どんな魔法にも耐えられる強靭な肉体をも切り崩し、消し飛ばした。


 それが、通った場所は削り取られ、巻き起こす暴風は地表の火災をも消し飛ばす。


 それは、遥彼方にある雲すら切り裂き、雨雲すら吹き飛ばす。


 それにより、暖かな太陽の光が地面に降り注いだ。


 恐らく、それが通った照射時間は十秒を満たない。しかし、それを補って余りある程の変化を残していった。


 後に残ったのはそこらじゅうに散らばった魔力の残滓のみ。揺蕩う朧気な燐光が空へ舞い上がり、空気中に溶けて消えていく。

 そこにはもう禍々しかった恐ろしい存在はいなかった。



「…亡霊(レムナント)。完全消滅、確認」




 ぽつりと、沈黙が支配していたタワーの頂上でマキナは呟いた。



「…おわ…った…の?」


「…はい。お疲れ様でした」


「───あ…」


 ぐらっと、身体が傾く。遥はそのまま後ろへと力なく倒れてしまった。


 ぽふっ、と妙に柔らかいものに受け止められる。


「う…。ま、マキナちゃん…」


「…極度な魔力消費。あれほどの聖剣を発現させるには仕方がない。ゆっくり休んで」


 座ったマキナの膝の上で、遥は少し恥ずかしそうに頬を掻く。


「は、遥ちゃん! 大丈夫!?」


『なになにもしかして魔力酔い~?』


「マナポーションでも飲む?」


 他の三人は倒れた遥を見て、慌てて集まってくる。


「…みんな。だ、大丈夫だよ。ちょっと魔力使いすぎただけだから」


「そ、そう? それなら良かった…」


「美衣はぴんぴんしてるけど。どれだけ魔力が多いの。恐ろしい…」


「えっ!? そ、そんな明ちゃん、酷いよぅ…」


「冗談」


「もうっ」


『まあ…確かに恐ろしいほどの魔力量だけどネ。こんなに多いのボク見たことないなぁ~』


「だって」


「え…そっ、そうなのっ!?」


 美衣にディーネ、明。彼女たちは集まって和気あいあいと話し出す。仲が良い三人。美衣と明が知り合いなのは知ってはいたが、ここまで垢抜けた感じだっただろうか。もしかすると、ここに来るまでに彼女たちにもなにかがあったのかもしれない。


 そんなことを思いながら呆然と遥は彼女たちを眺める。自然と笑みが溢れた。こうやって楽しそうに笑い合うこと。今までもあった筈なのにそれが遠い過去のような気がする。それ以前に、それがこんなにも嬉しいことだなんて思っても見なかった。


 (…ここに来て一週間ちょっと…。本当にたくさんのことがあった…。だけど、わたしたちはまだここで…生きている)


 いろんな人に助けて貰い、数少ないクラスメイトで手を取り合って、大きな壁を乗り越えた。


 これからもこういう山場はあるのだろう。いろいろな危険に直面する筈である。だけど…。


 (…頑張るよ。お兄ちゃん。生きて地球に帰るために。もちろん、皆でね)


 遥は空を見上げる。そこを覆っていた雲は見当たらない。自身が吹き飛ばしてしまったからだ。暖かい日差しが遥の身体を暖めてくれる。

 安らかな気持ちで、遥は静かに目を閉じた。




 こうして、遥たちは新たな仲間“案内役”マキナの助けをかり、勝利をもぎ取ることができたのであった。






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