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【旧作】 Welcome into the world [俺の妹が勇者なんだが…]  作者: 真理雪
第三章【シスターズサイド・消滅都市編】
63/77

056 ― 踏み出す勇気を ―

 明けましておめでとうございます。今年もどうぞよろしくお願いいたします。(今更)


 まだ1月終わっていないので、セーフで…。今年一発目からこれか…



 流れる水の音、パチパチと弾ける焚き火の音。


 呆気にとられた二人は無言でそれを見つめ、見つめられたその“兎”はそれに戸惑いおどおどした様子で二人の顔を見比べている。


「ぬいぐるみのうさちゃんが…動いてる…」


 微妙な沈黙の中、ようやく口火を切ったのは美衣のぽかんとした呟きだった。


「…っ。貴方は一体何? 敵?」


 明の問い掛けるような言葉。さっと腰から抜いた杖を片手に睨み付ける。対して“兎”は、ぶんぶんぶんっ、と慌てたように首を横に振った。


「じゃあ何? 何しに来たの」


 警戒を解かない明はじっと睨み付けたままさらに問う。するとその兎は少し考える素振りを見せると、何かを思い付いた様子で()をパカッと開ける。


「「──え″っ?」」


 荒い縫い目で作られていた口が突如開いたことで、二人は驚き口角をひきつらせる。


 そして長くもない手を口に突っ込んだ兎は自信満々に何かを取り出す。


 ───それは“ペン″だった。万年筆のような黒くシンプルなもの。


 兎はピョコピョコと二人の傍へ寄ると、地面に何かを書き出す。


「何を書いてるんだろう…?」


「分からない。ただ…敵意は無さそう…に見える」


 必死に地面に書いている兎を見て、彼女らは顔を見合わせてどうしたものかと頭を悩ませる。

 そうしている内にどうやら兎は書き終えたようで、読んで欲しそうにこちらを見上げてきた。


 この兎からは今のところ敵意のようなものは感じられない。本当の魔物ならば、危害を加えてくるなら既に行動には出ているだろう。

 コミカルな容姿からは口が開くことを想像できず驚きはしたが、それ以外には変なことをする気はなさそうで、見上げてくる視線には少しハラハラとした不安が見え隠れしている…気がした。


 二人はお互いに目配せしあった後、無言でそれを覗き込む。そこには───


 “着いてきて!”


 と、不恰好ながらそう書かれていた。 


「着いてきて…? もしかして出口を知ってるの?」


 美衣が驚いてそう尋ねるとうんうんと何度も頷いて同意を示す兎。


「ホントっ!? ね、明ちゃんっ。出口まで案内してくれるってっ」


「え…ああ。うん…」


 歯切れの悪い明の言葉。そんな要領の得ない返事に怪訝な表情を浮かべる美衣。何か引っ掛かることでもあるのだろうか。


「…どうかした?」


「ううん、なんでもない。それよりも───本当に道が分かるの?」


 明は視線を兎に変えて、じっと疑り深げに尋ねる。その目は半分睨み付けているかのようで、兎は少し震えながらも残像が出きるほどの勢いで頷く。


「だ、ダメだよ明ちゃん。そんなに怖がらせちゃ」


 そう言って美衣は兎をなんの躊躇いもなくひょいっと、持ち上げるとそれに向けて笑顔を浮かべた。


「美衣…むやみに触ったら危険」


「大丈夫だよ。ね?」


「(ぶんぶんっ)」


 持ち上げられた兎は頭を縦に振る。それを見た明は諦めたように小さく嘆息した。






 ───カラン…





 微かな物音。それにはっと気がついた明は瞬時に暗闇の方を向く。

 彼女は小さく舌打ちし、美衣へと顔を戻す。その瞳には切羽詰まった真剣さが見てとれた。


「? 明ちゃん…どうしたの?」


 明の突然な豹変ぶりに驚きつつも美衣は尋ねる。すると───


「美衣…。──いくよ」


「え…?───わっ!?」


 そう言って明は驚く美衣の腕を取って歩き出す。焚き火から松明を抜き取り、歩みを緩めずに明は兎に向けて質問を投げる。


「そこの白兎。道はどっち?」


 唐突に尋ねられた兎は少し逡巡したが、すぐに短い手をある方向に向ける。その方向には通路が伸びており、暗い道が続いていた。


「そっちね。分かった」


「…ま、待って明ちゃん。いきなりどうしたの?」


「…長居しすぎた。…かもしれない」


 一度足を止め、明は振り向くとそう言った。その表情には苦虫を噛み潰したような感情が浮かんでいた。




 ───それは一瞬。不意の出来事だった。




 見つめ合った明と美衣の間。

 視線の間を、あるもの(・・・・)がヒュンッと風を切り、飛び去っていく。


「───え…?」


「───っ! いくよ美衣っ!」


 固まる美衣を明は手を取って引っ張るようにして走り出す。



 ───ギャギャギャッ!!!



 後ろから呻くような声が響く。それは小柄で醜悪な見た目の生物。


「えっ!えっ!!?」


「とにかく走ってっ!」


 明は困惑する彼女を横目で確認しながら叫ぶ。彼女がここまで焦りを見せるのは珍しいことだ。状況に置いてきぼりだった美衣もこの状況は緊急事態なのだとすぐに悟った。


 二人が駆け抜ける道は暗き通路。天井は高く、道幅も広く取られており、何か大きなものを運ぶために整備された通路なのかと思えた。

 至るところに瓦礫が落ちていたり、ボロがきて穴が開いていたりと経年劣化が目立つ場所だったが、幸い物で塞がっていたりすることもなく、二人は走ることができた。しかし、後ろから追ってくる影は思ったよりも早く、足元も悪いことから追い付かれるのは時間の問題であった。

 そんな嫌な予想に舌打ちをした明は麻袋を漁り、あるものを取り出す。


「あ、明…ちゃんっ。それはっ?」


「爆薬」


「へっ!?」


 聞き間違い?と耳を疑った美衣は再度尋ねようとする。が、それを打ち消すように先に明が付け加えた。


「…のようなもの。騎士団のテントから拝借してきた」


「は、拝借って…」


「耳…塞いだ方がいいよ」


「へ…?」


 明は美衣の返事を待たずに持っていた瓶の栓を抜く。そして、中身を自分達が走ってきた後方に向けてぶちまける。


「おりゃっ」


 と、軽い掛け声と共に持っていた松明をそれに投げつけた。すると、ジュッと微かに火が点った音がした後───



 ドォォォォッッッ!!!!!



 大爆発。



 轟音が背後から聞こえ、爆風が追い風となって彼女たちの髪の毛を揺らす。



「え…えええ…。す、凄い…」



 それを足を止めて呆然と見つめてしまう美衣。それの威力は申し分なかった。

 明が撒いたものは可燃性を持った液体で地球で言う油やガソリンのようなものだった。しかし、唯一違うのは限界沸点になると魔力が膨張し大爆発を起こすというもの。


「明ちゃん…なんであんなものを…」


「役に立つと思ったから」


 上手くいったことに安堵したのか明の声は少しだけ明るい。


「明ちゃんは凄いね…」


「…美衣?」


 明は首を傾げて美衣を見やる。明にはその言葉に何か含みがあるように聞こえた。


「私は結局…逃げることしかできなかった…」


「仕方ないよ。突然のことだから」


「それは…そうなのかもしれない。だけど、今私は明ちゃんがいなかったら襲われてた」


 胸の前で両手を握り締めて美衣は言う。


「私は…明ちゃんに助けてもらいっぱなしだ…役にたちたいのに…」


「気にすることない。明は助けたいからここにいる。役に立つとかそんなこと関係ない」


「関係ないわけないよ!!!」


「──っ!?」



 美衣の唐突なる叫び。明のフォローが彼女の激情の蓋を踏み抜いてしまった。

 兎のぬいぐるみを力一杯抱き締めて、彼女は叫ぶ。


「だって! だって! 私がいなければ明ちゃんは危険に晒されなかった! こんな危険な橋を渡らなかったんでしょ!? 守ってくれるのは嬉しい!凄く凄く嬉しいよ! だけどっ。だけど、私は…───っ!!」


 美衣はぬいぐるみに顔を埋め、啜り泣く声が間から漏れ出てくる。


「私はなんで…なんで…。なにもないの…?」


「美衣…」


 明は崩れる彼女を前にして何も言えなくなってしまう。


「皆は…遥ちゃんは…聖剣を使えるし…亜衣ちゃんや麻衣ちゃんは…どんなことでも負けない強さを持ってる。霧崎くんも頼りになるリーダーだし、天楼院さんも魔法の才があった。…みんなみんな何かを持ってる…なら、私はなんなの…。魔法が得意だとか稀有な能力を持っているだとか…そんなものじゃなく、ただ魔力が多いだけ…こんなのただのお荷物でしかないよ…」


 感情が高ぶり泣き崩れてしまった美衣。皆を助けたいとその一心でここまで着いてきたのに、ただの重荷になっている。そんな状況に彼女は耐えられなかった。


 ───現実は非情だ。

 

「美衣…あの…」


 何も思い付かないまま明は口を開く。案の定、言葉に詰まりそれ以上が出てこない。


 ふと視線の端に何かを捉える。


 それは───今だ燃え盛る炎中で動く何か。キラリと何かが閃いた。その次の瞬間。


「──美衣っ!!!」


「え…?」



 ───赤い飛沫が飛び散った。



「神秘なる力よ。形を成し、仇成すものを焼き尽くせ!!!────フラマッ!!!」



 詠唱と共に迸る魔力が光を発し、収束した杖の先に魔方陣が浮かぶ。

 そこから発射された“炎”は蛇のような形を成し、仇成すものへと向かっていく。それは容赦なくそいつを飲み込み、断末魔の悲鳴を残して塵一つ残さずに食い殺す。


「明ちゃんっっ!!!」


「───っ!」


 悲痛な美衣の叫び声。それに返事すら返せずに明は膝を着く。


 彼女の横腹には深々と矢が刺さっていた。美衣が狙われていると瞬時に察した明は、自身の身を挺してそれを庇い。刺し違える形で敵を葬り去った。

 それは咄嗟に出た行動だった。冷静に考えれば何か他に打つ手があったかもしれない。が、そんなこと考える間もなく、身体が動いていた。とにかく彼女を守らねばと…。


「明ちゃん! 明ちゃんっ!!」


 美衣はもはや涙を隠しもせずに彼女の名を呼ぶ。


「なんで! なんで庇ったの…私なんかをなんで…」


 涙は止めどなく溢れてくる。尻萎みになった言葉は嗚咽の中に消え、思考が纏まらない。


「諦め切れなかったから…」


「え…」


 微かに掠れる声で明は言った。


「美衣…貴女は無力じゃ…ないよ…。確かに…今は何も出来ない…のかもしれない。それが…優しい貴女には…我慢できない、のも分かってる。けど、決して…役立たずなんかじゃないから──ッ!!!!!」


 ガフッと彼女は口から血を吐く。押さえた右手から滴り落ちる赤い水滴。それは怪我が相当深いものだということの証明でもあった。


「だ、ダメっ。喋らないでっ。これ…治療薬。早くこれを飲んで…っ」


 美衣は自分の麻袋から出した治療薬の栓を取り、彼女に飲ませようとする。しかし───


「説明…聞いてなかった? 重い傷はこれじゃ…無理…」


「そんなこと…っ。やってみなければ分からない!」


 拒否する彼女に美衣は強制的にでも飲ませようと躍起になるが、またもや血を吐いた彼女はふらついて地面に倒れる。


「明ちゃ…──っ!?」


 倒れた衝撃で彼女のフードが外れ、その顔が顕になる。炎に照らされた彼女の顔を見て、美衣は言葉を失ってしまった。それはまるで病人のように青白くて、見るからに不健康そうな白い肌。血の気がない、本当に血が通っているのかと疑ってしまうほどの白さ。


「明ちゃん…? 明ちゃんっっ!!!」


 彼女の息はもう小さくもう返事は返ってこない。


「そ、そんな…。あ…あかり…ちゃん…」



 絶望的。



 力なく横たわる小さな彼女を止まらぬ涙で濡らす美衣。


 受け止めきれない現実が思考をフリーズさせ、呆然と目の前の彼女を見つめる。


 


 ───まただ。



 また掛け替えのない友達が去っていく。



 あの雨の日から、ずっと見続けるようになった“夢”がある。


 それは所謂、“悪夢”。夜眠りにつくと、いつもの教室にいて、和気あいあいと騒がしいクラスに自分がいる。しかし、まだ日が昇りきっていないのにも関わらず、一人、また一人と教室から出ていくのだ。訳が分からず戸惑いながらそれを見ている自分自身。何度も出ていく彼らに言葉を掛けてみたが伝わらず、無視されるだけ。


 そして、最後の一人。“彼女”が出ていくと、ふと目が覚める。


 ───そんな、夢。


「なんで…」


 生まれつき身体が弱くて、運動もままならず、仲の良い友人も作れなかった。

 一度過去に、運動のし過ぎで倒れ緊急搬送されたことがある。それは自身の身体のことを知らなかったクラスメイトが私を誘い、自分も誘ってもらったことが嬉しくてついはしゃいでしまったがために起こったことだった。


 “お願いだから、もう無理はしないでおくれ”


 泣き張らした顔で両親にそう言われた私はもうしないと、心に決めた。


 いつも一人で、楽しみは読書のみ。それでもいいと、そう思っていた。だけど───



 “ねぇねぇっ! その本どんな物語なの?”



 突然掛けられた声に驚いて顔を上げる。そこには元気そうな笑顔で私を見つめる彼女の姿があった。


 その出会いから一転、私の世界が色づいたように感じたのだ。


 まるで無色透明な水槽に、無造作に落とされた絵の具のように、どんどんと新たな友達が広がって、世界が色づいていく。


 “話かけるなら別の人へどうぞ”


 淡白な言葉と冷たい第一印象。それが図書室の窓際で一人黙々と読書に耽っていた彼女に、意を決して話しかけたのちに返された言葉だった。


 思いもよらない言葉に衝撃を受け、おろおろとどうしようか悩む私に、見かねたように小さく溜め息をつき、読んでいた本を置いた彼女。

 冷たい雰囲気とは裏腹に、静かな優しさを秘めていた彼女はそれから徐々に話をしてくれるようになった。

 趣味も読書と被っていたからか、話題も合い、いつの間にか親友だと思えるぐらいになっていた。


 溢れて滴り落ちる涙。思い出せば思い出すほどそれは胸を締め付け、嗚咽を誘発させる。


 ふとぼやける視界に入ってきたものがあった。


 それは美衣に託された“ロッド”。水色の水晶が煌めく杖を白い兎がこちらに気づいてもらえるようにか一生懸命に振っていた。


 その表情には真剣さと必死さが表れているかのようで、美衣にそれをどうにか持たせようと差し出している。

 ───なぜそんなことをしているのか。諦めるなとでも言いたいのか。私が助けろとでも言いたいのか。


 それを見とめた美衣は虚ろな表情で口を開く。


「ごめん…ね。私には…───っ!」


 ───助けられない。そんな否定的な言葉。喉まで出かかったその言葉を、途中で塞き止めたものがあった。


 “貴女は…決して、役立たずなんかじゃないから…っ”


 それは美衣に向けて必死に訴えるように掛けられた言葉。


 ぼやけた視線は横たわる小柄な少女に向けられる。もうその呼吸は小さく、口元に手を持っていき初めて微かに分かる程度まで弱々しくなっていた。

 だけど、それはまだ彼女がここにいる証。小さくとも微々たるものでも、それは彼女がまだ一生懸命に生きようとしている証でもあった。


 ───私にはなにもない。


 なんと傲慢で自己満足な言葉なのだろう。


 ただ自身の弱い身体にかこつけて、現実から目を背けていただけなのに───


「ごめん…なさい。───お父さん、お母さん。私───約束、破ります…」


 美衣はここにはいない両親へ向けて呟く。一番近くにいてくれた筈の彼ら、今や世界を越え遠くはなれてしまった二人。

 届く筈のない言葉ではあったが、心の中にいる二人は優しく微笑んでいてくれている気がした。


 涙でぐしゃぐしゃになった顔を無造作に手で拭き取ると、美衣は兎が差し出してくれていたロッドを手に取る。


「ありがとう。…うさちゃん」


 微笑んで礼を伝える美衣。そして、彼女は親友へと目を向ける。その眼差しは先程とはまるで異なるもので、真剣さを帯びた瞳が小さな彼女を写していた。


 ───水属性の魔術は人を癒す力はあっても、怪我を治癒する力はない。


 魔術を習う上で一番始めに言われた言葉がそれだった。その時は怪我を治せないのか…と肩を落としたのを覚えている。しかし───


 (それはなにも触媒になるものがない時の話。今の状況は…治療薬。これに掛けてみるしかないっ)


 水属性の魔術で調合された“生命治療薬(バイタルポーション)”。これには傷に効き目がある霊水が使われている筈だった。

 美衣は自身の全ての治療薬を取り出す。数は5本。そこでふと気が付く。


「数が減ってない…」


 騎士団から渡された治療薬は全部で5本。“魔力回復薬(マナポーション)”を合わせれば6本だ。

 美衣は目が覚めた時に明に手渡された治療薬を一つ飲んでいる筈である。減っていないということはつまり───


「明ちゃんの、ばか…」


 美衣には珍しく悪態をつく。どこまでも素直じゃなくひねくれた彼女だ。これで彼女に文句を言う言い訳が揃った。


 (必ず…助けて見せる。私がっ)


 美衣は治療薬を急いで目の前に並べる。“水属性の魔術で傷を治療する”、これは言葉で言うほど簡単なことではない。

 その上、美衣にはどうやるのかさえ分かっていなかった。


 (…私が知っている使えそうな知識は…昨日読んでた回復魔術の知識と水属性の癒す力。単純すぎる考え方だけど…魔法(マギア)は知識や技術よりも意思の力が反映されることが多いと聞いた。なら、やってみる価値はある筈…っ)


 目の前に並べた小瓶を一瞥してから、美衣は目を閉じて集中する。胸に抱えたロッドを力一杯握り締め、地球では感じられなかった力に触れる。


 詠唱とは、神秘なる力に対する願い事。願いの掛け方は人それぞれ、すなわち、詠唱の形も人による。


「私に宿る水の力よ…私に答えて…」


 美衣の足元が白い光を放つ。身をもて余すほどの魔力を持つ彼女。白い閃光が風となりふわりと彼女の髪を舞い上げる。

 光は易々と並べた小瓶を飲み込み、横たわる彼女にまで広がっていく。

 治療薬の中身が過剰な魔力を得て光を放ち、まるで無重力になったかのように口から液体がこぼれ、美衣と明の周りを取り巻いていく。


 それは神秘的な現象だった。光輝く水滴が二人をちりばめ、力強く輝く魔力が二人を闇の世界から浮き彫りにする。


「…っ。お願いっ。明ちゃんを…助けてっ」


 じっとりと額に汗を伝わらせながら彼女は願う。膨大な魔力を動かすには、かなりの体力を必要とする。それも一気に使用するならばそれなりの苦痛を耐え抜かねばならない。


「うぐぅ…───っっ!!」


 息がつまるような苦しみ。肺が呼吸を拒否し、逆流する空気が口腔内を圧迫する。


 (…こ、こんな…大切な、時に…───っっ!!)


 美衣は目をぎゅっと瞑って耐えようとするが、まわりの光は少しずつだが確実に弱くなってきている。


「わ、…わたし、はっ────!!」


 ここで止めると二度目はない。それは彼女にも簡単に理解できた。


「ここ…でっ! 諦めたら…。ここにいる意味がないのっ!!」


「───だからっ! 身体が嫌だって言っても止めない!! 私が私であるかぎりっ。もう二度とっ。大好きな人を奪わせるもんかっっ!!!」



 美衣の魂の叫び。それは誰かに向けてのものではない、それは弱い自分自身に向けて。

 そして、彼女が叫んだ瞬間。目を見張る変化があった。


 ────パァンッッ


「───っ!?」


 目の前で飛び散る何か。それは彼女が大切に持っていたロッドの杖先についていた“水晶”だった。


「そ、そんなっ? 割れちゃ───え?」


 美衣は思わぬ出来事に呆然とする。


 その水晶が割れた瞬間。のし掛かっていた苦しさが消え、集中を乱した筈の魔力が勝手に動き始めたのである。


『いいねいいね。ボク好みの魔力だヨ~ん』


 唐突に響く高い音域。天真爛漫な子供のようで、中性的な明るい声質。


「え…あ、…え?」


『ありゃりゃ? どこにいるか分かってないのカナ? 目の前にいるじゃな~い』


 頭の中に直接響いているかような独特なニュアンスの声は底無しの明るさを持って自身の居場所を伝える。

 それは目の前に出来上がった一輪の“花”。水晶だったそれは割れると共に再構築され、見事に儚くも美しい花を咲かせている。


 そこから1つ水色の光源が飛び上がった。それが空気中の水分を取り込み、小さな渦になる。その次の瞬間、閃光が弾けたかと思うとそこには小さな女の子(・・・)が浮かんでいた。


 それは水の身体をした女の子。


 呆気にとられ言葉が出ない美衣に対し、花を咲かせたような笑顔を見せた女の子が言う。


『初めまして、ユーシャさん。ボクはディーネ。よろしくネっ!』




 クライマックスが近くなっなら文字数多くなる人です。いや、まだ終わりませんが…。

 今回心理描写が凄く難しかったです…。回想シーンとかもっといろいろ書きたかったんですが、纏めてっ!省略してっ!…ぶちこみました。変になってないか不安で一杯です…。


 もうずっと書いているとゲシュタルト崩壊してきて何書いたらいいか分からなくなりましたね。


 と、取り敢えず切りのいいところまで書けたので今回はよしっ。修正は全て書けてからですねっ。


 今年もゆっくりと過ごせればな…と思っていたんですが、年明けそうそうリアルの方でまた考えないといけないことが増えてきちゃったので、今年も波瀾万丈になりそうでございます。退屈しなくて済みそうですねっ。…あーめっちゃヤダ…。


 今年もゆっくりと投稿していきたいと思いますのでお付き合いくださると幸いでございます。では、また来月!


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― 新着の感想 ―
[一言] 投稿お疲れ様です。 いつも楽しみにしてます。程々に頑張って下さい。
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