053 ― 先行きは曇天 ―
お久しぶりです。ま、間に合いました…。危うく月が変わってしまうところでした。今月は特に忙しくて全然書く余裕がありませんでした。どうにか書き上げましたが…ミスっていたり、分かりづらかったりするかもしれません。申し訳ないですが、そんな時は温かくスルーするか、優しく教えて貰えればものすごく助かります。では、どうぞ。
まだ夜の冷たい空気が残る時間帯。うっすらと朝日が染め上げる空は生憎と薄暗い雲で覆われていた。
「──失礼します! 地下水道は今のところ異常ありません!」
テントの弾幕を捲って、入ってきた伝令役の兵士はそう言って左手を胸におく。
「そうか。定期連絡ご苦労だった。少しでも変化があれば伝えるように」
「は! 失礼いたします!」
兵士は踵を返してまた自分の役目へ戻っていく。それを静かに見ていた二つの人影は緊迫した空気の中、作戦机の上に広げた紙に目を落とす。
「人が出入りできる水道の入り口は今現在で確認できているものでも合計で30近くある。その中で特に大きな“洞穴”が中央タワーから見て東に、そして南西に一つずつ存在する。ワシらが陣取っているここに近いものは南西の方だな」
そう言って彼は少し疲れた様子で椅子へ腰を下ろす。それを見ていたもう一人、ジュリアは心配そうに口を開く。
「大丈夫ですか? やはりまだ休んでいた方が良かったのでは?」
「いや、ここで一人休んではいられんよ。若者が頑張っているのに一番年上のワシが何もせんのは、さすがにむしが良すぎる」
ヘリオは皺が目立つ顔をニヤリと変化させ、心配ないと表情で語る。
「さて、こちらから打って出ることは出来ない以上、出来る限りの対策はしなければならない。そこでだ──」
彼はもう一度椅子から立って机に向かい、話始める。
「水道の入り口を封鎖しようと思う。これにはスピードが命だ。騎士団には悪いがもう既に指示は出してある」
「それは構いません。具体的には?」
「うむ。入り口を魔導器を用いて爆破する。崩落させて塞ぐ作戦だな。しかしながら、全ての入り口を塞ぐことは出来ない。魔導器の数も限られているし、崩落の影響がどこに出てくるかも定かではない。だから、この駐屯地の近くにあるものに絞っている。それもどこまでの効果があるかは分からんが…しないよりはましだろう」
「なるほど。なら、問題なのは大きな洞穴の方ですね」
「そうだ。兵士隊の人数がいくら多くてもそれに対処する術がない」
ヘリオは苦虫を噛み潰したような表情で悔しそうに言った。
「分かりました。ならそちらは騎士団が対応しましょう」
「できるのか?」
「規模が巨大すぎて二つの入り口を同時に塞ぐことは出来ません。が、一つだけなら騎士団の魔術に長けた者たちを総動員して障壁を張ることぐらいは可能でしょう」
「さすが王国が誇る騎士団だな。なら、最後に残るはもう一つのほうだが…──」
ヘリオは言葉を切って、ジュリアから視線を外す。
彼が顔を向けたのはこのテントで唯一話に入ってきていなかった人物だった。入ってこなかったというより、それどころじゃなかったという方が正しい。
「うぇぇぇ…。なんでデータを取りに来ただけなのにこんなことになっちゃったのぉ…。危険はないって言ってたのにぃ…先輩のあほんだらぁ…」
ものすごい弱気そうな言葉をぶつぶつと呪詛のように繰り返しながら、目の前にある大きなカラクリを弄くり回す小柄な少女。
首元で揃えた髪は赤みの強い茶色で、そして、童顔。恥ずかしがり屋なのか、顔を隠すために大きめのマフラーを常に巻いており、服装はダボッとしたダッフルコート。暑そうな見た目だが、肌の露出を極端に減らすことの方が大事なようだった。
自分のほぼ同じ高さの“巨大な魔導器”を地面に散らばった工具らしきもので弄くるその姿は、ぶつくさ文句を垂れる印象に対して、てきぱきとしており、その道の技術者だと言うことが一目で分かるものだった。
彼女の名は“テトラ”。一応、魔導兵隊所属ではあるが、どちらかと言えば王室の研究員の側面の方が大きい少女。そんな非戦闘員に近い立ち位置の彼女がこんな場所にいるのは普通なら可笑しなことだ。が、これには理由があった。それは、とある人物から“ある魔導器”を試してほしいと兵士隊に依頼されていたからだ。それのメンテナンスを彼女が担当することになっている。
「嬢ちゃんどうだ? それは使えそうか?」
「ひゃうっ!? あ…は、はい! も、もう少し時間をもらえれば…っ」
小柄な少女はヘリオのかけた言葉に驚いたように肩を震わせ、オドオドしながら返答する。ヘリオと彼女は何度か顔を合わせてはいるのだが、いかんせん彼女は慣れないようであわあわと戸惑っている。かなりの人見知りのようであった。
「分かった。ワシらにはそんなカラクリを扱える技術はない。嬢ちゃんだけが頼りだ。よろしく頼むぞ」
「は、はぃぃ~…」
尻萎みに返事をする彼女は残像がでそうなほど首を縦に振ると、ささっと逃げるように自分の仕事に戻っていく。端から見てもかなり特徴的で独特な印象を持つ不思議な少女であった。
「無理を言って申し訳ありません。ヘリオ総隊長」
「いや、謝ることはない。ワシらにしてもどう使えば良いか決めかねていた代物だ。“魔導器”は便利なものだが…これはいかんせん大きすぎるのでな。どう使おうか思案していたところだった」
手を顎に当てて返答する彼は、眉を潜め、渋い表情を浮かべている。
“魔導器”は新しい技術だ。ヘリオがバリバリと活躍していたころにはまだ形すらなかったもので、総隊長という地位に就いた彼には、まだどう扱い対応していくか決めかねている様子だった。
「この魔導器は遺跡から出土した遺物をもとにして設計されたものらしくてな。名称は…たしか、“アイギス”…と言ったか」
「“神の盾”…ですか。また大層な名を付けましたね。それだけ期待されたものだと言うことでしょうか」
ジュリアは淡々と自身の考えを語る。彼女とて“魔導器”の実力はそれなりに聞いてはいるが、まだ試験段階のものを実践に投入することを良い手段だと思ってはいない。今回は特別危険度が高く、守らなければいけない重要人物もいる。騎士団や兵士隊が力を合わせても、安心はできなかった。それだけに使えるものは全て使っていきたい考えだったからだ。
「これで入り口を塞ぐことは可能でしょうか?」
「ワシもそれを考えていた。が、まあやってみんと分からんな。とにかく今は出来ることをするしかない」
「そうですね」
彼女の言葉で話は途切れる。テントの中ではせこせことメンテナンスをする工具の音だけが支配する。
「私は少し勇者たちの様子を確認してきます」
「うむ、分かった」
ジュリアは彼の同意を得ると、踵を返してテントを出ていく。
(…嫌な天気ですね)
空を見れば日の光を遮るように曇天が広がっている。それはこれから起こる出来事を暗示しているかのようで、彼女の心に一抹の不安感が沸き起こる。まだ天気に恵まれていれば晴れたものの、現実はそう甘くないと改めて突きつけられたように感じた。
「…私はここで死ぬ訳にはいきません。主様のためにも」
彼女は密かにそう呟くと一歩を踏み出し、颯爽とこの場を後にした。
◆◆◆
「──さて、皆準備できた?」
早朝。9人の勇者たちは大型のテントの中に集合していた。
皆一様に緊張した面持ちで、表情が硬い。それもその筈。これからここが戦場になるかもしれないと言われれば誰だって不安にもなるだろう。既に昨日、魔族の襲撃があったばかりだ。これが何事もなく終息することはないと誰もが予想できていた。
「はい。皆言われた通り、革鎧一式と武器、装備品は携帯済みです」
代表して勇二がミスティアの質問に答える。
「うん、よろしい。さっきも作戦は伝えたけど、改めてもう一度言うよ。───勇者殿は皆この大型テントで待機すること。何があってもここから出ちゃダメ。騎士団はこのテントの周囲で陣取ってるから、何か可笑しなことがあればすぐに言うこと。調子が悪いとか体調が優れない時も言ってね。治療班を呼ぶから」
彼女はそう言って彼らを見回す。
「そんなに緊張しないで。ここにいれば魔獣たちはそうそう寄ってこないから。あたしたちも周りで見張ってるし、並みの魔獣ごときじゃ突破することもできないよ」
ミスティアは気を張っている彼らに穏やかな口調でそう諭すように言う。
「あ、あの…ミスティさんっ」
そんな中、遥は彼女の名を呼ぶ。
「なにか質問? ハルカさん」
「あ、いえ…。質問というか。その…。わたしたちはこんなところにいていいのでしょうか」
一度悩んだ素振りを見せた遥だったが、出した言葉は戻せず、意を決したように続ける。
「足手まといなのは分かってます。危険なのも承知の上です。だけど、あの魔族が狙っているのはわたしたちですよね…? なのに、ミスティさんたちに全て任せるのは…───」
「はい。ストップ」
「へっ??」
ミスティアは遥の言葉を途中で遮って彼女を見やる。その瞳には優しさが浮かんでいた。
「言いたいことは分かってるよ。だからって、なんでも背負い込もうとするのは良くないね」
そう言う彼女は腕を組み、仁王立ちで遥に真っ正面から向き合った。それは威風堂々とした立ち姿で、鎧姿の彼女は何者も恐れない威厳に満ち溢れていた。
「あたしたちが出来ることはあたしたちがやればいい。今、貴方たちがすべきことはここから生きて帰ること。当然、誰一人欠けずにね。だから、戦いはあたしたちに任せて。貴方たちはこんな場所で躓く訳にはいかないんだから」
「ミスティさん…」
遥はミスティアの言葉になにも言えなくなってしまう。彼女の意見ももっともだ。無理に自分たちが戦おうとすれば、危険度も上がるし、騎士団たちにも迷惑がかかる。敵のターゲットが自分たちならば、大人しく守って貰うのがセオリーだ。自ら危険を犯す必要はなかった。しかし──
(…本当にこれで、いいのかな)
遥はぎゅと手を握り締める。
頭で理解していても心で納得できないのが人である。遥の内情は釈然としない気持ちで一杯だった。
「…遥ちゃん。大丈夫?」
「美衣…。うん、大丈夫だよ。ありがと」
遥は美衣の言葉に微笑み返す。いろいろな感情が綯交ぜになって取り繕ったような笑みになってしまったが、彼女は心配そうな表情はしつつもそれ以上の追及はしてこなかった。そのかわりに…
「表情が固い。緊張するのは分かるけど、もう少し肩の力を抜いたら?」
「…へ? あ、明ちゃん?」
遥の視線を下げた先にはフードを被った少女、“倉井明”がいた。彼女は自分から人に声をかけることは少ない。表情の起伏も乏しく、大人しいことからこんなにはっきりと指摘されると思っていなかった遥は面食らう。
それから少々気まずい空気が流れ、彼女に一方的に睨み付けられているような状態になる。
「え、えっと…そ、そうかな?」
「・・・・」
無言で見つめられる遥。明の瞳には困惑する自分自身が映っている。
「えっと…」
「挫けないで。これから先、何が起こるか分からないけど、諦めなきゃどうにかなるから」
「え…? それってどういう…?」
「言ったから。後のことは自分次第だから」
「???」
鼓舞してくれたのだろうか? だけど、後の言葉がわからない。
どういうこと? と、もう一度口にしようとした時だ。
「───っ!!!?」
聖剣が熱い。
突然のことに背筋が伸びる。これが表すことはすなわち───
“危険が迫っているということ”
「みんな───っ」
声を出す。その刹那。
ゴゴゴゴゴゴゴッッッッ!!!!!!
「な、なんだっっ!!!?」
「大きいぞ!! また地震か!?」
……
轟音と振動。
皆、驚き様々さな反応をしている中。唯一例外の人物がいた。
「美衣。こっちに来て」
「あわわっ…? あ、明ちゃん?」
美衣の腕を引く明。戸惑う美衣に向けられた真剣な瞳。それを見返す美衣に明は言う。
「明が守るから」
「え? 今なんて───!!!??」
美衣は最後まで言葉を言うことができなかった。
その理由は耳をつんざくような轟音と共に地面が割れ、彼女らを飲み込むようにその奈落へと口を開けたからだ。
いろいろと動き出した感じ。ここで補足とか書きたかったんですが、何を書きたいか忘れてしまいました(馬鹿)。
また思い出したら書きます…。
さてさて、これからどう終息させましょうかね。いろいろと書きたいこともあるんですが、なかなか書けず仕舞いになってしまっています…。リメイクするときに追加とかしたいですね。まだまだ先ですが。
ここまでお読み下さってありがとうございました。また次回も良ければお付き合いください。では、また。