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【旧作】 Welcome into the world [俺の妹が勇者なんだが…]  作者: 真理雪
第三章【シスターズサイド・消滅都市編】
57/77

050 ― 前触れ ―

 お久しぶりです。暑くなりましたね。皆様はどうお過ごしでしょうか。いつの間にか蝉も鳴き出しましたし、本格的に夏場になりつつあります。梅雨明けももうすぐかな? 今年の梅雨は手加減なしの梅雨でしたね。まだ終わってませんが…。大雨で大変なことになっている地域もあるようです。雨もしかりコロナもしかり、今年は大変な一年ですね。自分には例によってなにもできませんが…一日でも早く不安なく生活できる日が訪れることを祈ってます。


 長々と失礼しました。では、どうぞ~





 騒がしい通りを歩く。





 テントとテントが張り巡らされた駐屯地では妙な喧騒に包まれていた。

 ここにはたくさんの兵士たちが集まっている訳だが、どこか慌ただしく浮き足立っているように感じる。


「…なんだってんだ? なにかあったのか…?」


 通りを歩いていた高間日向(たかまひゅうが)は怪訝な表情をして辺りを見回した。

 誰かに訪ねればいいことなのだろうが、いかんせん待機という指示を無視して出てきているため、声をかけ辛い。


 気にはなるが…どうしたものか、と首を捻っていると一際鳴り響く、鉄と鉄が擦れる特徴的な足音が聞こえてきた。

 そちらへ顔を向けると、無骨なシルエットが目立つ鎧姿が数人の兵士と共に駆けてくるのが目に入った。

 その人物は彼の存在を見留めると、急いだ様子でこちらに駆けてきた。



「───勇者殿! ちょうど良かった!」



「うおっ!? あ、ああ。その声はたしか…副団長?だったか」



 ずいっと接近してきた彼女に若干戸惑いながらも、兜下の人物を冷静に見破った彼は、彼女の慌てた様子を訝しんで額に皺を寄せる。



「他の勇者殿は無事っ!?」


「他の…? ああ、大丈夫だと思うが───」


「よかった…」



 ほっと胸を撫で下ろす彼女。兜のせいで目元しか見えていないが、雰囲気から察するに相当急いで戻ってきた様子だった。



「そんなに慌てて…どうしたんだ?」



 気になった彼はミスティアにそう訪ねる。すると、彼女は武人の鋭い視線に戻ってり、神妙な口調でこう答えた。



「近くに魔物が出たのは…知ってる?」



「! …そうだったのか。だから皆どことなく浮き足立ってたんだな」



「そうよ。それでジュリィがね…って言っても分からないか。騎士団長が言っていたのよ。これは───()かもしれないってね」



「…は? 罠…?」



 鸚鵡返しに聞き返すと、無言で頷く彼女。

 そして、彼女が語ったことのあらましはこうだ。



 騎士団と兵士隊は急遽魔物の対応におわれた。それは兵士隊の中でも噂になっていた“異形の魔物”で、例のごとく姿形が禍々しく変質しているものだった。元になった魔獣は、恐らく狼型の魔獣で、それも今回は三体に増えた状態で出現したのだ。


 そいつらは駐屯地(キャンプ)の近くで出現し、対応する自分たちを掻き回すように、それでいてその場から付かず離れずの距離で動き回っていたのだ。


 そこで“騎士団長”たるジュリア・ルミナリーはふと疑問を抱いた。


 なぜこいつらは、“この時”、“この場所”で、襲いかかってきたのか。そして、一向にこの場所から動かないことを不自然に感じた。まるで誰かが裏で操っているかのようだ、と。


 そうして彼女がたてた仮説は、こいつらはただの陽動で自分たち騎士団や兵士たちを撹乱するのが目的だったとしたら。この魔物たちは引き付けるための餌に過ぎない。なら、本当の狙いはもっと別。この都市にいる自分たち以外の“重要人物”と言えば────



「! 俺たちが狙われてるってことかっ?」



「ええ…。まだ憶測の範疇を出ないけど…」



 そう言って彼女は腕を組み、悩んだように言葉を切った。


 そんな悩む彼女を見ていると日向は不安にかられる。脳裏に甦るのは、一週間ほど前のこと。魔族に襲われ、何もできなかった記憶が鮮明に思い出された。


 (ちっ。なにもできなかったのは…()か…)


 突然だったとはいえ、魔族に襲われ、見ていることしかできなかった自身を恨む。

 現実離れしたこの世界で、結果がどうであれ、抵抗して見せたあいつら。それを疎ましく思いながら、羨ましがっている自分もいる。そんなはっきりしない感情を日向は持てあまし、そんな自分にイライラしていた。

 勇二に放った厳しい言葉はそのまま自分への感情の裏返しでもあった。




「他の勇者殿はテントの中?」 



「ああ。───って、そういえば…。暮野らが水浴びしてくるって言って出掛けて行ったんだよな…まだ戻ってきていなかったはず…」



「!! それ本当っ!? もしかしてそこにハルカさんも一緒じゃないっ!??」



 ミスティアは彼の一言に食い付く。不意に様子が変わったことで狼狽した彼は口ごもりながらも答える。



「あ、ああ。そうだったな。───って、ち、ちょっと待てっ!!」



 その答えを聞くないなや、彼女は踵を返して駆け出そうとする。その姿を見た日向は慌てて声を上げた。



「あっ、お礼を言い忘れてたねっ。ありがとう勇者殿! 貴方はテントに戻っていてね!」



「はぁ!? そんなこと聞いて大人しく戻ってられるかっ! ────っ俺も連れていけ!!」



「───!! 貴方…本気?」



 途端に雰囲気が変わる彼女。

 細められた目。低い声色。その突き刺すような瞳に見つめられた彼はそのプレッシャーに気圧され躊躇する。しかし、脳裏に焼き付いた光景が、喉に詰まった言葉を吐き出させた。



「俺は…本気だ。いつも口うるさいが…ほっとけない奴らがいるんだ。アンタが無理だと言っても、俺は着いて行く」


「…危険よ? 守りきれないかもしれない」


「それぐらいわかってる!」



 荒々しく返答する彼だったが、その真っ直ぐ見つめる瞳は真剣そのものだった。

 それを見留めた彼女は張りつめた雰囲気を溜め息と共に霧散させると、穏やかな口調に戻って言った。



「はぁ…分かったよ。だけど、貴方だけね。それと、言ったことは絶対聞くこと。いい?」


「…ああ、それでいい」



 彼が頷くと、ミスティアは近くにいた兵士に声を掛け、何かを一言二言伝えたあと、改めて彼を見やった。



「その意気や良しっ。行きましょう。貴方の友人を助けに!」



「ああ!」



 そうして二人は駆け出した。

 







 

 ◆◆◆









 時は戻って───魔族と未來の間に割って入ったのは、“副騎士団長”たる“ミスティア・ベラトリックス”その人。




 魔族と彼女が一言掛け合ったあと、そのつばぜり合いはすぐに終わりを迎えることとなった。


 ミスティアは瞬時に魔族の武器となる尻尾を弾き飛ばすと、その巨大な盾で彼女を殴り付けるように動く。

 その攻撃に、さすがに反応を示した魔族の女性は、それを避けるようにしてバックステップ。しかし、それはミスティアには分かっていたことで───




「───荒ぶる風よ。敵を切り裂け! エアロバーストっ!!!」




 その大型ランスに風を纏わし、迅速な突きを放つ。

 それは竜巻となり、女性を巻き込んで直進していく。その方向には川があり、着弾すると同時に盛大に水柱が立ち上がった。



「───ヒュウガさん! 今です!!」



 ミスティアは視線を魔族から動かさず、突然そう叫んだ。すると、後方で隠れていたらしい人影が一つ、その言葉に反応して飛び出してきた。



「オルァ!!! 死にさらせ化け物がぁっ!!!」



「ギシャッッッ!?!?!?!?」



 ミスティアの強襲によって、上手く隙をつけた彼の拳は、容赦なく魔物の顔面をめり込ます。

 予想外の攻撃で重症を負った魔物は怯み、咄嗟に後方へ下がろうとした。が、その瞬間を狙っていたかのように、何処からともなく閃光が空中を駆け、魔物に着弾した。



 盛大に砂ぼこりが舞う。



 問答無用で叩き込まれた魔術は、その魔物の息の根を止めるのに十分にたる威力だった。

 砂ぼこりが収まるとそこには物言わぬ一体の死骸があった。



「はっ。ざまあねぇな!」


「ひ、日向くん…?」


「! 大丈夫かよ暮野!」



 急いで3人に駆け寄る彼。



「騎士団!! 勇者殿を守れ!! 魔導兵隊!! 魔力再装填!!」



 ミスティアは凛とした声を発し、指示をとばす。



「魔族はまだ生きている! 気を抜かないでヒュウガさん!」


「お、おう!!」



 彼女は日向へ注意を促し、自身も武具を構えて前を見据える。


 既に水柱は収まっていた。水に濡れたらしい魔族の女性は水滴を垂らして、その場を滞空している。


 露出が激しい服装のはずなのに、見たところ傷らしい傷がない。あれだけのミスティアの攻撃を真っ向から受けてもなお、ぴんぴんしている姿を見て、彼女は兜の下で人知れず奥歯を噛み締めた。



「ふふふ…。なかなか痛いじゃないの。デカブツ(・・・・)



 女性は不敵な笑みを浮かべ、その口を開く。



「デカブツとは、あたしのこと?」


「あら、女だったのね。筋肉隆々のゴリラかと思ったわぁ?」


「・・・・」



 と、嘲笑うかのように言う魔族に対して、ミスティアは沈黙する。



「ふうん。乗ってこないのね。面白くない」



 スッと笑みが消えた彼女。ミスティアを嘲ることで、自身に手を出させようとしていたようだ。



「そんな見え透いた挑発には乗らないよ」


「ふうん…」



 ミスティアの返答に不機嫌そうに見つめる彼女は、その長い睫毛が特徴的な目を細めて視線を巡らせた。


 流石は訓練を受けた騎士団たち。後から追い付いたにも関わらず、副団長の指示をしっかりとこなし、陣を張っていた。


 ジュリアの方と割いて来たため少なめの人数だったが、その後ろにはまだ兵士隊の一部隊である“魔導兵隊”が陣取っている。


 それを視認した魔族の女性は面倒くさそうに溜め息をつくと、すとんっと地に降りた。


「あーあ。めんどうねぇ。ワラワラと沸いて出てきちゃって。少しつついたらアレ(・・)から反応があると思ったんだけど、全然ないし、…宛が外れたわねぇ」


「アレ…? なんの話を───」


 ミスティアが言い終わる前に、突如として異変が起こる。






 ─────ゴゴゴゴッ!!







「なにっ!?」


「なんだっ!?───地震(・・)かっ!?」



 それは突然彼らを襲った地面を揺らす振動。


 立っていられない程でもなかったが、それは彼らを恐怖に突き落とすのに十分だった。

 

 騎士団や魔導兵隊たちは、経験のない地揺れにたいし不安を抱いて狼狽し、慌てふためく。せっかくの陣形も崩れ去ってしまった。


「───っ!! 何をしたっ!!」


「ふふ。別に何もしてないわよ。今は」


 その含みのある笑みでそう答える彼女は、足下に魔方陣を描いて彼らを見やる。


「この調子だと、明日には“復活”するでしょうねぇ。それまで震えて待っているといいわ」


「なにを…何を言っている!」


「答える義理はないわね。だけど、すぐに分かるわ───それじゃ、わたしは退散しましょうか」


「待て!!!」


「待つわけないじゃない。じゃあねぇ~」


 ミスティアの制止を鼻で笑って、彼女は忽然と消え去る。


 さんざん思うように掻き回して、唐突に消え去った彼女。ミスティアはそいつがいた場所を睨み付けながら、くそっと悪態をつくことしかできなかった。





 突如襲った揺れは既に収まりかけている。しかし、彼女たちには不安と未知なる脅威に対する恐怖の種火が確実に根付いてしまった。


 (なにが起ころうとしているの…)


 ミスティアは独り心中で呟く。しかし、それは誰にも分からないことだった。敵に振り回され、全てが後手に周り、今回は未熟な勇者たちを危険に晒してしまった。助けられたのは不幸中の幸いと言える。もし騎士団長の機転がなければ、国として…いや、世界として大切な者たちを失っていた。


「副団長!」と、ある兵士がミスティアを呼ぶ。それで我に帰った彼女は、自身の心中を察されないよう努めて冷静に答える。



「分かっているわ。一先ず、脅威は去った。治療班怪我人を見て上げて!───これより、駐屯地(キャンプ)に帰還する!!」




 釈然としない思いを抱えながらも、ミスティアは騎士団たちに指示を飛ばしていく。




 魔族と勇者たちの初の邂逅はこうして幕を閉じたのであった。

 




 魔導兵隊…。ほんとは魔導器兵隊と迷ったんですが、こちらにしました。因みに魔導兵隊からもキャラが登場する予定です。あ、この章ではありませんよ? まあ予定なのでまだ先の話です。…たぶん。

 魔導関連が出てきたので下にまた捕捉説明を書いておきますので見てくれると嬉しいです。


 やっとこさ、中盤? まで書ききりました。まあまだあるんですが…。どうにかして早く書ききりたいと思う今日この頃…なんですが、いかんせん悩みに悩みまくって書いているのでなかなか書けず…。文章力の無さも相まってどう表現したらいいか分からず…。四苦八苦しております(苦笑)。


 今回も見てくれて本当にありがとうございました。今月は恐らくこれだけになりそうですが…また次回も読んでくれると嬉しい限りです。では、また次回…お会いしましょう。






・“魔導兵隊”─ 王国兵士隊の一部隊で、魔導器を使用して戦う者たちのこと。兵士隊には魔術が扱えないものたちが大半で、それを可能とするために実験的に始められた部隊。“魔導器”に至ってはまだ試験運用段階のため、今回の都市殲滅作戦では魔獣たちへ与える影響の記録を取るために来ていたが、想定外の魔族出現のために実戦へ出るはめになった。


・“魔導”─ 第3の魔法と呼ばれる比較的新しい魔法体制。王国が独自に研究し開発した“魔導器”を使い施行する魔術。もともとは魔力はあっても魔術が使えない人のために考えられたものであったが、それに目をつけた王宮の研究者たちが取り入れて戦闘用に作り出したものが“魔導器”である。


・“魔導器”─ 魔導を施行するために使われる機械。さまざまな形があり、魔導兵隊へ与えられているものは腕につけて使用できる小型のもの。“アーティファクト”や“符術”を参考にし、作り出された。


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