048 ― 唐突なる実戦 ―
こんにちは。めっちゃ微妙な時間になってしまいました。
最近どう書こうか迷うことが多くて、なかなか筆が進みません…。流れはほぼ決まってるんですけどね。難しいです。
また読み直してちょこちょこ直したりするかもしれません。
では、どうぞ。
「───あなたが……あなたがっ!!」
絞り出したような声。その声色には抑えきれないほどの怒りが籠っていた。
「亜衣、麻衣っ。2人をお願い!」
「おっおう! ──ってはるはるっ!?」
後ろから呼び止める声が聞こえたが、遥は構わず外へ飛び出す。
「あなたがっ。エディンさんにこんな酷いことをっ!」
「あらあら凄い剣幕ねぇ。彼が邪魔するものだから少し痛め付けただけじゃない。こんなことで怒ってたら切りがないわよ?」
目の前にいる女性はその長細い舌で赤く染まった唇を舐める。長く鞭のような尻尾の先端に、ドロリと着いた血色の液体がポタポタと地面に軌跡を作っていた。
それを見た遥は背筋に冷たい何かが伝う感覚を覚える。
その姿は異質だった。彼女の身体中に染み付いた狂喜が現実味を帯びて遥に襲いかかってくる。彼女から発される濃い雰囲気は自身の心に入り込み、得たいの知れない恐怖を感じさせた。
(もしかしてこれが…“魔族”なの…?)
唾を飲み込んで、遥は彼らが言っていた言葉を思い出す。魔物たちを統率することができる魔王軍の中でも特に危険で強大な力の持ち主。そんな存在が彼女の目の前にいた。
遥は彼女を睨み付けながら観察する。
蠱惑的で魅力的な肢体、自ら光を放っているかのような長髪。頭から生えた双角や蝙蝠のような翼。黒くしなやかな尻尾や指の一本一本に付いている鋭利で凶悪な黒爪。
異なるところは多々あれど、人とそう遠くない姿をした女性。これが自分たちと敵対する…敵の姿。
(考えても仕方がない…ね…)
遥は考えを打ち切り、巻き布を取って聖剣を正眼に構える。それにはまだ熱があり、火傷はしないがさっきよりも暖かくなっているように思えた。
「フフ…。貴女が“聖剣”の担い手なのねぇ」
「! あなた…聖剣を知っているの…?」
「ええ当然。…用があるはそれに準ずるものだからねぇ」
「…??」
彼女の返答に遥は首をかしげる。聖剣に準ずるものとはなんのことか。遥は瞬時に思考を巡らすが答えは出てこない。
そんな彼女を見越したように女性は遥を見据えてこう口にする。
「───“支配者”。わたしはそいつを探しているのよ」
「ど、どみねーたー…?」
「はるはるー!」
「はるにゃーん!!」
そいつと睨み合っていると後ろから駆け寄ってくる気配がした。それは亜衣と麻衣。彼女らは各々の得物を持って遥の両脇に躍り出た。
「えっ? 2人ともどうしてっ」
「良いところは見逃さないよ~」
「テンテンがここは私が受け持つから助けてやってって!」
怪我を負ったエディンと蒼白になった未來を任せた筈の彼女ら。気を取り直したらしい未來がこちらへ2人をよこしたらしかった。彼女ら2人は持ち前の元気さと明るさでそう遥に笑い掛ける。
「…わ、分かった。手伝って二人ともっ!」
「了解っ!」
「了解っ!」
凍えた心に一瞬にして火が灯った気がした。遥たちはもう一度女性に向き直る。
「あらあら…仲のよいこと。そんなもの邪魔でしかないのに」
彼女はそう言うと指を弾く。すると、指先にある空間に魔方陣が浮かび上がり、それと呼応するように彼女の後ろ側から呻き声が聞こえてきた。
グルルルルル…
ギギギギギギ…
ギャギャギャ…
彼女の影から出てきたのは3体の魔物。“狼型”・“蜘蛛型”・“人型”に見える魔物たち。しかし、実際は奇妙に変質したものだった。
黒い靄を身体中に纏い、正気とは思えないギラギラとした淀んだ瞳を見開いて、口からだらだらと涎と体液を垂らす。その姿は魔物と言えども見るに耐えないものだった。
「な…なんなのこれ…」
「う…うひゃー…」
「気持ち悪…」
三者三様に出る言葉は違えど、咄嗟に身が引くほどの不気味さを感じていたの同じだった。
「さっ。見せて頂戴。あなたたちの力というものを」
彼女はその翼で飛翔し、空に舞い上がる。やつは高みの見物をするようだ。
遥たちは横目で視線を交わし同時に声を上げる。
「「「身体能力強化!!」」」
勇者3人と魔物3体。数は同数。しかし、こちらは初陣。少しは魔術を齧ったとしても一週間で習ったことは限られている。
(それでも…やるしかない!)
怯える自分を奮い立たせ、迫る脅威を見据える。
戦いの火蓋が今、切って落とされた。
ーーー
魔獣や魔物に対して、人間側ができることはたかが知れている。
人間以上の筋力、果てない体力、底なしの魔力、防御に秀でた外皮…。人の性質をはるかに凌駕する産まれ持った能力が、人にとってとてつもない脅威となり得る。
そんなもとから不利な状況で、人間にある有利性は、経験から学んだ“知識”とそれを利用できる“知能”だった。
それは時に、敵を討つために“武器”を作ったり、身を守るために“防具”を作るために使われ、
ある時は、魔力で補えるように“魔術”を開発したり、“仲間”と共闘することで脅威に対して対抗してみせた。
今や一匹の魔物に対して複数の人数で対応するのは、戦略ではなく常識となっており、武具や道具、魔術を使って初めて同じ舞台に立てる。
と、教鞭を握る“アリア・ウィクトリーナ”は遥たちに対してそう述べていた。
素早い動きでまず迫ってきたのは狼型の魔獣。
大の大人ほどの大きさのあるそいつは俊敏な動きで先制攻撃を仕掛けてくる。
突貫するように飛び出した狼を見て遥は叫ぶ。
「───麻衣っ!!!」
「はいはいっ!!」
返事をすると同時に麻衣は前へ飛び出して得物を振りかぶる。
彼女の武器はその大きさが際立つ巨槌だ。自身の身長ほどもあるそれを軽々と振るって目の前の敵へ反撃する。
「とやっ!!」
───ドゴッ!!!!
軽快な掛け声と共に振るわれたそれは盛大な地響きを鳴らし、地面を抉る。しかし、その攻撃を狼は持ち前の反射神経を駆使して避けてしまった。
「わ、避けられたっ!?」
「任せなさいなっ!!」
驚いた麻衣に対して、後ろからもう一つの影が飛び出す。
亜衣は回避行動をした狼に追い討ちをかけるようにその槍斧を叩きつける。
「おりゃーっ!!」
「ぎゃんっっ!!!!!!!???」
飛び退ったばかりの狼は構えることができずに彼女の攻撃に捕らえられた。
「やったっ!!」
「あいにゃんっ。後ろ後ろっ!!」
「へ?」
手応えのあった攻撃に喜んでいたところへ、麻衣から悲鳴にも似た声が上がる。
それに反応して振り向いた亜衣の瞳には、いつの間にか近づいていた人型の魔物が棍棒を振りかぶった状態で映っていた。
「お願いっ。───エクスカリバーっ!!!」
刹那、その巨体に青い閃光が走る。
斜めに切り下ろされた剣線は撫で下ろされた直線上に飛び、亜衣に迫っていた魔物を両断した。
まさしく紫電一閃。からの、一刀両断。
一瞬固まった魔物は傷口から血を吐き出して、どっと倒れる。
「ぎゃぁーっ! 血がやばーいっ!」
「うぎゃ~ぁ!」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ、二人とも!!」
遥は悲鳴を上げる二人を叱咤する。
まだ敵は残っているのだ、油断は禁物だった。遥は相手の行動を確認するために視線をそいつに戻す。が───
(───っ!? いない!?)
その行為は遅すぎた。最後に残った蜘蛛型の魔物は彼女たちが視線を背けた一瞬の内にその姿を消していた。
見失った彼女たちは慌てて辺りを見回す。
(ど、どこにいったの!? これは…不味い…)
嫌な汗が吹き出てくる。心臓の鼓動が警鐘を鳴らしているかのようにうるさい。戦いなんてしたこともなかった彼女らだったが、眠っていた本能が目覚めたかのように緊急事態だと叫んでいた。
(───あつっ!?)
不意に手の中のものが熱くなり、驚きのあまり落としそうになる。遥は反射的にそれに目を向けた。
その瞬間…ふと気が付くものがあった。
(地面に…影がある?───っ!! 敵は上っ!!?)
遥は咄嗟に自分たちの上を見上げる。するとそこには糸を張り巡らして空中に浮く魔物の姿が目に入った。
そいつは既に攻撃態勢に入っており、お腹をこちらに向けている。
「亜衣、麻衣っ!!! 逃げてっっ!!!!」
「へ?」
「え?」
それは同時だった。───遥が声を上げるのと魔物から“糸”が吐かれるのが。
生粋の戦士でもない、ただの学生が咄嗟の判断で動けることはない。訓練も受けていない彼女らがここまで対応出来たことの方が驚きだった。
結果、彼女たちは悲鳴を上げることしかできず、成す術もなく“糸”に囚われてしまった。
まあ…負けますよね。因みに出てきた魔物は…
狼型が“ハウンドウルフ”、蜘蛛型が“ブラックウィドゥ”、人型が“ホブゴブリン”となっています。
一応、名前も考えました。魔族の名前は物語上で出す予定。
意味深な単語がありましたが、これもこの章で出てくる予定です。
5月も今日で終わり。早いものですね。次回は来月に持ち越しです。いつも中途半端で申し訳ないです。
誤字脱字、気になることがあれば言ってくれると助かります。いつもお読みいただきありがとうございます。また次回もよろしくお願いします。