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【旧作】 Welcome into the world [俺の妹が勇者なんだが…]  作者: 真理雪
第三章【シスターズサイド・消滅都市編】
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045 ― 死した都市 2 ―

 お久しぶりでございます。仕事に忙殺されていましたが自分は恐らく元気です。


 と、ま…間に合いましたかね。危うく月が変わってしまうところでした。遅くなってしまって本当に申し訳ないです。


 では、どうぞ。



 人が住まなくなった死した街。

 その光景は想像を絶するもので、都市と森が混濁する情景は神秘的かつ幻想的な雰囲気を醸し出していた。


 全体から見ると70%以上が木々に侵食されており、どこか太古の遺跡か神殿のようにも見える。そんな中で使える建築物は少なく、倒壊の恐れがあるものを安全地帯と言い張ることはできない。

 兵士たちは大型の軍事用テントを運び込み、もとは公共の広場であったであろう空き地を見つけてそこに陣を張っていた。


 遥たちは幾重にも張られたテントを掻い潜り、案内役を務める1人の兵士の後を追う。ここには訓練の為に訪れた訳だが、旅慣れていない彼らたちを見越して先に仮住まいとなるテント内部へと案内することとなった。

 ジュリアやミスティアなどの騎士団たちとは一旦別れることとなり、今は遥たちのみとなっている。


 張り巡らされた隙間を縫うようにしてテントとテントの間を彼は通っていく。その間に回りからはガヤガヤと騒がしい声が聞こえ、汗や血、魔獣の臭い、埃臭さなどがどうしても気になってしまう。ここは現代の若者にとってなんとも言えない雰囲気を漂わせていた。


「申し訳ありません…勇者殿。ここは戦場の最前線。戦闘で昂っている者も居りますれば、怪我で動けない者もおり、討った魔獣の死骸も多数あります。衛生上、良くはない場所でございますが…御容赦下さいますようお願いいたします。今からご案内する勇者殿に用意したテントに関しましては、ある程度は清潔に保つよう仰せつかっております」


 先頭を歩く彼。兵士エディンは彼女らの表情を窺い鑑みて、先回りするようにそう言った。


「お気遣いありがとうございます。ここは戦場のど真ん中。自分たちもそれは分かっているつもりです」


 勇二が皆に代わって代弁してくれる───



「───と言っても、入浴はしたいですわね。浴場はありませんの?」


「こちらはお腹空きました~」


「同じく~」



 勇二の言葉に被せるように彼女らが言葉を発した。

 嘆息しながら呟く未來と主張するように手を挙げて言う亜衣に賛同する麻衣。


「はい。お食事がまだなのは伺っていましたので、テントへご案内ののちお運びいたします。入浴に関しましては…少々、提供致しかねます。どうしてもということでしたら…水浴び…ということになってしまいますが…」


 案内役のエディンはその顔を困ったように変化させて答えた。その返答にはどこか怒らせないように言葉を選んだかのような雰囲気が混じっていた。それは彼の性根から出たものなのか、はたまた見ず知らずの“勇者”という存在に困惑しているからなのか。

 そんなことも知る良しもない彼らクラスメイトたち。リーダーとして纏め役の勇二は未來に諭すように口を開いた。


「天楼院さん。エディンさんが困ってるじゃないか。戦場に浴場なんてあるはずないよ」


「ふんっ。分かっていますわそんなこと。聞いてみただけですわよ。ただ、淑女として身嗜みを整えるのは当然のことですわ。旅路では満足に洗えませんでしたし? この際、水浴びでもなんでもいいですわ」


 未來はそう言ってそっぽを向いてしまった。確かに彼女からしたらこの馬車旅では不満が溜まる一方だったであろう。分からないことを教えながら、嫌な顔一つせずに面倒を見てくれた騎士団たちに、曲がったことが嫌いな彼女が文句を言える訳がない。不満が言える捌け口もなく、どうしようもなく溜まってしまった鬱憤がつい口から出てきてしまったようである。


「そうですか…。では、後程ご案内させてもらいますね」


「ええ。よろしくお願いいたしますわ。遥さんも一緒に行きますわよ」


「えっ? わたしも!?」


 と、驚く遥。その後ろから勢いよく飛び出す二つの影。


「亜衣もいくぞーっ!ガオー!」


「麻衣もいくぞ~っ!うお~!」


「な、なんですのっ!? 貴女方には言ってませんわ!」


 遥へ話を振ったはずが、予想だにしない二人ももれなく付いてきて逆に未來が困惑する形となる。


「二人も一緒に行かないっ?」


 亜衣は苦言を呈する未來をさらっと無視し、後ろを歩く美衣と明に視線を移す。


「…明は行かない」


「えー。明ちゃん行かないのー?」


「えっと…明ちゃんが行かないなら私も遠慮しておこう…かな」


 少しうんざりしたような表情を浮かべながら明は首を振り、それを見た美衣は困ったような笑みで亜衣の誘いを断った。


 亜衣は別段残念そうには見えず、「仕方ないねー」と退いていく。明の性格上、拒否されることは予測できていたことのようであった。


「俺たちはいいから4人で行って来たらいいよ」


「仕方ありませんわね…」


 男性陣は気をきかせて行かないことを選び、未來には不満がありそうではあったが、結局遥と未來、亜衣と麻衣が水浴びに行く結果となった。







 ◆◆◆







 場所は変わり、周りの喧騒から少し離れたテントの前に二人の姿があった。

 ワインレッドの軽鎧と鉄色の重鎧を纏った対照的な二人組。それは騎士団長たるジュリアと副団長たるミスティアであった。


 彼女らは案内役の兵士に1つ挨拶し、弾幕を捲ってその中へと入っていった。



「よく来てくれた。“騎士団長”ジュリア・ルミナリーと“副団長”ミスティア・ベラトリックス」



 静かなテントの中で、ベッドから嗄れた声が聞こえてくる。



「お久しぶりです。ヘリオ総隊長」



 二人はその白髪が目立つ初老の御仁に軽く会釈して会話を続ける。


「お怪我の方はいかがですか?」


「おお。心配をかけてすまないな。わしは大丈夫だぞ。昔から身体は丈夫だったからなぁ」


 そういって軽快に笑った彼は次の瞬間に痛そうに顔を少し歪めた。それを見逃さなかったミスティアは慌てて駆け寄る。


「だ、大丈夫ですかっ?」


「ああ…すまないすまない。傷に響いてしまったようだ」


 苦笑いを浮かべながら心配ないと手で制す彼はベッドの上で溜め息をついて自嘲気味にこう続けた。


「若い頃はここまでのヘマはしなかったんだがな…やはり年々動き辛くなっているようだ。年はとりたくないものだな…」


 彼は傷のある脇腹を抑えてそんなことを(のたま)う。彼女らはそんな痛々しい彼を見たことがなく、なんと言葉を返せばいいのか分からなかった。


「正直…あなたがそこまでの大怪我をするとは思いませんでした」


 少しの間沈黙が支配した後、ジュリアがその沈黙を破った。

 彼は現役時代…今もそうだが、総隊長という役職になる前。彼は王国兵士内で“敵うものなし”と言われるほどの強者だった。今でもその名声は遺憾無く発揮され、兵士隊はもとより部署が違う騎士団にも一目置かれる存在である。

 それが今はどうだ。ベッドの上で横になる彼は弱々しい独りの老人にしか見えない。


 ジュリアとミスティアはそんな彼を複雑な気持ちになりながら見つめていた。


「はは…。みすぼらしい姿を見せてしまったな。幻滅しただろう」


「そんなことはありません」


「そうか…」


 努めて冷静に答えるジュリアを見て、少し眉を上げて答える彼。


「あなたの力量は自身も心得ています。それは決して変わるものではありません。ましてや、幻滅することもありません」


 はっきりとそう答えたジュリアは彼を再度その鋭い眼差しで見つめ、話を促す。


「その怪我の理由。御伺いしてもよろしいでしょうか?」


「…ふ。そうだったな。ダメだな年を取ると話が長くなってしまう。本題に移ろう」


 そんな真の通った彼女を見とめ、彼は少し気の抜けた表情をしてから真剣な顔へと戻る。


 ジュリアやミスティアは彼よりも相当若く、それでいて騎士団の纏め役でもある。兵士隊と騎士団はそもそも部署が異なるが、王国で勤めている点では同じだ。彼はそんな彼女らのことを知らない訳ではなかった。

 真面目で堅物だがちゃんと優しさ秘めているジュリアと温厚で頼れる姉御肌のミスティア。二人ともそんなことでは馬鹿にすることない人物だ。情けないな、と彼はそう思い、気を取り直すのだった。



「───二人に見せたいものがある。このベッドの下にある物を取り出してくれないか」



 彼がそう言うと、容易に動けない彼に代わってミスティアがその下を覗く。シーツを捲ったそこには鍵付きの小さな木箱がひっそりと置かれていた。

 それをそっと両手で取り出すと、それを見た彼が懐から金属の鍵を出して手渡す。


 二人は少し視線を見合せてから、ミスティアが鍵を使ってそれを開ける。そこには───



「これは…───黒い…石ですか…?」



 それは石…というより透明度が高く何かの欠片とも取れるそれ。中でとぐろを巻いている黒い靄が心理的な不安を掻き立てる。ミスティアは危険を感じ、すぐに蓋を閉めた。


「それは…ある魔物から出てきた魔石だ」


「魔石ですか…これが? そのようには到底見えませんが」


 総隊長の言葉に疑いの視線を向けながらジュリアが問う。

 “魔石”は本来、魔獣や魔物の体内で長い間蓄積された魔力が結晶化することで出来る鉱物である。人類にとって無くてはならない素材の一つだ。故に、魔石はどこにだって出回る。王国でもそれは例外ではなく、それが使われている魔導具もたくさん存在するほどだ。しかし、残念ながら二人にはこんな禍々しい魔石は見たことがなかった。


「そうだ。変異種…といえばいいか。大蜘蛛型の魔物だったのだがな。そいつは怪我を負っても怯む様子もなく、爛々と眼を輝かせて獲物を逃がすまいと襲う狂った化け物だった。見た目も禍々しく変質しておったのだ」


 彼がその時を思い出したかのように語り出す。それは迷宮(ラビリンス)化した地下水道から這い出る魔獣たちを掃討している時のこと。水道内へと赴いた先見隊から緊急の報告が入ってきた。それは『水道内に“異形の魔物”を発見す。強力で手も足も出ない。援助を要請す』というものだった。


 その時はどこの兵士隊も手一杯で、“異形の魔物”と言うワードが気になった彼は自ら動くことを選択した。


 援助を要請した先見隊は水道内の調査を行っていた。どこまでの深さがあるか、どういう構造をしているか、崩壊する恐れはないか…等々。魔獣たちの脅威を極力避けながら、後続の殲滅隊が問題なく進行できるよう下調べをしていたのだ。“異形の魔物”との接触はその中での出来事だった。


 彼が急行し、そこへと辿り着いた時、既に戦闘は終わりに近づいていた。一番最悪な形で。


 先見隊は魔獣や魔物たちによって退路を絶たれ、多数が大怪我を負い、ほとんどの者が地面に横たわっていた。無事な者は居ない。そんな状況の中での救出は困難を極めた。


 複数の魔獣たち、それを統率しているかの如く“異形の魔物”は救出隊を阻む動きを見せる。総隊長は腕の立つ数名と共に司令塔を叩く作戦へと変更し、彼と刺し違える形でそれに止めを刺した。


「その後のことは、記憶が曖昧でな。血を流しすぎたようで部下から聞いた話になるのだが…。司令塔を倒したお陰で魔獣らは烏合の衆となり、どうにか殲滅に成功したようだ。死者は出たがな…。その魔石はその妙な魔物の死骸を持ち帰り、解剖して調べたところで発見したものなのだ」


 そう彼が語りきったところで沈黙がまたもや支配する。

 ジュリアとミスティアはお互いに難しい表情をしながら何やら考え込んでる様子で黙り込んでいた。


 この“黒い石の欠片”。二人が見ても危険な物にしか見えない。だからこそ総隊長は自身のベッドの下へ隠すようにして置いていたのであろう。恐らくこの事は一部の兵士隊にしか知らされていない事柄だ。この人払いされたテントで秘密裏に会話していることから推測するには十分な要素であった。


「これをどうするおつもりですか?」


 意を決してミスティアが口火を切る。これがなんなのか自身には予想できないが、危険な代物であることは理解できる。しかし、これの対処方法をどうするのか。生半可な処理方法では、恐らく処理仕切れない。幾度と戦場を見て来た彼女の経験と勘がそう告げていた。


「それはわしにも分からん。他の者の手に渡ることを避けるためここに置いておいたが、その手の物はわしも詳しくはないからな。王都の研究室に託すか…もしくは巫女殿に頼むか…であろうな」


 総隊長もその額に皺を寄せながら答える。難しい問題だった。何か分からない代物だが、危険性を孕むそれを無闇に人に任せるわけにはいかない。しかしそれは、自分では手に余る代物だったのだ。悩んでしまうのも仕方がない。


 口数が少なくなる三人。そこへまた嫌な報告が訪れた。




「────失礼します!! ヘリオ総隊長!」



「! 何事だっ」



「は、はい! また“異形の魔物”が現れたと報告が! それも地上にです!!」



「「「!!!」」」



 三人の表情が一瞬で引き締まった。



「ジュリィ…」


「ええ、分かっています。ヘリオ総隊長、兵士隊を少しお借りできますか?」


「ああ、勿論だ。指揮権を一時的に騎士団の団長ジュリア・ルミナリーに貸与する。わしは動けん…頼んだぞ」



 彼の言葉を聞き、お互いに頷き合った二人は颯爽とテントを後にするのだった。



 


 総隊長が言っている巫女というのは“狐の里”の巫女のことです。と、一応、捕捉。


 この章はほとんどが真面目パートになってしまいそうですね。大丈夫でしょうか。持つかなこれ、飽きません…?これでも予定を変更してある程度カットをしたぐらいです(汗)。自分もさっさとクライマックスを書きたいです。でも書けないっ。自分が遅筆なのでっ。悔しいっ。


 と、愚痴はこれぐらいにして。


 いつもお読み頂きありがとうございます。誤字や脱字、気になる点や矛盾点などありましたら気軽に言ってくださると助かります。感想も下さい(切実)。


 仕事が忙しくなかなか二つ出せませんが…多目に見てくれると…ひじょーに助かります…。またよかったら次回もよろしくお願いいたします。では、また次回お会いできたら。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 初めて読みましたが面白いですね、テンポも悪くないし、シナリオも見ていて飽きないです、あとは、個々のキャラも個性が出てていいですね。 [気になる点] キュレアとルージュの出会いが唐突なのと、…
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