044 ― 死した都市 ―
お久しぶりです。結局一ヶ月たっちゃいましたが自分はたぶん元気です。
今回はだいぶ考えました。いえ、今回だけではないんですが…今回は特に悩みましたね。どこを悩んだかと言いますと、新キャラを出すかどうか、です。ホントのところは出さない方が読みやすいかなと思っていたんですが…成り行き上、出すしか選択肢がなくなりまして…。恐らく読んでてこんがらがると思われますので、少しでも軽減できるように後書きの方に簡易的なプロフィールを乗せておきます。あ、クラスメイトだけですが。
あ、長くなっちゃた。それではどうぞ。
一千年前の戦争の最中、一夜にして滅んでしまった都市────“消滅都市”。それは水面に雫が落ちてできた波紋のように、中心に貴族や王族などが暮らす貴族街を中枢とし、その回りに民家などが建てられていた、円状に広がる都市だ。
建築自体は王都と同じもので木造と石造りのものがほとんど。メインストリートには石畳が敷かれ、賑わう商店街が立ち並び、騒がしくも華やかだった都市。
それが今では、その面影はなく廃墟同然だ。
至るところに戦争の傷跡が残り、木造の建物は朽ちて倒壊、石製のものは長年の風化でガタが来ており、そこらじゅうに瓦礫の山が出来ている。人が住むことがなくなってしまった街は緑化も同時に進み、通れなくなった場所も多数あった。
そんな中で、王国兵士と騎士団たちは比較的安全な場所を拠点にし、ここを巣くっている魔獣たちを討伐していた。それは何日も前から行われていることで、やっとのことで沈静化させることに成功したところだった。
そこへ突然舞い込んだ“王国からの依頼”。それは突拍子もないもので、屈強な兵士諸君らも驚きを隠せないものであった。それは───
──“勇者たちの護衛かつ戦場での教育指導”──
基本は騎士団が執り行うことになっている。が、驚いたところはそこではない。それは“勇者”という単語。
勇者召喚が行われることは周知の事実だ。もはや知らないものなどいないほどにそれは有名なことである。ただ、既にそれが行われており尚且つ、成功したことは事情があって隠匿されていたのだ。…王国兵士にさえも。
“勇者”という言葉は、古来から伝わる伝承として人々の内に広まり、根付いている単語だ。あるものは敬い、あるものは崇拝し、あるものは信じずに卑下する者もいる。それは称賛されるものか批判されるものか、その心情や感情は人それぞれだが、その言葉の持つ力は大きい。だからこそ、国王たちを始め召喚に携わる者たちには軽々しく他言しないよう、常々用心するようにしてきた。
しかしながら、状況は変わる一方だ。魔族の奇襲を受けて、変化したものは多い。その鱗片がここにも顕著に現れていた。
◆◆◆
到着したのは既に日も傾き、正午の時間をとうに過ぎたころだった。
勇者たち、クラスメイトを乗せた馬車は防壁の城門前で停止し、彼らの長旅はようやく終わりを告げた。
「やっと着いた~」
「ほぇ~近くで見るとやっぱりでかーい」
亜衣と麻衣がいの一番に飛び出して歓声をあげる。
一千年前のものであるが故に手入れもされてなかったこともあってか、表面はボロボロで所々朽ちて大穴が開いているところも多数見受けられた。が、その威圧感は健在で巨大さも相まって壮観なものである。
「これは凄いね。万里の長城も相当な大きさだったけど、これはまた違う雰囲気があるね」
「あれ? 勇二くん、見たことあるの?」
「あーと、昔ね。一度家族旅行で見たことがあったんだ」
勇二はその事を思い出しているのか、苦笑しながらこう返す。
五人は到着したことで気分が高揚しているのか、和気藹々と会話をしていた。そこへ後続の馬車に乗っていた四人が加わることとなる。
「───オーホッホッホ! さっきぶりですわねっ遥さん!」
テンプレな高笑いをかまして登場した少女は遥へと一直線に向かって接近し、持っていた扇子で口元を隠してポーズを取る。
「わっ、天楼院さん。ビックリした~。もう腰は大丈夫? 痛めてたよね?」
「うぐっ…。も、もう治りましたわっ。その節はご心配かけましたわね…」
彼女は少し悔しそうに頬を赤らめ視線を外す。この少女の名は“天楼院未來”。真面目な性格ながらも負けず嫌いで、遥を友達と書いてライバルと呼ぶほどの筋金入り。それもあってか、馬車の振動に耐えられず腰を痛めたことに羞恥心が働いたようで、意気揚々と出てきた彼女は出鼻を挫かれたようにたじろいでいた。
「今回は恥ずかしい姿を見せてしまいましたがっ。ライバルである貴女には負けませんわよ。覚悟してくださいまし!」
「いや…。勝負なんてしてないんだけどなぁ…」
いつも明るい遥もたじたじになるほどの彼女は特徴的な縦ロールの金髪を靡かせてそう宣言する。高らかに笑う姿はその美貌相まって美しいものあったが…その性格故に嫌がられることもあるようで───
「美衣…」
「あ、明ちゃん。馬車旅お疲れ様。大丈夫だった?怪我とかしてない?」
─── その一方でこちらは美衣と背の低い小柄な少女。その名は“倉井明”と言う。
口数の少ない彼女は灰色のフードを深く被り、目立たないようにこそこそと仲の良い美衣の側へ寄ってきていた。
「…あいつうるさい。美衣と一緒が良かった」
「あ…あはは。ええっと…」
開口一番毒を吐く彼女は少々毒舌なところがある。ジト目で遥と高らかに会話している“天楼院未來”を無言で睨みながら美衣の服を引っ張っている。彼女と“倉井明”は相性が悪いようで、クラスで目立たないようにしている彼女に対し、目立つことが常な彼女は相当目障りなようであった。
───そして、もう一方。
「やっほー! 日向くん! 相変わらず目付きが悪いねっ」
「腰痛めなかった~?」
「うるせぇ暮野。お前はいちいち馴れ馴れしいんだよ。誰が腰なんか痛めるか。オレはそんなやわじゃねぇ」
言われた通り目付きが悪い少年。“高間日向”は腕を組んで無愛想に返答する。彼は所謂、ヤンキーというやつで金色に染めた髪をツンツンにし、刺青…はしないまでもピアスやアクセサリー類を身に着けている。
なんでも、校則が緩い我が校は金髪までは許しているようで、染めている生徒は何人かいる。が、アクセサリー類は校則違反らしく没収される。彼はよく没収される姿を亜衣や麻衣に見られ、茶化されるという校内ルーティーンがあったりなかったり…。よく三人で言い合ってる姿は見かけるようだ。
───そして、それらから一歩引いた場所で見回す二人組。
「皆大丈夫そうだね。田中」
「うむ。だけど、恐怖感はなかなか取り払えない。おれたち男性陣が守ってあげないとな」
「そうだね…」
勇二と掛け合う、高校生にしては大柄な少年。“田中武司”は自分にも言い聞かせているかのように落ち着いた口調でそう返す。彼は大柄な体格に対して顔立ちは優しげな細目の少年だ。もともと野球部のキャッチャーを務めていて、どっしりとした足腰は大人顔負けの力強さを誇る。
いろんな感情が入り乱れ、それでいて同じ目的で集まった勇者9人。20人近く残っていたクラスメイトは今やたったのそれだけだった。
「───失礼致します!」
彼らが集合している場に駆け寄ってきた兵士がいた。
彼は鉄兜を取ると背筋を伸ばして左腕を胸に置く。それがこの国の所謂、敬礼の仕草らしかった。
「お待ちしておりました! 騎士団と勇者ご一行様! わたしは兵士分隊の副隊長を務めております。エディンと申します!」
はきはきとした口調で話す彼に馬から降りてきていた騎士団長、ジュリアが対応する。
「私が騎士団長のジュリア・ルミナリーです。…総隊長の姿が見えませんが、どちらに?」
「はい! 総隊長殿は先日の怪我の影響で養生中でございます。その代わりの出迎えとしてわたしが選ばれました!」
「…怪我?」
彼女は少々訝しむ顔をして鸚鵡返しに聞き返す。
「はい。命には別状ありませんが…重傷には変わらず。事の顛末については総隊長自身が説明したいと言うことでしたので、後程面会をお願いいたします」
表面上は何でもないように取り繕っているが、先ほどよりも少し声のトーンが下がっていることで何かしら隠し事をしていることは容易に想像できた。
それに一瞬、腑に落ちない表情を見せたジュリアはほどなくして頷き返し、肯定の意を示す。
そうして彼女らは一言二言掛け合うと、勇者全員に対して集まるように声をかけ、彼らを伴って街の門へと歩を進める。
この街でまた、彼らに試練が降りかろうとしていた。うっすらと不穏な空気が漂う中で緊張しつつも、今の彼らにそれを知るすべはなかった。
さて、どうでしたでしょうか。と言ってもまだまだ前座なんですけどもね。難しいのは次からですね。どうなることやら…。
いつもお読みいただきありがとうございます。今月も今回で終了です。結局、二つ出せてない…。申し訳ないです。
いつでもご感想お待ちしております。誤字脱字矛盾点などなど、気づいたことを言ってくれると助かります。
よろしければ次回もよろしくお願いします。では、また今度。
これは暫定的に決めたもので変わるところがあるかもしれません。
・天楼院未來
日本のある大富豪の令嬢。高飛車な性格で負けず嫌いだが、常識は弁えており、自信家。ぐうの音がでないほどの天才で運動もできる万能美少女。アメリカ人とのハーフでブロンドの長髪をドリル状に巻いている。エスカレーター式のお嬢様学校にいたが刺激がない日常に飽き飽きしていたため、突発的行動力で遥たちの学校に入学してきた。遥を友達としており、常に勝負を仕掛けてくる。
・田中武司
元野球部員でキャッチャーをやっていた過去があり、ガタイがよい。見た目に反して、柔和な性格で優しさが滲み出したような顔をしている。細目の優しい少年。
・倉井明
美衣の友達で常に物静かで感情の起伏が乏しい小柄な少女。暗がりを好み常に部屋の隅で本を読んでいる。常にフード付きパーカーを着ており、室内でもフードを取らない徹底ぶり。髪型はルーズサイドテール。オカルトが好きなようで、この世界に来たことをどこか喜んでいるようだ。
・高間日向
ヤンキー少年。中学時代は結構やんちゃをしていたらしいが、今は鳴りを潜めている。脱色したツンツン頭で目付きが悪いとよく亜衣たちに弄られる。ケンカに慣れており、腕っぷしが強い。