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【旧作】 Welcome into the world [俺の妹が勇者なんだが…]  作者: 真理雪
第三章【シスターズサイド・消滅都市編】
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042 ― 王都の勇者たち 4 ―

 こんばんは、真理雪です。遅くなって申し訳ございません…。

 仕事が想定以上に多くて…書こうにも書けずにだらだらと遅くなってしまいました。閑話もまだ途中でして…来月回しでお願いします。


 前置きはこのぐらいにして…では、どうぞ。


 ここは王宮内、来賓用に用意された一室。


 目立つことないように飾られた数々の装飾品は品の良さを感じさせ、綺麗に整えられた寝具やその他の調度品は訪れた人のことを考え使いやすいように整理整頓されている。

 何度か使ったこの部屋だが、いまだに掃除や後片付けをしてくれている人を見たことがなかった。恐らくだが、遥が出掛けている間に素早く簡潔に的確に整理され掃除をしてくれている人がいる筈なのだが…結局、彼女はそれを確認できたことはなかった。


 (──相変わらず場違い感が半端ないなぁ…)


 そんな、もて余す部屋を見ながらそんなことを思う。入ってきた扉を閉め、遥はベッドの方へと一直線に歩いて行った。

 それは天蓋付きの大きなベッド。高級な素材が使われているのかそれはいつもふかふかで現代のものと遜色ないものに思える。いや、もしかしたらそれ以上かもしれない。

 そんな布団を一つ取って見ても、お金が掛かっていることが一目瞭然であった。自由に使えと軽く与えられた部屋であったが、不安と遠慮という感情がどうしても先に来てしまう。本当に使っても良いのだろうか?…そんな後ろめたさが、不安を煽って仕方ない。

 日本近年では至るところに取り入れられている西洋の様式だが、日本人にとって本来は馴染みの少ないものだ。とりわけ、一般庶民にとってこんな豪華で高級な家具の数々は使わしてもらうことすら一生に一度もあるかどうか。


 “場違い”な所へ来てしまったなと、常々思う彼女であった。



「はぁ~っ。疲れた~」


 ぼふっと遥は大の字で盛大にベッドへと倒れ込む。

 溜まっていた疲労感が思い出したように一気なだれ込み、考え事も後ろめたさも取っ払った彼女は身体を沈み混ませ、そのままの体勢で幾分か横になっていた。


 天井…いや、天蓋の裏側を見る遥の双眸はここではなくどこか遠い場所を見ているようなそんな感じを思わせる。



 (───この一週間…。いろいろあったなぁ…)


 

 と、彼女は過去のことを振り返っていた。

 


 存在する筈がない魔法の力で異世界へ飛ばされた遥たちは初めての国王様との謁見で勇者だと告げられ、振る舞われた見たこともない豪華な食事の数々にクラスメイトは目を輝かし、遥はアリアと出会って兄のことを吐露し、訪れた選択の時に思いもよらなかった魔族の襲撃を受け、否応無く戦場の過酷さを叩き込まれる。そんな血生臭い戦場の中で、偶然手に取ったことで託されてしまった聖剣。───流れに流されここまで来てしまったけれど。



「───勇者…か」



 遥は傍らにあった一本の刀を手に取り、それをまじまじと見つめる。


 (ファンタジー小説はいろいろ読んできたけど…まさかわたし自身がこんなことになるなんて…)


 この世界の勇者たち。その中でも聖剣を持つことはもはや歴史上の英雄と同義である。

 “この世界の危機を救う”こと。それが、聖剣を受け取った遥の使命となる。



 (わたしは───)




 ───コンコンッ




 悶々と考えあぐねる彼女の思考を唐突なノックが中断させた。


「!───あ、はーいっ」


「霧崎だけど、今いいかな?」


「勇二くん? いいよどうぞー」


 訪ねてきた人物は遥もよく知る“霧崎勇二(きりさきゆうじ)”その人だった。

 勇二は扉を開け、遥を見留めると小さく微笑み、扉をぐぐる。

 遥は立ち上がって椅子を薦めると、彼は素直にお礼を言ってから腰を降ろした。それを確認したあと、遥も向かい合う格好で椅子に座る。


「どうしたの?こんな時間に。皆はもう寝てるよね?」


 首を傾げながら遥はそう訪ねる。

 もうすでに夜は更けっている。明日も朝が早く、訓練に参加する面子はもう夢の中である筈だった。そんな中、訪ねてきた彼は少し気まずそうな表情をしながら口を開いた。


「うんそうだね。明日も早いし、本当は止めておくべきなんだろうけど…やっぱり話しておかないと気が済まなくて…ね」


 そう言って目を伏せる彼は複雑な表情に変化していた。心の内で渦巻いた感情がそのまま顔に出ているようだ。

 そんな彼を見たことがなかった遥は少し驚くがすぐに真剣な表情に戻り、話を促す。


「ウィクトリーナさんから聞いたよ。遥ちゃんに託された物のことを」


 彼はそう言って視線を反らし、あるものに目を向けた。遥にはすぐに彼が言いたいことが分かった。そして、何を見つめているのかも。


「遥ちゃんにこんな重荷を背負わすなんて…。“彼方(かなた)”に合わす顔がないな」


「そんなことないよっ。勇二くんはずっとこんなわたしを支えてくれた。だから、そんなこと言わないで」


「…遥ちゃんは本当に優しいね。そう言ってもらえると楽になるよ」


 彼は遥の言葉に小さく微笑みを見せるが、それには痛々しさが見え隠れするものだった。


 そんなうちひしがれた彼を見た時、遥はようやく思い出した。彼も当事者(・・・)だったことを。それは、ずっとずっと自分の殻に籠ってばかりで、回りのことを気にしていなかった彼女の弊害だった。


 自分の目の前で兄が死んだ。そして、それと同時に勇二にとっては無二の親友が目の前で死んだのだ。


 それに何も思わない彼ではない。何度も悔やんだだろう、悲しんだだろう、苦しんだだろう。それでも、遥のことを想って毎日会いに来てくれていたのだ。


 日本(あちら)にいたころ。遥は兄の死の悲しみから自室を出ることができなかった。それを心配した彼が毎日のように訪ねてきたのだ。


 暑い日から寒い日。雨の日も雪の日も風の強い日だって、彼は会いに来た。それを遥は拒否し続けた。理由は単純。彼と会ってしまえば、自ずと兄の話となるだろう。そうなれば、兄がもういないことを認めてしまうような気がして…そんな自分勝手な屁理屈を理由に拒み続けたのだ。



 


 どれだけ心が強いのだろうか。────いや、強い訳じゃないのだ。それが目の前の彼なのだ。


 遥はそれを改めて悟った。彼は自分が“聖剣”を手にしたことを聞き、いても立ってもいられなかったのだろう。だから、ここに来た。遥の言葉を聞くために訪ねてきたのだ。



「───ごめんね。勇二くん」



 遥はポツリと呟いた。


「え…? どうしたの遥ちゃん」


 それに彼は戸惑った顔を向ける。


「いつも心配かけて本当にごめんね。わたしは…もう決めたから────」


 真剣な眼差しで遥は言う。本当なら先に打ち明けるべきだったのだ。ずっと自身のことを気遣い想ってくれた彼に真っ先に相談するべきだった。


「皆を守って、世界も救って、皆と全員で地球に戻る。それがわたしの目的。難しいことも厳しいことも分かってる。戦うことは怖いし危険もある。けれど、それでもわたしはそうしたい。だって、“お兄ちゃん”も見守ってくれてる筈だから、わたしは…なにがあっても諦めないよ」


 遥は自身の胸に手を置き、はっきりとした口調でそう述べた。

 遥の視線は彼へ、勇二の視線は遥へ。沈黙の中交差する視線は勇二が口を開くまで続いた。


「…遥ちゃんは強いね。俺はホントに不甲斐ないよ」


「そんなこと…!」


「───いいや。不甲斐ないよ。“彼方”の親友として、守らなくちゃいけない人をもっとも危険な場所に赴かせるだから」


 そう言って彼は奥歯を噛みしめ、感極まったように立ち上がって逃げるように窓際へと早足で向かっていく。


 外はもうすっかり暗くなっている。静かな暗闇が覆った外界は戦いなど血生臭い出来事なんてなかったかのように綺麗だ。美しい庭園に魔法の光が灯り、きらびやかな景色が広がっている。


 そんな景色を見ながら彼は言葉を絞り出す。



「───なんで…俺じゃなかったんだ…っ」



 小さなころから一緒に成長してきた勇二と遥。そんな彼女にも聞いたことがないほど、その声には言い様のない悔しさが滲み出ていた。

 反射した窓ガラスには唇を噛み締めた彼の顔。苦しくて胸が張り裂けそうな、そんな悲痛な表情の彼が写る。



「───っ!」



 それを認めた瞬間、遥は勢いよく立ち上がった。そのままの勢いで彼の元まで駆けていく。


「勇二くん!」


「!? は、遥ちゃんっ?」



 彼は驚いた表情を見せる。それもその筈。彼女は彼の背中に飛び付いて、顔を埋めたからだ。


 彼の背中は大きかった。身長は“彼方”と同じぐらいだったが、部活で鍛えた身体は本物だ。身近にいたせいでそんなことすら気がつかなかった自身を遥は恥じた。



「わたしは勇二くんがいなきゃここにはいなかった。ずっとずっと塞ぎ込んだままで学校にもいけなかった。わたしにとって勇二くんは本当に大切な人なの。だから…だからっ───一緒にいて欲しい…」



 これは遥の本音だった。

 自分を責めて、自分を恥じて、それを表に出さず皆の頼られる存在であり続ける。そんな兄とはまた違った不器用な“霧崎勇二”という少年に遥はそう願った。


 いつも側にいたからこそ。ちゃんと言葉にしたことはなかった。


 (ああ…そっか。リアさんが言いたかったことって…このことだったんだね)


 遥は力いっぱい両腕で抱き締める。自分の思いが彼に伝わることを願って、精一杯抱き締めた。


 またこの部屋に静かな一時が流れる。



 

「───そっか、俺は…ちゃんと助けになれてたんだね」


 

 勇二はぽつりとそう言った。その声には先程とは違った落ち着きが感じ取れる。


「ありがとう遥ちゃん。おかげで元気が出たよ」


「ううん、お礼なんていいよ。何も見てなかったわたしが悪いんだから」


「それは仕方がないよ。大切な人を亡くして悲しまない人はいないさ。今はそれよりも───」



 彼は言葉を切って、唐突に言いにくそうにしながら言葉を続ける。



「───そ、そろそろ離れてもらっても…」



「へ? ひゃわぁ!? そうだった!ご、ごめんねっ。つい勢いで抱きついちゃって!」



「…あーうん。俺の方は一向に構わな…げふんっ。うん、大丈夫だようん」



 慌てて離れる遥を尻目に頬を染めながら葛藤している勇二。男の(さが)か離れることに名残おさを感じながらも、どうにか押し止めることは出来たようである。


「うん、これでやっと決心がついた。───遥ちゃん。俺は君のサポートにまわるよ。遥ちゃんの決心を無駄にしないように、俺も全力で手助けする」


 気を取り直した彼ははっきりとそう言う。その瞳にもう迷いや憂いはない。いつもの頼もしい彼に戻っていた。


「…うんっ。ありがとう勇二くん。頼りにしてるねっ」


 その言葉に笑顔で返す遥。





 


 こうして、二人の間にあった小さなわだかまりは溶け、信頼関係がもとに戻り、一層強固なものとなった。


 明日から未知なる冒険が始まる彼ら。そんな不安や心配はお互いが補い合うことで解消できるだろう。二人で──いや皆で。力を合わせれば乗り越えられない壁なんかない。遥は改めてそう思った。


 小さな希望を胸に刻み、彼らは見知らぬ世界の冒険へと旅立っていく。





 …月明かりが綺麗な夜は静かに更けていった。

 






 なんかいい雰囲気になってる彼女らですが、それ以上になるかは分かりません。未定です未定。頭は良いくせに恋愛は不得手な彼女らなので、どうなることやら。

 まあ、切りがいい感じに終われたのでよしです。出発は来月ですね。まだ書けてませんが…(ズーン)。


 さて、クリスマスという平日も終わり、今年の終わりもすぐそこですね。年が変わったからって何かが変化するとも言えませんが、平穏にそこそこ楽しく生活できたらいいなとは思います。

 今年(11月)になってまたこの物語を再開することとなりましたが、来年は止まることなくノンストップでいけたら…いいな、とか考えています。とか言いながらすぐ躓く自分なんですが…。それでも着いてきてくれている読み手の方々には本当に感謝です。


 さて、今年も一年。ありがとうございました。来年もよろしかったらお付き合い下さると幸いでございます。来年もよろしくお願いいたします。また次回お会いしましょう。良いお年を!

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