表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【旧作】 Welcome into the world [俺の妹が勇者なんだが…]  作者: 真理雪
第三章【シスターズサイド・消滅都市編】
48/77

041 ― 王都の勇者たち 3 ―

 さて、12月になりました。この寒い日が続く中、皆さんはどうお過ごしでしょうか。自分は…仕事付けでした(白目)。まあ、前の職場よりはましなのですが。

 しかし、この時期は年末に向けて多忙な方が多い筈。これが少しでも息抜きになれば幸いでございます。


 では、どうぞ。


「あっ。やっと帰ってきたー!」


 王宮の中庭で誰かがそう発した。


 山吹色の髪を揺らし、元気そうに右手を振る少女は、明るい笑顔を浮かべながらその当の本人に気づいてもらえるようにぴょんぴょんとウサギのように飛び跳ねる。

 その姿を見た遥は驚き半分嬉しさ半分の表情をして、声をあげる。


「えっ? 亜衣!? 身体はもう大丈夫なのっ?」


「バッチリ完治ですよ奥さん! ていうか、はるはるの方が重症だったでしょうに」


「あー…うん。まあそうなんだけどね。でも、治って良かったよ」


 遥はほっと胸を撫で下ろす。

 目の前にいる暮野亜衣(くれのあい)は怪我を治すために王城内の治療所へと送られていた。

 遥と比べ重症に至らなかったものの、魔神の拘束に力ずくで抗ったためか魔力を吸われ、衰弱していたのだ。


 “魔神”とは───魔族など(・・)が過剰な魔力を摂取し、変質した者たちのことを言う。それは生身の人間が触れると何かしらの悪影響(・・・)が出ると言われており、今回の魔神は“魔力吸収”という、触れたもの──とりわけ拘束し“抵抗”してきたものを優先的に無力化する能力だったようで、勇二と亜衣、麻衣、美衣の四人は拘束され尚且つ抵抗してしまったが故に、吸収量が人一倍多かったようである。しかしながら、完治するまでの時間は勇二と美衣の二人がとりわけ早かった。それの理由として『“保有魔力”の違い』だろうと治療を担当した魔術師たちは口を揃えてそう言ったそうだ。


 何はともあれ、“魔族”とは一線を画す“魔神”。それは下級とは言えど人類にとって多大な影響を与える脅威と言えるのだ。


「───因みに麻衣もいるよ?」


「え? どこに───」


「はるにゃ━━━━━━━んっっ!」


 亜衣にそう言われ、探そうと視線を外したところで横から勢い良く誰かに抱きつかれる。


「会いたかったにゃあ~」


「び、びっくりしたぁ。麻衣も大丈夫そうだね」


「わたしは無敵だからねっ。いや、わたしたちは、だねっ」


「そうそう! あたしたちはっ───」





「「────無敵ですっ!!!」」





 ビシッと効果音が付いてきそうなほどバッチリと呼吸を合わせ、二人がバラバラのポーズを決める。息があってるのか合ってないのか…疑問が残る中、遥はその二人の決して挫けない性格を頼もしく思い、自然と笑みを溢した。


「やあ、帰ってきたんだね。遥ちゃん」


「あ、勇二くんっ。ここで防具の採寸やってるって聞いたんだけど…」


 そうやって仲良く話していると。横から声を掛けてきたのは、霧崎勇二(きりさきゆうじ)であった。

 遥はここで防具などの明日必要になってくるであろう装備品を揃えに来たのだ。



 明日の早朝、アリアたちが建てた訓練計画が始まることになっている。大変急な計画であるが、クラスメイトたちはその申し出に異を唱えることはなかった。

 そうして、彼らは王宮から支給された戦闘に使うであろう武器や防具、付加魔術(エンチャント)用の装飾品などを受け取りにここに集まっているのだ。


「うん。それならあっちの仮設テントでしてくれるよ。大体の皆はもう済んでるから待たずに出来るんじゃないかな」


 そう言って勇二はテントの方を指差す。それを見留めた遥は勇二にお礼を言って三人から離れていく。

 そのテントは仮設と言っても大きなもので、軍事用のものをそのまま使わしてもらっていると聞いている。

 入り口には案内役を兼ねてか兵士が数人立っており、近づく遥に気づいたのか、その中の一人が兜を脱いでこちらへと挨拶してきた。


「や。君がハルカさんだね」


「あ、はいっ。ってなんでわたしの名前を…?」


「ああ、名乗りもせず失礼だったね。あたしの名はミスティア・ベラトリックス。騎士団で副団長を務めている者だよ」


 挨拶してきた女性は、なんと騎士団の副団長という身分の高い立場にいる人物だった。


「えっ? 副団長さんですか!?」


「ははっ。そんなに畏まらなくてもいいよ。ただの肩書きだからね」


 そういって柔和な笑みを作る彼女はどこか優しい姉のような雰囲気を感じさせる。

 ブロンドの髪を三つ編みに束ね前に垂らした彼女の美麗な相貌とがっしりとした頼れる鎧姿は相反するものだが、それをものともせず堂々とした姿は“騎士”を連想させる美しさがあった。まあ、実際本物の騎士なのだが。地球生まれの遥にとってそれは新鮮でファンタジー好きな彼女にとっては感動もののことであったのだ。

 そんな遥を彼女は手招きしてテントの幕を潜らせると、中に待機していたもう一人に声をかける。


「ジュリィ。お待ちかねのハルカさんが来てくれたよ」


「ジュリィ…?」


 聞いたことのない名前に遥は首を捻りながら視線を向ける。そこには赤毛の長髪を靡かした女性が一人。どこかで見た顔だと考えた末、ぽんっと手を打って遥は声を出した。


「あ、ジルさんだ」


「あなたにその名を許した覚えはないのですが?」


「あう…ご、ごめんなさい」


 キッと睨まれた遥は蛇に睨まれた蛙のように縮こまる。


「まあまあ。いいじゃない減るもんじゃないし」


「…だから言っているんです。この名は主様からいただいた大切なもの。無闇に人に使われたくはありません───」


 慰めるミスティアを尻目に有無を言わさずそう述べた彼女は遥の方へと視線を戻し、


「私の名前はジュリア・ルミナリー。この王国騎士団の団長です。───名前で呼ぶか、あるいは肩書きで呼ぶか、どちらかにしてください」


 はっきりとそう言った彼女は、踵を返すとさっさと奥へと歩いて行ってしまう。

 それを見ながら肩を竦めたミスティアは気を取り直したように遥へと視線を戻して言う。


「ごめんね。ジュリィは真面目だけど堅物だから、あんな返ししか出来ないの。ホントは優しいんだよ?」


「い、いえっ。わたしも気が利かなくてすみませんでした。目上の方に愛称は不味いですよね…」


「うーん。それは人によると思うけどね。あたしはもちろん大歓迎だよ~」


 彼女は気さくに笑いウィンクしながら右手にわっかを作る仕草を見せる。それが彼女の大人びた見た目に反して可愛らしく見え、遥は自然と笑みを浮かべる。

 団長に対して副団長のミスティアはとても接しやすく、親しみやすい性格のようだ。


「はは、そうなんですね。また考えておきます」


「うん。よろしくね」


 そう話が一区切りしたところで、ミスティアは促すように言う。


「じゃ、いきましょうか。待たせちゃったら拗ねちゃうし」


「は、はい。よろしくお願いしますっ」


 遥は「拗ねちゃうんだ…」と厳しそうなジュリアを想像してからそのギャップに微笑ましいものを感じてしまう。それから、彼女は前を歩くミスティアの甲冑姿を追うようにして歩き出した。






 ーーー






「ええっと…採寸って聞いてたんですけど…」


 遥は大量に用意された鎧に少々尻込みしながら聞き返した。

 彼女の目の前にはハンガーラックに掛けられた革鎧が並んでいる。


「そうです。何か問題が?」


「ええっと…」


 遥は素っ気ない言葉を返すジュリアに少々たじろぎながら頬を掻く。

 その様子を見たミスティアはため息をつくと肩をすくめて口を開いた。


「ジュリィ…ちゃんと説明しないとだめでしょ。───ごめんねハルカさん。採寸とは言っても合うものを選ぶだけなの。さすがに1日だけでは全員分の装備を完全に仕立てるのは無理だから、ここにあるもので探してみてくれるかな?」


「あ、はいっ。なるほど、そういうことですか。分かりました!───じゃ、いってきますっ」


 遥は元気よく返事をし、踵を返してハンガーラックへと向かう。

 大量に並ぶラック群に突撃した遥の姿は早々に見えなくなってしまう。


 ここにある鎧は形としてはたくさんの種類がある。が、見回してみても革鎧のみであることが窺えた。何故だろうかと首を傾げていると、いつの間に近づいたのか、横から声が掛けられた。


「あなたたちは勇者と言っても素人同然。そんな人材に鉄甲(メタルプレート)製など与えては逆に身体を痛めてしまいます。ですので、ここには革鎧(レザーアーマー)しかありません」


「わっ。び、びっくりした…あ、ジュリアさん」


 ジュリアはその鋭い眼差しを遥に向けていた。不思議に思っていたことを言い当てられた驚きと、突然声を掛けられた驚きで二重に飛び跳ねた遥は彼女が声を掛けてきたことを意外に思い首を傾げる。

 そのまま何かを考え込んでいるように無言を貫く彼女は遥の背中に背負ったそれ(・・)を見ているようだった。


「あの…───」


「それが──聖剣ですか」


 無言に耐えられなくなった遥が口を開こうとしたのとほぼ同時に彼女は言葉を返した。


 王女様に託された聖剣は遥が背に背負うようにして携えている。それには刀身を覆う鞘はなく、布を巻きそれにロープを通しただけの急場凌ぎようなものであり、妙にしっくり来ない状態であった。


 なぜ、そんなことになったのか。これには仕方がない理由があった。


 “聖剣”は使う人によって形状に変化が現れる。それにより既成の剣鞘は役に立たない。今回は特にそうだった。“刀”という武器はこの世界では相当珍しい部類に入る。“魔獣”や“魔物”という人類にとって分かりやすい脅威が存在するこの世界では頑丈そうな武器が特に選ばれる。とりわけ、細身の曲刀というものは“魔獣”や“魔物”に対して頑丈さが低く見られがちで、マイナーな武器とされ使う人もそうそういなかった。

 そんな中で“聖剣”は“刀”という形を取った。それは遥の記憶から形作られたものであり、この世界にはある筈の無いもの。そんな珍妙な剣に合う鞘などそうそうあるはずがなかったのだ。


「…なんとも見栄えのしない姿ですね」


「あ…はは。そ、そうですよねー。聖剣って姿じゃないですよねこれじゃあ」


 遥は聖剣を背中から降ろし、彼女にもちゃんと見えるように両手に持ち変える。


「一応、王女様が合うものを作ってくれるとは言ってくれていたんですけど…今回は時間がないからって…」


 遥は手に持った“聖剣”を見つめ、少しの間口を閉ざす。一瞬浮かんだその表情はいろんな感情がない交ぜになったものであった。吹っ切れたと言っても、手に持ったこれを見ているとどうしても悶々と考え込んでしまうようである。


 そんな彼女をジュリアはどう思ったのか。どこか思案するような表情をして、右手を唇に添える。その無言の時間に意図を理解しかねた遥は首をかしげ、彼女に問い掛けた。


「どうかしましたか?」


「…あなたは──いえ何も。そういえば聖剣には昔、専用の鞘があったと聞いたことがあります」


「??? そうなんですか? 何も聞かされてませんけど…」


「私にも確証はありません。ただの風の噂程度ですから。ティアラ王女様が伝えていなければそう言うことなのでしょう」


 彼女はそう一頻り言い切ると話は終わりだと言うように長髪を靡かせて背を向ける。


「…鎧は軽量で動きやすいものをお勧めします。初心者には動きを阻害しないものが一番取っつきやすいでしょう。───…何事も考えすぎないように。私は隣で待っていますので、選び終わったら持ってきてください」


「へ?…は、はいっ。わかりましたっ。ありがとうございます!」


 ジュリアは横目でちらっとこちらを確認したあと無言で歩き去ってしまった。



「…もしかして気を使ってくれたのかな」



 遥はそんなことをふと思った。“聖剣”はこの世界の人々にとって救世主と同義の筈。それを持つことになった一人の少女の心情を考え、ジュリアは気遣ってくれたのかもしれない。

 ミスティアが言っていた“優しい”という言葉は本当のことのようである。


「うーん…。わたしそんなに顔に出てるのかな…」


 側にあった姿見で遥は顔をむにむにと弄くり回し、表情をコロコロと変え一通りやりつくした後、軽く両頬を二度叩いてから、よしっと気合いを入れ直した。


「さっ、考え込んでないでさっさと選ぼうっ」


 そういって遥は鎧選びを再開するのだった。




 すでにお気づきかと思われますが、タイトルを変更いたしました。改めて、よろしくお願いします。


 今回は少なめ…でしょうかね。次は長いです…多分。多分ねっ。自分でハードルを上げていくぅ。…というのは置いておいて。


 そういえば今回書いてて気がついたのですが、“遥”の一人称が漢字になっていたり、ひらがなになっていたりするのは、久々すぎてごっちゃになってるからです。申し訳ないです。また修正したいと思います。



 あと、今後の予定としては今回(投稿済み)と次回のをこの月に出したいと思っております。あと、できたら閑話も出したいっ。書けたら…ね。一応、年末の挨拶も兼ねて更新したいので…タイミングは調整すると思います。



 今回もお読みくださってありがとうございました。感想も本当にありがたいです。誤字脱字、または矛盾点など、気になることがあれば言ってくれると助かります。また次回もよろしくお願いいたします。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ