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【旧作】 Welcome into the world [俺の妹が勇者なんだが…]  作者: 真理雪
第二章【辺境の街 カノン】
45/77

[幕間]― 離れた街で ―

 これ書いてから思ったんですけど…もう少し後に差し込んでも良かった気がします…。あ、遅れてすみません…。




「…いい加減機嫌直しなさいよ。ステラ」


 紫の少女。魔女っ子スタイルが特徴的な彼女が目の前でふてくされている金髪の少女に諭すように言った。


「うう…だって…ルナちゃん」


「だってもへったくれもないでしょ。仕方ないじゃない。手紙にもその謝罪は書いてあったでしょ」


「そうだけど…」


 大人しい性格の彼女には珍しく機嫌がなかなか直らない少女を見ながら、ルナは嘆息しながら頬杖をついた。


 ───ある狐の小さな少女。その少女のことで彼女の親友たるステラは機嫌を損ねていた。


 まさに嵐のような事件がこの“カノンの街”を襲ってから丸二日。まだ街中には痛々しい傷痕が残るここではいろんな人々が駆け巡るようにして忙しく動いていた。

 復興途中のこの街ではまだまだ悲しみや不安など心配事が多々あった。が、もともとたくさんの人々が集まる街だからか、いろんな人材が終結し、復興は順調に進んでいた。皆、もとの活気を取り戻そうと一生懸命なのだ。


 彼女らも例外ではない。ステラは貴重な回復魔術が使え、ルナはあらゆる魔術に長けている。今の今まで二人とも街を駆け巡り復興の手伝いをしていたのだ。そんな中での貴重な休息の時間。たまたま冒険者ギルド内で出会った彼女らは二日ぶりに一緒に食事をしていたのだった。


 そんな中で話題に出たのが、突然いなくなった少女のことであった。

 あの事件が終息して、その翌朝。彼女は忽然と姿を消したのだ。


 もともと、この街には王都へいく道のりの過程で立ち寄ったと聞いていた。王都へ入場するため冒険者ギルドで“ギルドカード”を発行してもらい、そして旅で必要なものを調達するためこの街に訪れたらしい。それら全て達成すればこの街を出るのは当然のことである。しかし───


 (確かに…ステラから文句が出るのは仕方ないかもね。出るなら一言ぐらいあっても良かったのに)


 ルナはその事実を知った時のことを思い出してそう思った。


 彼女が出ていったと知ったのは事件から翌日の昼頃である。ルナやステラにギンの若者三人集は決して少なくない魔力を消費し、動き回っていた付けが今さらになって回ってきたようで、昼間までひたすら爆睡してしまっていた。そうして起床した彼女らは店主のナズナから朝早くに出ていった旨を聞かされたのだ。


 そうして気落ちしていた彼女たちはステラの部屋に意図的に見つけられるように置かれていた“手紙”に気づいてそれの中身を知る。


 内容はいたって単純で、挨拶もなしに出ていったことへの謝罪から始まり、復興を手伝えないことへの謝罪と皆に向けてのお礼の言葉が書かれていた。


「…まだ。お礼すら言えてないのに…」


 と、ステラに至ってはこんな調子である。


 冷たい言い方かも知れないが、街を出ることは人の勝手であって、ステラやルナが文句を言える立場ではない。もともと“冒険者”は一つの街に止まることは少なく、その上ここ“カノンの街”は入れ替わりの激しい街である。経験上、それは二人とも承知の上だった。しかし、人たるもの、そう易々と切り替えられるわけがない。少なからず不満は出てこよう。そんな中、パーティメンバーの一人、ギンは「次会った時までに力をつけて驚かせてやるぜっ!」と威勢よく意気込んでいたのを彼女は知っている。そこまできっぱりと切り替えられる性格をそうそう見習えるとは思えないが、少しだけ羨ましいと思うルナであった。





「────こんなとこにいやがったかっ!探したぞ!」






 そこへ、ドタドタと騒がしい声が聞こえてきた。その当の人物はお店へ入店するや否や彼女らの…いや、ルナの顔を認めると慌てたように近づいてくる。


「…げぇ。何であんたがここに来るのよ」


「そんなあからさまに嫌そうな顔をするなよ。一緒に戦った中じゃねぇかっ」


 隻腕の大男は痛々しい見た目と反して笑顔で親しそうにルナへ話しかけてきたのだ。


「…え、ええっと…」


 それに戸惑うステラは関係性が理解できず、視線を彷徨わす。


 その突然の闖入者の名は“バギー”。過去に幾度となくセーラを仲間にしようとし、いちゃもんを付けて来ていた人物。ステラやルナにとっても忌み嫌われいた男なのだ。


「……そんな目で見つめないでステラ。経緯は説明するから」


 戸惑いを隠せないステラの視線を耐えかねてルナは顔を反らしながら言い訳がましくそう言う。


 


 それまでの経緯。ルナは心底嫌そうな表情をしながら、ポツリポツリと語りだした。


「──あたしがこいつの監視役になったのよ」






 ルナは一昨日のことを思い出す。彼女たちが目を覚まし、“キュレア”のことを聞かされた後のこと。ルナは訪ねてきたギルドマスターの“使い魔(ファミリア)”に呼ばれ、冒険者ギルドに赴いていた。

 そこには、ギルドマスターと副ギルドマスター。そして、今回、騒ぎを起こしたバギーが部屋に拘束されるようにして揃っていたのだ。その面子を一目見てルナは何故ここに呼ばれたのか悟った。



 ここには居ない“キュレア”と名乗る少女。そして、ルナとバギーにその舎弟二人組。彼らが出会った“黒い化け物”について、ギルドマスターは聞いてきた。


 ギルドマスターたるルシエラは既に確保されていたバギーにある程度は聞いていたようで、それの確認と良く分からない言葉について尋ねてきた。それは───“降天球”。


「? ギルドマスターも知らないの…ですか?」


「全く知らないという訳ではないわ。名前を聞いたことがある程度ってことね。一千年前の歴史書にそんな名前が出てきた気がするのよ」


 彼女が言うには、昔馴染みの(つて)から“初代勇者”が活躍した時代のその歴史を纏めた書物を見せてもらったことがあった。それに辛うじて言葉だけが乗っていたという。その意味や形状など詳しくは記載されていなかった。不思議に思ったルシエラはその知り合いに聞いたが、その人物も首を横に振り、結局、分からず仕舞いだったらしい。



 ルナが見た“降天球”と呼ばれたもの。と言ってもそう呼んでいたのは、唐突にここを去ってしまった彼女だけであり、それを渡され使用したバギーも上手く誤魔化されたとかで名前すら知らないのが現状だった。

 とにかく、ギルドマスターは証言だけではどうしようもなく、物的証拠がなければ、罪状すらも決められないと。彼女ら自身が調査する間、彼に猶予期間を儲けることにした。その間の監視役にルナへ白羽の矢がたったのだ。






 説明を一通り終えると、傍らに置かれていた水を一気に飲みほしてテーブルに置く。それには少しの疲れと苛立ちが見てとれるものだった。


「急に呼ばれたと思ったら、そんなことがあったんだ…」


 ステラは両手でコップを持ち、感慨深げに呟いた。


「悪かったわね。説明しようにも時間もなかったし、落ち着いたら言おうとは思ってたんだけど」


「ううん。大丈夫だよ。忙しかったのはお互い様だし…」


 と、言う彼女は横目で大男を見ている。その表情は少々複雑でなんとも言えない感情が現れていた。


 ルナにとってもこの男のことを許した訳ではなく、消去法で致し方なく監視役になったに過ぎない。だが、そんな気も知らずに話しかけてくる彼をほっておく訳にはいかず、嫌々ながらもこの仕事を請け負っているのだ。


「──で、何よ。あたしたちは休憩中なんだけど」


 少々ドスの利いた声で頬杖を付きながらルナは聞く。二人っきりの時間を邪魔されたのが相当頭に来ているようである。


「…あーと。邪魔してすまねぇな。けどよ、さすがにこれを後回しにする訳にはいかねぇと思ってな」


 流石にその視線に後ろめたい気持ちになった彼は頭をぼりぼりと掻く。そうして、無造作にポケットに入れていた白い紙のようなものを取り出してテーブルに置いた。


「…何よこれ」


「あの教会にあったものだ」


「はぁ!? あんた教会に行ったわけ!?」


「いや行こうと思って行ったんじゃねぇぞっ! 警邏してたらたまたまそこを通っただけだってっ」


 ルナの責めるような声に慌てて訂正する今のバギーには前の横暴さが鳴りを潜めており、妙に神妙で真面目そうな雰囲気があった。


「こほんっ。えっとだな…。たまたま帰り道に教会の前を通ったんだ。お前と俺様で確認しに行ったときは何もなかったんだが…入り口の扉に白いものが挟まっているのが見えてな。それがこれだったんだ」


 そういって視線を落とす彼。ルナとステラも同時にそれに目を落とす。

 それはシンプルな白い便箋だった。差出人は書いておらず、慎重に裏返してみると宛名には“ルナさんへ”と書いてあった。


「え? あたし?」


 訝しむ彼女に二人の視線が集まる。


「…あんた中身見てないのよね?」


「あ? 当然だろ。人の手紙を勝手に見るかよ。それに、あの妙な教会のシスターが書いたもんだろ。どんなトラップが仕掛けてあるか分からねぇしな。俺様は魔術関連にはからっきしだしよ」


 彼はそういって肩を竦める仕草をする。

 確かにあの出来事を見て警戒しない訳がなく、魔術的トラップが掛かっているという予測も(あなが)ち間違ってはいない。実際、この便箋には人為的魔力が少量ながらまとわりついており、ルナはこれに警戒していた。


 (…? バギーさんって少し感じ変わった…?)


 (え? そう?)


 (う、うん。気のせい…なのかもしれないけど。なんだろう…真面目になったようなそうでないような…前はもっとガツガツくるタイプじゃなかったかな…?)


 バギーの様子に不思議に思っていたらしいステラは不意に小声でルナにそう尋ねてきた。

 ルナは少し考えた後、彼女にこう説明する。


 (…あいつなりに恩義を感じているらしいわ。もうあたしたちには関わることはしないって。だけど、恩は返したいから助けがいるときは言ってくれって言ってたわ)


 バギーとはギルドマスターからの事情聴取の後、面と向かって話をしていた。その時の真面目な表情は今までの雰囲気とは一転していてルナも相当驚き、面食らったものだ。

 まだ信用することなんて出来ない、と返答するとそれも承知の上でのことだったようで、あの出来事は彼に多大な影響を与えたのだと、ルナはそう感じていた。


 (そうなんだ…。わたしは実際に見ていた訳じゃないけど。それで心を入れ換えたということなのかな…?)


 (さぁ? どうでしょうね。執念深いこいつのことだからすぐ手のひらを返すことはしない…と思いたいけど)


 結局のところ。信じるか信じないかは自分自身で決めるしかない。彼女らのリーダー、セーラと会えない以上、彼とはそれなりに付き合っていくしかないのだ。


「…で。問題はこれよね」


 ルナは考えを打ち切り、(くだん)の便箋を手に取る。

 そして、おもむろにそれを開封した。


「おいおい。開けちまって大丈夫なのかよ」


「開けないと始まらないでしょ。それにあたしに向けての手紙なんだからあたしにトラップが起動したら本末転倒でしょ」


 と、彼の顔を見ずに言いながら、中から丁寧に折られた手紙を取り出す。


「あたしが先に見るからちょっと待ってなさい」


 そう言ってから彼女はそれに目を通していった。


 それには────




 “ルナさんへ”


 お元気でおられますでしょうか。あの出来事から数日、復興への手伝いでお忙しいかと思います。


 この度、こんな手紙を認めさせてもらったのは他でもありません。貴女様に“疑問に思っているだろう一つの事象”についてのご説明と“ご忠告”をと思い、ここに書かせて貰いました。上手く手に取ってくれると良いのですが。


 前者についての説明としましては、わたくしたちについての“記憶”が消されている(・・・・・・)のはわたくし自らしたことでございます。恐らく、常人の理解できる範囲を越えているかと思われますが、わたくしにはそれを行う為の力があるのです。

 わたくしの素性は何か。それは秘密でございます。それを貴女方に伝えたところで有意義なこともないでしょうし、何より無闇に奈落の底に引きずり込むなんてことしてはいけないでしょうから。ですので、わたくしのことはどうかお忘れになって下さい。何故、貴女と彼は記憶を消さなかったかと言いますと、わたくしの力を見た者を消すには物理的(・・・)な方法しかないのです。貴女方を消すことはわたくし自身したくはありませんし、無闇に手を汚すこともしたくありません。ので、他言しないようお気をつけください。


 長々と語ってしまいましたが、忠告の方へと移りましょう。

 これはルナさん個人へ向けた忠告です。──“エルヴィス”の名前。そして、“魔女の子孫”。その言葉を騙るのは止めておいた方が宜しいと思いますよ。貴女の過去に何があったかは存じ上げませんが、わたくしは貴女を無くすのは惜しいと思っております。もし危険を承知でその名を使い、貴女の求める真実を追い続けるならば、貴女の“その力”を使いこなせなければ辿り着くことは出来ないでしょう。なので、一度とある人物(・・)とお会いすることをお薦め致します。貴女が望むなら、皇国を訪ねてみてくださいね。


 因みに、この文章はルナさん以外には見えないように魔術をかけてあります。言うか否かは貴女に託しましょう。


 では、ご機嫌麗しゅうお過ごしくださいませ。



        “シスター・マリナより”





 ──── 一頻り読み終えるとルナはその紙を無言で握り潰した。




「えっ? どうしたのルナちゃんっ」


 その彼女の豹変ぶりにステラは驚いて声を掛ける。


「…あーと。なんでもないわよ」


「なんでもないってなんだよ。変なことでも書いてあったのか??」


「別に…。記憶を消したと書いてあったわ。あたしとあんたの記憶を消さなかったのはめんどくさかったからだって」


 彼女はぶっきらぼうに返答して手紙を便箋に直す。

 

「…そうだったのか。やっぱりあのシスターは何かしらあった訳だな」


「そ。相変わらず素性は明かす気はないようだけど。命が惜しければ調べることもするなと書いてあったわ」


「なんだそりゃ。藪はつつくなってことか。余計なことはしない方がいいな」


 バギーは渋々納得した様子で嘆息する。相手は未知なる力を持った人物だ。怒らせれば命の保証はないと身を持って知っているのだろう。


「えっと…記憶? 消した? シスター??…なんの話??」


 そこで一人取り残されている彼女が声を出す。困惑した様子でどう話に入っていいか分からない様子だった。


 ルナはそれを見て改めて思う。世界には未知なるものが溢れているのだと。


 ルナとバギーは異変について既に気づいていた。確認しに行った教会は既にもぬけの殻でもともと使われた形跡もなく廃墟になっていた。ギルドマスターや冒険者たちに聞いても教会やシスターを知るものもなく、懇意にしていたステラさえもこの様だ。


 “黒の脅威(ダークメネス)”と“降天球”。それに、突然現れた“精霊殺し(スピリットキラー)”とただのシスターと言い張る“マリナ・カニス・テレス”。それに、恐らくは“キュレア”もそちら側なのだろう。


 今回の事件にはそれらが集まり過ぎていた。…不自然な程に。

 自分が知らないものが次々と現れては、泡のように消えていく。


 恐らく、ルナ自身が追い求めるものも…それだ。




「───皇国…ね」




 彼女は人知れずそう呟いて、頭の棲みに置いておくことにする。決して、忘れることのないように目印を付けて。そうして、彼女は今しなければいけないことをするため席を立った。


 

 皇国→正式には“聖フォルトゥナ教皇国”。(仮)


 と、一応書いておきます。ちゃんと出てくるのはまだ先ですので、仮名です。もしかしたら変えるかもしれませんが。


 あと、セーラがいない理由はルシエラがまだ軟禁してるからです。親バカなので先の戦闘で無理したのに相当頭に来ているようですね。



 と、捕捉はこれぐらいかな。


 どれぐらい見てくれているかは分かりませんが…本編の方がまだ書けてません…。今月には出す予定ですのでご容赦の程を…ょょょ。

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