038 - 終幕 -
少し出遅れちゃいましたがっ。こんにちは!真理雪です!
と、言うわけで終幕です…。ここまで3年ほどかかってますよ…スローペースとは言いましたがどれだけかかってるんだって話ですよね…。
そこはさておき、まずは見てもらいましょうか…では、どうぞ!
小鳥の囀りが聞こえる。少ししらみかかってきた夜空にはちょうど朝日が顔を出し始めたところで朝の爽やかな風が少し肌寒い。
俺は一階で借りてきた洗面器で顔を洗い。朝日を跳ね返して煌めく長い髪を鋤く。
「ふぅ…。めんどくさくなってきたわね…これでいいか…」
溜め息まじりにそう言い近くにあった椅子に腰掛け一休みする。俺は朝早くから一応…身嗜みを整えていた。女になってからと言うもの長い髪や尻尾の毛並み、耳の毛などお手入れしなくてはならないものが増えもともと面倒臭がりだった俺は嫌々ながらも最低限のことはしなくてはいけなくなった。男だった時は省略していたこともしなくてはならず、始めは面倒くさくてやらなかったこともしばしばあった。しかし、その度にアホ神がプンスカと怒り強制的にやらされると言うループが度々あったのだ。まあ、そのお陰で外に出ても恥ずかしくない所まで成長したと言えるのかもしれないが…。
「…本当は肌の手入れまでしろって言われてるけど…まあいいわね。…めんどいし」
そもそも俺は神の神体である。普通の人間とは出来方が少々異なる。少し汚れただけではそうそう不潔になることはない!……筈…。
「って、長々と考えてる暇はないわね。早く用意して出発しないと遅くなるわ」
俺は立ち上がり一人用の質素なベッドに広げていた物を白のシンプルな麻袋に詰め込み始める。
「えーと、三日分の水と食料と…あとお金…ギルドカードも入れておきましょうか…あとは───」
俺は一つ一つ確認しながら袋に詰めていき、最後に残ったある物に手を伸ばす。
「──朱玉…か…」
それは俺の手のひらでは少し大きい、透き通るように赤く燃えるように輝く一つの球。それは自分の師、ルージュが俺に託した赤竜の心臓。魔獣にも魔石と言うものがあるが…そんなものとは月とスッポンぐらい格が違う。ルージュを神竜の域にまで至らしめた…謂わば神竜ルージュの命そのものであった。
俺はそれを細めた目で見つめ昨日の夜のことを思い出す。
ーーー
────あの後、俺と竜は霊峰近くの森深くに落下していた。
木々を押し潰し、地面に大きなクレーターを作った竜…ルージュは地面に力なく横たわる。そんな巨体が静かに鎮座している様子は圧巻の一言に尽きる。
「ルージュ!ねぇ!ルージュっ起きなさいよっねえ!」
そんな動かない彼女を見た俺は慌てて駆け寄る。
『…そんなに大声を出さなくても聞こえているぞ九尾殿』
頭に響くようにして聞こえる言葉。それは念話と言われる声と言う音の伝達を必要としない会話の一種でテレパシーとも言われるものだ。もともと竜種は言葉を話すことが出来ない。しかし、それを可能にしたのが念話と言うものでその概念を作ったのも竜だと言われていた。
『ふふ…我ともあろうものが不様なところを見せたな…。申し訳ない』
「ルージュ…なんで…なんでこんなこと…」
俺は歯を食い縛りながら言葉を紡ぎ出す。
『……言い訳はせんよ。我は負けたのだ何者か分からぬ奴にな』
「……それは…もしかして、フードを被った怪しい奴よね…?」
『ほう、そうか。そなたも知っておったのだな』
「ええ…偶々だけどね…やっぱりアイツが…」
俺は悔しさに一層力を込める。
その様子を見たルージュはフシューと竜特有の溜め息をつき言葉を続ける。
『…そんなに考え過ぎない事だ。そなたのせいではおらぬからな』
「でも…私は───」
『───調律者だからか?それとも九尾だからか?そんなもの関係無かろう』
彼女は俺の言葉を遮り、はっきりと否定する。
『…これは負けた我の罪だ。そなたは関係無い。…これは調律者だからと言ってどうにか出来たものでもない。神竜たる我が負けたのだ。──そなたなら勝てたとでも?』
「そっそれは…」
彼女の言う通りだった。俺の師である彼女が負けた事実が有る限り神竜ルージュに勝利したことのない俺が勝てる筈もないのだ。
『…少し言い過ぎたか…。ふ…どうもこの姿だと調子に乗ってしまうようだ。謝罪しよう』
「…謝らないで、貴女が言ったことは事実よ。私がでしゃばったところでどうにもならなかったでしょ…」
俺は半人前だ。この九尾になってから約十年余り…初めは引きこもっていた俺だが気を紛らわすため徐々に修行をしだし今ではここまで成長するに至った。だが、足りない。調律者たる俺、上級神たる九尾、そのどちらもが…まだまだ修行不足なのだ。
俺はそんな現実に顔を俯かせた。
『…時に九尾殿。そなたに一つ頼みたいことがある』
「?…頼みたいこと?」
『そうだ。そなたにしか頼めぬものでな。…我が娘“ルビー”を助けてやってくれぬか…?』
「! そう言えばルビーは今何処に…」
彼女がその名を口にしたことで俺も同時に思い出す。ルージュにはルビーと言う娘が一人(?)いた筈だった。ルージュがこんな有り様でルビーが無事な筈がない。
『心配するな。ルビーは我が逃がした。しかしだ…あの子はまだ子供だ…。そなたが向かう先王都へ行けと言ったが辿り着けるかどうか分からぬ』
そこで彼女は言葉を一旦切ると瞳を閉じ、何かを念じるようにして力を貯める。彼女の赤い鱗から魔力が発され、それが俺の目の前に浮かぶように集束していく。
『…これを受け取ってくれ九尾殿』
そう言って差し出す彼女。俺は赤く輝くそれを受け止めるように右手を出しそれを受け取る。
赤く輝く水晶。内側で揺らめくように煌めく炎は仄かに発する光となり優しい暖かさを秘めている。
「これは…もしかして…」
『…うむ。そなたが考えている通りのものだ。それがあればルビーも引かれ合いそなたの元へ辿り着けるだろう。そして──あの子が成長した暁には…それを渡してやってほしい』
彼女は淡々と述べる。しかし、我が子の話をしだした彼女からは節々から悲壮感が伝わってきた。
『そろそろ…だな…』
彼女が終止符を打つように呟く。俺ははっと俯いていた顔を上げその巨体を見上げた。彼女の身体はもう限界のようで此処彼処から黒い霧が立ち上ぼり否応なく死と言う事実を叩きつけられる。
「ルージュっ!」
『ふ…そんな顔をするな。誰にだって終焉はある。我の終焉が今だったと言うだけだ。我は…満足だぞ?』
俺は彼女の名を叫び抱き着く。彼女の暖かさが消えていくのが分かる。目尻に熱いものが溜まるのを感じた。それが溢れるのも構わず俺は言葉を絞り出す。
「わっ私は…まだっ貴女に…何も返せてないのにっ…」
『……恩返しと言うものか?ふふ…人間とは面白いものを考え出すな』
俺の悲痛な言葉に対し彼女は逆に楽しそうに笑う。
『先程も言ったであろう?九尾殿。我は満足だと。そなたと生きた十年間。本当に楽しかったぞ。礼を言いたいのは我の方だ』
「…る…るーじゅ…?」
『ふふ…何を不思議な顔をしている?…最後にそなたに会えた我は…幸運なのだろうな。ちゃんとそなたに…言葉を残せるのだから───』
───我と共に生きれてありがとう。これからはそなたの信じた道を進め。楽しむのだぞ人生を───
ーーー
俺はその朱玉を袋ではなく自身の袖に大切にしまう。これは絶対無くしてはならないものだ。この麻袋に入れるよりこちらの方が安全だろう。
「よしっ準備完了。いきましょうか」
俺は桜を腰に挿し、麻袋を肩に掛けるようにして提げる。そしてその上から深緑の外套を羽織った。
床に置いていた洗面器はそのままでいいと言われているのでこのまま置いておこう。
俺は年季のはいった扉を開け部屋を出る。結局、二回しか使わなかった部屋だったが俺にとっては使いやすく古臭くはあったがその古さが何だか落ち着く場所であった。またこの街を訪れることがあれば厄介になろう。俺はそう密かに決めながら扉を閉め一階へと降りる。
「もういいのかいキュレア。あの子たちに会わなくて」
お金を支払うためカウンターに来ていたナズナさんに俺はそう聞かれてしまう。
「はい…会ってしまったら別れづらくなりそうなので。これはこれでいいと思ってます」
「そうかい。あんたが納得してるならそれでいいさね。またこの街に来てくれるだろう?」
ナズナさんは笑顔で俺にそう聞く。
「…はい。機会があればまた御厄介になるかと思います」
「ならよかった。…行っておいで身体には気を付けるんだよ」
「分かりました。短い間でしたが、ありがとうございました。…いってきます」
俺は彼女にそう言うと背を向ける。外の通路に面している扉から出るとそれを見計らっていたかのように声が聞こえた。
「やっほー狐ちゃんおはよう。いい朝ねぇ~」
「…やっぱり居ましたか…ギルドマスター…」
俺はその間延びした声を発した方向へ振り向き、溜め息をつきながら彼女を見る。それは一人の女性。右手をひらひらとこちらに振りながら蒼い髪を朝の風に靡かせて歩いてくる。
「そんな堅苦しい呼び方しなくていいわよ?名前で呼びなさいな名前で。わたしたちの仲じゃない」
「別に貴女とは仲良くなった覚えはありませんが」
「くっ…手厳しいわね。今のはなかなかダメージが大きかったわ…」
彼女は何故かお腹を抑えその場で項垂れる。うーん…流石に言い過ぎたかもしれない。
「…セーラさんの容態はどうですか?重傷でしたでしょう」
「大丈夫よ。お陰様でね。わたしのヘカテーと貴女の回復魔術で殆ど完治しているわ。まあ今は大事をとってギルド内で監禁してるけど」
彼女は俺の言葉に対し軽く笑いながらそう答える。その様子に俺はほっと胸を撫で下ろした。あの後ギルドへ戻った俺はギンさんもそうだったがセーラさんも重傷だった。ルシエラさんの使い魔で大分回復していたとはいえ重傷にかわりはなかった。その為念には念をと俺が回復魔術で治療したのだ。
「で?なんの用ですか?私は先を急いでいるんですが…」
「…うん。まあ大丈夫よ。そこまで時間を取らさないわ。───貴女には改めてお礼をするためにここに来たのよ」
復活した彼女はそう言ってある物を差し出す。俺はそれに首を傾げながらも受け取った。
「これは…手紙…ですか?」
「王都への紹介状よ」
「紹介状…?」
「そう。それがあれば王都の検問をパスして中に入れるわよ。ギルドカードでもいけるけど…並ばないといけないからね。今は厳重な警戒体制が牽かれているし凄く時間がかかるのよ」
俺は彼女の意図を聞きなるほどと相槌をうつ。確かにこれなら時間短縮になるかもしれない。
「それともう一つ。これは今回の報奨金。少ないけど持っていきなさい。お金はあっても困らないでしょ?」
「…え?…私にですか?」
「ええ…貴女に。どうせ何も言ってくれないでしょうから聞かないけど?これはせめてものお礼よ。こんなもので返せるとは思ってないけどね」
「……いいんですか?私はてっきり貴女に信用されてないものだとばかり思っていたんですが…?」
「ん~?そう思われていたのね…まあ無理もないか。確かに、わたしは貴女を警戒してるけど、それとこれとは話が別よ。今回のことは貴女がいなければこの街は──わたしたちはここにいなかったでしょう。だから少しでも貴女の役にたてればと思って用意したのよ。遠慮なく持っていきなさいな。返された方が困るしねっ」
勢いよく彼女は俺にそれを押し付ける。ずっしりとした重みのある小袋。その中にはたくさんのお金が入っているのだろうことが窺えた。
「……分かりました。ありがたく貰っておきます」
「ええ、そうしなさい」
俺が渋々と受け取ると彼女はいい笑顔でそう締めくくる。
「……その…復興…手伝えなくてすみません…」
俺は唐突に謝罪を口にする。とても気にかかっていた事だった。助かったとは言えこの街はほぼ半壊状態だと聞いていた。それでもいい方で実際はもっと多くの被害が出てくるだろうと誰もが予想していた。
「気にしないでいいわよ。こちらはわたしたちに任せなさい」
「……ですが…」
「何うじうじしてるのよ。そんなことしてたら抱きついてもふもふしちゃうわよ?特に尻尾を」
「!?(ビクッ)」
「驚いた顔も可愛いわね狐ちゃん?」
「誤魔化さないでください…」
「誤魔化してないわよ。本当に気にするなって言ってるの。貴女は…貴女の道を行きなさい。この街はわたしたちの街。こんなところで終わるわけはないから。ね?」
彼女は自信満々にそう言い放ち、ウインクする。美人な彼女がそんな仕草をすると凄く絵になり不覚にも少し見とれてしまった。
「……ふう…。分かりました。では、あとはよろしくお願いします」
「ええ、任せなさいな」
俺は一度大きく息を吐き笑顔でそう言うと彼女も変わらず笑顔でそう返してくる。
「また会いましょう。小さな狐ちゃん」
「ええ、また」
俺は踵を返すと一歩一歩歩みを進める。ずんずん遠退いてくる彼女の気配を後ろで感じながら俺は街の出口へと向かう。
出発した当初は予想だにしていなかった出会いと、唐突なる別れ。まだまだ旅は始まったばかりだと言うのに駆け抜けるようにして過ぎ去ったこの三日間は大変ではあったが、自身にとって大事な出来事だったと自負している。
「前途多難ね。ホントに…」
そう嫌みのように呟いた俺は口角を上げ小さな笑みを作っていた。
と言う感じでの締め括りです。まあ不満点などいろいろありそうですが…一応やっとこさ節目まで書ききりました。ここまで着いてきてくれた方々…感想をくれた方々…本当にありがとうございました。自然消滅してもいいぐらいスローペースでしたが…ここまで書けたのは読者様のお陰!ホントーに!ありがとうございます!
ということで話が変わりますが…。これからの予定ではですね。
幕間、人物紹介など⇒三章(遥ストーリー)⇒主人公ストーリー
と考えております。幕間では書ききれなかった補填ストーリーなども書きたいなと考え中です。あと、投降済みストーリーも少々変えていくかと思われます。やっぱり読み返すと変だよな~と言うところがたくさんあるんですよね…。
と長々と語ってしまいましたが…ここまで読んでくれてありがとうございました。まあまだ物語は終わりませんが…これからも引き続き見て楽しんで貰えると嬉しいです!では、また次回もよろしくお願いいたしますー!