036 - “守り神”キュウビ -
おはこんこんばんわ!サブタイに絶賛悩み中の真理雪です!
やっと投稿できました…。本当は日曜日予定だったんですが…風邪をひきまして。それに今回は…長いです。文字数8000超えましたからね。始めてですねはい。主人公をかっこよく出そうとしたら長くなってしまって…。まあ、それは読んでもらったら分かるでしょう。では、どうぞ!
街は半壊状態と言っても差し支えないほど破壊されていた。この状態で耐えられているのは奇跡としか言いようがない。
分散してどうにか応戦している冒険者たちだったが…彼らも人間だ。限界が間近に迫っているのは目に見えて明らかだった。その上既に一部の冒険者たちからは応答がなく、この惨状の元凶である“黒い脅威”は行方知れず。───八方塞がり、はたまた絶体絶命、万事休す。そんな負の言葉が思い浮かぶこんな現状で、それでも諦めたくない二人がいた。
「ふう…どうにかなったか…」
彼はため息を吐き、白の刃に滴る赤い血を払うように一振りしてから鞘に納める。
「はぁ…ほらよ。取り敢えずこれで涙を拭いとけ。…大丈夫か?怪我とかないか?」
彼…銀狼族のギン・ルーパスはそう言って布切れを渡す。それは服を破いたお粗末なものではあったが先に涙を拭こうとしてくれるのはギンくんらしいなと彼女は少しだけ胸が暖かくなるのを感じた。
「……ギンくん…ありがと…。怪我はないから大丈夫だよ…」
「そうか。はーっ良かったぜ…一時はどうなるかと」
彼は心底心配したようで大きなため息を吐きながら胸を撫で下ろす。凄く心配させたようでステラは申し訳ない思いで一杯になった。
「うう…その。ごめんね…勝手なことして。心配させたよね…」
「ふぅっ。まあ大事ないなら俺は良しだ。ハウルとかは煩いだろうけどな。それはステラがどうにかしてくれ」
彼はそう言うと背を向け、文字通り瞬殺させた魔獣を確認する。そうしながら彼はこちらに顔を向けずに口を開いた。
「あーその…。その二人は残念だったな…。だけど、それはお前のせいじゃねえよ。お前は最善と思うことを精一杯やったんだ。人の生き死にのことだ、胸を張れとは言わないが…謝りはするな。それは精一杯やった自分自身を否定することになる」
ギンは所々詰まりながらも言葉を紡ぎ、そこまで言うと立ち上がって扉の方へと歩いて行く。
「行くぞステラ。まだ俺たちは生きてるんだ。だったら…やりたいことをやりきってやろうぜ?二人でな」
彼は恥ずかしかったのか、少しだけ視線を彼女に向け直ぐに逃げるようにして目を背けた。
そんな彼をステラはポカンと見つめ、それからふっと微笑んだ。
「ありがとう。ギンくん」
ーーー
ギンが言うには今の魔獣たちはいつもとは違うらしい。
例えを上げるならば…
一つ、異常なほどの狂暴性でいつもならば人間を見ると逃げるか反応を示さない草食魔獣までも人間を狙う。
二つ、異なる種の魔獣たちの筈なのに一定して人間だけを襲う。
三つ、痛みを感じないのか致命傷の筈の深手でも生き延びる生命力。
実際に戦ったギン曰く、“屍みたいな魔獣”だったという事だ。
「……それって…やっぱり“黒の脅威”のせいなのかな…?」
「さあ、どうだろうな。俺はそちらに参加させてもらえなかったから…どうにも…。…大丈夫かセラ姉…」
ギンは心配そうにセーラの名を呟く。彼はまだまだ力量が足らないと判断され、討伐部隊には入れてもらえなかった。彼は仕方ないと諦めてはいたのだが、やはり家族のように慕ってきた彼女のことはどうしても気になってしまう。
ステラとギンは一階に降り、入り口付近で扉の影に隠れながら外の様子を窺っていた。そこでふとギンが気になることを呟く。
「ん…?魔獣が…いないのか?」
辺りにのさばる様にいた魔獣たちが何故か影も形もなくなっていたのだ。ステラも辺りを見回し確認するがどうやら本当にいなくなってしまったようだった。
「え…?何でだろう…さっきまではいたよね…?」
「ああ…。…俺もここに来るまでに何体か倒してきたから…その筈なんだけどな…」
煙のように消えた魔獣たちに二人は首をかしげるが、どう悩んでも答えは出てこない。とにかく、ここから動こうと言うことになり彼らは宿屋から急いで脱出する。
「メインストリートに出るぞ!そこからならギルドまで一直線だっ」
「うん、わかった!」
最低限の掛け合いをし、道を急ぐ二人。
その選択は必然だったのか…それとも偶然だったのか…。それは定められた道筋の様に邪魔もなく、自然過ぎて不自然なほど彼らは中央通りまで何の妨害もなく戻って来てしまう。
そこで二人は予想もしていなかった場面に出くわしてしまった。
────ギャォォォォォォォォォオオオオッッッーーーーーーー!!!!!!───
突然響いた耳をつんざくような鳴き声。どんな強者でも圧倒される程の威圧感にどんなものでも押し潰しそうな程の圧迫感。
そんな声に彼らは耳を抑え、耐えることしか出来ない。
「な…何…?」
状況が分からず、彼らはその元凶へと視線を向ける。
それは、この世界で一番有名な君臨者。“竜”───それが何故か群がった魔獣どもをその巨体で踏み潰し、凶悪な顋で喰いちぎり、その黒い鱗を赤い血で浸しながらただ殺して廻る。まるで地獄絵図からそのまま切り出して来たような光景が広がっていた。
彼らは呆然とし、その言い様のない事態に固まってしまう。
「っ…!」
その異常事態にいち早く気づいたギンはさっと身を翻しステラの手を取る。
「ここはダメだ!戻るぞ!」
「…え?ぎっギンくんっ?」
早くこの場を離れなくては危険だと煩いほど自身の勘がそう訴えかけてくる。ギンはすぐさま行動に移し彼女の手を取ると来た道へと足を踏み出す。しかし───
────ドォンッッッ!!!!
「な!?」
運が悪いと言えばいいのか。それともそれが運命だと言うのか…。
投げ飛ばされた魔獣の一匹が建物を突き抜けて通路に落ちてきたのだ。
背筋に悪寒を感じバッと振り替えるとそれと目が合う。
全身の毛が逆立ったように感じた。
その黒い体に一部だけ怪しく光る二つの双眸、それはただ獲物を殺す狂気の宿った目。
自身の何十倍ものある魔獣。それが…動いた。
「ステラ逃げるぞ!ステラ!?」
ギンは逃げようとステラの手を引くが…彼女からの反応はない。彼は声を荒げて彼女の方へと顔を向ける。
彼女は顔を蒼白にし、目の前を見詰めたまま動こうとしない…。いや、動けなかった。
「っ!ステラッ正気に戻れ!ステラッッ!!」
彼は彼女の名を叫ぶがすぐに無理だと悟り、意を決して振り返ると同時に剣を抜き眼前に構える。
それはもう目の前にいた。全長4000㎝を越える巨体。尻尾を足せばこれ以上になるだろう怪物が二人を見下ろす。
「マジかよ…」
じっとりと嫌な汗が全身から吹き出す。
“勝てない”──相対して一瞬でそう解ってしまったギン。しかし、退くわけにはいかなかった。
後ろの少女の為にも、そして…自分自身の為にも。
「やってやるさ…親父だって竜を倒したんだ…。俺だってやってやらぁっ!!」
“フレイムソード”────彼は叫び自身の得意な技を繰り出す。
それは剣に纏わせた焔を放つ魔技。
振りかぶった剣を斜めに切り下ろし、その直線上に鞭のようにしなった焔が駆け抜けていく。ただの魔獣なら焼き切ることなど容易い筈のその攻撃はその鱗に到達した時点で効力を失った。
「なっ!?!?」
自分の力では敵わない。そんなことは分かっていた。しかし、それは通常の物差しで図った予測だった。まさか自身の魔技が微動だにせず…いや、意味をなさないなんて思ってもいなかったのだ。
次元が違うとはこの事か。立っている地面は同じだが力の土台はそもそもが違っていたのだ。棲む世界が違う。そんな化物にどうやって勝てと言うのか…。
そんな事を考えていたからかその化物が動いたことに一泊だけ遅れてしまった。
辺りを凪ぎ払うようにして振るわれる長い尻尾。それは大木と大差ない程のもので当たれば一溜まりもないものであった。
「ステラ!!!」
「! ギンくんっ!!」
轟音───凪ぎ払われる建物、その土台をまるごと凪ぎ払われた家々は崩れ去り、凄まじい音と共に瓦礫と化す。
二人は衝撃で吹き飛ばされ瓦礫に巻き込まれながら地面へ落下する。その途中で二人の意識は途切れた。
ーーー
鳴き声で目を覚ます。わたしはズキズキと痛む額を抑え、顔を上げた。節々が悲鳴を上げるように痛むが動かせないことはない。
「う…ギンくん…?」
わたしは起き上がり彼の名を呼ぶ。あの強烈な攻撃を受けながら生き延びれたのは奇跡的だった。一緒にいた彼はどうなったかと急いで見回す。すると───
「ああ…起きたか……良かったぜ…」
「ギンくん!よかった生きてっ───っっ!?!?」
声をした方へ顔を向けるわたし。その視界に映り込んできたのは厳しく無慈悲な現実だった。
瓦礫の一部に力なく腰かける彼…その状態ははっきり言ってボロボロだった。
いつも纏っていた銀色の鎧はボロボロになり、此処彼処から血が流れ、額から垂れた血が左目を覆い、右腕が有らぬ方向へと曲がっていた。
「ギンくん!!!」
わたしは悲鳴のように彼の名を叫び近くに駆け寄る。何故わたし自身がここまで無事なのか漸く理解した。恐怖に呑まれ動けなかったわたしを彼は庇い自身をズタボロにしながらもどうにか守りきってくれたのだ。
わたしは急いで回復魔術を施行するため手を掲げ、詠唱する。しかし───魔術は発動しなかった。
「…え……?」
わたしは呆けたように手のひらを見る。
不幸はここまで続くものなのか。ステラの魔力は今までの多用した魔術によって底をついていた。───魔力切れ。それは魔術士にとってどうしようもない壁であり、今の彼女にとっては…最低最悪の言葉。
「うそ…嘘でしょっ!?…なんでっ!なんでなのっ!!??」
わたしはその現実を認められず、何度も何度も何度も魔術を試す。いつしかわたしは涙をボロボロと流しながら魔術を試していた。自身の傷も決して軽くはないにも関わらずズキズキと痛みが身体を蝕みながらも幾度となく、諦めずに魔術を掛ける。しかし、それは一向に発動しなかった。
「うぁぁぁぁぁっっ!!!!!───なんで!なんで!なんでぇぇっっ!!!!???」
わたしは耐えられずに叫び、狂ったように魔術を使用する。そんなわたしを見かねたのか彼はわたしの頭にポンッと手を置いてきた。
「…ステラが生きててマジでよかった…。…俺はほっておいて逃げてくれないか…?」
いつも強気だった彼が弱々しそうな笑みでそんな事をのまたう。このままでは死んでしまうのも承知の上で。
その疑問形にした言葉は彼女が諦めの悪い優しい少女だと言うことを理解しての言葉だったのだろう。
「そんなこと…そんなこと!!できる訳ないじゃない!!!できる訳ない!できる訳ない!できる訳ない!───もうわたしを…ほっていかないでよぉぉっっーーー!!!!!」
わたしは汚れるのもお構いなしに地面にうずくまるようにして叫ぶ。
何故いつもこうなるのだろう…。大事な人たち程すぐにいなくなってしまう。わたしのせいなのに。わたしなんかを残して先に逝ってしまう。
────なんで!なんで!なんで!
「なんで!いつもいつも!!もうこんなの嫌だ!!!お願いだからっ…お願いだから…誰か…わたしを助けてよぉぉぉっっーーー!!!!」
その悲痛な叫び、こんな場所でこんな状況で答えることの出来る存在はいない筈だった。ただ消えていく。一瞬で消え去る言葉に手を差し伸べる存在───それは───
─────ええ、その言葉…聞き届けましょう────
凛とした声が鼓膜を叩く。この場とは似つかわしくない美しくも聞き覚えのある声。
「あ…」
わたしは振り返り頼れる姿を見る。胸の内から込み上げてくる思いから目に熱いものが溜まるような感じがし目を瞬かせる。
「…キュレア…ちゃん…」
「ふぅ…よくここまで生きててくれました…。本当によかった…。ギンさんは私がなんとかします。ステラさんは少し休んでいてください」
彼女はわたしたちを見、生きていたことにほっと胸を撫で下ろすようにして言う。そして、狐の少女は目新しい深緑の外套を翻して彼に近づいた。
「ぐぅ…俺は後でいい。先にステラを…」
「バカ言わないでください。重傷なのは貴方でしょうが。こんなところでかっこつけないでくださいね」
「……はい…」
有無も言わさない彼女の言いようにギンくんもたじたじになり素直に同意する。
「キュレアちゃん…ありがとう…。わたしじゃ…助けられないから…」
わたしは彼女にお礼を言う。彼女に任せれば一安心だとわたしはその場に力なく座り込み顔を俯かせた。そんなわたしの様子を彼女は窺っていたようで小さく呟いた。
「……言葉では…限界があるわね……」
「え?…キュレアちゃん?」
ギンくんに回復魔術を掛けていた彼女は何か呟いたようだがわたしには小さくて聞き取れなかった。
「応急処置はしました。後はギルドで手当てしてもらってください。あ、腕は治しておきましたので」
「うおっすげぇマジで治ってる…ってイタタッ」
「誰も完治したなんて言ってないでしょう。そんなに重傷なんですからすぐには治りません。養生してくださいね。さて───次はステラさんですが…とっ時間はあまりなさそうですね」
彼女はチラッとわたしたちとは違う方向へと目を向ける。それはあの黒い竜の方向。何故わたしたちを狙ってきた竜が今は来ないのかと疑問に思っていたのだが…竜は辺りに群がる魔獣どもを殺して回っている最中のようでもう殆どの魔獣は動かなくなっていた。
「さっさとやってしまいましょうか…では。」
彼女は当然のように無詠唱で魔方陣を描き魔術を施行する。
「……ねぇ…キュレアちゃんはどうしてそんなにも……」
わたしはつい思ったことを口にしてしまう。彼女は少しだけ目を細めるが何も言わず、咎めることもしなかった。
彼女の回復魔術は凄い。大小問わずあり得ないほどの早さで治っていく傷、それは最早通常の魔術ではない“神の領域”だった。
「ステラさんにギンさん。今から見ること聞くことは他言無用でお願いしますね?」
彼女が口を開いたのはわたしたちの治癒が終わった直後だった。
キュレアちゃんは細くて白い人差し指を唇に当て片目を閉じながらわたしたちに言う。
「ギンさんはさておき。ステラさん。貴女には言っておかなければならないことがあります」
「え!?わたし?」
わたしは驚くが、反対にギンくんは何かを勘づいたように腕を組み肩を竦めて見せる。
「ええ、単刀直入に言います。貴女は自身を役立たずだと思ってますよね?」
「っ!」
ズキッと何かが胸に刺さったように感じた。わたしはギュッと胸を抑えながら彼女へと言葉を返す。
「そっ…それがどうかしたのかな?確かにわたしは何も出来てないし…結局、わたしはまた誰も助けられなかった。今回もキュレアちゃんが来てくれたからギンくんは助けられたけど…。それにわたしは関係してないし…そもそもわたしのせいでギンくんは…ぼろぼろに…」
わたしは目を伏せ小さく呟くように言う。言い訳の様に最早自分でも何を言いたいのか分からずにわたしは自身の胸の内を吐露していく。
「キュレアちゃんには前に戦い方を教えてもらった事があったよね…。その時に言われた言葉通り何だよわたしは…。戦いに向いてない…。なら守るために戦えばいいと教えてもらったけど…わたしにはそれすらも出来なかった…結局、足手まといでしかなくて…」
悔しくて唇を噛み、わたしはまた涙を流す。
役立たず。足手まとい。力のないわたしには結局、何も出来ないんだ。
「ステラさん。それは勘違いです」
「…………え……?」
「もう一度言いましょうか。それは勘違いです。ステラさんは弱くもありませんし役立たずでも況してや足手まといでもありません」
目の前にいる狐の少女はわたしの眼をしっかりと見据えはっきりと答える。そのルビーの様に煌めく紅の瞳には真剣な意思が宿り冗談で言っているようには到底見えない。
「そっ…そんなこと…ないっ!わたしは結局誰も!!」
「誰も?それは本当ですか?ギンさん」
「え?…俺かよ…。…いんや、ステラはちゃんと助けてるよ、さっきの男の子もな。それ以外にもたくさんいるし俺たちもステラにはたくさん助けられてきた。自分で言うのも何だが…ステラがいなければ俺たちはここまで生きていなかったよ」
「だそうですよ?ステラさん」
そうギンくんに聞いた彼女はにっこりと微笑み言葉を続ける。
「それでも納得できないなら…こうしましょうか…」
彼女はにやっと意地悪そうな笑みを残し、すぅっと息を吸い込み呪文のような詠唱のような言葉を紡ぐ。
───我に集うは九つの活ける燈。封を解くは祖の神意。三つの神ノ威よ、この我に回帰せよ───
『封解・三尾』
その言葉と共に彼女の足元に金に輝く魔方陣が描かれ、光が勢いよく天に駆け上がったと思えばキラキラと煌めく星空の様に粒子が舞い散り、雪のように溶けて消えて行く。
「え…?…えっえ!?」
「なっ!?マジで…かよ…」
その魔方陣が消えると同時に輝きは収まり、その中心で佇む少女を見た時、一人は声を上げ、一人は呆然とそのあり得ない光景に息を飲んだまま硬直してしまう。
その小さい少女だった彼女は先程とはうって変わって神々しい雰囲気を纏い。頭でピコピコと動く金毛の耳から金色の三つの尻尾。身体中の至るところまで描かれた赤い特徴的な紋様。神しか持つことが出来ないそれらの特徴を持つ存在へと変化していた。今や彼女があの狐族の少女だった面影は服装と薄茶色の長い髪にいつでも変わらぬ深紅の瞳だけだった。
『ふぅ…この姿で人に名乗るのは始めてですね』
唖然としたわたしたちを置いてきぼりにしながら彼女は小さくため息をつき、さっきよりも幾分か凛々しくなったその美しい顔をこちらへ向け、こう述べた。
『改めて自己紹介を…。私はこの世界の調律者たる上級神“キュウビ”…ああ、守り神キュウビと言った方が分かりやすいでしょうか?』
彼女は可愛らしく小首を傾げながら言う。そこら辺は以前のキュレアちゃんと同じで同一人物なのだろう事が窺えた。
『私はこの世界を元に戻すため下界してきました。…それ以外にもありますが…。まあ、今はいいでしょう』
キュレアちゃ…キュウビ様は一旦わたしたちを落ち着かせるためか話を止め、その紅の瞳をこちらの様子を窺うようにわたしとギンくんの間を行ったり来たりさせる。
「え…えっとえっと…きゅれあ…じゃなかったキュウビ様…?」
『ああ、呼び方…接し方は今まで通りでいいですよ。私も半人前ですし、そちらの方がこちらもありがたいです』
彼女はにっこりと微笑みながらわたしに言う。
わたしはそれに少し尻込みしながらも一生懸命口を開く。
「あっ…あのっ。貴女は本当に…あの有名な守り神…キュウビ様なのですか…?」
『口調が直っていませんが…。まあ仕方がないですかいきなりでしたし…。ゴホンッ───その質問に答えましょう。私は正真正銘、守り神キュウビです。今は三尾しか出していませんが…この金色の尻尾については何者か一目瞭然だと思いますが?特にギンさん』
彼女はくるっと半回転しこちらによく見えるようにその三尾を振る。
「だから何で俺なんだよ…まあ、獣人だからだろうけど…。今や守り神キュウビって言やあ世界中で知り渡ってる神の一柱だぜ?知らない分けないだろ…そんな大物がこんな近くにいるとは思わなかったが…」
話を振られた彼は困ったように額に手を当てて言う。
『さて──それでは話を戻しましょうか。ステラさん。貴女は自分が何も出来ないと思い込み過ぎなんです。────貴女は人のために笑い人のために怒り人のために努力できる優しくて時には頑固な女の子です。そんな貴女が強くなれないなんて、役立たずなんてそんなことあるはずがありません。この守り神キュウビが断言しましょう。────貴女は強くて優しい、人として理想的な女の子です。諦めずに貴女が思う道を進みなさい。貴女なら必ず…やり遂げられるでしょう』
キュウビ様はわたしを真っ直ぐに見据え、微笑む。
その天使のような微笑みにわたしは耐えられず、崩れるように膝をつき、止まっていた筈の涙がいつの間にか溢れだし顔をぐしゃぐしゃにしながら嗚咽を漏らす。
わたしは…わたしは…間違ってなかったんだ…。何も分からなくて手探りで探し回って……。
ただ謝りたくて───
───ただ寂しくて。
ただ───大切な人を助けたくて。
結局、何も出来ずに…わたしは役立たずだと、ずっとずっと思っていた。
「うう…あぁぁあ。うわぁぁぁっっん!!!!!」
わたしは胸の内に秘めた叫びを吐き出す。そんなわたしに横から暖かい大きな手が頭に置かれる。それは先程の弱々しさはないいつもの筋肉質な掌。
「ギンくん…」
「俺に構わず泣きたいだけ泣きな。人間それだけでもスッキリするもんだ」
「うっうぅ…」
わたしは彼の優しい微笑みに辛うじて頷き、泣き崩れた。
「…すまん、キュレア。不甲斐なくて…。俺の力じゃどうしようもない…───この街を…救ってくれ…」
『───ええ、任されました』
わたしが聞いた彼女の美しい鈴のような凛々しい声はそれが最後だった。
どうでしたでしょうか?いつでもご感想お待ちしております。
というか今回は凄い方向転換してしまいました…。当初はキュウビとはバラさないでいこうと思っていたのですが…実際はこんな感じに…。まあ、ステラを救済出来たからよしとしましょうか。彼女もボロボロでしたし…。
ちなみに…キュレアが封印を解除したのに金髪に戻らなかったのは三尾という中途半端な解除だからですね。一応思い出したので補足を…。
ここまで書いてなんですが…間違いや矛盾点など気になることがあれば一言くれると嬉しいです。ちゃんと見てから投稿してるのですが…やはり読者さんから見ると何かしら違うと思うので…。
さて、旅立ち編ももう終盤ですね。やっとです…。3月…中は無理でしょうか…分かりませんが。クライマックス?までしっかりと頑張って書いていきます!今回もありがとうございました!では、また次回も…よろしくお願いします!