030 - 降りかかる全ての災悪 -
お久しぶりでごさいます!!真理雪でございます!!
いつ以来でしょうかね…。いつの間にか年が明け早々に二月に入ってしまって…。本当に時がたつのは早いですね…自分が仕事に追われていたらいつの間にか年が明けてましたよ…。
久々過ぎて忘れてたところもあるので…ミスしていたら申し訳ないです…。では、どうぞ。
静かな森。静寂が包む並木道で黒い影が蠢く。それは人のようで人ではなく。生物のようで生物ではない。ただただ黒く、光を飲み込むようにどす黒い陰。
──降魔───かつて世界を破滅に導いた一つの原因だ。
俺は木の影からそっと様子を窺う。それは何かを捜すように二つある頭を交互に動かしその場から動かない。
あれが捜しているのは何かは分かっている。当然、俺たちだろう。
アホ神から聞いた知識しかないが…降魔は生物を吸収して成長するらしいのだ。
生物。それは生きていれば何でも良く。一番効率がいいのは…知識を溜め込み力の弱い種族───人間だ。あれは人間を好み吸収し糧とする。人間が太刀打ちできない化物なのだ。
「キュレアちゃん…」
黙って様子を窺っていた俺に心配そうに声を出す紫色の彼女。
「あれは何なの…?凄く胸騒ぎがするんだけど…」
「…あれは…降魔です。私も見るのは初めてですがそれは確実でしょうね…」
俺は一旦動かない化物から目を離し、彼女へと視線を移す。
「……心配しなくても大丈夫です。私がどうにかします。貴方たちは街へ逃げてください」
俺は横目でチラッと彼女の奥で頭を抱え込む様にして座り込む大男を見ながらそう小声で話す。
「なっ。ダメよ!キュレアちゃん。貴女を一人になんてするわけないじゃない」
「…そう言って貰えるのはありがたいですが…。あれは普通の相手ではありません。今の私では貴方たちを危険に晒す可能性があります」
「今の私…?」
「あ…。いえ、何でもないです…。それはともかく私が時間を稼ぎますので貴方たちは街へ。あれは私が───殺します」
俺は彼女を見据えそう宣言する。彼女は俺の言葉に口を開こうとしたが言葉が出てこず飲み込んだ。
殺す──俺はそう宣言した。只の魔獣や魔物ならいざ知らず。あの化物を殺すのに抵抗がないのかと問われればないわけではない。なんたってあれは二人の人間を飲み込んだのだ。あれを倒すと言うことは必然的に彼らを殺すことになりかねない。
降魔は魔法や魔術では殺せはしない。しかし、俺には魔力そのものを絶つ妖刀がある。その言葉通り、あれに太刀打ち出来るのは──俺だけなのだ。
「だから───」
「あれを殺すと言ったか…」
俺が言葉を続けようとした所で横槍が入った。
「貴方は…。はい、あれはこの世にあってはいけない存在です。ここで仕留めなければなりません」
俺は声を発した人物にはっきりと返事を返す。それは今まで黙っていた大男。確かバギーと言ったか…。
彼はギリッと歯を食い縛りながらこちらを向く。
「恥を忍んで頼むっ。あいつらを…俺様の仲間を───助けてくれっ!」
彼は失った右腕を庇いながら頭を地面に打ち付ける様にして頭を下げる。
「な!貴方ねぇ!何を今更っ。あれは貴方が招いた事でしょ?自業自得じゃない!」
「っ!…ああそうだ。自業自得…そう言われてしまうのは仕方がない実際そうなんだからな…」
「なら…」
「だけど黙ってられねぇんだよっ。あいつらはこんな俺でも着いてきてくれたバカ野郎どもなんだっ。小娘に倒されてランクが下がった時でも着いてきてくれたバカ野郎ども何だよ…。どこでも一緒だった…頼りない奴らだったが…こんな…こんな…こんな所でこんな事で死んでいい奴らじゃねぇんだっ!」
彼は自身の胸の内を吐き出す様に言う。その言葉に否定的だったルナさんは言い返すことが出来ず、当の俺は黙って見ていることしか出来なかった。
「だから…たからよぅ…。お願いだ…頼むっ。あいつらを助け出してやってくれっ」
彼の言葉を聞く俺は一度瞳を閉じ、大きな吐息を吐いてから口を開いた。
「……。はぁ…分かりました。出来るだけやってみましょう。ですが確約は出来ませんよ?」
「…ああ…分かった。あいつらもなんたって冒険者だそれぐらい…分かっている筈だ…」
「分かりました」
俺は彼の思いに頷き首肯する。さて…どうしますかね…。
俺は彼らを助け出すためにどうするかを考え出す。あれを殺すだけなら俺だけならどうとでもなると思う。しかし、助け出すなら難易度は跳ね上がってしまう。なんたってあれを傷つけてしまったら彼らがどうなるか分からないのだ。無傷とはいかないまでも、どうにか助け出すには……あの化物の心臓…降天球を破壊する他ないだろう。それを一人で…どうするか…。
「キュレアちゃん」
「はい?何でしょうルナさん」
唐突にルナさんが俺の名を呼ぶ。
「あたしも協力するわ」
「えっ…ですがそれでは…」
「分かってるわよっ。キュレアちゃんがあたし達を心配してる事ぐらい。それにあの化物に勝てない事ぐらいね。だから───協力するって言ってるのよ」
彼女は真剣な面持ちでその特徴的な紫色の瞳で俺を見据える。その瞳からは否と言われても梃子でも動かない決意が見てとれた。
「…本当にいいんですか?勝てる保証なんてどこにもありませんよ?」
俺は彼女に何度と無く聞いた質問を再度聞き返す。
俺は降魔とは戦った事がない。謂わば降魔とは初戦なのだ。初戦ほど危険なものはない。俺には本当に聞きかじりの知識しかないのだ。自分だけならまだしも、普通の人間が勝てるわけがない。だからこそ俺は彼女達を危険から遠ざけたかった。
「ふんっ。キュレアちゃん?忘れてないかしら?あたしは魔女の子孫よ。こんな所で負ける筈がないわっ!あの時は遅れをとったけど…今回はキュレアちゃんもいるし百人力よっ。ね?そうでしょう?」
彼女は自信満々に胸をはり、力強くウインクをする。その自信はどこから来るのか…彼女はやる気満々であった。
「キュレアちゃん。貴女が強いのは十分知っているわ。貴女から見たらあたしなんてまだまだなんでしょうけど。あたしは貴女のことを仲間だと思っている。だから…もっとあたしを頼りなさいよ」
「ルナさん…」
「これでも魔術の精度はセーラさんのお墨付きなのよ?あたしに貴女を──助けさせなさいよ?」
彼女はその挑戦的な笑みで俺が考えていたことを打ち砕く。
…ああ、そうか…仲間…か…。
俺は自信の考えに馬鹿らしくなり笑みを返す。
俺は一人じゃなかったな…。そう思いながら俺は口を開く。
「ふふっ…そうですね。分かりました。では惜しみ無く協力してもらいましょう」
「ええっ。ドンと来なさいっ」
彼女はその薄い胸をはり、再度ウインクをした。それが凄く似合っていたのは言うまでもないだろう。