029 - 異変 -
お久しぶりです!真理雪です!
いつの間にか10月に入ってしまいました!早い…
「またいつでもいらっしゃってくださいね♪お待ちしています」
彼女は教会の扉の前で会釈し、にこやかに言う。
その言葉に答えたのは俺ではなく隣の魔女っ子スタイルの少女。
「ま、また機会があれば来るわよ。……キュレアちゃんは嫌そうだけど」
「いっいえっそっそんなことはっ」
「戸惑いすぎよ…」
慌てながら弁解する俺とそれに苦笑するルナさん。それを見ている彼女、マリナさんはクスクスと笑う。
「ふふっ…キュレアさんには大変ご迷惑をおかけしました。ですが、子供たちは貴女のことが凄く気に入ったようなのです。また来てるれると嬉しいですね♪」
シスターのマリナさんは俺にそう微笑みかけ、当の自分自身はと言うとそっぽを向き渋々と──
「…機会があれば…来ます」
「はい、お待ちしておりますね♪」
嫌々ながら言った言葉に彼女は天使のような微笑みでそう返したのだった。
ーーー
「散々な目に遭いました…」
「まあまあ…子供のすることだから。許してあげてよ」
「別に怒っているわけではありませんが…」
街に帰る途中。俺とルナさんは話ながら歩く。
カノンの教会はこの街の外れにあるため街中に戻るには少しかかってしまう。木々の間にある細い道を辿りながら俺たち二人は傾いた太陽を背にし歩を進める。
「うう…。もう嫌です…」
「えーと…そんなになの?獣人たちは耳や尻尾が弱いとは確かに聞いたことがあるけど…」
「個人差はあります。ですが私のは…」
俺は目を背けため息をつく。たぶん今の俺はもの凄く暗い表情になっていることだろう。
獣人たちは耳や尻尾が弱いことが多い。当然個人差はあるが…何故か俺自身のものは取り分け敏感だった。もともと無かったモノと言うのもあるのだろうと思う。だが、自分の耳や尻尾はそんなことは関係なく敏感でよくあのアホ神に触られたものだ。たぶん、これについてはあのアホ神が一枚噛んでいそうだったのだが…結局、何もできずじまいだった。
「それはそうとルナさんはどうして教会にいたんですか?いろいろあって聞けませんでしたが…」
「え?あー…それはね。ステラの代わりよ代わり」
「ステラさんの?」
鸚鵡返しのように聞くと彼女は短く返事をし頷く。
「本当はステラが来る予定だったんだけどね。ほら、呼ばれちゃったじゃない?ギルドマスターに」
「ああ、なるほど…」
俺は納得したように頷く。そういえば朝セーラさんがそんなことを言ってたっけ…。
「でも何故ステラさんが?もしかしてここがステラさんの?」
「いやいや、違うわよ。ただ単にステラが定期的に来てるだけ。いつも何かしら作って持っていってるらしいわよ。今回はクッキーだったわね」
今回ルナさんが教会にいたのは偶然だったようだ。もともと孤児院育ちだったステラさんが何かしら思うところがあってしてるのではないか、と言うのはルナさんの談。ルナさんもそこら辺は詳しく聞いていないらしい。
「そうなんですか。ギンさんは一緒じゃなかったんですか?」
「まあ…一応誘ったんだけどね。アイツは何だかんだ言って真面目だから…一人で剣でも振ってるんじゃないかしら。キュレアちゃんの影響でね」
「え?わっ私ですか?」
「そっ。あの試験を見てから馬鹿みたいにやる気を出してね。俺もやってやる!とか言って意気込んでたのよ」
「へっ…へぇ…」
俺はそれを聞き気の抜けた返事をする。
何と言うかギンさんらしいなと思う。たしかにあの彼だったら意気込んで鍛練に打ち込む姿が容易に想像できた。
俺たち二人は他愛もない話をしながら街に向かい歩く。そこで俺はふと前から来る足音に気づいた。
「…?」
こんな何もない所へ来るとは珍しいと思いながらも俺は気にせず進んでいく。この先には教会しかないが…誰も通らないということもないだろう。教会に用があるのかもしれないしね。
「何で貴方たちがここにいるのよ」
ルナさんは目の前を睨みながら言葉を発する。その言葉には怒気が含まれていた。
「くくくっ…そんなに警戒しなくてもいいじゃねぇかよ?小娘」
それに答えたのは見覚えのある三人の中の一人。一番体格がよく。ゴツい大男。
「……誰?」
「本当にこの狐のガキは腹が立つな。良いだろうもう一度言うぞ。俺様の名はバギーだ。覚えておけっ」
ああ…と納得したように呟く俺とそれを見てイライラを加速させる大男。
「そういえばそこの金魚のフンみたいな二人は誰なんですか?」
「誰が金魚のフンだ!」
「そうだそうだ!オレたちはバギーさんの舎弟だ!」
「自分で言うんですね…」
俺はふと気になったことを聞いただけなんだけど…二人を怒らしてしまったようだ。
「で、何故ここにいるんですか?貴方たちが教会に用があるはずもないでしょう?」
「まあ、それはそうだな。俺様が用があるのはお前だよガキ」
「なるほど…」
彼はニヤニヤしながら俺を見る。その視線が不愉快で俺は心底嫌そうな表情をしながら口を開く。
「昨日の報復というところですか?昨日の決闘は公平でしたでしょう?」
「あれはそうだな。俺様の負けだ」
「? まさか認めるとは思いませんでした」
「チッ俺様だって認めたくねぇよっ。だが、俺様だって冒険者なんだそれぐらいは弁えている」
彼はそう吐き捨てるように言う。
「だが、負けたままなのは許せねぇ。しかも、こんな小娘になっ。だから、どんな手を使ってでもお前を倒させてもらう」
「…貴方…何をする気ですか?」
「はっ!これを使えば俺様の望むことが出来るんだよ!覚悟しやがれ!!」
そう言って取り出したのは赤く黒く濁った色の水晶玉。魔力結晶?違う…あれはそんな生易しいものではない。
「っ…降天球っ」
「キュレアちゃん?どうしたのよ!?」
一瞬で雰囲気が変わった俺にルナさんが驚き聞く。
「何故貴方がそれを!どこで!」
「はっはっは!その表情は最高に楽しいぜ!言うわけねぇだろうが獣人!」
俺はオロオロと動揺しているルナさんの横で苦虫を噛み潰した表情をする。
「きっキュレアちゃん?あれってただの魔力結晶じゃ…?」
「違います。あれは人が持っていていいものではありません」
彼女の疑問に即座に否定し、俺は考えを巡らす。何故ここに降天球があるのか?何故彼が持っているのか?疑問は尽きないが、今はそんなことを考えている場合ではない。
「とにかくっそれを私に渡して下さい。話はそれからです」
「くくくっ…何言ってんだぁ?渡すわけないよなぁ?」
「で、しょうね…」
一刻も早くアレは壊さないといけない。降天球は無闇に持ち歩いて良いものではない。何が影響して降魔が発現するか分からないのだ。そんな不安定なモノを持たせておくわけにはいかない。
「まあいい。終わらせてやるぜ」
「それを使ってはダメです!!」
「はっうるせえよ!!」
俺の制止の声を無視し彼はそれに魔力を流す。
一瞬、時間が止まったように思えた。
そして────
「なっ何だ何だ!?何だこれは!?!?」
降天球から吹き出すそれは黒く赤く。煙のような触手。
「馬鹿!早くそれを捨てなさい!」
「腕が!?腕がぁ!!!?」
それはバギーの筋肉質な右腕を巻き込み呑み込みどんどんと侵食していく。
くそっこれ以上はいけない!
俺は右手に刀を発現させ振りかぶる。
投擲───狙いは…腕の付け根!
回転する魔力刀は狙い違わず切り裂き。鮮血を散らしながら黒い腕が飛ぶ。
「うがぁぁぁぁぁぁ!!?!」
「うわぁぁ!!バギーさん!!!」
「わぁぁぁぁ!?!?」
多種多様な悲鳴。隣で血相を変え声も出せないルナさん。状況は混沌としているが先にアレをどうにかしなければ手遅れになる。
「貴方たち!早くそこから離れなさい!!」
俺は直ぐ様近づこうとする。しかし…
「キュレアちゃん!」
「なっ!これは!?!?」
飛んだ侵食された腕が蠢き、それは生き物のようにのたうち回る。
「うわぁぁ!!くるな!くるなぁ!!」
「うわぁぁ!!!?!?」
それは黒い触手を伸ばし影のように舎弟二人を絡めとる。
「ルナさん!!」
「え!?あ、分かったわ!」
俺は彼女にアイコンタクトを送る。ルナさんはそれで理解してくれたようで魔力の流れが変わる。
「射抜け!ウインドアロー!!」
魔方陣から放たれた風の矢は空気を震わせ、その化け物へと直進する。しかし──
「嘘!?」
「っ!」
突然の跳躍。まさか避けられるとは思わず。飛んだ矢は空を切り木々を薙ぎ掻き消えてしまう。
「たっ助け──」
「いや───」
二人は成す術もなく飲み込まれ、着地したそれはもう只の触手と腕とは思えないほど膨張し成長していた。
「なっ何よあれ…気味が悪い…」
ルナさんは呟く。
それは黒い化け物。黒い怪物。四本の腕で地面を掴みながらこちらに二つの顔を向ける。
「これが…降魔…」
『?@◆▪>=}©§¥¿∞???』
言葉になっていない声を出す…黒い化け物。
過去に破滅に導いた一つの原因。"降りかかる全ての災悪"。それがまさに今、目の前に降り立った瞬間だった。
と言うわけで次は降魔戦です!やっとストーリーが動き出した感がありますね!
感想や誤字脱字があれば言っていただけると嬉しいです!
では、また次回お会いしましょう!ありがとうございました!