027 - 迷子の末に -
投稿!おりゃっ
「ありがとうねぇ」
その一言が耳に入る。騒がしく、賑やかな商店街で自分に向けられ発された言葉だ。それに小さく会釈しながら返答し踵を返す。すっぽりと深緑のフードを被った少女の外套が翻る。
今までいた露店を背にし、彼女は一言呟いた。
「これで大体揃ったわね」
フードからチラチラと見える誰もが羨むほどの整った顔立ち。時おり小刻みに動く狐耳に歩く度に左右に揺れる薄茶色の尻尾。美しく長い髪をフードの内側に隠し、深緑の外套で身を包む絶世の美少女。その名はキュレア。この世界の調律者であり、上級神である守り神"キュウビ"その人であった。
俺は近くにあった雑貨屋で運よく見つけた大きめの麻袋を肩にかけるように持ち直し、街の喧騒から遠ざかるように歩を進める。
商店街を一通り回り終え、朝早くに出た筈の時間ももう昼過ぎ。いい加減何処かでお昼でも食べないとな、と思いつつ人の流れに逆らって歩いて行く。
「何処か休めるところは…」
俺は呟きながら回りを見渡す。人混みの中はやはり疲れるものだ。朝はまだ良かったものの昼間に近づくにつれ人は多くなるばかり。出来ることなら人が少ない場所で休みたいところだ。
「ん?あれ…行きすぎちゃったかな…?」
俺は頬を軽く掻きながら首をかしげる。
宿の方へと戻っていたはずだったが、気がつけば見覚えのない何処か辺鄙な所へ出てしまっていた。
……俺ってもしかして……迷ってる?…
そんなはずはない!とそう密かに否定しながら俺は直感だけで歩を進める。その行為事態がもう迷子を悪化させる原因なのだが…それに気づかずに思い込みだけで足を動かしてゆく。
羽兎亭は確かに込み入った路地裏にあり、この街のメインストリートには面していない。だからこその穴場だったりするわけなのだが…いかせんそこへ行くには場所を知っている人間が必要不可欠。宿自体はいつでもウェルカム状態なのだが…場所が分かる人が必要な為…実情、一見様お断り状態になっていたりするのだ。
「これは…迷ったわね。ええ完全に迷ったわね」
遂には自身でも迷子を認めてしまった俺。
この世界の上級神たるキュウビは───方向音痴だった。
ーーー
白い白亜の建物が見える。この街では珍しい石造りの建物だ。そこまで大きくはなく階数的には二階までしかないのではないだろうか。しかし、屋根が三角に尖っているため小さくは見えない。その屋根の先には…誰でも見たことがある十字のモニュメントが鎮座していた。
「ここは…教会…よね…」
白色に十字架、そんな分かりやすい特徴がある建物。俺はそれを見上げながら呟く。
「こんなところに教会があるなんてね…まあ、確かに静かで良いところではあるけど」
俺は視線を巡らしながら誰ともなく感想を述べる。
道に迷った末に街の喧騒から大分離れてしまい、人気がなくなりこれは戻るしかないなと思っていた所へこの建物が見えてきたのだ。
まだ森の中ではないにしろ、拓けているのはこの教会の両開きの扉の前だけ。それ以外はほとんどが自然に覆われていた。中から声が聞こえてなければ空き家かと思うほどだ。
「中から子供の声が聞こえるし…どうしよう入っても大丈夫…よね?」
俺は獣人特有の耳をピンっと立たせ中からの音を聞きながら自問自答する。
教会なんてこの世界に来てから一度も入ったことはない。当然、地球でもそんな経験はない。ゲームや漫画でよく出てくる場所と言えば…教会は上位に食い込んでくるほどの存在。…興味が無いわけがなかった。
…むむむむ…
俺はその扉のノブを睨み付けながら暫し思い悩む。
用事がないならスルーするかも知れないが…今は道が分からないと言う理由がある。確かに戻って誰かに聞けばいいとは思うのだが…教会の中を見てみたいと言う欲求も少なからずあった。本当にこう言う時のコミュ症は恨めしい…。と自身の欠点を恨んでいるのがいけなかったのだろう…。目の前の扉のノブが動いていることに俺は気づいていなかったのだ。
「あ…」
気づいたときには時すでに遅し…。この世界の上級神たるキュウビでもこの一秒とたたない間では動くことすらままならなかった。と言うか完全に油断していた。
「ん?」
「へ?」
擬音が同時に発される。
一瞬の無音の間。刹那の沈黙の時。
それは目の前の黒い人物によって破られた。
「キュレアちゃんじゃない!どうしてここに?」
「あ…れ?ルナ…さん?」
強気そうな瞳を驚いたように瞬かせ、扉を開いた状態で固まるよく知る人物。魔女ッ子スタイルに紫の髪が美しい美少女。ルナ・エルヴィスに予想もしてなかった場所で俺は出会うことになった。
ーーー
「あらあら、お客様ですか?ようこそ御越しくださいました♪古い教会ではありますが…ゆっくりして行って下さいね♪」
透き通るような独特なソプラノが閑散たる教会の大気を響かせる。
この世界では珍しくない金髪をアップに纏め上げ、紺色の修道服に身を包んだ女性。その彼女が天使のような微笑みで俺を見つめ、言葉を発する。
…流石、本物のシスター…。笑顔が作り物じゃない…
俺はそんな失礼極まりないことを考えつつ、お礼の言葉を咄嗟に口にする。
「それでキュレアちゃんはどうしてここに?教会に何か用でもあったの?」
何を話せばいいか分からず戸惑っていた俺にルナさんが良いタイミングで話題を振ってくれた。俺はそれにすかさず食い付き大体の経緯を話す。
「それでその…宿への道を教えてほしいのですが…」
俺は恥ずかしさから頬を掻き目を反らす。
彼女たちは納得するように顔を見合わせ、口々になるほどと頷いていた。
「いいわよ。て、言うかあたしも一度帰ろうとしていたところだしね。なら、一緒に────」
「いいことを思い付きました♪」
ルナさんの言葉を思いっきり断ち切り、にこにこと詫び入れず話し出すシスター。この人はなかなか豪胆な人らしいね…。
「少し過ぎてますが、お昼時ですし御一緒にどうでしょう?ね?ルナさんも」
目の前で今しがた思い付いたように手を合わせ、変わらず天使のごとき笑顔で聞いてくる。それを何とも言えないような微妙そうな気まずそうな表情で見返すルナさんとただただ戸惑うばかりの自分。
「はぁ…あたしはさっきいらないって言ったでしょ…」
「そんなこと言わずに…ほらほらあちらをご覧ください」
彼女は優雅な動きで教会の奥のに手を向ける。何かあるのかと思い二人して顔を向けると奥の間に続く扉から複数の目が────
「ああ…先程から子供たちもお腹をすかせているのです…。誰か様が引き延ばすばかりに…」
彼女は然もわざとらしくよよよよ…と涙を流し、顔を背ける。
そう扉から見えている目は、ここに住む子供たちの興味津々なキラキラした瞳たちだったのだ。
「………。あ~っもうっ。分かったわ分かったわよ!お昼一緒に食べればいいんでしょっ」
「ああっ良かったです♪」
子供たちからの視線に晒され、嫌そうな顔をしていたルナさんも遂には根負けし、一緒に食事をする事に了承する。
「貴女様もどうですか?」
「え…えっと…」
にっこりと微笑む彼女が次は俺に白羽の矢を立てる。そんな俺はと言うと彼女の予想外の性格と大胆さに驚き戸惑うばかりで視線だけで隣にいたルナさんに助けを求める。何と言うか…こう言う胆が座っている大胆不敵な人種は苦手なのだ…。
「諦めなさい。こうなると止められないのよこの人は…」
ルナさんは俺と目を合わさずに諦めたように呟く。
「どうですか♪?♪」
楽しそうに微笑む彼女の言葉に俺は何も言えず、結局いつの間にか一緒に食事をする事になっていたのだった。
本場のシスターはやはり違うなと俺は一つ学んだのだった。
いつでもこんにちは、真理雪です。お久しぶりですね…。ちょうど一ヶ月ぶりぐらいでしょうか…。遅くなってすみません…。
それはそうとこの物語を見てくれている人がまだいるようで…本当に嬉しいです!地味に総合ptも増えてるし本当にありがとうございます!
長々と書いていても仕方ないでしょうし、今回はこの辺で…誤字脱字があれば一言言ってくれれば助かります!
今回もありがとうございました!次回もよろしくです!