023 - カノンの街 -
いつでもこんにちは!真理雪です。またもや遅くなりました…すみません…。
3月になったと思ったらいつの間にか4月に入りもう4日目…早すぎでしょう…。もう1年の4/1は過ぎてしまったことに…。
ではでは!今回も拙い文章で申し訳ありませんが…楽しんでくれれば幸いです。どうぞっ
朝日が照らし出す。唯一の窓から日光が射し込み、薄暗かった部屋の内側を明るく照らす。
俺はその明かりにつられてうっすらと目を開ける。
視界に映ったのは年季のはいった古木の天井。それを俺はぼぅと見つめながら昨日の夜のことを思い出す。
俺はセーラさんたちに夕食を一緒に食べないかと誘われていた。しかし、悶々としていた俺はそれを断って先に床に着いてしまった。
今さら後悔しても仕方がないけれど、少し素っ気なさ過ぎたと思う。残念そうな表情をするステラさんや困った顔をするセーラさん。肩を竦めるルナさんに仕方がないと諦めるギンさん。反応そのものは人それぞれだったけれども、引き止める言葉を掛けなかったところを見ると四人とも俺のことを心配してくれていたのであろう。
自分のことを何も語らない。謎多きこの小さい狐の獣人。怪しさ満点の俺なんかに彼女らは気を使ってくれたのだ。
(はぁ…。馬鹿だなぁほんと…)
俺は自嘲ぎみに溜め息をつく。
「ん~んっ…」
俺は寝転がりながら一度伸びをして気を取り直す。考え込んでも仕方がない。やることはたくさんあるんだからと勢いをつけて起き上がった。その瞬間────それとバッチリと目が合った。
俺が借りた部屋に俺を見つめる存在がすぐ近くにいたのだ。
「………」
『………』
交錯する視線。俺が見つめる先には…ここいらでは珍しい漆黒の髪、俺と同じ紅の瞳を宿した女の子が不機嫌そうな表情をしながらこちらを見つめていた。
彼女はその黒髪をミディアムにし、大きな赤いリボンで頭の後ろを結っている。そこまではいいのだが服装が実に言葉にしずらいものであった。簡単に言ってしまえば水着…ビキニと着物が合わさったような服装だったのだ。普通にお腹丸出しだったり、後ろから見たら背中も当然丸見えだ。
「───何してるの桜……」
俺は溜め息混じりにその女の子の名前を呼ぶ。
その言葉に彼女は反応し、その整った顔立ちを一層不機嫌そうに変化させ、プイッと顔を反らした。
『(む~)』
彼女はぷくっと頬を風船のように膨らまし、不機嫌さを一層アピールする。
「……もしかして、ほっていかれたことに怒ってるの?」
『(ブンブンッ)』
俺の言葉に彼女(?)は残像が出来そうなぐらいのスピードで頭を縦に振る。
俺はそれを見るとやっぱり…と溜め息をついた。
彼女…もとい『紅桜』は俺が先程寝ていた時のこと、創造神に強制的に呼ばれ自分の意識だけで会いに行ってしまったことに腹を立てているらしい。要は一人だけ取り残されたことに怒っているのだ。
俺は目の前の頬を膨らませた可愛らしい黒髪の女の子を見る。彼女は俺と契約している妖刀───“神をも威をなす刀”とまで言わせるほどの恐ろしい日本刀だ。
いや…正確にはこの世界には日本がないから“日本刀”ではないんだけど…形だけで言えば、赤い打刀だ。
見た目は普通の刀だ。刃に少し奇妙な刃文があるだけで、ぱっと見ただけでは妖刀とは思えまい。この世界では刀と言うだけで珍しがられることがしばしばあるが、言ってしまえばそれだけであることはあるのだ。
そんな普通の刀である“紅桜”が『神威刀』とまで呼ばれ、恐れられるのは大きく別けて二つ理由がある。
一つ目は、妙にはっきりとした意思を持っていること。
「ほーら、そんな顔しないの。創造神が自分勝手なのは貴女の方がよく知っているでしょ? ほって行ったことは謝るから。ね? 機嫌なおして?」
俺はベッドから降り、彼女のすぐ傍まで来ると頭を撫でながら慰める。彼女は不機嫌そうにそっぽを向いてはいるがそれを拒みはしない。この娘がもし犬なら尻尾をブンブンと振っていそうな、気は休まらないけど撫でられるのは嬉しいみたいなそんな雰囲気が窺える。
意思を持っている武器は無いわけではない。絶対数は少ないが…この世界の何処かには存在しているだろう…という程度。しかし、数少ない意思ある武具がここまでしっかりと意思と思考を持ち、そして人化まで出来るとなるとなかなか難しい。そこまでいくと貴族も研究者もトレジャーハンターも喉から手が出るほどの価値となる。まあ、手にするにはそれ相応の覚悟とデメリットが付きまとうけど…。
そして二つ目、これこそが神にも恐怖を抱かせる所以。全ての魔力を絶つ────『原初の光』を持つこと。
魔力を絶つ。それは正しく命を絶つことに等しい。
人は魔力がなければ生きて行くことが出来ない。例えを挙げるとすれば、それは空気…その中に存在する酸素。それが無くなってしまえば人や動物など生物は生きていくことが出来ない。魔力とは正しくそれなのだ。身体の中に循環するそれが枯渇してしまえば生きてはいけない。そして、それは神にも言えることで、そもそも元素魔力でできている神たちには完全に天敵とも言える存在だった。
(そんな強大な力を持つ恐れられる存在でも欠点はあるんだけどね…。いや…欠点だらけかなぁ…)
魔力を絶つ…それはこの魔法の世界にとって矛盾した力だ。この世界に限ったことではないが魔力と言うものは常に存在しており、それによって生かされていると言っても良いほど。しかし、魔力を絶つ力『原初の光』はそれを真っ向から否定している力なのだ。
魔力を絶ってしまえば生きられない。ならば、その力は何で出来ているのか。自分はどうやって存在しているのか…。この娘は────矛盾を抱えた存在なのだ。
「もう置いていかないから、ね?」
俺はそんな凄い存在の頭を撫でながら慰める。
『(むーっ!)』
「ひゃっ!?」
ジトーっと見つめていた彼女は何を思ったのか、突然俺に飛び付き胸に顔を埋める。
「ちょっ。くすぐったい…」
俺よりも小さい身体のため俺が抱える形になりその行為に俺の胸が潰れ、馴れない感覚が身体中を駆け巡る。咄嗟に声が出そうになるがチラッと見えた彼女の表情に何も言えず、うう…と唸るだけで止める。
この娘は極端な寂しがり屋なのだ。その強力過ぎる力故に孤独に生きてきた。存在そのものが想定外な存在。それが彼女だった。
「ごめんね…。大丈夫、貴女を置いて何処かに行かないから。約束…したでしょ?」
『………』
「私を信じて…ね?」
俺は顔を上げた彼女の瞳を真っ直ぐ見つめ、ニコッと笑顔を見せる。彼女もそれに答えるように見つめ返してくる。
彼女はそれで納得したのか年相応の笑顔を見せコクッと一度頷き目を閉じる。すると、身体が赤く輝き一瞬にして姿がかき消えた。
俺の手には仄かに光る刀があるのみ。どうやら許してくれたようだ。
「それじゃあ一緒に行きましょうか、桜?」
俺は寝る際に脱いでいた白衣を着込み帯を絞め直して、しっかりと桜を腰に挿す。
まだまだ早い時間帯だが旅の支度もある。今日も頑張るかと気合いを入れ直し、俺はその部屋をあとにしたのだった。
ーーー
「あらまあ、随分早い起床だねぇ。よく眠れたかい、キュレア?」
俺が階段を降り、下の階へ着くと嗄れた声が届く。
「おはようございます、ナズナさん。お陰さまでよく休めましたありがとうございます」
「ああ、おはよう。それは良かったよ。朝食食べて行くかい?こんなに早いんだ何処かに出掛けるつもりなんだろう?」
ナズナさんは酒場のカウンター越しに目の前の席を指差し言う。
「そうですね。えーと…」
俺はその席につく、そして一つ気になっていたことを口にした。
「すみません…お風呂は今から入れないでしょうか…?」
そう、この世界には異世界には珍しくお風呂と言う文化がある。こう言う旅人向けの宿屋には大概常備されているはずなのだ。小さい所では分からないけどね…。
「ああ、お風呂かい?すまないねぇ、今の時間帯は湯を張ってないんだよ。あれもなかなか魔力がかかるからねぇ…」
「う…。そうですか…」
俺はその答えに落胆する。
その様子に彼女は可哀想に思ったのか一つの提案をしてくる。
「なら、お湯を持ってこようかい?たらいに一杯位あったら身体は拭けるだろう?」
「え?いいんですか?」
「ああ、それぐらいお安いご用さ。男だったらまだしもあんたは可愛らしい女の子なんだからね。やっぱり身嗜みには気を使うだろう?」
彼女は俺にウィンクしながら軽い口調で言う。
「ま、水を暖めるのも少しかかるからそれまでこれでも食べて待っててな。後で部屋に持っていくからね」
「すみません…ありがとうございます」
俺は彼女にお礼を言い。意識を彼女が出した食事に向ける。
今回の朝食は目玉焼きにベーコンとパン。そしてスープにサラダと言った朝食の定番と言ってもいい程の物が並んでいた。
と言っても卵は鶏の卵ではないし、ベーコンも豚肉ではなかったり、地球で言うところの材料では無いのだが…
やっぱり異世界でも朝食と言ったらこれなんだな…
と俺は密かに思う。
「ん?どうかしたかい?」
ナズナさんはそんな俺の様子を不思議に思ったのか疑問を投げ掛けてくる。それに俺は首を振り、何でもないと言う旨を伝える。
「頂きます」
そして俺は手を合わせ、食事を始めたのだった。
ーーー
「よいしょっと…ここでいいかな…」
俺は朝食を貰ってから一度部屋に戻り、お湯を受け取った。
それを溢れてもいいように大きめの布の上に置き安置する。
「本当はお風呂に入りたかったんだけどね…仕方ないわよね…」
目の前の大きいたらいに入ったお湯を見ながら俺は独りごちる。その水面の中から見つめる狐の少女が大きな溜め息をついた。
俺はさっさと終わらせるため、帯に手をかけ巫女服を順に脱いで行く。その度にキメ細やかな白い肌が露になり、遂には下着だけ着けた格好になる。
ここで誰かがこの部屋に入ってきたら発狂ものだな…
と、俺は他人事のようにそう思いながらナズナさんに貰った手拭いをお湯につけ、身体を拭ってゆく。
「降魔…ね…」
俺は水面に映る自身の紅い瞳を見つめ、創造神が言った言葉を思い返す。
降魔───それは別名『降りかかる全ての災悪』と言われる…降天球が意思をもった存在だ。尋常ではない強力過ぎる力を持ち自身の破壊衝動によって全てを破壊する理不尽な存在。それが降魔だった。但し、そんな最悪最凶とまで言われる存在にも弱点が無いわけではない…そもそも降魔は存在そのものが不完全であり、何かしらの要因がなければ現界すら出来ない欠陥品なのだ。コンピューターで言うところのバグ…の様なもの…と言えば分かりやすいだろうか。
それに気をつけてってことは…また悪魔が…?
降魔はひとりでに現界することはない。しかし、外からのアプローチがあれば話は別だ。
一千年前…勇者と魔王の戦いがあった。世界を股に掛けた戦争。その戦争の最中、一匹の悪魔が降魔を召喚し暴れさせた。その降魔は街一つを瞬く間に壊滅させ、人類と勇者たちを苦しませたそうだ。しかし、その後に悪魔は封印され今では悪魔も降魔も古い書物に言葉がうっすらと残っている程度で降魔も現界したのはその一度っきりだったらしい。
俺もユノから聞いただけで見たことないしね…『陰』とは全然違うものらしいし…
俺は長い髪を鋤きながら丁寧にお湯をかけ拭いてゆく。
髪が長い為ずぶ濡れにしてしまうと後々が面倒くさくなってしまうので最小限でしっかりと綺麗にしてゆく。
それが一通り終わると俺はふう…と息を吐きピクピクと耳を動かす。
「あー…そういえば…。あの事を言うのを忘れてたわね…」
俺は思い出したように天を仰ぎ、何の変哲もない天井に向かって呟く。
いろいろ話していたくせにぽっかりとそれを話すのを忘れていた。
(あの魔物…ガンズロックだったか。あれは完璧に────魔力回路の異常…だよな…?)
俺はそれに一瞬逡巡するが、仕方ないかと割り切り最後に残っていた尻尾に取りかかる。
触れた瞬間ビクッとしながらも俺は毛並みのよい尻尾を綺麗にしていく。
「よしっ終わりね。あーさっぱりした。しないよりまし程度だけどね」
俺は立ち上がり、巫女服に手をかける。
白衣に緋袴スカート、帯を絞め桜を忘れずに挿す。
「悩んでいても仕方ないっ。さっやることをやりましょうか」
俺はよしっと再度気合いを入れ、長い茶髪を払った。
補足です!悪魔、降魔、陰はそれぞれ違うものと言う風に捉えてもらえたら大丈夫です。後、物語上で説明するつもりなので詳しい詳細は省きますが…一千年前の戦争とは勇者が始めて召喚された戦いのことです。妹側の話にうっすらと出てきたかと思います。
なんだかごちゃごちゃといろいろ出てきましたが…質問や誤字脱字など、それに変な箇所があれば感想で一言言ってくれると嬉しいです!
今回もありがとうございました。もう少し早く書けたらいいんですが…。次回も頑張りますのでよろしくお願いします!それではまたっ