010 - 彼女の悩み 2 -
またもやこそーり差し替え…( ̄▽ ̄;)
闇が辺りを覆い尽くし、動物や昆虫たちさえも寝静まってしまった、静かな森の奥。
そのある場所に少し開けた場所があった。そこには二つの小さな影が一定の距離をおき互いに向かい合いながら立っている。
一方は、白を基調としたローブに身を包み、自身の身長ほどもあるロッドを持った、照り返す月光が美しい金色の髪を持つ少女。
もう一方は、特徴的な巫女服を着、黒のブーツに腰には赤色の刀を挿した、長い鮮やかな薄茶色の髪をした狐族の少女。
こんな場所には似つかわしくない可憐な容姿を持った少女たちはその場所からお互いを睨み合ったまま動かない。そして───
一陣の風が吹いた。……二人の髪が宙に舞ったその瞬間……………戦いが幕を開けた。
ーーー
その言葉を聞いた瞬間、わたしは文字通り固まった。
ポカンとわたしは数秒かけてその言葉を理解し、そして困惑する。
「戦うの!?」
「その通りです。そうと決まれば早く行きましょうか?丁度、先ほど見つけた良い場所があるのでそこにしましょう」
と、彼女はそう言うと踵を返し歩いていこうとする。
「ちょっちょっ!キュレアちゃん!?ちょっと待ってよ!」
わたしは離れていく彼女のに慌てて声をかけ、立ち上がる。
「ほっ本当に戦うの?」
「はい、その方が一番早いかと思いまして」
彼女はわたしの疑問に不思議そうに狐耳をピクピクと動かしながら言う。
「ええっと…あの…自分から頼んだのにこんなこと言うのも…アレなんだけど…わたしは戦闘には自信がないと言うか…」
わたしはもじもじとしながら言い訳染みたことを言う。
うう…何してるんだろう…わたし…恥ずかしい…
わたしは恥ずかしさから目を背ける。
「………そんなこと、私もですよ」
……え?…
「私だって戦闘に自信があるのかと問われればあると答えられるかは微妙なところです。結局、今まで私は師匠には勝つことが出来なかったですしね」
「え…そっそうなんだ…キュレアちゃんも勝てないなんて…その師匠さんって凄いんだね。会ってみたいなぁ…」
そっか…キュレアちゃんだって同じなんだね…。キュレアちゃんと戦えば何かヒントが見つかるかな…
「コホンッ話が脱線しましたが、とにかくっ…自信がないとかあるとかそんなことは今は後回しでいいんです」
彼女はビシッとその華奢な指先を私に向け言い放つ。
「私が貴女に見せてあげます。強さは自分次第でどうにでもなるということを」
ーーー
「身体能力強化!」
「身体能力強化!」
わたしたちは同時に叫ぶ。
彼女に手加減など必要ない。と言うか…キュレアちゃんはわたしより何倍も強いのだ。どちらかと言えばする方じゃなくされる方だろう。
だから、始めから全力で行く!まずは先手必勝!
「スピードエア!」
風の刃がロッドの先端に収束され、わたしはそれを放つ。
「四連刃―双刃!」
キュレアちゃんはわたしが前に見た魔力剣を両手に作り出し、構える。そして───
切り裂いた。
「ええっ!?」
ちょっちょっ!?どうなってるの!?
彼女が右の刃で横一文字に切り裂く、その瞬間わたしの放った魔術がかき消されたのだ。
攻撃魔術を攻撃魔術で打ち消すならまだ分かるけどっ魔力剣で切り裂くなんて!
わたしは果てしなく狼狽するがその間にも彼女は迫ってくると言うか───
速いよ!?
わたしが術士職であるため、キュレアちゃんはある程度の距離をおき位置についていた。それなのに……。
一瞬で詰められた…。
「まだまだぁ!アイスエッジ!!」
「!?」
後一息…その距離を一気に詰めようとしていた彼女だったが、一瞬のバックステップで距離を離す。
理由は単純。わたしが自分の周りに氷の刃を発生させ、放ったからだ。しかも、読まれないよう乱雑に。
「びっくりしました。少し私の読みが甘かったようですね」
と彼女は自身に被弾するエッジだけをその双刀で弾き返しながら言う。
まだまだ余裕そうなキュレアちゃんを見据え、わたしは決心する。
奥の手を使うしかないね…それでも勝てないかもだけど…だけど…
「だけど!わたしにだって意地はある!」
わたしはロングロッドを両手で持ち、その結晶の付いた先端を彼女に向ける。
「吹き荒れて!アイスストーム!」
「!!」
瞬間、その青い結晶から魔術が解き放たれる。キュレアちゃんは咄嗟に逃げようとするが、エッジで動きを制限されており、彼女は真っ向からその魔術を受けてしまった。
放ったのは広範囲魔術。しかも、上級魔術だ。
わたしには経験が少なく、技術力も応用力もない…だから、相手の隙を彼女の油断を突くしかないと思った。
アイスストーム、この術は自身を中心とする竜巻を発生させ、その中で刃のような氷の礫を吹き荒らせる…というもの。
さあ、キュレアちゃん…貴女はどうするの?
わたしはその中心部でキュレアちゃんがいた場所を見つめる。そして彼女は────
「やりますね。まさか短縮詠唱で上級魔術を使ってくるとは思いもしませんでした。私は貴女を少なからず見くびっていたようです…すみません」
「………キュレアちゃん…?」
あっ…あれ?…
とわたしは首をかしげる。
「どうかしましたか?」
…………いや、…そんな可愛らしく首をかしげられても…
「なっなんで…なんで何ともないの!?」
「ああ、そういうことですか」
彼女は納得したように頷き、言葉を続ける。
「風を身体に纏わせて防御してるんですよ。ほらこのように」
とキュレアちゃんは一旦、左手の刀を消しわたしに見せるように腕を持ち上げる。
わたしの回りには嵐のごとく吹き荒れているため見にくかったが…確かにその腕に氷の礫が触れる直前、消失しているように見える。
「すっ凄い…こんなことができるなんて…」
「まあ、いずれ貴女もできるようになりますよ。では、再開しましょうか?」
彼女がそう言いながら戦闘態勢に入る。
「はっそうだったっ。うん、大丈夫だよっ」
そして、わたしも戦闘態勢を整える。
まだ終わった訳じゃないんだ…なら、まだ可能性があるはず!
「では、行きます!」
彼女は先程と同じようにわたしへと突進してくる。
くっ生半可な攻撃じゃ避けられる…なら───
「アイスダガー!」
わたしは叫ぶ。魔力がわたしの内側から放出され術式によって魔術が構築される。
乱雑に吹き荒れていた氷の礫が一斉に彼女へと方向を変え襲いかかる。
普通なら避けれないほどの攻撃だ。キュレアちゃんは今のところ攻撃魔術は使っていない。それが彼女の戦闘スタイルなのかも知れないが…それにも限界があるはず…そこを上手く突くことが出来れば…。
「身体能力強化-瞬間突破!」
わたしが策を練っている間に彼女は叫ぶ。その瞬間、黄色の閃光が弾ける。彼女は………駆け抜けた。
「なっ!?」
一瞬過ぎて理解が追い付かない。しかし、今のは本当に駆け抜けたとしか思えなかった。
回りから迫ってくる氷の刃。それを彼女は自身のスピードだけで振り切ったのだ。
氷の刃のスピードを彼女が一瞬で上回った。
「あっアイスウォール!!」
わたしは咄嗟に目の前に大きな防御用の氷の壁を出現させる。
いざという時のために取っておいた魔術だ。横に長い長方形型の壁の為、回り込むには少し時間がかかる。しかし────
「はあっ!」
彼女は両手の刀を投擲する。それは氷の壁に簡単に突き刺さった。
「え?何を…」
わたしが困惑している間に彼女は跳躍する。彼女は素早く軽やかに突き刺さった刀を足掛かりにし、壁を飛び越えてしまう。
「なっ!?」
わたしは咄嗟に上を見上げる。すると一瞬彼女と目が合う。彼女が少し微笑んだその瞬間───二本の刀が降り注ぐ。
「ひゃあっっ!?」
わたしは投げ出すようにその場を飛び退く。しかし、受け身が出来ずにわたしは転がってしまう。
「チェックメイトです」
そんなわたしに仄かに光る刀の切っ先をわたしに向けいつの間にか近づいた彼女が言った。
「うう……負けました…」
圧倒的な実力差を見せつけられたわたしはそう言う他なかった。
ーーー
「ああ、冷たくて気持ちいいー。キュレアちゃんはいいの?」
「……私は大丈夫です…。そこまで汗もかいてませんし…」
「そう?気持ちいいのになぁ」
わたしは流れる川水で身体を洗っていた。久しぶりの全力投球での戦闘だったので汗でびしょびしょだったのだ。
もともとわたしは今回のように前線で戦うスタイルではない。その為、前衛のギンくんだったり時折前に出たがるルナちゃんよりも疲れることは少ない。それにパーティー唯一の回復魔術持ちなので、皆が守りを固めてくれるのだ。
この頃は魔獣との戦いがほとんどで今回みたいな一対一の戦いは全然やってなかった。ましてやここまで全力でそして、切り札まで出すなんて…したことなかったんじゃないかな…
「どうかしましたか、ステラさん?」
ぼぅ…と考えているところを不思議に思ったのかキュレアちゃんが目を背けながら聞いてくる。
「あ、ううん。何でもないよ」
「そうですか?」
「うん。……」
わたしは無意識に胸に手を置き、考える。
そして、彼女に言う。
「ねぇ…キュレアちゃん」
「はい、何ですか?」
何かを悟ったのか今度は目を背けず、彼女はわたしを見据える。
「………結局、分からなかったんだ…」
わたしは言葉を続ける。
そう、わたしは分からなかった。どうすればよかったのか…
「確かにいい経験にはなったとは思うだけど…」
「そうですか」
ここまでキュレアちゃんはやってくれたのに…わたしは…
わたしは唇を噛みしめながら、手に力を込める。
「ごめ────」
「それでいいんですよ」
わたしの言葉を遮るように彼女は言う。
え…?
「謝る必要はありませんよ。それでいいんです」
呆気に囚われるように目をしばたかていたわたしに再度、彼女は言う。
「貴女は私に言いましたね?どうすれば強くなれるのかと」
「うっうん。そうだね」
「今回、私は正直なところ手を抜きました。それは貴女も分かっていると思います」
彼女はわたしの答えを待つように一旦言葉を切る。わたしはそれに頷くと彼女も頷き返し話を続ける。
「結局のところ強さというものは自分の在り方によって決まるのですよ。その後に経験やらなんやらがついてくるのです」
「自分の在り方…?」
「そうです。私は魔力刀…いや、魔力剣を使って戦います。それが私にあった戦闘スタイルだからです。貴女はそれが出来ると思いますか?その魔法で戦えますか?」
「そっそれは…出来ないと思う…」
「そうですね。私もこの戦い方は貴女に向いていないと思います。ですが、私はこの魔法を使っています。理由は単純、それが私に合っているからです。それが私の言う在り方…いわゆる戦闘スタイルですね」
「なっなるほど…」
「貴女はそれがあやふやなんですよ。攻め方はいいでしょう…ですが、根本的なところが違うのでしょうね」
「根本的なところ…?」
「はい、貴女は戦いたくないのではありませんか?」
………それは…
「少しキツい言い方かも知れませんが…貴女は戦いには向いていないのでしょうね」
……………
「…そっそっか…それはそうだよね…戦いたくないのに戦えるはずなんてないよね…」
そうだ…わたしは始めから戦うなんてしたくなかった…だけど…
「だけど…守りたい…皆が苦しんでるところなんてもう見たくない…皆がいなくなるなんてもう嫌なの…」
だから、わたしは強くなろうとした…だから、戦った…だけど…
「勝てなかった…結局、わたしには…無理だったんだね…」
わたしはうつ向きながら絞り出すように言う。歯を食い縛りながらわたしは叫び出しそうな…決壊してしまいそうな心を食い止める。
「それは違いますよ」
その言葉と同時にわたしの頭に何かが触れる。これは…手?
「やっと言ってくれましたね。ステラさん」
「…え…?何を…」
「誰かを守る為に強くなりたい。それが貴女が強さを求めた理由…なんですよね…?」
「それは…」
彼女は微笑みわたしを撫でながら言葉を紡ぐ。
「勝つとか負けるとか、強いとか弱いとか…そんなものは第三者から見た主観でしかありません。結局は自分自身がどうしたいか何をしたいかなんです」
「???」
「戦うのは自分の理由…目的を譲れないから…。ただ何も思わず戦うだけなんて普通ならできません」
そこで彼女は一度言葉を切る。
「戦って勝つ。それだけを見れば相手に打ち勝つしかないように見えますが、勝つのはそれだけではありません。誰かを守りきる。それでも立派な勝利と言えるのではないでしょうか?」
誰かを…守りきる……
「遠回りしてしまいましたが…戦い方など人それぞれ、勝ち方も人それぞれ。どんな戦いをしたとしても自分の目的が達成できればそれが勝利となるんですよ。だから貴女は自分の目的を達成するために戦えばいいのです」
「わたしが…わたしが…皆を守れるの…?」
「はい。誰だって…何だって、始めは苦労するものです。貴女なら大切な誰かを守ることが出来ますよ」
「でっでもっわたしは向いてないんじゃ…?」
「それは前衛で戦うときの話です。貴女は後衛で皆の守りを強固にするのに向いています。先ほどの戦いがいい例ですね。貴女は自分の回りに展開させる魔術を使いました。それは遠距離で仕留められると思わなかったからですよね?」
「たっ確かにそうだけど…」
「まあ、貴女には私の戦闘を見たことがあるので…ある程度は予想できたでしょうが…扱い方はやはり遠距離魔術より展開魔術の方が向いてるでしょうね」
「……そっそうなんだ…」
「はい、なので貴女は展開魔術を中心に周りの人を守る役目。それが貴女に向いている戦い方でしょうね」
……………
「……………」
「まあ、これは私が見ただけのものなので最終的にはどうなるかは分かりませんが……………?……ステラさん?どうかしましたか?」
わたしは目を見開きながら呆然とわたしより小さく可愛らしい彼女を見つめる。そして────
「凄い!凄いよ!キュレアちゃん!」
「ひゃ!?」
わたしは感極まりすぎて彼女に飛び付いた。
「ありがとうっキュレアちゃん!わたし…本当は辞めた方がいいんじゃないかって…ずっとずっと足手まといなんじゃないかって悩んでたんだ……今はセーラさんが見てくれているけれど…この先もずっとこの状態じゃないだろうし…全然成長しない自分自身が嫌になってた…だけど、諦められなくて…どうしようもなくて…」
わたしは彼女に抱きついている腕に一層力を込め、続ける。
「だけど…キュレアちゃんのおかげで…見つけられそうだよ。大切な人を守りきる力……必ず…必ず…見つけてみせる…」
そうわたしは決意する。この先どうなるかは全然分からないけれど…キュレアちゃんが見つけてくれた光…無駄になんかしない…
「きゅう…………」
「??あれ?キュレアちゃん?」
キュレアちゃんは何故かのぼせたように赤くなり、目を回している……って───
「あっわたし裸だったっ!キュレアちゃん!?大丈夫!?キュレアちゃん!?」
わたしは大慌てで川から上がり服を着る。そして、一呼吸し落ち着いた後にキュレアちゃんをテントに戻すためその小さな彼女を持ち上げる。
…………ふぅ……軽いね…
わたしは目を回したこの可愛いらしく…見た目によらず頼りになる子狐ちゃんの頭をそっと撫で。
「ありがとう、キュレアちゃん。…おやすみなさい」
そう呟いたのだった。
第九話νが一話で終わらなかったので…まさかの二部構成に…。
では、いつもの説明&補完です。
『ステラが凄く強くないですか?』はい、そう見えるだけです。すみません…自分の書き方が悪かったのか…見る人によってはそう見えると思います…ですが決してそうではありません。実際、キュレアはほとんど魔法らしい魔法は使ってませんので…キュレアが本気で戦えば戦闘にすらなりません。これはキュレアなりに手加減した結果によるものですので…ステラは弱くはないのですが強くもありません。発展途上という感じですね。
『魔力結晶』これは簡単に言えば魔力を溜め込むことが出来る結晶です。今回ステラは普通の魔力ではなく術式を組み立てた魔力を入れていた為、あのような使い方になりました。魔力結晶は普通の魔力を溜め込むこととすでに術式を組み立てた魔力を溜め込むこと…この二通りの使い方が出来るのです。
では、今回はここまでです!見てくれた人は少ないかもしれませんが…読んでくれた人は本当にありがとうございます!最新話はまた後程…では、また会いましょう!