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【旧作】 Welcome into the world [俺の妹が勇者なんだが…]  作者: 真理雪
第一章【旅立つ子狐】
12/77

008 - 出会いは唐突に 3 -

 いつでもこんにちは、真理雪です。

 お久しぶりです…遅くなって申し訳ありません!…なかなか書く時間が取れず…投稿が遅れました…。

 もう11月なんですね早いものです…。凄く寒くなりましたね。

 今回は少々長めですどこかで切ろうかと考えてたのですが…もういいや!と思った次第であります。

 少し意味の分からない単語が出てくると思いますがそれは後日説明と言うか…物語に出てくると思いますのでよろしくです。

 いつも通り拙い文章で申し訳ないのですが…少しでも楽しんでくれたら嬉しいです! では、どうぞ。




 目の前にいるのは、大人の約十倍以上もある巨大な岩で出来た蛇の化け物。そして、それに相対するは狐族の小さな少女。


 一見すれば、それは絶望的で勝ち目のない戦いであっただろう。だが───


 この世界にはそれを覆せる『奇跡(まほう)』が存在する───




「さあ! いくわよっ!!」



 グァァァァァァァッッ!!!





 俺は(くれない)の瞳で化け物を見据え、自分の発した掛け声と共に飛び込む。対して、岩の蛇は俺を牽制するためかその巨大な尻尾を振るい、その場を凪ぎ払う。


「───身体能力強化(ライズアップ)!」


 そんな安直な対応に俺は慌てず、身体を強化してその場を跳躍。化け物の攻撃を難なく飛び越え、落下するその勢いを殺さずに利用、奴の胴体部分にあるひび割れた箇所を目掛けて刀を突き立てた。




 ───ガキンッッ!!!



「───っ!?」




 予想以上の反動で俺は一瞬驚く。が、反射的にすぐさまその場を飛び退く。その直後、その場をやつの尻尾が地面を割った。

 その化け物は、巨大さに反する俊敏な動きで俺を捕らえようとしてくる。が、それに対応できないほど俺は弱くはない。

 やつの攻撃を受けずに避けてから、一定の距離を取って後ろへ下がった。


「予想以上の固さね…。これはもっと出力を上げないと斬れない…か…」


 俺はそう一人ごちる。

 地面に音もなく着地した俺は右手に握りしめた仄かに光る刀を横目で見やる。

 この刀は自分自身の魔力によって実体化させたものだ。なので、切れ味や強度は自分次第となる。


 (でも、おかしいな…。別に手を抜いていた訳じゃないんだけど…)


 この黒い異質な魔物はそこいらの“脅威”とは訳が違うようだ。自慢じゃないが、自身の“魔力刀”はただの鉄で作られた剣よりも遥かに強度があり、鋭利な自信がある。鉄製の剣で岩を切れとか言われると正気を疑うが、自身の刀なら容易く切れるはずだった。


 そんなことを考えていた瞬間、俺の目の前は黒一色で染まる。



「───っ!!」



 ほとんど条件反射のように俺は目の前を出力を上げた刀で切り裂く。

 真っ二つに別れ、俺をすり抜けて行くそれは、黒く焼き爛れた岩石であった。


「まさか…“桜”が刺さった状態で飛ばしてくるわけ…?」


 “ガンズロック”と言う魔物は本来は自身が動くことなく、地面から突き出た状態で固定砲台のように『動くもの』に対し、その空洞のような大きな口から岩を飛ばす魔物だった。


 桜…もとい俺の愛刀は少し特殊な代物で、魔獣や魔物などの魔力を帯びた生物には、まさに天敵であると言えた。

 そんなものを岩石の排出口にある目に突き刺さったまま、口から岩を放ってくるなんて信じられる行為ではなかった。痛みを感じていないのならまだ分かるが…。


 (───いや、それは違う。桜が刺さった瞬間にこいつは悲鳴をあげてのたうち回っていた。痛みを感じないわけではないはず…。正気を失っている…のか? なんだか気味が悪いな…)


 そんな思考が巡る中でも魔物は容赦なく岩を放ってくる。

 さすがにこれ以上戦線を下げるのは不味い。あの少女を巻き込むわけにはいかないし、何よりここの何処かにもあの娘の仲間がいるはずだった。

 何かを守りながら戦うことがこんなにも難しいことだなんて、思っても見なかった。


 どう突破するか悩む中、俺は振り上げた刀を振るい、連続で放ってくる巨大な岩の弾丸を切り裂き続けた。すると、後ろから聞きたくなかった声が響く。



「だ、大丈夫ですかっ!!?」



「───っ!? 何故戻ってっ! 大丈夫です! 下がっていてください!!」



 俺の状況を見かねたのか、それともただ心配になって戻って来たのか。さっきの少女が近づいてきていた。



「だ、だけどっ! このままじゃあなたがっ!!」



 彼女は俺の言葉を聞かず、何かの魔術を発動させようとしたらしい。後ろから魔力が動く感覚がした。しかし、それがいけなかった。




  グァァァァァァァ─────ッッ!!!




 と、突如化け物が轟音を響かせる。俺はただの威嚇のための鳴き声かと思った。しかし、その直後、信じられない現象が起こる。



 化け物の口から弾き出された黒い岩。それが突然、軌道を蛇のように変えたのだ。そして、瞬く間に俺の真横を抜ける。予想だにしなかった攻撃に俺自身も一泊行動が遅れてしまった。


 (なっ!? 飛ばした岩の軌道を変えられるだってっ!? ちっ。今は驚いてる場合じゃない!)


「───っ! 伏せてください!!」


 咄嗟に俺は声を張り上げる。少女が危険だった。今から魔術を発動させたところで間に合うはずがないし、今の彼女は俺が回復させたとは言え手負いに違いない。そんな状態であんな得たいの知れないものを防げるとは思えなかった。


 俺は()()()()()()を左手に顕現させ、お互いの柄頭を接合させる。




「───両断しなさいっ! 風魔(ふうま)円閃刃えんせんじん!!」




 俺は風を纏わせたその“双身刀”を全力で投げつける。

 回転しながら翔んだその刃は狙い違わず、その黒い岩に追い付いて切り刻んだ。



「ひゃあっっ!!!???」



 岩は無惨にも風の刃によって粉々にされ、その惨劇をもろに受けた少女は驚愕の表情をその可愛い顔に浮かべながらその場にしゃがみこんだ。


 俺は一瞬だけ彼女の安否を確認し、前へと視線を戻す。


 その瞳には確固たる決意が滲み出ていた。


 これは手加減してる場合じゃない。他の人間には見せたくないとか、それはもう理由になんてならない。自分の勝手な考えで少女に危険な目を合わせてしまったのだ。もうこれ以上、させてはならない。


 (なんのために力をつけた? なんのための十年間だったんだ。こんなところで悩むなよ。彼方!)


 その化け物を俺は睨み付ける。そして、言った。



「…舐めるんじゃないわよ」



 化け物は懲りずに巨大な岩を放ってくる。それが敗因とも知らずに───


「…四連刃フォースブレード───」


 俺は小さく呟き、両手に新たな二本の刀を発現させる。しかし、それは先程とは少し様子が違っていた。まるで自ら冷気を放っているかのような靄が刀身を覆っている。


 対する魔物は動きの止まった俺に馬鹿の一つ覚えのように岩を放ってきた。しかし、それは単純なものではない。連続で放たれた岩の弾丸は軌道を変えて襲ってくる。その数───4つ。大人をまるごと潰せるぐらいの弾丸が同時に襲って来たのだ。


 それに俺は────


「凍てつけ!! ───氷刃(ひょうじん)っ!」


 二本の刀を投擲した。

 刀は真っ直ぐ魔物へと飛び、自分自身は瞬時に魔力を爆発させて飛び上がる。

 魔物の巨体を軽々と越えたその跳躍は、4つの岩を空振りさせて地面へめり込ませた。




  グァァァァァァァッッ!?!?!?




 魔物の咆哮。その鳴き声には驚愕の色が多分に含まれたものだった。

 

 俺が放った刀は見事に魔物の身体に突き刺さり、そこから冷気が吹き出していた。魔力によって氷点下になった刀は刺さった場所を起点として、岩の表面を氷漬けにしていく。




「四連刃=皆刃(かいじん)―“刃羽切(はばき)り”」




 俺は空中で一本の刀を抜き放つ。それは長かった。形こそいつものものとそう変わらないが、自分の身長よりも長い刀身と、それに対する長めの柄。

 4本の刀を全て組み合わせた形態で、巨大な相手に対して致命傷を与えるために考えた技だった。



「───風よ! 我に従え!!」



 俺は飛んできた岩をその大刀で切り裂く。空中での戦闘では動きが制限されるが、それは風の力で補わせる。



「───終わらせるわ」



 怒り狂ったように岩を飛ばす魔物は躍起になって俺を落とそうと狙ってくる。が、俺はそれをひらりひらりと受け流して肉薄する。

 

 重力と風の勢いを乗せて、俺は振り上げた刃を走らせる。


 今度は弾かれることなく、その光る刃は魔物の肉を絶った。




「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」




 掛け声と共に刃を突き立てたまま俺は地面へと滑り落ちる。頭部から胴体へ───

 その異様な化け物は光の刃で成す術もなく切り裂かれ、そして────





 ────“一刀両断”





 まさにその一言に尽きた。

 その仄かに光る刃はその漆黒の胴体を見事に真っ二つに切り裂き、大きな地響きを鳴らし地面へ崩れ落ちた。




「………ふう…終わったわね…」




 俺は目の前の惨状を見ながら大きなため息をつき、刀を空中に捨てる。それは空中に捨てると同時に光の粒子になり消えていった。



「桜っ!」



 俺が名前を呼ぶとどこからともなく赤い影が飛んでくる。それを右手で捕らえると、それに微笑み労いの言葉をかける。


「ありがとね、桜。お疲れ様」


 その刀は俺の言葉に反応するかのように、静かに明滅すると、紅く輝いていた光が徐々に消えて行く。

 それを俺はそれを確認してから刀を鞘に納めた。



「あっ、あの…」



 キンッと刀が収まる音とほぼ同時に、戸惑った可愛らしい声がした。

 近づく気配は当然ながら察知していた。振り向いた俺にどう声を掛けるか悩んでいる様子の彼女は、言葉を詰まらせながらも口を開こうとする。しかし、俺はそれを遮った。


「すみません。私が何者で敵なのか味方なのか、貴女が警戒するのは理解しています。ですが今は…今だけは私を信用してもらえませんか?」


 この少女にとって俺はただの他人だ。仲間でもなければ、知り合いですらない。しかし、今はそうも言ってられない状況だ。どうにか一時的にでも信用して彼女の仲間を助ける手助けをしてもらわなければ…。



「えっ? いや…別に警戒なんて…えっと…してないけど…」


「???」



 彼女はきょとんとした表情でそう返し、俺はそれに小首を傾げる。



 (あれ? なんだろうこの宛が外れたような感覚は…? ……まあ、いいか…それよりも────)



「そ、そうですか…。えっと、どこかに休めるところはありませんか? あなたの仲間たちを治療したいので」


「えっ!? いいのっ!? ホントに!?」


「ええ。当然です」


「あ、ありがとうっっ!!────それならこの近くにわたしたちが野営キャンプしているところがあるからそこに行こうっ」


「分かりました。それでは急ぎましょう」


 少し涙ぐんだ彼女は先頭をきって走り出す。


 そして、俺たちは倒れて意識のない三人を探しだしそこへ連れていったのだった。






 ◆◆◆







 狐の少女と魔物の死闘があった場所。もう既に彼女らの姿はなく、魔物の成れの果てが寂しく放置されているだけだった。




『ふむ…まさかここでやられるとはな。やはり知能のないゴミでは力不足か…』




 そこで、唐突に男のような女のような中性的な声が微かに響く。その声の元は一人の人物。いや、そういう形をしているだけで人かどうかも定かではない。

 その理由は黒色のローブ。身体全体を覆い隠し、内側を一切見せようとしないその人物は、崩れ落ちた魔物の死骸をなんの感情もなく見つめていた。



『しかし、失敗作とはいえ、やられてしまうとはな。人間一人すらまともに喰えないとは。───まあいい…確かここの奥にはアレが居たな。次は奴を使ってみようか…』


 

 その黒い存在はシュウシュウ…と煙をあげている魔物だったモノに踵を返し、そして────忽然といなくなった。







 ◆◆◆







「うん、美味しい。こんなものかな?」


 ステラは少し掬ったスープを口に含み味を確める。

 まあまあな出来に彼女は満足そうに微笑み、大きな鍋の蓋を閉める。


「よし。これで夕食の用意はできたね。たくさん作りはしたけど…足りるかな…? ギンくんたくさん食べるんだよね…」


 元気そうにがつがつと食べる姿を思い出して、苦笑する彼女。一時はどうなることかと思ったが、命の心配はないと“彼女”が言ってくれたため今はこうして料理を作っている。

 “彼女”というのは、自分自身を含め助けてくれた命の恩人。獣人の少女のことだ。


 あの回復魔術は驚異的だった。獣人の嗅覚で仲間を見つけてくれた彼女は、皆重度の怪我を負っていたのに関わらず、瞬く間に治していってしまった。あんな魔術、見たことがない。自身の回復魔術と月とスッポンほどにも違うそれを見て、ステラは複雑な思いだった。

 

 はっと我に帰った彼女はパンパンッと軽く頬を叩くと気持ちを取り直す。


「だめだめっ。暗くなっちゃいけないよねっ。皆の様子はどうかな…? あの子が見に行ってくれた筈なんだけど、やっぱりまだ目が覚めてないのかな…」


 今は三人とも自分たちが使っているテントの中で休ませている。あの子が様子を見に行ってくれてはいるが…戻ってこないところを見るとまだ目を覚ましてはいないようだ。


 心配してはいるが、不思議と不安感はない。感覚的なものなので、何故かと問われれば首を捻ってしまうが、あんなに素敵な笑顔を見せる彼女を敵とは思えなかった。


 (それにしても…何者なのかな? あんな戦い方をする獣人族の人始めてみたよ。あの子…って名前すら聞くの忘れてた…。ううっ。でも、魔法を使うなんて珍しいよね)


 獣人族が『魔法』を使うことは凄く珍しい。通常、獣人族は『魔法』ではなく『魔術』を使うことがほとんどだ。使うとしても全体的に魔力消費が激しい『攻撃魔術』や『防御魔術』ではなく燃費のよい『身体強化魔術』を使う筈で、自身の魔力に直に関係する“魔力剣”なんて使うことすらない。なぜなら、獣人たちは“保有魔力”が基本的に少なく魔術適性が低い傾向にあるからだ。しかし、それを補って余りある身体能力を持っているため、少ない魔力で消費の激しい魔法を使うより、燃費のよい魔術を使い長所を伸ばす方が合理的なのだ。


 ────でも、例外はいるんだけどね


 なんにしても例外はいる。しかしそれは、本当に一部だけの話ではあるのだが…。


 獣人族の例外と言えば真っ先に出てくるのは“狐神子”だろう。“狐の里”で頂点とも言える存在だ。自分と比べるのもおこがましいくらいの立場の人物。そんな人物がこんな辺鄙な場所にいる訳がないし、なにより都合が良すぎる。

 自分たちが危機的状況に陥って、たまたま通りかかったのがそんな存在だったなんて聞かされた暁には目が飛び出して戻って来ないだろう。あ、実際になる訳じゃないからね。


 だがしかし、彼女が特別な存在なのは一目で理解できた。そこまで自身は鈍感ではない。

 あの人目に目立つ“巫女服”だってそうだ。恐らく里でその関連の仕事をしているのだろう。


 ステラはその場にあった岩に腰かけて空を見上げる。空はもう暗くなり、気が早い星たちが我先にと光を地面に向けて放っている。


 自分はあの無数にある星たちと変わらない。数えきれないほど無数にいる人間の一部で、人生に迷っているだけのただの小娘だ。


 (ホントに羨ましいな…。あんなに凄い回復魔術も使えて、そして強くて。何よりも凄く可愛いし。わたしも…そうだったら良かったのにな…。───もし…わたしが…少しでもそうなら…………助けられたのかな…)




「「キャ――――――――――――――――――――――――ッッ!!!!」」



「えっ!? な、なになにっ!??」



 突然のその悲鳴にステラは飛び上がる。その声はいつも聞いている聞き慣れたものであり、それは彼女達が休んでいる筈のテントから聞こえてきたものだった。やけに嬉々とした声だったような気がしたが、無視するわけにはいかない。


 彼女はテントへ急行し、その入り口に張ってある布を勢い良く捲って中へ入った。


「───どうしたの皆っ!! 大丈夫っ!?」


 ステラは声を張り上げ、中に入るが…中の異様な雰囲気に唖然としてしまった。


「キャ――――!! なにこの子っ!? 起きたらめちゃくちゃ可愛い子がいるんだけどっ!!?? むぎゅ――――っ!」


「うう…苦しいです放してください…」


「て、天使…天使がいます! ルナさん早く換わってくださいっ!!」




 (………えーと…これはなんだろう…。あ、ギンくんが放心状態になってる)




「あの…見てないで助けてください…」



 二人の女性に抱きつかれ、成すがままにになっている小さな少女は、呆然としたステラへ抗議の視線を向けていた。





 






「コホン…では、始めてもいいですか?」




 と、俺は大きな鍋を囲むように座る四人に言った。


「はい。私も含め皆さんも落ち着いたようですし、そろそろ始めましょう。では、まずは自己紹介から始めましょうか」


 俺の質問に緑色の鎧を着込んだ女性が白く長い耳を揺らしながら答えた。


「それでは私からいきましょうか。私の名前はセーラ。セーラ・アルタイルと言います。見ての通り兎族の獣人です。一応、このパーティのリーダーをしています」


 クリーム色の長い髪をなびかせながら兎族の女性は名乗る。


「一応はないでしょ一応は。あたしたちにとってセラさんはこれ以上ないリーダーよ」


 セーラさんの隣にいた魔女っ子スタイルの少女は彼女の言葉に不満があったようで、反論するようにそう言った。


「ありがとう…ルナさん。でも、私はまだまだですから。それじゃ次はルナさんお願いしますね」


「…ふんっ。ええ、分かったわ」


 魔女っ子の少女は彼女の言葉に納得いかないのか、ため息をつきながらもこちらに顔を向けた。 


「あたしの名前はルナ・エルヴィスよ。見ての通り───ふっ…()()よ」


 自信満々に、ふふんと小さな胸を張りながらその少女は言う。


「魔女…ですか」


「そうそう魔女なのよ。“エルヴィス”って聞いたことない? 永遠の魔女と言われた────」


「あーあ。また始まっちまったよ…。あんなのただの迷信だろ? 本当に懲りないよな~」


「はぁっ? 何よっ。なんか文句あるの!? あたしは歴とした魔女の子孫なんだからねっ!!」


「分かった分かったって。あ、スープ飲まないならオレにくれない?」


 あげないわよ!と叫びながら彼女は隣にいた銀色の青年に蹴りを放ち、彼は椅子がわりにしていた石からズデッと滑り落ちた。


「いってーな! 何すんだっこのチビッ子っ!!」


「なっ!? 誰がチビで胸が小さいですってぇっ!!??」


「そこまで言ってねーだろっ!?」


 ギャーギャーと騒ぎ出す紫色の髪をした自称魔女と銀色の青年。


「えーと…ごめんね? この二人はいつもこんな感じなの…」


「はぁそうですか。分かりました」


 俺は少々気圧され気味にステラさんへ返事を返した。

 喧嘩するほど仲が良いって言うしな。少々騒がしいが、元気そうで何よりだ。


「わたしから紹介しておくね。あの銀色の…“銀狼族”って言った方が分かりやすいかな? 名前はギンくん。ギン・ルーパスだよ。あの有名な白銀の騎士団団長の息子さんなんだよ」


 と、俺にニコニコしながら彼女は教えてくれる。


 “白銀の騎士団”といえば、確か帝国の腕を立つ者を集めた少数精鋭の騎士団であり、人数は少ないらしいがその強さは折り紙つきで、この世界では神と神聖視されるSランクのドラゴンを討ち取ったこともあるとかないとか。そして、必然的にそんな騎士団の団長を務めているその者はこの世界において何者にも代えがたい強者であり、そして人望も厚い人格者だと言われている。まあ、敵に回ってしまえば厄介きわまりない存在であると言えるだろう…。

 そんな大物の息子がこんな辺鄙な場所にいるとは思わなかった。


「それじゃあ…。後はわたしだけだね」


 と、ふんわりとした金髪を耳に引っ掻けながら彼女はコホンと仕切り直す。


「わたしの名前はステラ。孤児院育ちでなにか特出したものもないけど…。一応、回復魔術は使えるんだよ。気軽にステラって呼んでね♪」


 彼女はにこやかに微笑んで言葉を紡ぐ。その屈託のない笑顔に見とれてしまったのは内緒だ。


「では、私たちは終わりましたね。それでは、貴女のこと…聞かせてもらえますか?」


 兎族の獣人、セーラさんが改めて俺に訪ねる。


「分かりました。私の名前はきゅ────」


 と、俺はギリギリのところで思い止まる。


 (あっ、あぶねーっ! 自分から自爆するところだったっ。キュウビって言いそうになったわ。さすがに信じないとは思うが、自分で不安の種を撒くのは馬鹿じゃねぇか…)


「?? どうかした? キュ? なにかな?」


 (しっかり聞かれてんじゃん!! …うぐ。どうしよう…考えてなかった)


「えっ! えーと…その…えっと…きゅ…きゅー…キュ、キュレア…とか? 私の名前はキュレアですっ!!」


「キュレアさん…ですね。分かりました」


「へ~キュレアちゃんか~珍しい名前ね~。でも、なかなか可愛いわよね!」


「キュレアちゃん…いい名前だね♪ よろしくっ」


「あれ? いつの間にかオレの紹介が流されてないか…?」


 (いけた―――――――っ!!! 意外といけたーっ!!! 即興で作った名前なんだけどっ。ま、まあ、変ではないし…? 大丈夫…大丈夫…だよね?)


 内心ハラハラしていた俺だったが、ポーカーフェイスを貫いたお陰でどうにか場を納めることができた。まあ尻尾は荒ぶってたけど…。それよりも彼らには気になることがあったようだ。


「───それにしても。キュレア…だっけ? お前はどうやってあの化け物を倒したんだ? 俺の剣でも切れなかったのにっ」


 ギンさんは悔しげに俺に訪ねてきた。

 確かに気になることだろう。しかし、俺はどう言えばいいか考え倦ねる。因みにステラさんには口止めは既にしてあった。


「…そうですね。只単に偶然が重なっただけですよ。たまたまです」


「いや、たまたまって…そんなので倒せるわけが───」


「ギンくん。そこまでにしておきなさい」


 どうにか聞き出そうとしていた彼を止めたのはセーラさんだった。


「気になるのは分かります。が、それよりも先に私たちは彼女にするべきことがあります」


 セーラさんは彼だけではなく残りの二人も含め、目配せしてから俺へと戻した。


「遅くなってごめんなさい。本当は先に伝えていなければいけない筈だったんですけどね…。キュレアさん。私たちを助けてくれて本当にありがとうございました。貴女がいなければ私たちは今頃この世にはいなかったでしょう…。本当に感謝しています」


 彼女は深々と頭を下げ、それを見た周りの彼女たちも慌てて頭を下げる。


「え…いえ、私は当然のことをしたまでです。頭をあげてください」


「そうですか。…分かりました。ですが、少しぐらいは恩を私たちに返させてください」


 俺は別に恩を売るために助けた訳ではない。只単に自分が後悔するのが嫌だったから助けただけ。どちらかと言えば、勝手をしたのはこちらなのだ。

 しかし。


「・・・」


 どう返して言いか分からず、無言で回りを見回すと、真剣な目で見つめる目が視界に入ってきた。恐らく、彼らは全員同じ気持ちなのだ。この人たちは恩を返せないと納得しないだろう。律儀な人たちだ。


 ならばと俺は四人に提案する。


「では、そうですね。道案内をお願いできますか?」


「道案内ですか?」


「はい。私は見ての通り旅人です。王都へ向かっているのですがその前に、この辺りにある街へ寄る予定なのです」


「えーと。この辺りの街なら…わたしたちが滞在してる“カノンの街”のことかな…?」


「名前は…すみません、知らないです…。この近くにあると言うことしか聞かなかったので…」


 (うぐ…。そういえばあのアホ神。街の名前伝え忘れてんじゃねぇか。俺も聞き忘れたのも悪いが…)


「まあ、ここら辺って言うならカノンしかないでしょ。でも、キュレアちゃんって旅人だったのね。一人で旅をしてるの? 危ないんじゃない?」


「魔物に対しては大丈夫だと思いますよルナさん。この目で見たことはありませんが、私たちよりも彼女は断然手練れですよ」


 その言葉にえっ!?と二人は同時に驚く。ステラさんは微妙な表情をして視線を反らしていたが…。

 セーラさんには見抜かれていたようだ。この人もなかなかの手練れだな。


「セラ姐より強いのかっ!? まじでっ!?」


「ええ、そうですよね? キュレアさん?」


「そんなことはないですよ。一応、一人旅なので訓練はしていますが…護身術程度のものです」


「分かりました。そういうことにしておきましょう。それではキュレアさん? 続きをお願いします」


 俺の言葉をセーラさんは華麗に流し、俺に続きを促してくる。これ以上は追求しないようだ。助かる。


「…分かりました。では、話を戻します。私はそのカノンの街に行きたいのですが…恥ずかしながら道を見誤ってしまって。なので、貴女方は護衛かつ案内役として私を街まで送り届けてください。それでその恩を返せたことにしましょう」


「ええっ? キュレアちゃんそんなのでいいの? 簡単すぎじゃないかな…」


 ステラさんは目を丸くし驚きながら聞き返してくる。セーラさんやルナさんは予想していたのかやっぱり…と言う表情をしながら俺の方を見ていた。

 

「はい、それでいいですよ。もともと私は別に助けたいから助けただけなので。それにちょうど道案内は欲しいと思っていたところなんです」


「そうですか…分かりました。キュレアさんがそう言うのであれば私たちに拒否権はありません。では、今日はもう遅いですし…明日の朝出立することにしましょう」


「そんなに固くならなくてもいいんですが…」


「いえ、そうはいきません」


「そ、そうですか…」


 二の句を次げない程はっきりと言うセーラさん。

 この人相当真面目なんだな。三人を見る限り自分に厳しいタイプか。


 まあこれで明日には街へ着けるだろう。色々あったが一先ず安心だな。



「───では、皆さん短い間ですが、よろしくお願いしますね」



 そして、俺は再度彼らを見回し、そう頭を下げた。








 どうでしたでしょうか?変なところや脱字誤字がありましたら言ってくれると助かります。

 

 魔法と魔術について物語に少し出てきたので説明させてもらうと『魔法』は自身の想像の力だけで自分の魔力を形にし発動させるもので魔力をそのまま使用するため少々消費が激しくなります。『魔術』はその『魔法』を術式で効率化し、燃費をよくしたり発動させやすくしたもので根本的には『魔法』と変わらないのですが使い勝手のよさから『魔法』よりも『魔術』の方が使われています。

 一応、『魔法』の方が魔力を使いますが魔力の使用量によって強弱が大幅に変わります。なので、本当に強力なものを撃とうとするならば術式で決められている『魔術』よりも『魔法』の方がいいと言う感じですね。

 因みに、『魔術』の術式を魔術式と言うのですがそれに対して『魔法』の想像する力を想像式と言います。まあ、こんな細かいこと物語に出てくるか分かりませんけどね…。


 長くなってしまいました!申し訳ありません…ここまで読んでくれた人には本当に感謝感激です!設定はもっと違うところで書いた方がいいかも知れませんね…今回もありがとうございました!次回もよろしくお願いしますね!

 では、また!



7/2 誤字修正


2020/8/2 ただいま全文加筆修正中につき、少し変なところがあります。


2020/8/9 全文加筆修正

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