006 - 出会いは唐突に -
いつでもこんにちは、真理雪です。
連続投稿です。今回は少し短いです。5000字いってないので…ですが、これ以上書いたら凄い量になってしまいそうなので。
というわけで、狐ちゃんが登場です。毎度毎度拙い文章ですみません……。
では、どうぞ。
“魔法世界”─セレスティア。この世界では、地球ではまずあり得ない存在が数多く存在する。
例えば、“魔獣”や“魔物”。それらは人類全体に敵対する脅威として認識されており、村を襲ったもの、公道を脅かすもの、存在するだけで危険視されるもの…理由は多岐に渡るが、冒険者や国を守る騎士たち、兵士たちが討伐するため、それらを生業とした者たちが多く、そしてそれに憧れて目指す者たちも多い。しかし、魔獣は魔物とは違い人間と助け合うものたちもいるため、人類の敵だと一概には言えなかったりもする。
そして、異世界と言えば多種多様の人種を思い浮かべるだろう。この世界も例に漏れず、沢山の種族が存在している。それは地球のようなただ肌や瞳、髪の色の違いだけではない。見た目は当然として文化や能力、知識やそれ特有の価値観…。まあそれらを全て挙げてしまうときりがないので、分かりやすい種族だけを挙げてみよう。
エルフ、ダークエルフ、ドワーフ、獣人、竜人、鬼人、天人、etc. etc. …
それらは個々の種族だけで文化を持っていたり、その技術を分け与えたり、はたまた教えてもらったり、昔なら争うこともかなりあったが、そういった歴史の上で今の世界があるのだ。
人類の中で一番多いのは、人族、所謂、人間である。がしかし、その人族の人口が一番多いからと言って決して世界の主導権を握っているわけではない。なぜなら、人間より強力な力を持った種族がたくさんいるためだ。
例を挙げてみるならば、魔術の適正は低いが身体能力が著しく高い獣人族だったり、人族よりはるかに魔術に長けたエルフ族だったり…そして先に挙げた竜人族は人類種最強と豪語されている。数の人族と強力な力を持つ者たちが微妙な天秤の上で釣り合う形で世界は回っていた。
因みに人類にはあまり知られてないことだが、精霊やそれこそ神様までが存在している。この世界は地球の常識なんて軽々と越えてくるのだ。
「───さてと…」
俺は目の前に広がる木々を見ながら、足下にあった太く長い木の根っこをひょいっと避ける。
艶のある長い茶髪を背になびかせ、俺はこの獣道すらない鬱蒼とした森の中を歩いていた。
「本当にこっちで合ってるんでしょうね…? もしかして嘘をつかれたんじゃないかしら…」
俺は今、現在。“霊峰”と恐れられ称えられている森の中を彷徨っている。
いつもの黒の編上げブーツで木の根っこを踏みつけながら、俺は目の前の邪魔な木の枝を切り裂いて進んで行く。
「……もしかして私…迷ってない?」
今更ながらに気づく。認めたくなかったが、間違いなく迷ってるねこれは。
どうしたものかと溜め息をつく俺、その脳裏には数時間前の記憶が甦っていた。
ーーー
「用意できたかな~?」
と、飄々とした様子で彼女は訪ねる。
「…ええ。まあ、別に持っていくものなんてほとんどないんだけど」
それに俺は、片手を広げひらひらとジェスチャーしながら答える。
用意と言っても俺はいつもの一張羅、改造巫女服、そして愛刀を腰に挿して、肩から掛けるようにして麻袋を持っている。麻袋の中身はある程度の路銀と水分、それと…貴重品かな。
因みに食料は現地調達の予定。一応、この俺…“キュウビ”の身体は神の御神体であるため、実際は世界に満ちている魔力があればそれを自動的に吸収し自分の糧にできるため食事をしなくても問題はない。なら何故食べるのかと疑問に思うだろう。理由としては単純で食料から得られるエネルギーの方が多く効率が良いためだ。ま、そこら辺は人とそう変わらないのかもしれない。
「それじゃあ…私は行くわね。また、会えたら会いましょ」
「うん……。でも、もう行っちゃうんだね…。確かに早い方がいいとは思うけど…もう少しゆっくりしていても良いのに…。主に私の気持ちの整理がつくまで」
「…心の内が漏れてるわよ…。相変わらずね貴女は…」
そう言って肩をすくめる俺は湿っぽくなる雰囲気を変えるために、改めて言葉を続ける。
「最後に確認させてちょうだい。ここから真っ直ぐに行くと大きな川に出るからその川を渡り、川に沿って下って行くと街に出る…だったわよね?」
「うん、そうだよ~。そこには“冒険者ギルド”があるからね~。そこで登録して冒険者になること! 忘れたらダメだよ!」
「はいはい、分かってるわよ。それにしても自身を証明するものがないと王都に入れない…か…。面倒くさいわね…」
俺はそう悪態をつく。本当なら最短ルートで寄り道なしで行くべきだと自分は考えていた。が、目の前の彼女はそれは出来ないと却下したのだ。
理由としては…
「仕方ないでしょこんな御時世だし…。つい一週間前にはあんなことまであったんだよ? 普通に入れると思ってるの~? 今の王都の警戒レベルはマックスだよマックス。身分証明が出来なければ即座にお縄確定だよ? てっそういえば、貴女は元々どう入ろうとしていたの? まさか力ずくとか言わないでね~?」
「………ノーコメントでお願いするわ」
彼女からのじっとりとした視線に“考えてなかった”と正直に言えなくなってしまった俺は、その視線から逃げるようにして顔を反らす。
魔族の奇襲を受けた王都はかなり入りづらくなっているようだった。身分証明があったとしても相当待たされるだろうと彼女は言う。確かにそんな王都に普通に入ろうとするのは些か軽率だったかもしれない。もっと冷静にならねば…。
「それと…昨日も言ったけど…“陰”には気をつけておいてね。貴女の調律でどうにかできるとは思うけど…。無理は禁物だからねっ!」
ビシッと彼女は人差し指を俺に向けながら言う。
「分かってるわよ。“陰”…この世界に存在しないモノ…ね」
「そ。本当は“調律者”たる貴女に調律してもらいたいところなんだけど…。この頃気味が悪いほどその存在が大きくなっているんだよね…。だから、無理だと思ったらすぐ逃げていいからっ。貴女がいなくなる方が…私は……嫌だから…」
彼女の言葉が段々と小さくなり消えていく。いつも元気で煩いぐらいの彼女らしからぬ言葉。
「……分かった分かったわよっ。本当に心配性ね貴女は…。まあ、とにかくっ、私はその街に向かうわね」
「うん、そうだね…。あ、そういえばその見た目どうにかした方がいいよ。流石にそれで人目についたらすごいことになると思うからね~」
彼女は思い出したように俺の目立つ容姿を指摘してくる。
まあそれは言われなくても分かっていたことだった。
俺はその染みひとつない、細く綺麗な腕やスラッとしたその足をチラッと見回してみる。
そこには“赤い紋様”が描かれており、自分では見辛いが頭でピコピコ動いているこの耳やこの九本の尻尾にも一本一本ちゃんとそれが描かれていたりする。こんなものを普通の人に見られれば噂の的になるのは必至だ。
「そんなこと分かってるわよ。流石に私だってこの刻印や目立ちまくる金色の髪で出歩こうなんて思ってもないわよ」
俺はそう言い返すと、身体に循環している魔力をある一点に集め魔法を発動させる。
魔法…この世界に来たときはなかなか出来なかったことも、こうやって簡単に出来るようになった。我ながらよくもまあ頑張ったなぁと、他人事のように感慨深げに思っていると、その魔法の効果が現れ始める。
それは光を屈折させ髪や耳、尻尾の色を変え、赤い紋様を透明化させていく。
「まあ…こんなものかしらね」
俺はまあまあの出来に一人頷く。
そこにいたのは、薄い茶色の髪を腰まで流した、巫女服姿の狐の少女だった。髪の艶やかさや、その容姿、白い肌は変わってないものの、この姿ならばある程度は目立たなく出来るだろう。
本当は前の世界のような黒髪にしたかったのだが、流石にこんなファンタジーな世界で黒髪は目立つのは相場が決まっているし…目立たなくなるために変えてるのに逆に目立っていたら本末転倒。茶髪なら多そうだし無難だろう。
「ああ~んっ…茶髪もいい!! めっちゃ似合ってるよっ! キュウちゃぁ━━━んっっ!」
さっきのしおらしい姿はどこへやら…。俺のこの姿を見て鼻息を荒くしているアホ神はキャッホーー!と奇声を上げながら飛び付こうとしてくる。それに俺は冷静に蹴りをお見舞いして阻止した。
「絶対来るだろうと思ったわっ! いい加減にしなさいよっ」
「ええ~。だって~キュウちゃんが可愛すぎるからいけないんだよ!! 可愛い! 凄く可愛すぎるよ!! キュウちゃん!!」
「ああもうっ。可愛い可愛い連呼するな! それはもう聞き飽きたわよ!」
「あれあれ~? キュウちゃん顔が赤くなってるよ~? もっと言って上げよう! 可愛いキュウちゃん可愛いキュウちゃん可愛いキュウちゃん…───は! ちょっとタンマ!!」
(グサッ…ピクピクピクピク…)
彼女は地面にへばりつき動かなくなった。
俺は頭に刀が突き刺さった彼女をスルーしてまだノータッチだった尻尾へ取りかかる。
「さて、尻尾もちゃんと引っ込ませないと…」
俺は背面から存在を主張している九本の尻尾を見る。まだ色が変わっているだけで本数は変わっていない。これだとやはりいらぬ噂が広まるのでこれも一本にしなければならない。
『───我に集まる八つの灯火。我の深海に沈み静かに眠れ』
唱えると同時に暖かなものが抜け落ちていく感覚がする。これは“封印”だ。キュウビの尻尾はそのまま力に直結している。八つも封印したため、これで大部分の力が使えなくなったと言える。魔法や魔術、身体能力に制限がかかることとなるだろう。そこまでするのか、と思うだろうが、世の中には魔力に敏感なものたちがいる。数は相当少ないが、それでも俺が“キュウビ”だとバレるのはよろしくない。人の口に戸は建てられないのだから。これでカモフラージュは万全の筈だ。
「それじゃあ…私は行くわね。ここのことは任せたわよ」
俺は刀を引っこ抜いて彼女を起こす。その際になかなかシュールな悲鳴が聞こえたがそれはいつものことだ。しかし、これが聞き納めになると思うと少し…寂しく……は、ならなかった。
俺はもう一度その十年間暮らしてきたその社と黄赤色に色ずく草木を見渡す。
正直言って、ここは美しく…そして過ごしやすい場所だったと思う。彼女が始めて俺を連れてきた時、目を見張るほどのものだった。今ではなれてしまったが。
あの事故で人生は終わった。そう思ったらいきなりこの世界に来て、まさかの女の子になって、そして唐突にこの世界の神だと言われ、修行だどうだと言われ、どうにかこうにかここで、この場所で過ごしてきた。
当然、不安もあり恐怖もあったが、なんだかんだ言って楽しく…そして、心地よく心安らぐ場所となった。
「……今更だけど…本当に………よかったの…?」
彼女は悲しそうな瞳に辛そうな表情をしながらこちらを見つめていた。
アホ神…ユノはやはり綺麗だった。せっかくの綺麗な髪も脱色してるし、ピアスやブレスレット、少々過剰なメイク。ギャルの格好をしていても、それを越えてくるほどの美貌。なぜそんな格好なのか問い詰めたこともあるけれど、これが彼女らしさなのだろうと今ではそう思っている。
「本当に…今更ね…。何回も言ったでしょ? 私はこの世界を助けるって。私は調律者なんだから当たり前じゃない?」
「む~こう言う都合のいい時だけ言わないでよ…。あ~もうっ。分かった分かったよっ。なかなか会えなくなるからすっごく! すっごく寂しいけど! ───………この世界のこと…頼むわね…」
と、彼女はその臙脂色の瞳で俺を見据え、そして俺は───
「ええ。任しときなさい」
彼女の視線をしっかりと受け止め、頷いた。
ーーー
山を降りるまではよかったのだ。そこから何故か川を見つけられずに今に至る。かっこよく出てきたにしては絞まらない始まりかたに頭を抱えたくなる。俺は方向音痴だったのだろうか…。
「それにしても…生き物が見当たらないわね? もしかして麓にはあまりいないのかしら…?」
ふと気になった俺は辺りを見回す。が、生き物の姿は見つけられない。
「?…おかしいわね…。気配すら感じられないなんて…どういうことなの…?」
この森は人々に恐れられている。その理由は魔獣たちがたくさん住んでいるからだ。まあ、それだけならどこの森や山岳地帯…草原や洞窟…そのほか諸々…、でも魔獣はたくさんいるしそんな場所は腐るほどある。しかしだ。この霊峰と言われるこの場所はまた違った。それは普通の魔獣ではないということだ…。
“霊峰”は元素魔力が極端に多い場所の為、魔獣たちは全て強化される。BランクだったものがAランク、AランクだったものがAAランクの強さを持っていたりするのだ。ようは魔獣の強さのランクが一気に引き上がるのだ。そして…それは奥に行くほど強さは高まっていき、それこそ人間が手出しできないようなSランクやSSランクまでもが存在する。恐れられらるのも無理はない。
「ああ…。そいつらを全て倒しにいったのが懐かしいわね……一人で…」
俺は感慨深げに独りごちる。何年も前のことだが、よく覚えていた。
あのアホ神は修行の一貫だと言い張って、俺をそいつらに会わすため、そして戦わすために連れていったのだ。強制的に…。本当にあれはヤバかった。何回死にそうになったか…。ルージュ…“レッドドラゴン”と戦った時とか本当に死んだかと思ったもんだ…。
「───って…ん? …今なんだか聞こえたわね…。まさか強力な魔獣がこの辺りにいるのかしら…だから弱い魔獣が出てこられない?」
普通はこの辺り…というか外側には高ランクの魔獣たちはまず降りて来ることはない。まあ、食事するときは降りてくるかも知れないが…高ランクの魔獣はほとんどが元素魔力を吸収できる者たちなのでそうそう降りてくるとはないはず。
「高ランクの魔獣が降りてきたから皆逃げたのかしらね…? まあそれはともかく一度、“索敵”をかけてみましょうか」
“索敵”とは俺がよく使う辺り一帯を調べるための魔法だ。
俺は瞳をとじて、身体から魔力を勢いよく振動させた。それは水面を滑る波紋のように広がって行きそして────
「…誰か戦ってる…わね。…ということは冒険者?」
何かが索敵に引っ掛かった。それは数人の人間たちが大きな魔獣と思われるものと戦っている様子だった。
しかし、その様子はなかなか不味い状況で…。
「……ほとんど…倒れてたわね…。魔力の反応はあったから死んではいない筈だけど…」
これはどうする? …パーティがほとんど倒れているのはどう考えても危機的状況である。俺は早急に王都に向かいたい。ならば、極力面倒事は避けるべきである。だが、しかし…分かってはいるんだ…だけど───
「ああもうっ。仕方ないわね! このままほっといて皆死にました~。とかだったら絶対後悔するでしょうしねっ。───…さあ! 久々に人間たちに会ってみましょうか!」
俺は強制的にテンションをあげ、息を吸い込む。そうして、身体を魔力で限界まで強化する。ここからそこまでの距離はなかなかある。封印してからままならないうちに、まさかここまで力を使う羽目になるとは思わなかった。たが、人が死ぬのを───見過ごすことはできない。
「もう少し耐えなさいよ…」
そして、俺はその場に小規模なクレーターを作り、その場からかき消えた。
どうでしたでしょうか…?
まだまだ物語は始まったばかりですが…これからどんな感じで書こうかドキドキです。
次回はもうほぼ書けているので早く投稿できると思いますよ!今回も読んでくれてありがとうございました!次回もよろしくお願いします!
では、またお会いしましょう。
・索敵ー魔力を波状のように飛ばし跳ね返ってきた魔力を解析し周りを調べるキュウビのオリジナル魔法。魔術にも似たようなものは存在するがこちらの方が使いやすく簡単である。しかし、魔力はこちらの方が多く使用するためどちらがいいとは言えない。
7/2 誤字修正
2020/7/24 全体的に加筆修正
『陰』→読み方を『いん』に変更