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窓口係は世界最強  作者: キミマロ
第一章 窓口係のお仕事
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第八話 ただの窓口係

「ほえ?」


 俺の返答に、リューネさんは間の抜けた表情をした。

 彼女は水に濡れた犬のように頭を振ると、一歩進み出て前のめりになる。

 その目は大きく見開かれ、頬は軽く引きつっていた。


「あ、あかんの!? この流れで!?」

「だって俺、こんな仕事をするなら特種採用なんて受けませんでしたよ。それなのに、誰も説明してくれなくて……」

「それは悪かったわ。せやけどなあ――」

「詐欺みたいなもんですよ、詐欺! やりませんからね!」


 確固たる意志を示すと、リューネさんにくるりと背を向ける。

 もともと、俺は安全・安定志向だからな。

 チャレンジするつもりなら、最初から冒険者でも何でもやっている。

 リスクは高いが、金を稼ぐだけならそちらの方が有利なはずだ。


「ちょっと待ち! 幽気を使える人間は超貴重なんや! まして、今のラルフ君ほどの素質を持った人間は、大陸中を捜しても見つかるかどうかわからん!」

「代わりが居ないんだったら、もう少し丁寧に勧誘すべきでしたよ。何で事情説明があとなんですか」

「それは本当に申し訳ない。……とりあえず、条件を見るだけでも見てくれへんか? 悪いようにはせえへんから」


 そういうと、リューネさんは「ようこそ特窓江」と書かれた資料を取り出した。

 そして一ページ目の「待遇・労働条件など」と記されている個所を、自信ありげに指さす。

 そこには給与は年間二千万ジュエル、共交通機関の無料パスや聖十字教会の司教位に相当する権限の付与など、とんでもないことが記されていた。

 ……こんな情報、外部に漏れたら反乱が起きそうなレベルだ。

 最上級の冒険者も真っ青の、とてつもない条件である。

 だが――。


「……確かに凄いですけど、お断りします」

「いったい、何が不満なんや……?」


 すがるような眼でこちらを見つめてくるリューネさん。

 何だか「ダメなところがあったら変えるから!」と、男に縋り付く失恋女性みたいな雰囲気である。

 瞳の奥に、少し怪しいものを感じてしまうのは気のせいだろうか。

 なんだか後ろめたい気持ちを覚えなくもないが、それをどうにか振り払うと、心を鬼にする。

 俺は戦わない、そう決めたんだ。


「俺はとにかく、戦うことが嫌なんです。無茶はしないって決めたんですよ。もう、親を泣かせたくはないんです」

「なんや、その年なのにえらい親不孝してきたオッサンみたいなセリフやな……」

「まあ、『中身』はオッサンみたいなものですよ。ダメなものはダメなんです。俺に戦いは向いてない」

「う、うーん……こうまではっきり言われると、勧誘しづらいなあ……」


 腕組みをすると、リューネさんは困ったような顔で唸りだした。

 そんな彼女を見かねたのか、アイベルさんが助け舟を出す。


「あなたの言い分はよくわかりました。でも、我々もそろそろ余裕がないんですよ。もし悪魔が龍脈の集中する――」

「おっと、そこまでや! それ以上は最高機密やで」

「失礼しました。とにかく、今の我々には一人でも多くの仲間が必要なのです。考え直してはいただけませんか? もし我々が敗北すれば、大変なことになってしまいますし」

「……俺にはそんな大役、務まりませんよ」


 そういうと、再び彼女たちに背を向けてエレベーターへと向かう。

 するとその時、後ろからはあッとため息が聞こえた。


「わかった。そこまで言うんやったら、入らなくても良い。だけど、このまま返すわけにも行かん」

「秘密を知ったからですか?」

「そうや。ラルフ君は信用のおける人間やと個人的には思うけれども、かといって『はいさようなら』ってわけにはな。どうやろう? ここはひとつ、特窓やない普通の窓口係として一緒に働かんか?」

「俺を手元に置いておいて監視したいってわけですか?」

「……ストレートに言ってまうと、そういうことや。けど、ギルド自体には興味あったんやろ? それならそんなに、悪いことではないんやないか?」


 リューネさんの言う通りであった。

 俺はギルドに入るために勉強してきたし、ローバーさんにもいろいろと骨を折ってもらっている。

 いまさら、ギルドに入りませんでしたと言うのも体裁が悪い。

 最悪、フィシック家の跡を強制的に継ぐことになるだろう。

 出来ることなら……それは避けたい。

 あんな大商会の主なんて、考えただけでも息が詰まってしまう。


「わかりました。それなら、待遇は普通の職員と同じでいいです」

「それでええんやな? こっちとしては、他の特窓メンバーと同じでもいいと思っとるけど……」

「戦わないのにそれじゃ、悪いですよ!」

「……わかった、了解したわ。けど、住むところだけはこっちに合わせてくれへんか? その方が何かと都合がいいんよ」


 家か……。

 ロマニウム市内にアパートでも借りるつもりだったから、用意してもらえるなら助かる。

 けど、そんなところに住んだら監視生活一直線のような気もするな。

 俺の頭の中で、メリットとデメリットが激しくぶつかり合う。

 自然と、眉間にしわが寄った。

 するとそんな俺の様子を見て、リューネさんはにっこりとほほ笑む。


「安心しいや。別に、監視目的とかではないから」

「じゃあ、どういうことです?」

「私と特窓のメンバーは、全員一緒の寮で生活してるんやけどな? 女だけやと、何かと衝突しがちなんや。そこで男のラルフ君に入ってもらえれば、上手くまとまるんやないかって」

「いや、俺って別にコミュ力とか高くないですよ?」

「大丈夫や、男の子が嫌いな女の子なんて居てへんから。心配せんでもええ」


 やけに、自信たっぷりなリューネさん。

 彼女はここぞとばかりに畳み掛けてくる。


「日当たり抜群で、広さも十分。家具も一流品を取りそろえとる。建物自体もしっかりしたもんやし、住み心地は抜群やで? 普通に借りよう思ったら、月に五十万ジュエルは覚悟せなアカン物件や。どや?」

「そこまで言われると……わかりました。行きますよ」

「よっしゃ! ありがとうな! アイベル、今すぐ宴会の準備や! 歓迎会をやるで!」

「は、はい!!」


 こうしてこの日。

 俺は、戦わないただの窓口係としてギルドの一員となったのであった――。


ようやく、主人公が落ち着くところに落ち着いて物語に一区切り付きました。


※大幅改稿済

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