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窓口係は世界最強  作者: キミマロ
第一章 窓口係のお仕事
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第七話 それでも、俺は……

「すっげえ……!」


 最上階から、鉄籠のような造りのエレベーターで急速降下すること数十秒。

 チンッと音がして柵が開くと、そこには別世界が広がっていた。

 広々とした薄暗い空間に、浮かび上がる白い光の地図。

 水晶を利用した、モニターのようであった。

 トンボの目のように、小さな水晶の欠片が無数に組み合わされたものが、一つの映像を映し出している。

 その下にはジージーと音を立てる複雑な配管の塊。

 壁に据え付けられたメーターの針が、めまぐるしく動いては目を惑わせる。

 椅子に腰かけた女性が、電車の運転手よろしく次々とレバーを操作していた。


 作戦室か何かだろうか。

 この世界ではなかなか見られない、レトロだが物々しい風景に思わず息をのむ。

 昔に見たジ○リアニメのような、スチームパンクの気配がした。


「ここがギルド本部の心臓部、特窓とくそう作戦室や!」

「特窓?」

「ギルドマスター直轄、特S級クエスト対策窓口係。略して特窓よ!」


 俺の疑問に、隣に立っていたシャルリアが素早く答える。

 声に微かに自慢の響きがあるのは、自身もその一員であるという自負からであろうか。


「アイベル、敵の出現ポイントはどこや?」

「西地区、シュロ通りの近くです」

「強さは?」

「それほどでもありません。ですが、魔力反応があるので特S分類かと」

「よし、ちょうどええ! 新人君にかっこいいところを見せるで!」


 そういうと、リューネさんは俺とシャルリアの顔を順繰りに眺めた。

 俺が少しポカンとした様子で頭を下げたのに対して、シャルリアはビシッと綺麗な敬礼を返す。

 一体全体、何が起きているのか。

 そもそも、敵とは何なのか。

 地図上に点滅する紅い点を見ながら考え込んでいると、背後からバタバタと足音が聞こえてくる。


 振り向けば、二人の少女が直立していた。

 シャルリアやリューネさんもたいがいだったが……これまた、どちらも凄い美少女である。

 一人は明るい栗色の髪と大きく円い瞳が特徴的な、生真面目でおとなしそうな子。

 もう一人は、銀髪に紅の瞳が神秘的で、ミステリアスな気配を感じさせる子。

 ギルドの制服を着ていることからしていずれも受付嬢のようだが、もしかして容姿もギルドの選考基準に入っているんだろうか?

 思わずそう思ってしまうほどの美形ぞろいだ。


「ヘレナ・ベレーク、ただいま到着しました!」

「同じく、ミラ・アルソン。ただいま到着」


 敬礼する二人。

 シャルリアも彼女たちの隣に並ぶと、靴をそろえて姿勢を正した。

 彼女たちの姿に、リューネさんは満足げにうなずく。


「よし、三人揃った! 特S級緊急クエスト発令や! 速やかに達成せよ!」

「了解ッ!!」


 少女たちの勇ましい声が響く。

 何だかよくわからないが、凛とした彼女たちの表情は実に様になっていて、美しかった。

 俺は少しぼんやりとしつつも、彼女たちの様子をまじまじと眺める。

 するとたちまち、俺にあまり好意的ではない視線が殺到した。


「マスター、この人は誰です?」

「オウカの言ってた子や。まだ正式採用ってわけではないけど、一応、どんなことをしとるか見てもらうために連れて来たんよ」

「ホントに男の子なのね。興味深い」


 そういうと、少し危ない光を宿した眼でこちらを覗き込んでくるミラ。

 ヤバそうな雰囲気に、思わず身を縮ませる。


「別に男なんて、珍しくないでしょう……?」

「ああ、そういえばまだ言ってなかったけど……幽気を使えるのは基本的に女の子ばっかりなんや。人間の体の構造の問題らしいんやけどな。せやから、男の子の使い手は、私が記録してる中だと初めてやね」

「なるほど……。と言うことは、俺以外はみんな女?」

「せえや。よかったなあ、ハーレムやで?」


 ニタっと悪戯っぽく笑うリューネさん。

 いや、待て。

 女の園に男一人って、それはハーレムとはまた別の何かになる気が……。

 女子を求めて元女子高だという高校に進学した猛者を一人知っているが、そいつ曰く「女の子は増え過ぎるとキツイ」だそうだ。

 その時のあいつのやつれた顔は、今でも覚えている。

 ふっくらとぽっちゃり系だったのが、高校に入ってたった三か月でガリガリ君になっていたのだから。


「マスター! 新人さんをからかってる場合ではありません!」

「おっと、せやった!」

「では、行ってまいります!」

「みんな気を付けて。でも、無様な戦い方はするんやないで!」

「了解ッ!」


 再度敬礼すると、くるりと背を向けて勢いよく走りだす三人。

 その背中に手を振った俺は、すぐに後ろにいるリューネさんの方を見た。

 いつの間にかそれらしい立派な椅子に腰かけていた彼女は、待ってましたとばかりに目を輝かせる。


「どういうことなんですか」

「三人も出撃したことやし、しっかりと説明するわ。まず、ギルドのクエストについてラルフ君はどれぐらい知ってる?」

「ごく基本的なことは」


 人々からギルドに出される様々な依頼は、すべてクエストという形で処理される。

 クエストにはF~Sまでの七段階があって、難易度によって振り分けが為されていた。

 当然、難易度が高ければ高いほど報酬なども高額で、S級ともなれば一回の依頼で平民の生涯賃金にも匹敵するほどの金が動くことだってある。

 冒険者たちもその力量に応じてクエスト同様にランク分けされていて、それが彼らにとって最大の社会的ステータスだ。

 元A級やS級ともなれば、グオンさんのように金持ちの専属になったりして、一生その肩書きだけで食べていける。


「そうか、せやったら話は早いな。実は、一般的に知られてるクエストの最高難易度はSなんやけど、その上に特Sっていうのがあるんや。特窓っていうのは、その特Sクエストを専門的にこなす秘密部隊ってわけやな。普段は窓口の仕事をしてもらっとるけど」

「へえ……じゃあ、今の出撃はその特S級クエストってことですか?」

「せやせや。特S級の緊急討伐クエストや。特Sに分類される魔物が市街地周辺に現れると、自動的に発令されることになっとる。これが出たら、特窓はいかなる場合でも速やかに出撃する義務があるんよ」

「なるほど……。ちなみにどんな魔物が、特Sに分類されるんですか?」


 魔物の王様、ドラゴンでも通常のS級分類のはずだ。

 それを上回る魔物とは、いったい何者なのか。

 想像できないし、何より興味があった。

 するとリューネさんは軽く口元を歪め、からかうような顔つきをする。


「悪魔や」

「悪魔? え、悪魔ってそんなの居ないんじゃ……」


 この世界に悪魔は居ない。

 地球と同様に、空想上の存在である。

 世界に仇なし万物を滅ぼそうとしたとされているが、そんなのは物語の中だけに存在するはずのものだ。


「それがな、居るんよ。教会はかれこれ五百年以上に渡って、人類を滅ぼそうとするやつらと秘密裏に戦い続けてきた。聖遺物とかそういうものを駆使してな。その長年続いてきた祓魔師エクソシストの伝統に、新しい理論である幽気を取り入れて出来たのが今の特窓ってわけや」

「……なんだか、凄いスケールの話になりましたね」

「まだまだ未熟な部隊やけどな。金も人手もまだまだまったく足らんし。教会本部には、懐疑的な連中もぎょうさんおる。けど、特窓は必ず役に立つって私は信じとるんやッ!!」


 拳を握りしめ、リューネさんは力強い叫びを響かせる。

 その声の大きさに、室内の空気が大きくどよめいた。

 言葉の端々から、彼女の強烈な決意と覚悟がヒシヒシと伝わってくる。


 その時だった。

 地図を映していたモニターの画面が、不意に切り替わる。

 黒い翼を天高く突き出した、異形の怪物が目に飛び込んできた。

 うなぎのような胴体に細い四肢。

 白い牙が並び、顔の端まで裂けた巨大な口。

 エイリアンを思わせる、グロテスクで醜悪な怪物だ。


「これが……!」

「特窓三名、現着しました!」


 シャルリアの声と共に、黒い影が三つ姿を現す。

 先ほど、ここを出て行った三名だった。

 揃いの黒いコートを翻した彼女たちは、それぞれに白く輝く武器を手にする。

 これが、先ほど言っていた聖遺物という奴だろうか。

 シャルリアは細身の剣。

 ヘレナは自身の身長よりも大きなハルバード。

 ミラは十字を模したようなボウガン。

 いずれも神々しいばかりの光を帯びていて、強い生命力のようなものを感じる。


「対象の姿を確認! 殲滅に移ります!」


 三人の姿が、一気に加速する。

 剣が一閃して腕を切り落とし、ハルバードが頭部を打ち砕いた。

 さらにボウガンの矢が二人の間をすり抜けて、悪魔の肉体に風穴を開ける。

 悪魔は咆哮を上げると、三人に向かって爪を振り上げた。

 黒光りする爪が、煉瓦の建物や道路をすっぱりと切り裂く。

 しかし三人はその鋭い一撃を、いともたやすくかわした。


「そりゃあッ!!」


 宙に飛び上る三人。

 彼女たちは近くの壁を足場代わりに、三次元的な軌道で悪魔へと迫る。

 圧倒的な脚力とバランス感覚が無ければ、不可能な荒業。

 さながら、忍者か曲芸師のようである。

 その軽業染みた攻撃を悪魔は躱すことが出来ず、まともにもらってしまう。

 鋼のように見えるの肉体から青い体液が吹き出し、肉が千切れていった。

 力量の差は明らかだ。

 悪魔は断末魔の代わりとばかりに大暴れするものの、三人はそれを寄せ付けない。


「どうやら、今回は余裕みたいやな。さて……」


 しばらくして、満足げに戦いの様子を眺めていたリューネさんが、急にこちらへと振り向いた。

 いきなりのことに、モニターに見入っていた俺は肩を震わせる。


「な、なんでしょう?」

「特窓に入らへんか? 私たちには、まだまだ力が必要なんや。今回はたまたま弱かったけど、敵は圧倒的やねん。頼む! この通り!」


 そういうと、椅子から降りて頭を下げるリューネさん。

 その様子に、先ほどから黙って機械を操作していたアイベルさんの手も、思わず止まってしまった。

 深々と頭を下げた彼女の悲壮な様子に、さすがの俺も動揺してしまう。

 けれど――結論は最初から決まっていた。

 俺はこの人生において、無茶はしないと固く誓っているのだ。


「……すいません。入れませんよ、俺には」


 我ながら冷静な言葉が、静まり返った作戦室に良く響いた――。


だが断るにしようかと、一瞬悩みました(笑)

さすがに、こういう時にネタは使えないです。


※大幅改稿済

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