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窓口係は世界最強  作者: キミマロ
第一章 窓口係のお仕事
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第六話 幽気

「うわあ……!」


 世界に冠たる、ギルド総本部。

 それはゴシック様式に似た造りをした、壮麗なる大建築であった。

 岩山を切り出して造ったかのような威風堂々とした壁が、視界をどっしりと切り取っている。

 さらに、煌びやかなステンドグラス。

 陽光を反射して七色に輝くガラスと、灰色の石壁の対比が何とも美しい。

 その荘厳な姿に、ため息ばかりが漏れてしまう。


「こりゃ、ギルドに来てやっぱ正解だったな。すげえや」

「あ! もしかしてあなたが、ラルフ・マグニシア!?」


 入り口の前で立ち尽くしていると、不意に声を掛けられた。

 振り向けば、ギルドの制服を着た少女がこちらに向かって盛んに手を振っている。

 風に流れる艶やかな紅の髪。

 勝気で鮮烈な印象の青い瞳。

 肌は白く、血管が透き通ってしまいそうなほどの透明感がある。

 背は少し高めで、体つきは華奢だが出ているところはドンッと出ていた。

 闊達な気配を纏った、息をのむほどの美少女である。


「えっと、迎えの人ですか?」

「ええ! ギルド本部、窓口係のシャルリア・ティンベルよ」

「俺はラルフ・マグニシア、名前はもう知っているようですけど……よろしくお願いします!」


 軽く頭を下げると、シャルリアの手を握ろうとした。

 すると、彼女の手もまたオウカさんと同様に青く燃えていた。

 しかも、オウカさんの時よりもずっと激しく燃え盛っている。

 物理的に燃えださないのが、不思議なほどだ。

 実害はないとわかっていても、とっさに手を引いてしまう。

 するとそれを見たシャルリアは、興味深げに方法と頷いた。


「へえ……ほんとに、男のくせに『幽気』が見えるんだ。オウカがびっくりしたわけだわ」

「勇気? 別に、勇ましいことなんてないと思いますけど……?」

「そっちの勇気じゃないわよ! ま、気にしないで。それよりこっちよ。マスターが待ってる!」

「はい!」


 そうしてシャルリアに連れられて中に入り、進むことしばし。

 ギルド本部の最上階へとたどり着いた。

 さながら高級ホテルを思わせるような、ゴージャスでラグジュアリーな空間が広がっている。

 その南向きの角部屋、一番日当たりの良い場所にギルドマスターの執務室はあった。

 先ほどから妙に怒った様子のシャルリアが扉を開くと、たちまち広々とした部屋が目に飛び込んでくる。

 革張りのいかにも値の張りそうな社長椅子が、窓際でこともなげに揺れていた。

 その上にちょこんと腰かけている、おそらくギルドマスターだと思われる人物は――少女だった。


「え?」


 変な声が出た。

 栗色のショートカットに、溌剌とした琥珀色の瞳。

 丸く角のない顔は、おおらかで優しい印象を受ける。

 笑顔が似合いそうな、相当の美少女であった。

 どう見ても、十代後半ほどにしか見えない。


「えっと……失礼ですが、あなたがギルドマスターですか?」

「せえや、マスターのリューネ・ゼペルや。驚いたやろ?」

「とても……びっくりしました」

「こう見えても、年は五十を過ぎとるんやで。どや、若う見えるやろ?」

「えッ!?」


 この世界に、老化の遅いエルフのような種族は居ない。

 獣人など人ではない者も居るにはいるが、そう言った種族は非常に貴重で、めったに人前に現れるものではない。

 いま目の前にいるリューネさんは、どう考えても人間のはずだ。

 見た目も、完璧に人間そのものである。


「……ほ、本当ですか? どう見ても、十代後半ぐらいですけど」

「嘘なんて言ってもしゃーないやろ。ま、若作りしてるだけや」

「はあ……若作り、ですか」


 明らかに、若作りなんてレベルを超えている。

 美魔女なんて連中もいるにはいるが、さすがにこれは。

 ……まさか、石の仮面をかぶったりはしていないだろうな?

 思わず疑ってしまうほどだ。


「ま、これも幽気の力のおかげやな。五十になってもピッチピチや」

「ユウキ、ですか……」


 またも登場した「ユウキ」と言うワードに、思わず顔をしかめる。

 あの後、シャルリアにユウキとは何なのか尋ねたのだが「それはマスターから聞いた方がいい」と教えてもらえなかったのだ。


「なんや、変な顔をして? まさか、幽気のことを知らんとここに来たんか?」

「どうやら、推薦したオウカも面接官のダニスも、幽気の説明はマスターに任せるつもりだったようですね。というよりも、忘れてしまったのかもしれません」

「恥ずかしながら……何も知らないです」

「あの二人は……! まーた、私に対する嫌がらせかいな!」


 シャルリアさんと俺の言葉に、リューネさんは額に手を押し当てた。

 彼女は大きくため息をつくと、ゆっくりとこちらを見る。


「しゃーない。私が直々に教えたるわ。結構な秘密事項やさかい、一応トップの私が説明するのが筋かもしれんしな。けどその前に……」


 不意に、リューネさんの視線が鋭くなった。

 心臓を射抜かれたような衝撃が、いきなり体を襲う。

 俺は思わずのけ反ると、息を荒くした。

 膝をついてしまわないのが、やっとだ。

 彼女から発せられたただならぬ気配に、身も心も圧倒されそうになる。

 文字通り、リューネさんの背中に青い炎のようなものが見えた。


「これを知ったら採用を辞退出来ないことになるけど、それでもええか? 覚悟はあるん?」

「……はい! ギルドに入るために世話になった人もいますし、今更引きません」

「さよか。そらよかったで」


 俺が頭を下げると、リューネさんは満足げにうなずいた。

 彼女はふうっと深呼吸をすると、改めてゆっくりとした口調で語り始める。


「ラルフ君は、気については知っとる?」

「もちろんです」

「実はな、この世界には気の上位に当たる力が二つ存在しておるんや。そのうちの一つが幽気ってわけや」

「気の上位、ですか?」


 そんなもの、まったくの初耳である。

 グオンさんは経験豊富な元冒険者だから、そんな都合がいいものがあるなら教えてくれそうなものだ。

 書物でも、見た覚えがまったくない。

 気に関する代表的な本は一通り目を通したにもかかわらず、だ。

 しかし、内心で動揺する俺をよそに、リューネさんは話を進める。


「せや、上位や。人間の肉体っていうのは、実は三層構造になっていてな。次元の高い方から順に、霊体・幽体・肉体ってなっとる。気っていうのは、そのうちの一番下位に当たる肉体の力。続いて幽気っていうのは、二番目の幽体から引き出す力なんや」

「へえ……。つまり、より上位の部位から力を引き出しているから、強いと?」

「そうやなあ、幽気の力を気に換算すると……軽く数十倍やね」

「す、数十倍!?」


 あまりの格差に、素っ頓狂な声を上げる。

 気を使って強化すれば、この世界の人間は弾丸にだって耐える。

 それがさらに数十倍って、いったいどんだけだ!?

 強いなんてレベルじゃないだろ、それ!


「う、嘘でしょう!?」

「本当や。シャルリア、ちょっとここの壁を使うて見せたり」

「はいはい、わかりました。破片に気を付けてくださいよッと!」


 そういうと、シャルリアさんは壁に向かって人差し指を突き出した。

 青い炎が、美しい軌跡を描く。

 その次の瞬間、壁が砕けた。

 頑丈なはずの石壁にヒビが入り、凹む。

 轟音と衝撃。

 さながら、巨人が全力で張り手でも食らわせたかのようだった。

 とても、人差し指の力とは思えない。

 全力で気を使ったとしても、とてもとても無理だ。


「お、おお……!」

「シャルリアは、もうちょい手加減ってことを覚えような?」

「ははは、すいません。つい!」

「まあええわ。とにかく、これが幽気の力や。どうや、桁外れやろ?」


 平然と訪ねてくるリューネさんに、俺はただただ深くうなずく。


「……ええ。もしかしたら、今のは……S級冒険者にもできないかも……?」

「そうねえ、S級ならまとめて十人は片づけられるんじゃないかしら」

「流石やなぁ。ま、みんなにはこのことは秘密やけどな」


 笑いながら、口に人差し指を当てるリューネさん。

 マジか、マジでシャルリアはS級冒険者を十人まとめて倒せるのか。

 とてもそうは思えない華奢で女性らしい体つきを、俺は思わず凝視してしまう。


 S級と言えば、世間では英雄で通るような連中だ。

 大陸全体で見ても、せいぜい百人ほどしかいないエリート中のエリートである。

 A級までとは隔絶した実力を持ち、人類最強とか言われている連中だ。

 前に一度、見たことがあるが……山のような肉体と大気が震えるほどのオーラを持つ人であった。

 それを……十人まとめて?


「…………とにかく、凄いんですね。幽気の力って」

「そうや。さらに修行して霊気まで扱えるようになると……完全に人間をやめることになるで」

「あまりに力が強すぎるから……秘密なんですね?」

「もし悪用されたら、とてつもないことになるさかいにね。教会と国とギルドが合同で、最高レベルの機密に指定しとる。下手をすれば、世界がひっくり返ることにもなりかねんのやから」


 そういうと、リューネさんは再び凄みを効かせてきた。

 俺は彼女の言葉に、うんうんと三回もうなずく。

 これだけの力がもし拡散して悪用されたらどうなるのか。

 想像するだけでも恐ろしい。

 気ですら、悪用されたらとんでもないことになるのだ。

 これだけの力となると、それこそ爆弾をばらまくようなものだろう。


「……しかし、その幽気使いを集めて何をさせるんですか? あの試験、幽気の素質を見極めるためのものですよね?」

「それであっとるで。あの水晶は、人間が潜在的に持っている幽気を残らず測定できるようになっとるんや。それでやな、集めた幽気使いは……窓口係として働いてもらっとる」

「え、窓口ですか?」


 思わず、目を見開く。

 なんでそのチョイスになるんだ?

 せっかくの幽気使いなのに、窓口ってそれはない気がする。


「あくまで表向きの話や。実際にはやな――」


 リューネさんの言葉を遮るように、警報音が響き渡った。

 二人は互いに顔を見合わせると、にわかに色を変える。

 リューネさんがチッと舌打ちをする音が、はっきりと聞こえた。


「こんなときに! シャルリア、今すぐ出撃準備や!」

「了解ッ!!」

「ヘレナとミラにもさっさと準備をさせんと……!」


 一気に慌ただしさを増す室内。

 何が起こっているのかさっぱりわからない俺は、呆然としながらもリューネさんに尋ねる。


「あの、いったい何が?」

「現れたんや! 私たちの敵がな……ッ!!」


 いつになく真剣な口調でそう言った彼女の額からは、大粒の汗が滴り落ちたのであった――。


S級冒険者約二十~三十人=幽気の扱える受付一人

これぐらいのパワーバランスとなっています。


※大幅改稿済

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