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窓口係は世界最強  作者: キミマロ
第一章 窓口係のお仕事
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第四話 車中の話

 驚いたことに、少女ことオウカ・ヒイラギの席がある十一号車は特等車であった。

 一等車までとは異なり、それぞれの席がすべて個室となっている。

 内装も豪華で、毛足の長い赤絨毯はフィシック家のお屋敷にも負けないほどだった。

 地球にもオリエント急行とかいろいろな豪華列車があったが、まさにあんな感じだ。

 俺が乗る二等客車の八号車とは、まったく格が違う。

 同じ列車として連結されていることですら、疑わしくなってくるほどだ。


「すっごいな……。ここと八号車を間違えたんですか?」

「ああ。もともと乗る予定だった列車にちょっとトラブルがあってな。急遽手配してもらったから、どんな席か把握してなかったんだ」

「へえ……」


 急遽手配してもらったにしては、やたらと良い座席である。

 満員列車と言うわけではなかったから、座席に余裕はあるはずなのに。

 こんな席を利用するのは、ローバーさんのような大商人か上級貴族ぐらいだろう。


 俺は思わず、ヒイラギさんの服を値踏みするような眼で眺めた。

 光を柔らかに反射する黒のコートは、一見して地味だが仕立てはかなり良さそうだ。

 どんな素材を使っているのかわからないが、気の通りも抜群に良い。

 値段はそれなりにするとみていいだろう。

 エリーヌのようなザ・お嬢様という雰囲気ではないが、結構いいとこの娘さんなのかもしれない。


「失礼ですけど……ヒイラギさんはどうしてこの列車に? ご旅行ですか?」

「オウカでいい。ヒイラギの家名は、あまり好きではなくてな。仕事だ。少し、本部に用がある」

「もしかして、ギルドの職員さんですか?」

「ああ。窓口で働いている」

「受付嬢の方です?」

「形式的には、そういうことになるな」

「へえ……」


 いったい、何がどうしたら受付嬢が特等車に乗るんだ?

 平社員がファーストクラスに乗っているようなものである。

 ギルドの職員はエリートであるが、さすがにちょっとおかしい。

 目を細め、首をかしげずにはいられなかった。

 するとそんな俺の様子に、オウカさんは冷や汗を流しつつも軽く苦笑する。


「き、きっと、向こうのトラブルで列車を変えることになったから、気を効かせてくれたんだろう」

「ですよね……ははは」

「せっかくだし、しばらく休んでいくいい。スペースには余裕がありそうだ」


 チケットを受け取り、客室のドアを開くと、おいでおいでと手を振るオウカさん。

 俺は素直に、彼女の言葉に甘えることにした。

 一歩中に入って見渡せば、車内とは思えないほど広々とした空間が広がっている。

 革張りのソファに、黒檀のテーブル。

 ベッドルームやシャワーは隣に設けられているようだ。

 俺はきょろきょろとしながらも、ソファに腰を下ろす。


「うわ、柔らかいなぁ……」

「さすがに特等車だけのことはあるな」


 うっとりとした表情をしたオウカさんは、背筋を伸ばすと肩をぐるぐると回した。

 口から小さく欠伸が漏れる。

 さっきまで眠っていたことと言い、かなりお疲れのようだ。


「ずいぶん、お疲れですね。どこから来たんですか?」

「ベラルだ。いろいろと用があってな」

「かなり遠方ですね」


 ベラルとパロムは、特急列車でも二日以上はかかる距離がある。

 それだけの長旅をしてきたなら、疲労も溜まって当然だ。


「なに、大したことではない。こう見えて、世界中を旅してきたからな。今疲れているのは……どちらかと言うと、仕事のせいだよ」

「窓口業務って、結構大変なんですね」

「そっちはそれほどでも……ごほんッ! 人が相手の仕事だからな! 結構疲れるものだよ」


 妙に、ごまかすような態度を見せるオウカさん。

 俺は変なものを感じつつも、あえて口には出さない。

 藪蛇をつついて、俺の眼に疑問を持たれたりしたら困るし。


「それより、ラルフどのはどうしてロマニウムに行くんだ? 仕事か?」

「いえ。ギルドの面接を受けに行くんですよ」

「おおッ! 同僚だったのか!」


 オウカさんは興奮して、声を大きくした。

 未来の同僚ということを意識したのか、彼女の顔つきが急に人懐っこくなる。

 美少女に親しみを持たれて悪い気はしない、自然とこちらも饒舌になった。


「あはは、まだ面接を受ける段階ですけどね」

「なるほどなるほど。その様子だと、やはり特種の方か?」

「……なんですか、それ?」


 ギルドの試験については一通り調べてきたが、特種採用なんて初耳である。

 なんだか凄そうな響きだが、国家公務員のキャリアみたいなものだろうか。

 俺がぽかんとした顔で首を横に振ると、オウカさんは驚いたような顔をする。


「知らないのか! 特種と言うのは、一般採用とは異なる特別な採用枠のことだ。一定の資格が無ければ受けられないのだが……ラルフどのは絶対に、そちらを受けた方がいい!」

「はあ、そうですか?」

「ああ。職員の私が言うのだから、間違いはない。特種の方が、何かと条件も良いしな」


 そういうと、オウカさんの目がにわかに細くなった。

 彼女は俺の体を、上から下までスウッと一瞥する。

 一拍の間。

 やがて「よしッ!」と手を叩くと、オウカさんは旅行鞄を開いた。

 中から一通の封筒を取り出した彼女は、俺の方にそれを差し出す。


「これは?」

「特種採用の会場案内と推薦状だ。目を通してくれ」

「ありゃ、日程が一般採用とかぶってますね……。これじゃ、受けられませんよ」

「一般の方は私がなんとかしておこう。こちらの方を優先するといい」

「……オウカさん、受付嬢じゃなかったんですか?」


 言っては悪いが、受付さんが試験に口を挟めるものなのだろうか?

 田舎のギルドとかならありうるかもしれないが、これは本部の採用試験だ。

 将来的な幹部候補の採用なのだから、当然重要なもののはずである。

 すると彼女は、ごまかすようにゴホンっと咳払いをする。


「ちょ、ちょっとばかり個人的なコネがあってだな。とにかく、心配はしなくていいんだ」

「……騙してはいないですよね?」

「この私は、そんなに信用がないのか?」

「いや、初対面ですし」

「…………そうであった。まあ、信用してくれるとありがたい。何なら、念書でも何でも書こう!」


 そういうと、真剣な顔つきでこちらを見てくるオウカさん。

 嘘を言っているようではなさそうだった。

 商人見習いとして、嘘を見抜く術もいくつか学んでいるが、その点から言っても引っかかるものはない。

 むしろ、この真っ直ぐで透き通った眼は嘘が苦手なタイプの人間のものである。


「うーん……わかりました。せっかくですし、その特種とやらを受けますよ。オウカさんが俺をだます理由も、ないですしね」


 こうして俺は、ギルドの特種採用を受けるのであった――。


※大幅改稿済

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