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窓口係は世界最強  作者: キミマロ
第二章 進撃の幼馴染
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第三十二話 富豪冒険者

 ギルドのカウンターに、ばっちりと武装して現れたエリーヌ。

 二つに分かれて膨らんだ鎧の胸元が、武骨ながらもほのかな色香を漂わせている。

 大急ぎで作らせた特注品なのだろう。

 フィシック家の紋章が刻まれたそれは、彼女のわがまますぎる体にもぴったりとフィットしていた。

 腰のあたりは特にくびれたボディラインがばっちり出ていて、ちょっと目に毒なくらいだ。


 さらに、腰には業物と思しきサーベル。

 白銀に輝いていて、柄の部分には宝玉が埋め込まれている。

 明らかに中級以上の冒険者がするような装備だった。

 店売りではおそらく最高級の品だろう。


「……エリーヌ、その装備は?」

「だから、いま言ったじゃありませんの。登録しに来ましたわ、冒険者として」

「待て待て、冒険者ってそんな簡単になれるようなもんじゃないぞ! 戦いだってしなきゃならないし、知識だって必要だ」

「心配ありませんわ。グオンからいろいろと手ほどきは受けていますから」


 口元に手を当てると、高笑いをするエリーヌ。

 そういえば、こいつもグオンさんから熱心に護身術とか習ってたな……。

 彼女はカウンターに腰かけている窓口係一同を見渡すと、けん制するような笑みを浮かべる。


「これで、毎日ここに来られますわね! どんどん利用させていただきますわよ!」

「ちょっと待って。ここは上級者用の窓口よ、初心者は下」


 人差し指でビシッとフロアの外を指さすシャルリア。

 やや挑発的なその表情には、どこか勝利の色が感じられる。

 とっとと出て行ってくれと言わんばかりの雰囲気だ。

 エリーヌは視線を上げると、カウンターの上に突き出た「上級窓口」の看板に目を止める。


「きィーッ! 今に見てなさい、すぐに上級になって見せますわ!」

「いや、そんなにすぐにはなれないだろう……?」

「ふふふ、この私を侮らないでくださいまし。確か、依頼を達成すればランクは上がるんでしたわよね?」

「ああ、一部のランクは昇格試験があるけどな」

「おーほっほっほ! それなら早いですわ! とっとと依頼を達成して、ガンガンランクを上げますわよ!」


 そういうと、エリーヌはとっととその場から立ち去って行った。

 取り残された俺たちは、しばし呆然と彼女が去った方向を見る。

 まったく、いつものことながら嵐のような女の子だ。

 少し相手をしただけで、エネルギーを根こそぎ持っていかれてしまう。


「大丈夫でしょうか? 初級窓口が壊滅しないといいんですけど」

「壊滅って、流石にそれはないでしょう……」

「あの人ならあり得る」


 腕組みをすると、しみじみとした様子でうなずくミラ。

 まだ二回しか顔を見ていないはずなのに、なぜかエリーヌの性格を熟知しているような風である。

 そのもっともらしい言動に、すかさずヘレナも相槌を打つ。

 彼女たちの中で、エリーヌはいったいどんな怪物になっているんだ。

 まあ、強烈な子なのは否定はしないけどさ。


「……騒ぎを起こしそうなのは確実よね。しっかし、あんたも愛されてるわねえ。わざわざ、会うために冒険者にまでなるなんて」

「からかわないでくださいよ。別に、俺とエリーヌとはただの昔馴染みってだけです」

「ホントにそう? あの様子じゃ、幼馴染っていうよりは許嫁って感じだけど」


 からかうような口調をするシャルリア。

 朝の混雑がひと段落して、暇が出来たことをいいことにやりたい放題である。

 彼女は俺の方に身を寄せてくると、ニタアッと目を細める。

 ……が、その瞳の奥にわずかに危険な気配を感じるのは何故だろうか。

 ただ単に、俺で遊んでいるというわけではなさそうだ。

 対応を間違えればかなりヤバい気がする。


「別に、俺はエリーヌに気はありませんよ。あの性格ですからね? さすがにちょっと。エリーヌの方だって、俺なんかよりもっといい男が好きに決まってます」

「そうかしらねえ。だいたい、ラルフの方はまんざらでもないんじゃないの。巨乳大好きでしょ?」

「ぶっ!」


 不意打ちに、たまらず吹き出してしまう俺。

 シャルリアは愉しげな顔をすると、ググッと胸を突き出して膨らみをアピールする。

 制服がパツパツに張って、ボタンが嫌な音を立てた。

 今にもはちきれて、中身が飛び出してしまいそうだ。

 思わず、鼻から熱いものがこぼれる。


「鼻血出てますよ! 大丈夫です!?」

「平気平気、大丈夫だから!」

「……まったく、スケベ過ぎるわねえ」

「面目ない」

「そんなに大きいのがいいなら、あの子と一緒になっちゃえば?」

「いや、だからそれは……」

「まあいいわ、みんな仕事に戻りましょ。これ以上、構っててもしょうがないし」


 そういうと、俺が言い訳をする間もなくシャルリアは書類仕事を始めてしまった。

 他の二人も、それに同調して手早く仕事を再開する。

 やれやれ、ちょっと不満だが……。

 俺も仕事するしかないか。

 掲示板からこちらに近づいてくる冒険者の姿を見つけると、すぐさまゆるーい笑顔を向ける。


 そうして数時間が過ぎた頃。

 昼も近づいてきたところで、バタバタッと慌ただしい足音が聞こえて来た。

 緊急の依頼だろうか。

 とっさにみんな身構えるが、やがてやってきた人の姿にやれやれと肩をすくめる。

 初級窓口のマリアさんであった。

 予想通り、やらかしたようだ。


「大変ですッ!」

「どうしたんですか?」

「昨日の方が……と、とにかく来てくださいッ!」

「ああ、はい……」


 アイコンタクトをとると、全員でカウンターを立ち上がる。

 エリーヌは果たして、何をしでかしてしまったのか。

 彼女の性格の一端を知っているだけに、みんな気が気ではなかった。

 マリアさんに連れられて、四人揃ってその場を離れる。

 やがて初級窓口に辿り付くと――そこには依頼書の束を手にしたエリーヌの姿があった。


「あら、皆様揃ってごきげんよう。今、D級冒険者に『なる』ところですわ」

「なるってあなた、まだ半日しか経ってないじゃない! 何をやったっていうのよ!」

「決まっているじゃありませんの。既定の数の依頼をこなしてきただけですわよ」


 そういうと、エリーヌは手にしていた依頼書を扇のように広げて見せた。

 ほとんどがE級~D級の納品依頼である。

 いずれも受諾印が押されていて、彼女が受けたもので間違いなさそうであった。


「そ、その量の依頼を半日でですか!? そんなのS級の人でも無理ですよ! 嘘はメッ、なのです!」

「嘘なんてついておりませんことよ。ちゃーんと、必要な素材は調達いたしましたわ」


 パンパンッと手を鳴らすエリーヌ。

 その音を合図に、数人の男が荷車を引っ張って現れた。

 大人が五人、楽に乗りこめそうな大きさの荷車には、魔物の素材や植物が満載されている。

 この場で素材屋を開業できそうなほどの、とんでもない量だ。


「こ、これは……」

「納品用の素材ですわ。まだまだありましてよ!」


 さらに数名の男が、先ほどと同じ荷車を引っ張って現れる。

 その後も車列は続き、最終的に五台の荷車が集結した。

 広々としたギルドのフロアが、完全に占拠されてしまっている。

 どう考えても、一人の人間が一日で用意できる量じゃない。

 モグラたたきぐらいの勢いで魔物を狩ったとしても、無理な相談だろう。


「あ、あなた一体どんな手を使ったのよ! あり得ないわ!」

「ギルド始まって以来の快挙」

「史上最速のDランカー誕生なのです!?」


 混乱した様子を見せるシャルリアたち。

 一方で、俺はエリーヌがやったことの大体の見当が付いていた。

 荷車に近づくと、すぐさま素材に貼り付けられた『値札』を見つける。


「……これ、全部買ったのか?」

「ええ、そうですわ」


 あっけらかんと答えるエリーヌ。

 悪びれもしないその様子に、シャルリアたちは愕然とする。


「は、はあ!? あんたねえ、冒険者が買い物してどうするのよ!」

「だって、納入する素材を買って来てはダメなんて、書いてありませんことよ」

「そりゃまあそうだけど! 常識ってものがあるでしょうよ!」

「……わたくし、そんなに非常識なことをしましたかしら?」


 きょとんと首をかしげる彼女に、シャルリアは「ああ、もう!」っと頭を抱えた。

 隣のヘレナが、まあまあとなだめる。


「どうしても素材を入手できない人とかが、依頼失敗を恐れてたまにやる手じゃないですか」

「にしたって、限度ってものがあるわよ」

「よく見たら、ドラゴンの素材まで入ってる」


 鱗を手に、エリーヌの顔を見据えるミラ。

 ドラゴンの鱗なんて、どう考えても下級の納品クエストでは不要な品であった。


「ああ、お店にあった品を適当に全部買占めましたの。必要なものだけ持ってこさせたつもりでしたが……そこのあなた、どういうことですの?」


 荷車からせっせと素材を運び出す男たち。

 エリーヌはそのうちの一人を呼び止めた。

 すると男は、やたらへこへこしながらこちらへ近づいてくる。


「えっと、店を出るときはとにかく全部運び出せと言いやせんでしたか?」

「別にいらないものは置いてきても良かったですわよ」

「まあ、持ってきちまったものは仕方ないでさあ。ギルドに売って、金に戻しやしょう」

「わかりましたわ。あなたたちに任せます」

「ありがてえ。ではこれで」


 そういうと、男は作業を再開した。

 エリーヌの召使いにしては、何とも粗暴な雰囲気の男である。

 腰には剣を帯びていて、鎧をまとったその姿は冒険者風に見えた。


「そういえば、この人たちどこから連れて来たんだ?」

「ああ、登録作業をしていたら近づいてきた方たちですわ。ちょうど人手がほしかったので、手伝ってもらっていますの。お暇そうでしたから」

「……なあ、近づいてくるときにこの人たち『おいおい姉ちゃん、冒険者を舐めてんじゃねーぞ』とか言ってなかった?」

「言ってましたけど、お金を渡したら素直にいうことを聞いてくださいましたわ。聞き分けのいい方たちでしてよ」


 胸の谷間から、札束をスッと取り出して見せるエリーヌ。

 ……やはり金か、金の力か!

 絡んできた先輩冒険者を金で従えるとは、こいつはやはり大物なのかもしれない。

 呆れるを飛び越えて、逆に感心してしまう。


「お嬢! 全クエストの納品、完了しやしたぜ!」

「ご苦労様。おーほっほっほ! これで、わたくしもD級! 中級冒険者の仲間入りですわ!」

「……何か、凄く間違っているような気がするのですよ!」

「言わないで。もう、ツッコむのは疲れたわ」

「ブルジョワの脅威!」

「それはちょっと、違うような気がします……」


 そろって、ため息をつく俺たち。

 そうしていると、いつの間にか姿を消していたマリアさんが戻ってきた。


「エリーヌ・フィシックさん!」

「何ですの?」

「マスターがお呼びです! 至急、五階の執務室までお越しください!」

「おお! これは……マスターが早くもわたくしの才能に目を付けられたんですわね! きっと、物凄い依頼とかお願いとかがされるパターンですわ! 達成すれば、上級まっしぐらに違いありませんことよ!」


 ふわふわっとした足取りで、五階の執務室へと連れられて行くエリーヌ。

 なんだか嫌な予感がした俺たちは、その後をそっと追いかけて行った。

 やがて彼女が執務室の扉を開くと、すぐさまリューネさんの声が響く。

 俺たちは廊下の角から、音を殺して耳を澄ませた。


「エリーヌはん! よう来てくれたわ」

「マスターの頼みとあれば、いつでもどこでも参りますわ」

「さよか。ほな、早速なんやけどなあ……一つ、お願いがあるんや」

「何ですの? このエリーヌ、ギルドのために力を尽くす所存ですわ」

「実は――」


 一拍の間。

 まさか、本気で重要な討伐依頼とかを頼むつもりなんだろうか。

 俺たちの間に緊張が走る。

 そして――


「いろいろあって、景気悪いんやわあ。ちょっと、出資してくれへん?」


異世界お嬢様伝説!

ネタを練り上げるのに、予想以上に時間がかかりました。

アイデアが詰まると、結構大変です。


※新作はじめました。

ご飯系です、良かったらどうぞ。

http://ncode.syosetu.com/n6617cv/

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