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窓口係は世界最強  作者: キミマロ
第二章 進撃の幼馴染
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第三十一話 幼馴染

 グラッグ山脈から帰還して、はや一週間。

 ギルドには再び平和な毎日が戻ってきていた。

 みんなの怪我も思ったほど深刻なものではなく、今日までに全員無事に職場復帰を果たしている。

 食中毒、風邪、ぎっくり腰……三者三様の理由付けで休んでいた彼女たちは、窓口に戻るや否や盛大に歓迎された。

 やはり、ギルドの冒険者たちにとって彼女たちの存在はなくてはならないものらしい。

 たとえ、便利さの都合からいつも俺の窓口ばっかりを利用しているにしても!


「ラルフー! そこの書類を持ってきて」

「はいはい!」

「ラルフさん、ちょっとこれお願いできますか?」

「はいはい!」

「肩、揉んで」

「はいはい……って、それはちょっと!」


 しばらく窓口業務を休んでいたので、みんなたっぷりと仕事が溜まっていた。

 冒険者たちが居なくなる昼以降の時間に、それらをテキパキとこなしていく。

 俺は他の三人よりも早く終わったので、もっぱら彼女たちの補佐に回っていた。

 男の辛いところで、女の子に頼まれると仕事をなかなか断りづらいのだ。

 断じて、尻に敷かれているわけではないが! ないのだが!


 そうしていると、不意に俺たちのカウンターへ見慣れないおばさ――ごほん、お姉さんが現れる。

 ギルドの制服を着ていることからして、初級窓口の人か誰かだろうか。

 慌てて書類を置くと、軽く会釈をする。


「どちらさまでしょうか?」

「初級窓口のマリアです。ラルフさんですね? お客さんが来てますよ」

「俺にですか?」


 思わず首をかしげる。

 俺に客って、いったい誰なのだろうか。

 ローバーさんは超忙しいからわざわざ来ないだろうし、来るとしても必ず事前連絡をしてくる。

 親父もあれで貴族だから、早々滅多なことでは領地を離れられない。

 あと考えられるのは兄さんと母さんぐらいだが、この二人がここまで来ることはまずないだろう。

 うちの家計では、ここまでの旅費を払うだけでもキッツイはずだ。


「はい。すっごい美人さんで、その……」


 そういうと、女性は自身の標準よりかなり乏しいふくらみを見下ろしてため息をついた。

 どうやら、お客さんはとても胸の大きな人らしい。


「まさか……! その人、どこに待たせてありますか?」

「一階の応接室です」

「すぐ行きますッ!!」


 手にしていた書類を整えると、取るものもとりあえずカウンターを離れる。

 俺のあまりの急ぎっぷりに、みんな思わず目を丸くした。

 どうしたのよっとシャルリアの声が聞こえるが、気にしてはいられない。

 むしろスピードを上げると、全速力で応接室の前まで駆け抜けていく。

 もし、今回の相手が俺の思っている通りの人なら……急がないとヤバい。

 待たせたら確実に機嫌を悪くする。


「ラルフです! ただいま到着しました!」


 ドアを開くと、同時に注がれるサディスティックな視線。

 俺はやはりそうだったかと肩をすくめると、視線の主へと目をやる。

 金髪碧眼の美少女――エリーヌがそこに居た。

 吊り上がった瞳が、いつものように若干攻撃的な態度でこちらを見ている。


「ごきげんよう、ラルフ。少し遅かったですわね、何かしていましたの?」

「やっぱりエリーヌか……。ははは、仕事してたんだよ。それより、なんでここに? おじさんに何か言われてきたのか?」

「とぼけないでくださいまし。これについてですわよ、これ!」


 そういうと、エリーヌは一枚の写真をテーブルに叩きつけた。

 見れば、このあいだ俺がフィシック家宛てに送った写真である。

 戦いの後で窓口係のみんなで取った例の奴だ。

 アイベルさんから機密事項には当たらないという許可をもらったのだが……まさか、勘付かれたのか?

 いや、いくらなんでもそんなはずは。

 俺は焦りながら、エリーヌに尋ねる。


「……これがどうかしたのか?」

「この女の子たちは、いったい何者ですの!? 私には及びませんが、やけにかわいい子ばっかり……!」

「ああ、それなら同僚だよ。書いてなかったか、今は窓口係だって」

「そうでしたの? ですが、それにしたってやけに親しげに見えますわ。まさか、この人たちと変な関係なのでは……?」


 訝しげな顔をすると、ジロリと険しい目つきでラルフを睨むエリーヌ。

 その眼光から燃え上がるようなジェラシーを感じたラルフは、たまらず苦笑する。


「そんなわけないない。むしろ、こき使われてるぐらいで……。っつか、エリーヌはわざわざ俺が浮気してないかどうか確認するためにここまで来たのか?」

「浮気じゃありませんわよ! 私たちはまだ結――ゴホッ! 付き合ってなどいないのですから! ただ、遠方でラルフが乱れた生活を送っていないかどうかが気になっただけで!」

「それだけ?」


 何か隠しているような気配のあるエリーヌに、少々、意地の悪い質問をする。

 するとエリーヌは、観念したとばかりにため息をつく。


「……少々厄介な縁談が舞い込みまして。身を隠しに参りましたの」

「お見合いから逃げたってわけか?」

「少し違いますわ。先日の夜会でわたくし、とある貴族の方に一目ぼれされてしまいまして……その方がうちに、わたくしを嫁にくれと頼んで来たんですの。ですがその方はわたくしより十五歳も年上で、既に正妻がいらっしゃいまして」

「そんなの、素直に断ればいいじゃないか。その分だとローバーさんも反対だろう?」


 ローバーさんは抜け目のない商人であるが、同時に家族思いな人でもある。

 大事な一人娘を、ろくでもないところにやったりはしないだろう。

 するとエリーヌは、困ったような顔で肩をすくめる。


「それが、超名門貴族のボンクラ――失礼。嫡男ですの。おかげでうちとしてもはっきり断りづらいんですわ。そこで『勝手な家出』ということにして、ほとぼりが冷めるまでわたくしは行方をくらませることになったのです」

「なるほど、娘のわがままってことにして直接的には対立せずに誤魔化す……相変わらず、上手いやり方をするなあ」

「そういうことで、しばらくご厄介になりますわ。よろしく頼みますわね!」

「ぶはッ!?」


 突然の宣言に、思わず吹き出してしまう。

 男の部屋に、女の子が転がり込むってどうなんだ!

 倫理的にいろいろとアウトだろ!

 というか、今の俺は窓口係の寮に住んでいるから……連れ込むわけにはいかない。

 あそこはあくまで窓口係専門、秘密の場所なのだ。

 一般人には見せられないものもたくさんある。


「それは困る! ホテルにでも泊まってくれ!」

「若い娘を一人っきりでホテルに泊まらせますの? 危ないですわよ?」

「エリーヌだって、グオンさんから護身術は習ってたじゃないか。暴漢ぐらい追い払えるだろ」

「そういう問題ではありませんの! 夜は寂しいものですし……とにかく! わたくしはラルフのところに居候させていただきますわ!」

「いや、だから!」


 頑ななエリーヌに、思わず声が大きくなる。

 するとその時、ドアの向こうから何やら物音が聞こえた。

 まさかな。

 嫌な予感がした俺は、足音を殺してドアに近づくと、ゆっくりと開く。


「あわッ!!」

「ほえッ!」


 バランスを崩したシャルリアたちが、雪崩を打つようにして部屋に入ってきた。

 その場に倒れこんだ彼女たちは、痛みに思わずうなる。

 シャルリア、ヘレナ、ミラそしてあろうことかリューネさんまで。

 窓口係の関係者が勢ぞろいしていた。


「……みんなそろって盗み聞きですか?」

「うちはただ、執務室に戻ろうとしたらみんなが集まっとるから何しとるんかなーと見てただけやで」

「わ、私はラルフさんにお茶でも差し入れしようかと!」

「たまたま通りがかっただけ」

「気になったわけじゃないわ! 気になったわけじゃ!」


 四人とも違う言い訳でごまかそうとするが、そうでないことは明らかだ。

 ヘレナに至っては、完全に手ぶらなのに差し入れに来たとか言っているし。

 俺のことを気にしてくれるのはありがたいが、いろいろと恥ずかしい。


「あら? この方たち、写真に写っていた方たちですわね?」


 もみくちゃになって倒れている四人に、ゆっくりとエリーヌが近づく。

 自然と四人は、下から彼女の顔を見上げることになった。

 ここでリューネさんの喉が、ごくっと唾を飲む。


「こらまた、素晴らしいもんを……。な、あとでマッサージさせてくれへんか? それだけ大きいと、肩凝るやろ? たっぷりもみほぐして、気持ちようしたるで?」

「いきなり何を言ってるんですか。は、恥ずかしい……」

「変態さんなのですよぅ……」

「昔からこうだから、仕方ない」

「……あの、ラルフ。この方は?」

「うちのギルドマスター」


 平坦な口調でそう答えると、エリーヌの顔が硬直した。

 彼女は思わずリューネさんの顔を覗き込むと、そのまま値踏みするように全身をくまなく見る。


「この方が、剛腕で知られるリューネ・ゼペルさんなんですの? 本当に?」

「そうや! リューネ・ゼペル、今年で十六歳! よろしゅう!」

「……今年で五十歳でしょう」

「余計なことは言わんでええ!」


 俺のツッコミに、驚異的な速さで反応するリューネさん。

 いつの間にか彼女が手にしていたスリッパで、スパコーンッとしばかれた。

 まったく理不尽だ、真実を言っただけなのに。


「ぐ、それだからいまだに独身なんですよ」

「ちゃう、好きで結婚しとらんだけや! それより、エリーヌさんやったか? 実はなあ、ラルフは今ちょっと特別なところに住んどるんよ。関係者以外立ち入り禁止やから、入れてあげるわけにはいかんのや」

「そうなんですの?」

「ああ、そうだよ。だから――」

「はい! 私たちと一緒なのです」


 はいはいっと手を上げるヘレナ。

 納得しかけていたエリーヌの顔が、にわかに険しくなった。

 これはまずいな。

 雲行きが再び怪しくなり始めたところで、さらに他のメンバーが追い打ちをかける。


「毎日、五人でそこそこ楽しくやってる」

「五人? もしかして、あなたたち五人で暮らしていますの?」

「……ま、まあ、そんなところね。メイドも居れれば八人だけど。何とかそれなりにやってるわ」

「メイド!? ちょっとラルフ、どういうことですの!?」

「ま、まあまあ! 今日のところは仕事もあるし、これで引き取ってや。な?」


 俺に凄んできたエリーヌを、リューネさんがどうにか引き止める。

 さすがに年上の彼女には手を出しづらかったのだろう。

 さしものエリーヌも、しぶしぶながら引き下がった。

 やがて彼女は「ありがとうございました!」とぶっきらぼうな態度で頭を下げると、部屋を出ていく。


「アカン、ありゃまた何かあるで」

「ははは、すっごく怒ってましたね。何ででしょう?」

「あんたが余計なこと言うからよ!」

「わ、私ですか!? みなさんだってぽろぽろ言ってたじゃないですかぁ!」

「言ってしまったものは仕方がない。それより、先に進むことが大事」


 もっともらしい格言で締めるミラ。

 そして翌日――


「登録しに来ましたわッ!!」


 俺の窓口に、武装したエリーヌが姿を現したのだった――。


第二章の開幕です!

エリーヌがようやく再登場しました、彼女の活躍にご期待ください。

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