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窓口係は世界最強  作者: キミマロ
第一章 窓口係のお仕事
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第二話 ちょっとした眼の秘密

 フィシック家は、水晶クリスタルの採掘で財を成した一族である。

 もともとはロレンス王国の東端で小さな鉄鉱山を営んでいたのだが、現当主のローバー・フィシックが偶然にもその奥で水晶の大鉱脈を発見。

 その当時、水晶を利用した機械技術が爆発的な発展を遂げつつあったこともあって、大成功した。

 その後は様々な事業へと手を広げ、現在では地球で言うところの「財閥」と呼べるほどの規模へと至っている。

 身分的には平民だが、木っ端男爵のマグニシア家よりもよっぽど政治的・経済的には重要な家だ。


「ここが、ラルフ君の部屋だよ。ちょっと、狭かったかね?」


 フィシックさんの家にしばらく世話になることになった俺は、本宅の一室を貸し与えられることとなった。

 それがまあ……広いこと。

 高級ホテルのスイートルーム並だった。

 木目調の高級感あふれる家具が並び、ベッドには天蓋までついている。

 オシャレなランプシェードを通した淡い光が、部屋を暖かく照らしていた。


 ちなみに、フィシック家の本宅が建っているのは王都パロルの超高級住宅地である。

 土地代だけでも、僻地のど真ん中にあるマグニシア家の軽く百倍はするだろう。

 金持ちのスケールが、あまりにも違いすぎた。

 例えるなら、田舎の地主さんと大財閥を比較しているようなものだ。


「そんなことないです! 十分すぎます!」

「そうかい。では、本格的な勉強は明日からにしよう。今日のところはゆっくり休むといい」

「はい、頑張ります!」


 返事をすると、事前に母さんにみっちりと仕込まれた貴族式の礼を披露する。

 それを見たローバーさんはほうほうと満足げに頷くと、豪快に笑った。

 彼は朗らかな顔をしながら、その大きな手で俺の肩を軽くたたく。


「はははッ! そんなに緊張しなくてもいい。うちの子どもになった気分で、ゆったりと構えてくれ」

「見習いとしてご厄介になっている身ですし、そんなわけには」

「私としては、見習いじゃなくて養子になってくれても一向に構わんのだがね。まあ、とにかく気楽にいこうじゃないか」


 そういうと、笑いながら部屋を出て行ったローバーさん。

 この時はただの社交辞令だと思っていたが、どうやら彼は本気で俺を養子にするつもりがあったようだった。

 フィシック家を出る間際になって「君さえよければ、娘と結婚してうちの跡を継がないか?」とかなり本気で頼まれたのだ。


 実は、マグニシア家は今でこそ没落して男爵となってしまっているが、血筋自体はかなり良い。

 ロレンス王国の建国当時にまで遡れば、王家にもつながるお家柄である。

 それに対して、フィシック家は現在大成功しているとはいえもともとは名もない平民の家系。

 ローバーさんの頭の中には、俺の血を取り入れて次代から貴族に成り上がろうという考えが少なからずあったようだ。

 ロレンス王国では原則的に、戦功を挙げた者だけが英雄として平民から貴族への成り上がりを認められる。

 商家であるフィシック家が貴族になるには、このように没落名門の血を引き込むぐらいしか手はなかったのである。


 いずれは跡継ぎにしようという思惑が少なからずあったせいか、俺はかなり恵まれた教育を受けることが出来た。

 商人としてのイロハをローバーさん直々に叩きこまれたのはもちろんのこと、それ以外も優秀な家庭教師がついてくれた。

 正直、相当なお金をかけてくれていたと思う。

 俺の方も、ローバーさんの期待に応えなきゃいけないと全力で頑張った。

 一番勉強をしていた時期だと、たぶん前世の大学受験の時を超えていたと思う。


 幸いなことに、十歳そこそこの柔軟な頭は知識をたっぷりと吸い込んでくれた。

 前世で大学受験を経ていたこともあって、神童とまではいかないまでも、かなり優秀な子どもになることが出来た。

 特に数学など世界が変わっても共通な部分に関しては、たまに教師を驚かせるようなこともあった。

 おかげでローバーさんの期待がますます大きくなったのは、さすがにちょっとプレッシャーだったけど。


 そうして三年が過ぎ、十三歳になった頃。

 体が大きくなってきた俺は、ローバーさんの護衛を務めているグオンさんから護身術の手ほどきを受けることとなった。

 この世界は魔獣など危険な生物が多いし、治安も地球に比べれば悪い。

 たとえ商人であっても、腕は立つ方がいいというのがローバーさんの考えだった。


「いいか、人間には気と呼ばれる力が秘められている。これを操ることが、戦いの第一歩だ!」


 腕組みをしながら、講義をするグオンさん。

 元Aランクだというその肉体は、徹底的に鍛え上げられて赤銅色に輝いていた。

 大胸筋が、誇らしげにぴくぴくと動いている。


 気とは、万物を流れる生命エネルギーのこと。 

 これを自在に操ることにより、この世界の人は肉体を強化したり、超能力染みた技を扱うことができる。

 無機物、特に水晶にも多く含まれるが、基本的に気は肉体に宿るものだ。

 グオンさんが必要以上にムキムキなのも、肉体が頑健であればあるほど気は増えるからである、たぶん。


「まずは、気を感じてみることが重要だ。手に気を集中させるから、握ってみてくれ」


 そう言って差し出された手は、高圧電流でも流れているかのようだった。

 稲妻が甲を迸り、指先から白い火花が飛び散っている。

 触れたらたちまち、感電してしまいそうだ。

 思わず、手を避けて仰け反ってしまう。


「おいおい、どうした?」

「どうしたって、指先から火花が出てるじゃないか! そんなの握れないよ!」

「火花? 確かに、気を高めてはいるが……」


 怪訝そうな顔をすると、手を顔に寄せて目を凝らすグオンさん。

 どうやら、彼の目には稲妻や火花は見えていないようだった。

 俺にはこんなに、はっきりと見えるのに。

 眼をこすってまばたきしてみるが、それらが消えることはなかった。


「……見えないの?」

「ああ、全くダメだ。俺にはただの手にしか見えん」

「うーん、稲妻とか火花が確かに見えるんだけどなあ」

「もしかするとお前さん、気の流れが見えるのかもしれねえな」

「気が? でも、気って眼には見えないって前に習ったことがあるけど」


 俺がそういうと、グオンさんは不意に顔を近づけてきた。

 彼は口に手を当てると、小声で言う。


「ああ、一般的にはそういうことになってるさ。だが、世の中にはごくごくまれに何かのきっかけで見えるようになっちまった奴がいるらしい。俺も、噂で聞いただけなんだけどな」

「へえ……。俺って、ちょっと凄いのかも!」


 なんかすごい才能なんじゃないかと、わくわくする俺。

 人には見えないものが見えるって、漫画やゲームの魔眼みたいで厨二心がくすぐられる。

 だが逆に、グオンさんは額にしわを寄せてひどく怖い顔をした。


「大きな声を出すんじゃない! いいか、このことは人に言うなよ。俺とお前だけの秘密にするんだ」

「……どういうこと? 何かヤバいの?」

「噂じゃな、気が見えるようになった冒険者は何故か引退しちまうんだとさ」

「な、なんだよそれ」

「俺もそれ以上は良く知らねえ。あくまで風の噂だからな。だがまあ、特異な力は厄介事を引き寄せるのは確かだ。黙っておくのが得策だと思うぜ」


 真剣な表情で、言い聞かせてくるグオンさん。

 厄介事に巻き込まれるなんて、俺としても大迷惑である。

 よくよく考えれば、俺はヒーローなんて柄じゃない。

 あくまで平和でそこそこ豊かに暮らしたいだけの一般人だ。

 漫画の主人公みたいな力なんて、俺にはとても扱い切れない。

 キャパシティーオーバーもいいところだ。


「わかった、このことは絶対に秘密にする! グオンさんもな!」

「安心しろ、こう見えても元Aランクだ。口は堅いさ」


 こうして十三歳のある日、俺にそれまでにはなかったちょっとした秘密が出来た――。


※大幅改稿済です。

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