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窓口係は世界最強  作者: キミマロ
第一章 窓口係のお仕事
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第二十一話 街の英雄

 土龍の襲来から、はや三週間。

 街の復興は急ピッチで進んでいた。

 壊れた建物の周辺には足場が組まれ、穴が開いてしまった地面には次々と土砂が運び込まれている。

 なお、土龍が造ったトンネルの一部はかねてより計画があった地下鉄計画の一部に盛り込まれるのだとか。

 なかなかどうして、この街の人々はたくましい。


「やれやれ、仕事一杯ね……」

「仕方ないさ。トンネルが埋まるまでの我慢だよ」


 昼休み。

 俺たち四人は、ギルドの食堂で珍しく昼食を共にしていた。

 土龍関連で急に忙しくなったせいか、三人とも少しくたびれたようだった。

 時折、ふうっと口からため息を漏らしている。

 特にシャルリアは、海に行けなくなったことがショックだったようだ。


「マスターの話だと、あと一か月くらいでしたっけ?」

「ええ。よりにもよって、グラッグ山脈とつながってたらしいですから」


 グラッグ山脈と言うのは、アラボナからさらに百リーグほど北方に進んだ先にある秘境である。

 通称、魔霧の山脈。

 一年中晴れることのない霧で満たされていて、凶悪な魔物が多数生息する難所だ。

 今回現れた土龍は、このグラッグ山脈からはるばる穴を掘ってここまでやって来たらしい。

 おかげでギルドは、トンネル内に侵入してくる魔物を事前に防ぐために、多数の上級冒険者を山脈に派遣する羽目になっている。

 当然、彼らを管轄する上級窓口は大忙しだ。

 緊急クエスト扱いで冒険者たちを集めるため、その手配だけでも一苦労である。

 一定以上のランクになると、所在を掴むことすら面倒なのが冒険者と言う人種なのだ。


「いっそ、私たちが攻撃してドカーンッと塞げないのかしらね」

「そんなことしたら、あちこち崩落して大変なことになる。ただでさえ、龍が適当に掘った穴だから、脆い」

「そりゃそうだけど、いちいち埋め戻すなんてまどろっこしいじゃない」

「段階的に埋め戻すらしいから、それほどでもない。少なくとも、入り口が塞がれば冒険者の仕事はほとんどなくなるはず」


 そういうと、ミラは残っていたスープを飲み干して席を立とうとした。

 時計を見れば、休憩時間はまだ三十分ほどある。


「あれ、もう行くのか?」

「ええ。科学室の方で、仕事がたまっている」

「そういえば、土龍の素材は黄昏からギルドが買い取ったんですよね。あれで何か作るんですか?」

「ええ。せいぜい完成を楽しみにしてて。超凄いの、作ってる」


 無表情な顔を和らげると、悪戯っぽく目を細めるミラ。

 緋色の瞳がとても美しい色彩を放っているが、どこか危ない気配を感じてしまうのは俺だけだろうか。

 マッドでヤバいアイテムとか、造っていなければいいんだけど。

 そんな俺の不安をよそに、彼女は弾むような足取りで食堂を出て行ってしまう。


「……大丈夫かな?」

「あのミラだからね」

「シャルリアさんもラルフさんも、酷いです! もっとミラさんを信頼してあげましょうよ。いくら何でも、仁義にもとるような恐ろしい兵器の開発なんて、するわけありません! 彼女だって、正義の心を持っているはずですッ!!」

「いや、誰もそこまでは言ってない」


 バンッとテーブルを叩くと、勇ましい顔つきで立ち上がるヘレナ。

 相変わらずのとぼけた行動に、俺とシャルリアは声を揃えて反論する。

 俺たちの呆れ顔に、彼女はキョロキョロとした後でゆっくりと着席する。


「あ、あれ? そういう話じゃなかったんです?」

「……もういいわ。そろそろ、受付に戻りましょ。あいつらが来る――」


 シャルリアが何事か言いかけたところで、黄色い歓声が聞こえてきた。

 その大音響に、彼女はうんざりしたように額に指を押し当てる。

 『英雄たち』の遅いお出ましであった。


「よくまあ、あんだけ飽きもせずに騒げるもんだわ」

「そうはいっても、彼らが活動を再開してからまだ一週間ですよ」

「もう一週間も、よ! 冒険者はともかく、中級窓口の連中は毎日見てるだろうに。何であそこまで大騒ぎするんだか」

「女としてギリギリの人も結構いますからね。必死なんじゃないですか?」

「……ヘレナって、ボケボケっとしてる割にはたまにえぐいこと言うわよね」


 パンの最後の一かけらを食べ終えると、シャルリアはやれやれとばかりに立ち上がった。

 彼女は気合を入れなおすかのように肩を回して体をほぐすと、ニコッと綺麗な営業スマイルを決める。

 その爽やかさときたら、先ほどまでとはまるっきり別人のようだ。

 俺はシャルリアの変わりように「女の子って怖い」などという月並みな感想を抱きつつも、彼女の後ろに続いて食堂を出る。

 するとたちまち、大混雑したフロアの様子が目に飛び込んできた。


「ゴーダ様ー!! サインくださーい!」

「こっち見てー!!」

「押さないで! 関係ない人はこの場から離れてくださーい!!」


 大騒ぎをする女性たちと、それをどうにか落ち着けようとする男性職員たち。

 ギルドの広いフロアが、すっかり人で埋まってしまっている。

 こうして押し合う人混みの中央には、爽やかな笑みを浮かべて白い歯を見せるゴーダや黄昏メンバーの姿があった。

 土龍の一件で有名になった彼らは、リーダーのゴーダが甘いマスクをした二枚目であったこともあって、今ではすっかり街の人気者である。

 誰が呼んだか、龍殺しの黄昏。

 実際には龍を倒していないのだが、新聞でもこう取り上げられる始末だ。


「相変わらず、すっごいですねえ。というより、昨日よりも酷くなってませんか?」

「……活動写真への出演が決まったらしいわよ。突如として街に現れた龍を巡っての、一大ドキュメンタリーですって」

「ははは……それはそれは。しかしラルフさん、ホントにちゃんと『龍は以前受けた古傷が原因で病死した』ってことになってるんですか?」

「そうね。ちゃんと、マスターに処理してもらったの?」


 疑わしげな顔をしながら、俺に詰め寄ってくる二人。

 まあ無理もない。

 当の俺自身も、この展開にはびっくりだ。

 もちろん、ちゃんとマスターにはしっかり手を回してもらって『黄昏は奮戦したものの、力及ばず。だがその直後、龍は古傷から入った病原菌が原因で病死』という筋書にしてもらっている。

 ちゃんと獣医の診断書も用意したし、ギルドもそのように処理をした。

 これで全く問題はなかったはず……なのだが。


「もちろんだよ。……けど、勝てないとわかっている敵に挑んだっていうのが逆に受けてるらしいですよ。この国の人も結構判官贔屓なんでしょうね」

「ホーガンビイキ?」

「ああ、弱いものを贔屓したくなるってことだよ」

「たまにラルフって、変な言葉を使うわよね。まあいいわ、さっさと受付に戻りましょ。あいつらの担当、私たちだし」


 シャルリアの言葉にうなずくと、人混みを迂回しながら窓口へと戻る。

 俺たちの帰還に、交代要員として座っていた受付嬢がほっとした表情をした。


「ああ、よかった! 私一人じゃ、対応しきれないところでしたよ!」

「俺たちも、あんまりああいうのには慣れてるわけじゃないんだけどなあ……」

「まあ仕方ないわ。……来るわよ!」


 シャルリアがそういうと同時に、人混みがこちらへと迫ってきた。

 すぐさまカウンターへと滑り込むと、臨戦態勢を整える。

 処理としてはほかの冒険者と同じで全く問題ないが、何せギャラリーが多い。

 ちょっとしたことでも、たちまち大ブーイングだ。

 気合を入れなければいけない。


「こんにちは、今日はこの依頼を頼むよ」


 そうこうしているうちに、黄昏がこちらへとやってきた。

 今日は俺のカウンターを利用するらしい。

 早めにお引き取り願うべく、手っ取り早く依頼書を処理しようとする。

 だがここで、俺は奇妙なことに気づいた。


「すみません。この護衛クエストですが、枠が三つしか空いておりませんよ。黄昏は四人パーティーですので……」

「いや、今は三人だ」

「へ?」


 驚いて、目を見開く俺。

 そう言われてみれば、ベロノアさんの姿が見えなかった。

 さすがにもう、怪我は治っているはずなのだが。

 いったいどうしたのだろう。


「何かあったんですか?」

「別に揉めたとかそういうわけではないんだが……。急に辞めると言いだしてね。もともと、仮メンバーって条件で入ってもらってたから、止めるわけにも行かなくて」

「彼女の方から、やめたいと?」

「ああ。純粋に戦うのが好きな子だったからね。もっと戦いの出来る場所に行くって。今頃はグラッグにでもソロで出かけているんじゃないかな?」

「……なるほど、わかりました」


 知り合いとして、本当はもう少し詳しいところを聞きたかった。

 だが、冒険者の事情には立ち入らないのがギルド職員のルールだ。

 淡々と事務作業をこなすと、受諾印を押して依頼書とギルドカードを返却する。


「それではいってらっしゃいませ!」

「ああ。窓口さんも、頑張ってくれよ!」


 背後の女性たちから、嫉妬に塗れた視線が注がれる。

 その鋭さに、一瞬、顔をしかめかけたがどうにか取り繕った。

 やがて彼らの背中が見えなくなったところで、ほっと肩を落とす。


「ふう……巻き込まれるだけでこれだ。俺自身が討伐したなんてことになってたら、今頃とんでもなかっただろうなあ……」


 毎日毎日あんなに騒がれるなんて、俺にとっては悪夢でしかない。

 まあ、女の子に黄色い歓声を上げられるのは悪くないだろうけど……あんなのはごめんだ。

 落ち着いて眠ることすらできないに違いない。


 ぶつぶつとつぶやきながらも、仕事を再開した俺。

 するとここで、館内放送が流れた。


『上級窓口のラルフ・マグニシアさん。すぐにマスター執務室へ来てください。繰り返します――』


黄昏のポジションが、ミスターサ○ンっぽい感じに……。

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